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―第二十六章 剣術協会構成員―

 翌朝。外へ出ると、ドルミナの町から王都まで案内してくれた使者が待っていた。彼が剣術協会の会議場へと案内してくれるのだという。


「うう、頭いてえよお~……」

「遅くまでだらだらといつまでも飲んでいたせいだろ」


 ジオは遅くまで酒を飲んでいたせいで、頭痛に悩まされているらしい。拓真、ロザリン、ランディは遠方から来たという疲れもあり(加えてミルフェムトとの戦闘のこともあり)、早々に就寝していたのでほとんど体力は回復したらしく、疲労は残っていなかった。


「だってよお、みんなとっとと寝ちまうから……オレぁ、寂しくて寂しくて……」

「今日は会議だって言われてるのに、なんでそんなことになるまで飲むかね……もうちょっと自己管理しないと、いつか大変な目に遭うぞ」


 拓真が呆れたようにいうと、ジオは疎ましそうにぼやいた。


「くそう、大した変わらない年のくせに、上長みたいなこと言いやがってよお……」

(まあ、実際年上だからな……)


 拓真本人も忘れそうになるが、元々四十年生きていた経験があるのだ。ジオには拓真がこの世界に来た経緯をきちんと話していないので、近い年ごろだと思っているのだろう。


「さあ、そろそろ着きますよ!」


 そうこうしているうちに、泊まらせてもらった家から歩いておよそ数十分。街並みから外れると、木々に隠されるようにして大きな円形状の建物と、長方形の建物が組み合わせられた施設が見えてきた。使者が大袈裟に腕を挙げ、建物を見るように促す。


「本日の剣術協会会議場は、アダルテ図書館の二階になります!」


 通されたのは円形状の建物の方だった。入ると管理者が並ぶカウンターがあり、その奥にはずらりと本が並んでいるのが見える。どうやら作りとしては、現代日本の図書館とあまり差異はないようだ。

 カウンターにいる一人が使者に気付くと、ぺこりと頭を下げた。使者も頭を下げると、そのまま拓真たちを引き連れて円形状の建物の壁に合わせた階段を上っていく。図書館という割には利用者がいないらしく、すれ違う人もいなければ、本を読んでいるような人すら見当たらない。こんなに広いのにもったいない、と思っていると、使者は一つの大きな扉の前で立ち止まった。


「それでは中へお進みください。皆さんお待ちですよ」


 焦げた木々の色をした両開きの扉を開けると、その中には細長いテーブルが設置してあり、向かって正面にはミルフェムト、その後ろにはオークスが立っていた。ミルフェムトの左右とテーブルの端に一人ずつ座っており、拓真たちが入ってきた側には椅子が四つ並べてある。


「来たな。各々座るがよい」


 拓真たちが入ると、使者は扉を閉めて外に出て行ってしまった。ミルフェムトに促され、拓真たちはテーブルへと進む。左からランディ、ロザリン、拓真、ジオの順に座ると、ミルフェムトは頷いた。


「まずは剣術協会の諸君に紹介しよう。この男が噂となって人々の間に語られている道端の英雄、タクマだ」


 ミルフェムトがいうと、拓真は一斉に四人の視線を集めることとなった。

 帽子を深く被った背の低い人は一度会釈をすると、もう興味を失ったようだった。顔に大きな一文字の傷がある男はジロジロと見つめ、おっとりとした雰囲気の女性は軽く会釈を、そしてたぬきと人間を掛け合わせたような人―獣人―の女性は、ほうほうと頷いていた。


