「つ、疲れる……」
アメリはベッドに倒れ伏す、もう疲れたとごろんごろんと転がりながら。自分はは動物と会話ができるというだけで住まわせてもらっている身だ。酷い扱いを受けるというのを今のところは避けられているのだから文句は言えない。
と、思うものの疲れるものは疲れるので枕に顔を一度埋めてアメリはごろりと仰向けになった。
「ユーリィ様は怖い……でも、似ている……」
似ている、悪役令嬢時代のアメリに。それがなんだか引っかかってアメリはユーリィに恐怖を抱くものの、恨むことはできなかった。陰で罵られるのは心が痛いけれど、昔の自分と重ねてしまって。
はぁと溜息をついて毛布にくるまる。
「生きるって、大変なんだなぁ……」
家猫時代は自由であった。外に出たことはないけれど室内でのんびりと過ごせて、飼い主に可愛がられて、同居している他の猫もいなかったので苦労をしたことはない。ただ、寝て過ごすだけでいいのだ。今の暮らしに比べれば猫時代というのは羨ましいものであった。
「まー、外猫の暮らしがわからないから、あれだけども。わたしを飼ってくれていたご主人……マリア様は良い人だ。……だから、楽に暮らせていたのか」
飼い主に恵まれていたのだなとアメリは気づいて泣きそうになる。またこうして飼い主と再会することができたけれど、面倒を迷惑をかけてしまっているとアメリは感じていた。
マリアはそんなことはないのだと言うけれど気にならないわけではない。それでも、再会した飼い主と離れたくはないので彼女の助けを借りながら死亡エンドを回避するしかなかった。
本当に回避できるのかと頭に過ってアメリはぶんぶんと首を振りながら気合を入れるように頬を叩いた。こんな姿ではせっかく一緒に死亡エンドを回避しようとしてくれているマリアに顔向けができないと。
「どうなるのかはわからないけど、生き抜いてみせる!」
せっかく人間として生まれ変わったのだ、猫よりも長く生きられるのだからもっと生きてみたいし、人間だから知れるものを見てみたい。
亡くなる前に言ってくれた優しい子に生まれ変われるかはわからないけれど、心を入れ替えて暮らしていこうとアメリはうんうんと頷く。
「しかし、貰ってしまった……」
ちらりとドレッサーの上に置かれた髪飾りを見遣る。カラスに髪飾りを渡した後にマリアはすぐに髪飾りを召使いに用意するように命じたのだ。それはもう早くてずらりと並ぶ髪飾りにこの短時間でよく集めたなと驚いたほどだった。
マリアがこれがいいわといくつか選んでいたがどれも自分には勿体無いものだったので、地味なものでいいと言ったのだが聞き入れてくれず。でも、一つでいいのでと言えば、彼女は悩む様子をみせながら選んでいた。
そんな妹にテオが「これがいいじゃねぇか」と一つの髪飾りを手に取った。それは花の形をした装飾品がついているもので、「カラスにあげたものも花が付いていたし」と彼は言う。
それは大人しめのデザインだった。あまり派手なモノを選んではユーリィに何を言われるかわかったものじゃないので、落ち着いているこの髪飾りならば大丈夫だろうと考えてアメリはそれを選んだ。
しかし、髪を切るという発言にえらく反応されたなぁとも思った。確かに頑張って手入れした髪を切るのは惜しいけれど、邪魔だと言われれば仕方ないので潔く切ることだって今の自分なら受け入れるだろう。
「まぁ、いいか。切るなっていうなら、綺麗に手入れをしよう」
アメリは深く考えるのを止めた。貰ったものは大切に使えばいいのだ、むしろ使わないほうが失礼だ。
「明日もマリア様と作戦会議だし、もう寝よう」
テオの所有物のはずなのだがマリアと過ごすことが多いのは突っ込まないでおく、彼も仕事で忙しいのだから。今はマリアとどう死亡エンドを回避するか模索するほうがいいだろうとポジティブに考えることにした。
「わたし、頑張ってみる」
生きるというのは大変だけれど、頑張ってみようとアメリはそう決めて意識を夢の中へ落としていった。