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―第六十六章 切り札―

 スペシャルスキルの名を叫ぶと、ガルトールは空から地面へ向けて剣を振り下ろした。それと同時に、拓真へ向けて魔力の輝きが襲い掛かってくる。


「うおおおおおおっ!」


 三大精霊の加護のステータスのおかげで、拓真自身は魔法を斬ることができるようになっている。とはいえど、大量に迫る魔法の刃は、拓真の腕や足を傷つけていった。後ろからジオが回復魔法を施してくれてはいれども、まだまだ魔法の刃は迫りくる。

 その様子を見て、ガルトールは愉悦に浸っていた。


『対抗できうる手段がないのだろう? 諦めて、とっとと死を選べばよいものを……』


 ガルトールの言葉に、拓真はぐっと奥歯を噛み締めた。


(いいや……手段はある!)



 時は戻り、戦闘前。オーマは、声を潜めつつ語り掛ける。


「みなさんには、父上の目を奪っていてほしいんです。ぼくが少しずつ、父上を削るために」


 オーマの言葉の真意がわからず、皆が首を傾げた。オーマは申し訳なさそうに眉根を下げると、えーと、と改めて説明を始めた。


「ぼくも数年前に、スペシャルスキルに目覚めました。その能力は、対象の身に着けている装備品を剥がすというものです」


 そこで拓真が、ハッと顔を上げた。


「まさか、あの肉でできた鎧も剥がせるっていうのか⁉」

「おそらく、ですが……あの姿になるところを見ていた限り、出来ると思います」


 緊張した表情のまま、オーマは頷く。



「肉の鎧が持つ高速再生の能力を失わせるには、魔力の供給源である父上と切り離すことが必須だと思うんです。それができるのはきっと、ぼくしかいない」


 拓真は迷っていた。まだ年若い少年が、死ぬ可能性の高い作戦を買って出ている。任せていいものか、それよりも自分が剣豪の力を使い、どうにかその役割を引き受けるべきか。


「僕はオーマに、任せたいと思う」


 そこへ、ランディが声を上げた。


「僕とオーマはけじめをつけるために、覚悟を持ってここに残った。オーマのスペシャルスキルは……全てを排除しようとしている、父上を倒す切り札になりうると思う」


 ランディは拓真とミルフェムトへ向けて、頭を下げる。


「頼む……どうか、協力してほしい!」

「ぼくにこの役割を、全うさせてください!」


 続けてオーマも頭を下げると、拓真は自分の思考を恥じた。オーマはこの場における自身の役割を、理解しているのだ。それを子どもだからと奪おうとしていた自分の、なんと情けないことか。

 今この瞬間の、自分がするべきことを改めて考える。そして、拓真はランディとオーマに頷いた。


「わかった……それなら俺も、自分のやるべきことをやるまでだ!」




 地面には、拓真の血が零れ落ちていく。回復魔法をかけてくれるジオも、魔力の消費が激しいのか肩で息をし始めた。ミルフェムトも盾となる大剣が壊れる度に新しく生成するばかりで、動けていない。ランディはできることがないとはいえ、拓真の背に手のひらを当てて支えている。そんな人間たちが哀れに思え、ガルトールは細剣の先を拓真へと定めた。彼らの安寧を願うこともなく、細剣は放たれる。


『死ねぇ!』


 その瞬間、ガルトールの視線は一気に下がった。


『……なっ⁉』


 何が起きたのかわからず、ガルトールはそのまま片手を地面に着く。しかし、手を形作る触手がバラバラと紐をほどく様に離れていき、腐肉が手としての形を保てなくなってしまった。


『な、なんだ……⁉ 私の、鎧がぁぁっ……!』


 事態が飲みこめないまま、腐肉の鎧はどんどん崩れていく。ついに四肢の形が保てなくなってしまい、ガルトールはもはや、頭と胴体のみでそこに佇んでいた。放ったスペシャルスキルも、魔力の輝きの軌跡は次から次に消えていき、やがて拓真へ放たれる攻撃はなくなってしまった。


『なぜだ……なぜ、こんなことにぃ……!』


 崩れた四肢をなんとか繋げようと触手は伸びているが、それをミルフェムトがいくつもの大剣を操り、阻止していた。


「父上……ぼくはいつから、あなたの目に映っていなかったのでしょう」


 そこに歩み寄ったのは、ガリオン家の三男、オーマである。


『オーマ……お前まで父親である私に逆らうか!』

「はい。ぼくはもう、ガリオン家の名を捨てました。ぼくはオーマ。……ただのオーマです」


 声は、強がっている。喉が震え、剣を持つ手でさえ震えている。それでも逃げずに立ち向かえているのは、後ろに拓真とランディがいるからなのだろうか。


「父親であれば、ぼくのスペシャルスキルをきちんと把握しておくべきでしたね。母上からの言いつけを守ろうと他人を傷つけることを恐れ、それでも剣術を身につけなければならなかったぼくが辿り着いた、このスキルに……!」


 剣を構えたオーマの後ろで、拓真とランディも剣を構える。拓真は満身創痍の状態でありつつ、ランディは迷いを振り払った目で。


「よかったな、ガルトール。あんたこそ真の強さを、見ることができるらしい」


 拓真がそう言うも、始めに剣を振るったのはオーマだった。


「スペシャルスキル、“曲線衣剥きょくせんころもはぎ”!」


 オーマの剣により、ガルトールを包んでいた最後の腐肉の鎧が剥がされる。本来の姿である人間体のみが露出したところを、拓真とランディが駆け出した。


『おのれ……小童どもがぁぁぁぁ!』


 ガルトールの咆哮を背景に、最期の一太刀が振り下ろされる。


「スペシャルスキル、“速攻剣技”!」

「伊東一刀斎伝授、“払捨刀ほっしゃとう”!」

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