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―第四十章 探索の中で―

「まだ見つからないのか⁉」

「早く見つけないとエリオット様の機嫌が……」

「全く、どうしてあんな勢いで吹き飛ばして……」


 陽が登り、拓真はガリオン家のある崖の麓までやってくることができた。とはいえども、やたらと私兵たちがウロウロしているため、いまだに森に身を潜めてはいる。聞こえてくる内容を要約すると、どうやらエリオットは私兵を使って、拓真の死体を探しているらしい。


「そりゃあ見つかるわけないよな。俺はここにいるんだし……」


 隠れながらひっそりと様子を伺う拓真だが、このままでは正面突破はできそうにない。

 よほどエリオットが恐ろしいのか、多くの私兵がうろついている。このまま同じ場所に潜んでいても、見つかってしまうのは時間の問題のように思えた。


「となると、こっちしかねえよな……」


 拓真が見るのは、私兵が少ない方。つまりは、拓真が飛ばされたのと逆方向だ。


「何か抜け道みたいなところがあればいいけど……とりあえず探してみるか。お前はここでお別れだ、ありがとうな」


 ここまで来る際に私兵から奪った馬を解放し、拓真は徒歩で森に沿って歩き始めた。

 そのまま歩いていると、海岸沿いに多くの船が止まっているのが見えた。帆を畳んでいる大きな船の上に人はおらず、小型の船がいくつか砂浜へと乗り上げている。

 偉そうに腕を組んだ男と、私兵の一人が何かを話し、ボロボロの布切れを身に纏った薄汚い男たちが木箱をどこかへ運んでいる。その先を見てみると、何か小さな小屋のような場所へと運び込んでいるようだった。


「あれは……? 少し見に行ってみようか……」


 もしかしたら、正面ではない場所からガリオン家に入れるかもしれない。入れないとしても、情報を得られるかもしれない。些細なことでもいいから、情報が欲しい。そのために、拓真は動かないわけにはいかなかった。

 とはいえ、拓けている海岸をそのまま歩いていくわけにもいかず、拓真は男たちが荷物を運び入れるのを待った。少し様子を見ていると、運ぶべき荷物は無くなったのか、男たちは小舟に乗り込んで帆を畳んだ船へと戻って行った。

 私兵も退屈そうに小舟の行く末を見ている。そのまま振り向かないことを祈りつつ、拓真はそろりそろりと小屋へ向かった。

 姿を見られてはいけないので、素早くドアを開けて静かに小屋の中へと入り込む。思ったより事が上手くいき、拓真はホッと息をつく。


「ここは……」


 小屋は見た目よりずっと広く、そして床は石造りであった。

 扉を開けてすぐ目に入ってきたのは、床に転がった鎧、剣などの装備品。木製の大きな作業机の上には、いくつもの武器の設計図が置いてあった。

 そこから階段が三段ほどあり、降りると火が落ち着いている窯のようなものがあった。その近くには剣の型やハンマー、他にもおそらく作業をするのに使われるような工具が多数、置いてある。


「すごいな……ここは、鍛冶屋……なのか?」


 奥には先ほど見ていた小舟から運び込まれたであろう、箱も置いてある。興味深くその箱を覗いてみようとすると……。


「誰だ! まだ頼まれていたものはできとらんぞ!」


 別の扉から、全身が煤にまみれたずんぐりむっくりとした小男が出てきた。顔の周りを覆うようなもじゃもじゃとした赤毛の髭を持ち、焦げているのか縮まっている髪の毛を無理やり束ねた様子の男は、ぎょっとしたように目を見開いた。


「……ほ、本当に誰だ⁉」


 見たことのない顔であろう拓真を見て、小男は驚いたのか尻もちをついた。その拍子に、その後ろにあった剣や鎧が派手な音を立てて転がる。

 その音に肩をすくめた拓真は、静かにしてほしいと口の前で指を立てた。


「俺は怪しい者じゃない! 落ち着いてくれ……!」

「うるさいっ! 急に現れた知らん奴に言われても、信用できるか!」


 小男は近くにあった幅広い刃の剣を掴むと、拓真へと向けた。

 できれば戦いたくはないが、外に逃げればおそらく私兵がいる。かといってこのままいても、この小男が騒ぎ続け、やがては誰かが駆けつけるかもしれない。

 どうするべきか、と考えている間もなく、小男は剣を振り回しながら拓真へと迫る。


「寄るな! 寄るな寄るな寄るなーっ!」

「あ、あぶねえ!」


 足を引き、転がりながら拓真は小男の剣を避ける。小男は剣の使い手というわけではなく、とにかく拓真と言う不審者を遠ざけたいだけのようだった。


「お、落ち着いてくれ! 俺はあんたを攻撃しない! すぐに出ていくから!」


 小男の剣は乱雑に振られてはいるが、威力はそれなりに出ているらしい。拓真に当たりもしなければ掠りもしないが、道具やら椅子やら、部屋の中にあらゆるものを吹っ飛ばしながら振られ続けている。


「ワシは騙されん! 騙されんぞー!」


 小男はとにかく必死なのか、ひたすらに剣を振っていた。やがて拓真も壁際に追い詰められ、小男の剣を受けなければならない瞬間がやってくる。


「頼むから落ち着いてくれ! 俺はただ……」

「うるさーい!」

「仲間を助けたいだけなんだよ!」


 鞘から刀を抜き、拓真は小男の振り回す剣を受け止めた。ガァン! と強く叩きつけ合う音がしたかと思うと、ある異変に起こる。


「あっ……え? なんで、こんなやわらか……⁉」


 拓真の持つ刀の柄が、ぐにゃりと手の形に沿って変わった。それと同時に刃が綻び、ネマーの杖が変化していた刀は割れてしまう。


「あぁっ⁉」

「なんじゃそれ⁉」


 拓真と小男は、同時に驚きの声を上げた。

 その次に、カラン、と刃が落ちるにしてはあまりにも軽い男が聞こえるのだった。

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