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―第三十七章 三大精霊―

 ロストリア。その名に、拓真は聞き覚えがあった。


「それって、大陸の名前……だよな? あんたがその、ロストリア?」

『ええ……人間たちの伝承の中で、私たち三大精霊の逸話が伝わり、この大地に私の名が残されました』


 三大精霊。それは王都アダルテからメファールの村へ出発する際に、魔法協会の長ロダンが言っていたと、拓真は記憶していた。


「ええっと、そんなすごい人たち? がなんでこんなところに……というか、ウェルファーナを知っているのか?」


 話をしているほど時間はない。こうしている間にも、ロザリンがどんな扱いをされているのか、わからないのだ。焦る拓真だったが、会話を終わらせるわけにはいかなかった。自らを精霊ロストリアと名乗った彼女は、ウェルファーナの名前を出したのだから。


『ウェルファーナは私たち精霊と、人間でいうところの兄妹のような存在です。彼女が世界を産み、そして私たちが世界を育てました』

「なんだか難しい話になっているけど、俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて……ウェルファーナに会いたいんだ。どうやったら会える? 会えないなら、俺をこの世界に呼んだ理由を教えてほしいんだ」

『伝えられなかったのか? いいや、伝える時間がなかったのか』


 拓真が懇願する横で、腕を組んでいる海の男が口を挟んだ。


「えっと、あんたは……」

『我は海の精霊、アイヴス。それとこっちは風の精霊、スーロ。覚えておくがいい』

「ああ、わかった。それで、俺をこの世界に呼んだ理由は?」

『至極簡単なこと。それは……』

『あいつをたおしてもらうためだよ!』


 スーロがガリオン家のある方角を示す。会話を奪われたアイヴスは、大袈裟に肩をすくめた。


「あいつ……って、ガリオン家?」

『いいえ、彼らよりもっと強い存在……それが今、あそこに……ううっ』


 そういうと、ロストリアは膝を折る。慌ててその身体を抱きとめるが、ロストリアの身体はつま先から光の粒子となって消え始めていた。


「か、身体が……⁉」

『時間が、ありません……あなたはウェルファーナに選ばれた魂……必ず、あの者を倒せるはずです……』

『しかし、今のままでは倒せない』

『だって、きみはまほーによわいもんね!』


 精霊たちの言葉に、拓真は言葉を噤んだ。実際、魔法への対処は全くわからない。わかっていれば、エリオット・ガリオンに命じられた魔法使いの攻撃も退けて、今頃はロザリンを助けられていたかもしれない。


「……どうしたらいい? 俺は、どうやってその……あんたらが倒してほしいっていう奴と、戦ったらいいんだ?」

『その力を与えるために……私たちは、ここへ来たのです』

『あいつがガリオン家で力を使ったから、我らも一時的に姿を取り戻すことができた』

『きみにちからをあたえたら、スーロたちはまたきえちゃうからね!』


 精霊たちの話している内容は、拓真にはいまいちわからない。しかし、力を与えてくれるというのであれば、受け取るしかないだろう。


「その力があれば……俺は、もっと強くなるのか?」

『もっとどころじゃないくらい! ずーっとつよくなるよ!』


 拓真に支えられたロストリアは、もう大丈夫といって、自分の足で立つ。ロストリアが拓真の右手を取ると、そこへアイヴスとスーロの手も重ねられた。

 すると、ウェルファーナから力を与えられた時と同じように、光の帯が現れる。それはゆっくりと拓真と三大精霊の手を離れないように、巻かれていった。

 手に触れ、光の帯が肌に溶け込んでいくのを見つめながら、拓真は訊ねる。


「……なんであんたらは、自分でそいつを倒せないんだ?」

『それも至極簡単な答えよ。奴はウェルファーナの力を、半分持っている』

「……は?」


 ひどく重要な答えを、アイヴスは口にする。

 ウェルファーナはこの世界の女神だ。いくら宗教に熱心ではなくとも、拓真の中で神というのは大きな存在だという認識はある。剣道の際に大事にしていた神棚の存在もあって、その認識は強い。

 その神の力を、半分も持っているのだというのだ。いくら戦う力を身に着け始めたとはいえ、拓真はただの人間。


「勝てるわけ、なくないか……⁉」

『かってもらわないと、こまるよー』

「そんな身勝手なことを、言われてもなあ!」

『私たちの我儘だというのは、重々承知しています』


 ロストリアが、伏し目に言う。


『こうなるはずではなかったのです……かの者の存在は、この世界を平定に導くはずでした。しかし……』


 光が強くなり、拓真の手に触れる帯の枚数が増えていく。だんだんとロストリアの身体は透明に近づいていき、それはアイヴスとスーロも同じだった。


『よそうははずれ! かれはちからをつかって、やりたいほうだい!』

『我らの力も、ウェルファーナの力も大半が奪われてしまった。だからこそ我らは、そなたに賭けるしかないのだ』


 ぐ、と拓真の手を握る力が強くなっていく。


『たのむよ、えらばれしこ! きみががんばれば、ぼくらはまたちからをとりもどせる……』


 ふわりとスーロの身体が浮かび上がると、その身体から溢れた光は帯となり、拓真の手に重なっていく。溶け込んでいくと、強い風が拓真の身体を覆った。


『託されてばかりでつらかろうが、我らも託すしかないのだ。せめて、力さえ取り戻せれば……』


 アイヴスの身体も光になり、帯となって拓真の身体へ溶け込んでいく。すると、拓真の耳元で波の音が一瞬押し寄せた。

 残されたロストリアと視線が合う。ロストリアの身体も、もうほとんどが透けて光となってしまっていた。

ロストリアはもう片手でも拓真の手を取り、その手に額を当てた。まるで祈るようなその姿は彫刻のようで、拓真は自然と姿勢を正す。


『……ごめんなさい』

「でも……こうするしか、なかったんだろ?」


 拓真の言葉に、ロストリアは頷いた。


『あなたの命は、この世界のために再生されたものです。あなたの運命は、決まっていたのです。かの者と戦うのだと……』

「それならそうと、聞けてよかった」


 俯いていたロストリアは視線を上げ、改めて拓真の目を見た。拓真は少し困ったように微笑みつつ、自分の手から全身へと行き渡る力を感じていた。


「やっとこの世界にきた理由を知れて、思ったよりスッキリしているんだ。俺はなぜここに来たのか、何のためにいるのか……理由を聞けずに来てしまったから、ずっと悩んでいた」


 手に納まる光は、どんどん強くなっていく。


「そりゃあなんで俺が、とは思うし、じいさんとの約束もまともに守れなかった俺だけど……それでも、俺にできることがあるなら、やってやるさ」


 拓真は、ロストリアの手を、自分から握りしめた。


「じいさんの教え……俺にまだ心を鍛える時間があるのなら……じいさんから学んだ剣道を、この世界でやり通す!」


 ついにロストリアの姿は光となり、光の帯となって拓真へ取り込まれていく。

 大地が、激しく揺さぶられるのを感じた。


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