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―第二十七章 作戦会議―

「それを、どこで……」


 ランディの声は、焦りを感じさせた。拓真とジオには全く何のことだかわからないが、ロザリンはそっとランディの肩に触れた。


「ロ、ロザリン嬢……」

「落ち着いて、ランディ。会長はあなたを責めているわけではないのよ」


 その言葉にハッとして、ランディは改めてミルフェムトと向き合った。ロザリンの言葉に同意するようにミルフェムトは頷き、背もたれに体重を預ける。


「そなた、よっぽどガルトール公に嫌われていたのだな。ひどく丁寧に出生の記録が消されていたと聞いた」

「……何を、ご存じなのですか」


 困惑しているような声色で、ランディが問いかける。ミルフェムトは首を横に振り、長く息をついてから答えた。


「何も。ガルトール公が人攫い共に関与していると疑惑が出てから、ガリオン家については洗いざらい調べたが、そなたについては何もわからなかった。ただ、ガリオン家の子の中に一人、出生記録が消された子どもがいるということだけわかったのだ」

「それがなぜ、私だと?」

「簡単なこと。そなたの剣術の基礎は、ガリオン家で継がれているものと同じだからだ。違うか?」


 ランディは押し黙ってしまったが、複雑な表情をしていた。笑みを溢すのを堪えきれないようにも見えるし、今にも泣いてしまいそうにも見える。

 一旦誰の発言も無くなったところで、拓真が申し訳なさそうに胸のあたりまで手を挙げた。


「すまない、誰か教えてくれないか……その、ガリオン家っていうのは?」


 隣にいたロザリンが振り向き、一度ミルフェムトを見た。説明してもよいものか、目で確認をしたのだろう。許可が下りたので、ロザリンは特に声を潜めることもなく、話し始めた。


「ガリオン家は、ロストリア大陸の南側の地域を治める貴族なの。当主はガルトール・ガリオン……素晴らしい細剣の使い手だと聞いているけれど……」

「とんでもない性悪さ」


 ロザリンの言葉を引き継いだのは、ランディだった。


「治める地方の村や町から高い税や産物を取り立て、自分に歯向かった者は容赦なく処刑する。細剣を使うのだって、その速さと剣の細さで、相手を細かく痛めつけることができるからなんだ」


 先ほどとは打って変わり、影に沈んだ瞳でミルフェムトを見つめるランディは、続けた。


「だからこそ王都認定騎士にはなれなかった。そうでしょう?」


 ランディの言葉に、ミルフェムトは頷いた。


「そうだ。民を守るどころか傷つけるために剣を振るう者に、私の父……前王は騎士として認めることはしなかった。たとえそのせいで、私たち王族がガリオン家と決別することになったとしてもな」

「それでよかったと思います。あの人は……自分が何をしているのか、わかっていない……」


 苦しそうにいうランディだったが、次の瞬間にはいつも通りの、凛々しい表情に戻っていた。真っすぐにミルフェムトを見据えたその瞳は、もう影に潜んではいない。


「協力できることならなんでもします。そのために僕を……私を、呼んだのでしょう?」

「ああ、その通り。では、そなたらを呼んだ理由……明日から決行する作戦について、説明しよう」


 空気がひりつく。ミルフェムトの指示で、後ろに控えていたオークスがテーブルの上に地図を広げた。そしてその上に、幾つかの駒を並べる。


「ここが我らが王都アダルテ。そして南方に進んだ先に、メファールの村がある。先ほど話したガリオン家が治める村の一つだ」


 王都アダルテとメファールの村の位置に、綺麗な白色の丸い石が置かれる。メファールの村からさらに南方には、黒い馬の駒が置かれた。


「そしてここはガリオン家の屋敷。予定ではガルトール公自らが視察という形で、明日の昼にメファールの村へ赴くと聞いている。そこをオークスの隊とロザリンたちが出向き、ガルトール公を人攫い援助の疑いで拘束するのだ」


 ミルフェムトは、黒い馬の駒をメファールの村の位置へ移動させ、さらに白い馬の駒を二つ分、同じ位置へ置く。白い馬の駒がオークスの隊と、ロザリンたちということなのだろう。


「なんでその、ガルトール、さん……? は、人攫いに関わっているって思われているんです?」


 拓真の質問に、ミルフェムトは地図から目を逸らさずに答えた。


「人攫い共は、全て南側から来ていてな。どうにも大陸の南東にあるオルポス諸島から通ってきているようなのだ。そこから来たとて、誰かの助力がないとこの大陸内に広がることはできまい」

「なるほど。南の地を治めているから関与しているんじゃないか、って疑いの目がかけられているわけですね……」

「それだけではない。村や町が襲われた際に、ガリオン家の紋章が入った鎧や剣を使っている者が確認されていてな……」


 その言葉に、地図を見ていたランディが顔を上げた。一度目を合わせてから、ミルフェムトは話を続ける。


「だが、確信には至っていない。それでも拘束するのは、何度対話を試みようと思っても、断られ続けてきたからだ。手荒い真似だということは、私たちも十分に理解している」


 ランディは何も言わなかった。

 実の父親が罪に問われ、拘束されるという話をしているというのに、何も思わないのだろうか。拓真は少しだけ不思議に思ったが、出生記録が消されているということは何かしらあるのだろう。自分が口を出すことではないと、拓真はただひたすらに黙っていた。


「さて、簡単な作戦だったが、何か確認はないか? なければ、出発は明日の早朝だ。今日は解散し、各々備えるように……」


 ミルフェムトがそう言った瞬間のことだった。部屋の扉が大きく開き、一人の男が倒れ込んできた。皆がそれぞれ臨戦態勢をとるが、呼吸を荒くしながらもすぐに立ち上がる男に戦意はないようだ。男は、誰かを探すように周りをキョロキョロと見回す。

 すると、何かに気付いたのか、傭兵ギルドの長であるアルバが声をかけた。


「……おい、なんでお前がこんなところにいるんだ? お前の任務は、メファールの村の近くで待機しておくことだっただろ?」


 どうやらこの男は、傭兵の一人らしい。男はアルバに向き直ると、泣きそうな顔をして駆け寄った。


「ア、 アルバさんっ……それが、大変なん、でっ……」


 よく見てみると男は怪我をしているようで、アルバの目の前まで来ると崩れ落ちるように倒れこんだ。腹部から血を流しており、それを見た医療協会会長、リリーはすぐに駆け寄って回復魔法を施す。みるみるうちに回復していった男は呼吸が整ってきたが、顔色は悪いままだった。


「む、村がっ……やつらが、もうっ……」

「どうした。まずは落ち着け、ゆっくり話すんだ」


 アルバは男の肩を優しく叩き、落ち着くように共に呼吸をした。男は何度か深い呼吸をすると、アルバの手を握り、そして周りを見渡しながら言う。


「メファールの村が……ガリオン家によって、襲撃されました!」

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