「なるほどねえ、これはえらい男前じゃないですかぁ。道端の英雄と握手ができる機会を設けたら、よく売れると思いません?」


 たぬきの獣人である女性は、おもしろおかしそうにミルフェムトへ提案した。


「馬鹿言え。ただでさえ人攫いらしき輩が都に紛れ込んでいるというのに、あえて危険な場所を作ってどうする。それで小さな子まで巻き込まれたら?」


 顔に傷のある男が、吠えるように言う。


「でも、それで襲いかかられたら人攫いは捕まえられるし、尋問で痛めつけることもできますし、もしかしたらいい手かもしれません……」


 おっとりとした雰囲気の女性が、独り言のように呟いた。


「……儂は何も言わぬよ」


 帽子を深く被る背の低い人が呆れたように言ったところで、ミルフェムトは静かにしろと手を叩く。


「こらこら、勝手に話を進めるな。まずは互いの名を知るところからだ。そなたらも名乗るがいい」


 ミルフェムトがそういうと、たぬきの獣人である女性が手を挙げた。


「はいはーい、わたくしはヴィーチェ。商人ギルドの長もやってますよぉ。今回の作戦はギルドを通して大陸全土の商人への通達、資材供給の役割を担ってまぁす。何か欲しいものがあればお安く提供しますので、よろしくねぇ」


 次に胸のあたりまで手を挙げたのは、顔に傷のある男だった。


「アルバ・バルテスだ。傭兵ギルドの長でもある。俺は傭兵をかき集め、作戦中の各主要都市、町の警備を担うことになった。お前らとは直接関わる時間は少ないかもしれんが、よろしく頼む」


 話し終わったタイミングでヴィーチェが指を差し、おっとりとした雰囲気の女性が恥ずかしそうに手を挙げた。


「ええっと、リリー・ハルバットと申します……。若輩者ですが、医療協会の会長を務めさせていただいております。えーっと、えーっと、私は医療班の部隊編成と、必要に応じて各地の医療業務に就く予定です。あ、ジオくんのこと、よろしく頼みますね……」


 ジオは昨日再会した際に、医療協会の手伝いをしていると言っていた。つまり、リリーはジオの上司にあたる人物なのだろう。

 最後に帽子を深く被った背の低い人は顔を上げ、ちらりと拓真を見た。見えはしなかったが、帽子の影の奥にある目と合ったような気がして、拓真は軽く会釈を返した。


「儂は……ロダン・モダンと申す。魔法協会の会長であり、陛下の相談役もさせていただいておる。今回、魔法協会は王都防衛に力を入れるため、前線に出ることはないが……要請があれば、儂が出る予定だ。よろしくのう、若いの」


 そして、ロダンは深く帽子をかぶり直した。


「では剣術協会の者を紹介したところで、タクマの仲間を紹介しよう」


 次にミルフェムトは、ジオへと手を向けた。協会員の視線は、ミルフェムトの手の方向へとついていく。


「彼はジオ。医療協会に仮所属しており、今回は試験も兼ねて同行を許可した」

「試験?」


 拓真がジオへと向くと、ジオはひっそりと答えた。


「そ。オレがあんたらを死なせずに済んだら、オレは晴れて医療協会に本加入できるんだ」

「……大丈夫なのか?」

「任せておけって、薬の知識と技には自信がある」


 どこか軽い返事に不安を覚えながらも、拓真はミルフェムトへ視線を戻す。


「……先ほども紹介したが、彼がタクマ。少々不安定なところもあるが、剣の腕は見事なものだ」


 拓真の紹介を改めてすると、次にミルフェムトはロザリンへと手を向ける。ヴィーチェが手を挙げて挨拶をすると、ロザリンは小さく手を振り返した。


「みんな存じているな。アドルフの代理人、ロザリンだ。彼女には今回の作戦の部隊長を務めてもらう。頼むぞ、ロザリン」

「は、はい!」


 突然の言葉に声を裏返らせながら返事をするロザリンは、ピシっと背筋を伸ばし、緊張した面持ちでミルフェムトを見た。

 だがミルフェムトはそのまま手をランディへと向け、話を続ける。


「彼はランディ。今回の作戦において、大きな存在となるだろう。なぜなら……」


 剣術協会員たちの、視線が変わった。皆それまでは興味溢れるものだったのに、急に空気が張り詰め、厳しい視線となったのだ。

 そして、ミルフェムトの言葉が続く。


「人攫いへの援助疑惑のある、ガルトール・ガリオンの血縁者なのだからな」


 静かで広すぎる部屋の中に、ランディの息を飲む音だけが聞こえた。

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