体中が、痛い。
あの後僕たちは畠山さんと別れ、新幹線に乗って名古屋へと戻った。
その日はあまりにも疲れたし、体中痛かったので、シャワーも浴びずに、半ば気絶するみたいにベッドに倒れこんでいた。
けどもう、ロードワークに出る時間だ、そう思って立ち上がろうとすると
「だめ」
僕の体を無理やりベッドへと引き戻したのは、一緒に寝ていたスゥの手だった。
「昨日の夜、高熱出したんだよ? 気づいてなかった?」
驚くべきことというべきか当然というべきか、僕には一切の記憶がなかった。
「気、失っちゃってたんだよ。今日は、無理しない方がいいよ」
「けど」
「今日は、休むの」
そういってスゥは、再び僕の腕を引っ張って、ベッドに引きずり倒した。
「九時くらいまでゆっくりベッドでぐだぐだして、それでだらだらと身支度をしよう」
「うん」
「それで、いつもみたく、朝ご飯ともお昼ご飯ともつかないような食事をしよう。そして、午後は本当に好き勝手なことをしよう」
「わかった」
僕たちは一つの布団にくるまって、お互いを包み込むようにして再び目を閉じた。
―――
僕たちは昼前に目を覚ました。
僕は昨日かえってそのまま気を失ってしまったので、シャワーを浴びよう御服を脱いだら、体のあちこちに擦り傷や青あざが見えていた。
気が付くと、僕の口の中は何か所も擦り切れていたようで、口の中もなんだか晴れて熱を持ってるみたいだった。
その日僕たちは、名古屋を観光して回った。
名古屋城を見たり、オアシス二十一っていうビルで、一緒にお茶なんかをした。
その次の日は早起きをして、ゼファーに乗って熱田神宮とか動物園を巡った。
その次の日は、ラムコークと缶ビールを片手に、一日中甲子園を見て、夜はケーブルテレビで古い映画を見続けた。
その次の日も、またその次の日も、僕たちは息切れしそうなほどに、今やりたいと思いついたことを何でも実行した。
※※※※※
ホテルのカーテン越しに、さらさらという音に、僕は目を覚ます。
僕が体を動かした振動のせいか、スゥも同じく目を覚ましたようだ。
「ん、雨みたいだね」
枕に頬をつけたまま、もごもごと口を動かしたスゥはゆっくりと立ち上がると、カーテンを開けて雨雲に曇る窓に手を当てた。
僕はベッドに腰を掛けたままテレビのリモコンをつけ、枕元に転がっていたミネラルウォーターで喉を潤す。
テレビでは明るい表情の女子アナウンサーが、全国的な大荒れの模様だと伝え、予定されていた甲子園の試合も順延になったと報じていた。
「今日は、もう何もできないみたいだね」
「やることは、あるよ」
雨がガラスを叩く乾いた音と、テレビコマーシャルの音楽が、やけに大きく響いた。
「わんこくんには、やらなくちゃいけないことがあるはずだよ」
「いきなりどうしたの、スゥ」
「会わなくちゃいけない人がいるはずだから」
「何を言っているんだよ。僕には別に――」
「――言いたいことは、言わなくちゃダメ。会いたい人には、会わなくちゃダメ。それでウチら、ここまで来たんじゃん。今度はだから、わんこくんの番」
「スゥ」
「ごめんね、わんこくんが熱を出した時にバッグの中探したら、インナーポケットの中に入ってたの、見つけちゃったんだ」
スゥは、リュックサックの中から一枚の封筒を取り出した。
「行こう、わんこくん。明日、雨が上がったら、お父さんのところに」