「承知した。私もそなたの作戦に乗ろう」
オーマの提案に、ミルフェムトは頷いた。その表情は険しく、拳は強く握られている。
先ほどのガルトールによる攻撃で、先に撤退させた傭兵たちのいくらかを死なせてしまったのを、ミルフェムトは理解していた。これ以上間違いは犯せない。ここでガルトールを止めるには、オーマの提案に賭けるしかないと、その瞳は少年を見つめていた。
「私も最善を尽くそう。必ず奴をここで倒すために!」
ミルフェムトの言葉に同意するように、拓真もランディも、そしてジオもそわそわとしながら頷いた。
「それじゃあ……いくぞ!」
拓真の声で、それぞれがやるべきことをしに動き出した。まず拓真は、森から出て再びメファールの村の畑へと足を踏み入れる。ガルトールが動いた跡には地面に擦れた肉が残っており、それらは苦しんでいるかのように蠢いていた。
一瞬、それらが蔓延る地に足を踏み入れるのを躊躇ったが、そんな場合ではない。拓真はガルトールの前に姿を現すと、剣道の構えをとってその醜悪な巨体を見上げた。
「ガルトール! 俺はここだ!」
その声に気付いたガルトールは、近辺に散らしていた視線を足元へと落とした。主君のために殺さなくてはならない相手を見据え、肉でできた細剣を胸の前に掲げると、ガルトールは何も言わずにそれを振り下ろした。
最早それだけでダメージを負うことはなくなった拓真は、すぐに横へとずれ、ガルトールの攻撃を避けた。だがガルトールも避けられることは予期していたのか、地面を抉りながら足を動かし、拓真を蹴り上げようとする。
「そう簡単にはいかせんよ」
その足は、拓真まで届かない。ガルトールの足を止めたのは、ミルフェムトの大剣だった。大剣はそのままひっくり返そうと、足の下から持ち上げ始めた。
『小癪な!』
ガルトールは力強く踏み込み、大剣を踏み潰す。カシャン、と細い音を立てながら割れた魔法の大剣から拓真へと視線を戻すも、すでにそこにはいない。次にガルトールが気付いたのは、首の横から迫る拓真の刃だった。
『うおおおおっ!』
しかし、それも届かない。衝撃波を放つほどの唸りで、拓真と宙へ運ぶ役をしていたミルフェムトは弾き飛ばされる。体勢を崩して空から宙から地面へ落ちるところを、ジオがダメージ軽減魔法をかけ、二人はほぼ無傷で済んだ。
『害虫は、地面を這っている方がお似合いだ』
再び踏み潰そうと片足を上げたガルトールだったが、ガクンと体勢を崩す。重心の支えになっていたもう片方の足首を、ランディがスペシャルスキルで一部を削り取ったのだ。
『どこまでも……邪魔しおって!』
削り取られた箇所から触手と骨の手が現れ、それらがランディを捕まえる。引き込まれそうになっているところを、なんとか細剣で斬って免れてはいたが、その中でランディはあるものを見た。
「……!」
ほぼ骨と化した屍の中に混じる、まだ人としての面影を残している者。それは、先ほどガルトールが使ったスペシャルスキル『大剣一閃』の使い手であった、エリオットだった。
「あに、うっ……!」
止めるつもりのなかった手が、止まってしまった。様々な感情が一気に押し寄せ、ランディの額に脂汗が浮かぶ。それらを振り払うように目を強く瞑り、次に開けた時にランディは腕を引いた。
「兄であるあなたのことを、好きにはなれなかったが……だからと言って、こうなってほしいと願ったことはなかった!」
上半身を乗り出し、自身を掴もうとするエリオットの屍の頭を、ランディは細剣で貫く。身を逸らすエリオットの屍は、それでも腕を伸ばそうとしてきていた。
「くっ……げほっ……」
その腕が、まるで助けを求めているようで。ランディはそれ以上、エリオットの身体を傷つけられずにいた。傷つけた頭からは毒が漏れ出しているのか、ランディは咳き込み始める。
「ランディ!」
そこを横から腕を切り落とし、ランディの身を引っ張り出したのは拓真だった。すぐに二人を引っ張り上げ、距離を取らせたのはミルフェムトだ。
「すまない、タクマ殿……恩に着る!」
「大丈夫だ。あんなのを見せられたら……誰だって、何もできなくなるよ」
エリオットの屍は、ランディへ視線を向けたままガルトールの巨体を造り上げる腐肉の中へと引きずり込まれていく。ランディが削った箇所は、元の形に戻ってしまった。
慰めるようにランディの背中を一度だけポン、と叩いた拓真は、改めて剣を構えた。
「それで? 次はどうする⁉」
『……まだわからんのか。何をしても、私には敵わないと』
呆れたように言うガルトールだったが、その戦意は失われていない。それどころか、殺意は目に見えて増したように見える。戦う術を持たないジオですら、うっすらと喉を締め付けられるような感覚を味わっているのだ。ガルトールの撒き散らす殺意は、計り知れない。
肌がヒリつくような感覚に、拓真はいつか味わった剣道の試合のことを思い出していた。あの時と違うのは、一手を間違えれば命を落とすということ。自然と刀を握る手も汗ばみ、何度か握り直す。鼓動が早まる心臓を鎮めるため、長く息を吐いた。
『こんな害虫如きに時間がかかるとは、私も衰えたものだ……だが、アキヒト様に良き知らせをお持ちするために……これで終わらせよう』
ガルトールは、もう片方の手に細剣を乗せた。何か輝きが発せられたかと思うと、それらを細剣に纏わせるように、手のひらに這わせる。
「この凄まじい圧は……魔力の塊かっ……⁉」
ミルフェムトが魔法の大剣を一つ、ガルトールの手のひらに向けて放つ。それは弾き飛ぶことも、ガルトールに傷をつけることもなく、その輝きに吸い込まれていってしまった。
『無駄だ……アキヒト様から授かった魔力は、誰にも崩すことはできん!』
手のひらの輝きが消え、ガルトールの細剣が魔力の輝きを纏う。それを胸の前に掲げると、ガルトールは拓真を見据えた。
『喜べ! 貴様は真の強さを前に、死を迎えるのだ!』
そして、剣を振った。それは直接拓真を狙ったものではなく、空気を裂くような動きだった。一度だけではなく、何度も剣を振るっているうちに、ガルトールを囲うような刃の軌跡が、魔力の輝きが乗っているおかげで幾つも重なっていく。
「みんな、俺の後ろに!」
拓真の声に、ランディ、ミルフェムト、ジオが背後へと隠れるように集まってくる。さらにミルフェムトは大剣をいくつか地面に突き立て、盾のようにしてみせた。
『そんなもの、貴様らごと消し飛ばしてやる!』
ガルトールが吠えるように言い、ついに剣を空へと掲げた。
『スペシャルスキル、“