「このままお兄様たちと交友を深めていけば、きっと死亡エンドを回避できるわ」
二人だけの中庭のテラスでマリアは声を潜めながら言う。三人の兄たちはアメリに好印象を持っており、悪い人間ではないと認識していると。
このまま交友を深めて親しくなれば死亡エンドを回避できて、ずっと一緒にいられるとマリアは自信満々だ。
アメリも三人の王子と仲を深めれば信頼関係も築けてマリアとずっと友達でいられると感じてはいた。
デーヴィド王からの印象は分からないけれど、何も言われないということは悪いとは思われていないはずだ、そう思いたい。
「それで、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんですか?」
「あんちゃんはお兄様たちのこと嫌いじゃないわよね?」
突然、なんだろうかとアメリは首を傾げながら「嫌いじゃないですよ」と答える。三人の王子のことをアメリは嫌いだとは思っていなかった。
三人とも性格は違えど妹想いの優しい竜人で、こんな自分を無碍にすることなく接してくれる。だから、嫌いにはなれないし、そんなことも思ったことが無かった。
アメリの返答にマリアは「これはいけるのでは」と小さく呟く。何がだろうかと聞いてみると、「こっちの話だから!」とマリアは気にしないでと言って、「これからのことなんだけど」と話を変えた。
「ワタクシはあんちゃんのことを友達だと思っているわ。前世とか関係なくて、大切な存在なの」
「ご主人……」
「マリアでしょ。で、だからあんちゃんには幸せになってほしいのよ。絶対に死亡エンドにはさせたくない」
マリアはアメリの手を握って言う、絶対に回避させると。その力強い一言にアメリは勇気をもらった。何故だか、彼女にそう言われて回避できるような気がしたのだ。
「今のところ、順調だとワタクシは思うのよ。お兄様たちの印象は良いし、お父様も何も言っていないから。問題が起きさえしなければ大丈夫だと思いたい」
「何が起こるかわかりませんもんねぇ……」
「そうなのよ。もう乙女ゲームのルート外の話だから全く先が読めないのよねぇ……」
これは悪役令嬢アメリのその後の話なので、乙女ゲームのストーリーから外れている。一通りのルートをクリアしているマリアでもこればっかりは分からないので、流れに身を任せるしかないと。
「気を付けはするけれど、起こった時はもう仕方ないわよ」
「ですね、そうなったら頑張りましょう」
何か起こってしまった時は仕方ないのでその時はどうにかしようと二人は決める。今、考えても分からないことなのでなるようになるしかないのだ。
「あんちゃんの行動は良いと思うのうよ。素直で自分の気持ちは正直に話すし。そんなところがお兄様たちの中で好印象なんだから」
「そうなんですかね?」
「そうよ。だから今のままでいてね?」
「わ、わかりました」
もともと変えるつもりはなかったのでアメリは頷くと、「これなら大丈夫よ」とマリアが微笑んだ。
彼女には何か見えているようでそれが気になったけれど、言わないということはまだ自分が知るべき時ではないのだろうとアメリは思ったので聞かなかった。
「マリア様って転生したっていう記憶が蘇った時、どう思いました?」
「あー、すっごくびっくりしたの」
「ですよね、わたしもです」
「あと、なんでちょい役の姫なの! ってなった」
「わたしもどうして悪役令嬢なの! てなりました」
どうせなら主人公が良かったと思わなくもなかったらしいが、今ではマリアでよかったと思っていると話す。
兄たちは優しくて、兄妹仲は悪くないし、父も良い人で悪いところが見当たらない。彼らの愛情を貰って、幸せだなと感じていたのでだから、「転生してもよかったなって思った」とマリアは笑った。
「ちなみに、マリア様の死因って……」
「交通事故、だと思う」
最後の記憶は車と衝突する瞬間だった。きっと、それで死んでしまったのだろうとマリアは思っているらしい。痛みを感じた記憶はないので楽に一瞬で死んだのだろうと。
「生まれ変わったらまたあんちゃんに会いたいとは思ってたけど、まさか乙女ゲームの悪役令嬢と攻略キャラクターの妹として再会するとは思わなかったなぁ」
「それはわたしも思います。たぶん、マリア様のせいだと思うのですよ、わたしが転生した理由」
「それはワタクシも思ったわ、願っていたから」
マリアは「ワタクシの転生に巻き込まれてしまってごめんなさいね」と謝る。巻き込まれた身ではあるけれど、アメリは転生してよかったと思っている。
大好きなご主人とまた再会できただけでなく、こうして友達として話ができるのだから。
「わたしも転生してよかったなって思ってますよ」
「ふふ。ありがとう、あんちゃん」
嬉しそうに頬を緩めるマリアにアメリも同じように表情を穏やかにさせる。まだ何があるか分からないけれど、この楽しいひと時を今は感じていようと。