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第12話 髪留めと交換して無事、取り戻すことに成功!

 宮殿を出て裏に回るとマリアのペットたちの飼育場の側へと歩いていく。その辺りは木々が生い茂っていてあまり手入れがされていないように見えるとある一角で小鳥たちが鳴いた。


 背丈の大きい木を見上げてみればそこには一羽の黒い鳥がいた、カラスだ。案内を終えた小鳥たちはカラスが怖いからなのか、「じゃあね」と言って飛んで行ってしまう。


 このカラスが犯人かと見つめながらゆっくり近寄ると、アメリに気づいたカラスは威嚇するように翼を広げた。警戒されていると慌てて「大丈夫ですから」と両手を振る。



「わ、わたしは何もしないので! お話だけ聞いてください!」


『なんだ、なんだ。おれに何があるっていうんだ!』


「あの、ついさっきキラキラ光るものを持っていきましたよね?」


『あれはおれのだ!』



 どうやら小鳥たちの目撃通り、このカラスが持っていった犯人のようだ。アメリはそれをなんとかと言って返してくれるようにお願いしてみるのだが彼は嫌だと言う。


 あれはおれのだ、渡さないの一点張りであった。さて、どうしてものかとアメリは頭を悩ませる。


 無理矢理にでも取るという手段もあるのだが、もしまた何か協力してもらう時がきたことを考えるとできれば仲は良好でいたい。


 そうなるとと思案して、あっと自分の髪を結っていた髪飾りを取る。それは花嫁として贈られる時に使っていた花々の髪飾りで作り物の花ではあるが、綺麗な装飾品があしらわれているものだ。



「これと交換しませんか?」



 そう言って髪飾りを差し出してみれば、カラスは髪飾りを吟味するように眺めるてうーんと考える素振りをみせた。



『本当にくれるんだろうな?』


「はい、差し上げます」


『……わかった』



 カラスは一鳴きし、巣を漁り一つ取り出したのは指輪であった。きらりと輝いて降ってきた指輪を慌てて受け取ってからアメリはユーリィに見せてみる。


 それを見た彼女は目を見開いてアメリから奪い取り、確認するように陽にかざす。様子を見るに無くなった指輪で間違いないようだ。



「た、確かにわたくしのだわ……」



 でも、どうしてと言いたげな彼女にテオがあぁなるほどと手を叩いた。



「カラスって、確か光物を集める習性があるんだっけか」


「どうやら、彼はユーリィ様の指輪を気に入ったようでして……」


『約束!』


「あぁ、すみません。はいどうぞ」



 カラスに鳴かれて慌ててアメリは髪飾りを差し出した。それを咥えた彼は満足そうに巣の中へと戻っていくのを見てテオは首を傾げる。



「どうして、渡したんだ。無理矢理に取ればよかっただろう」


「えっと……いつまた協力を頼むか分からないじゃないですか」



 アメリが「そんな時に協力してもらえなかったら困るので」と答えれば、テオは「そうか」と納得したように頷いた。


 無事に指輪は見つかった。これで安心かと思えば、ユーリィは「どうしてカラスなんているのよ」と愚痴を呟く。害獣よと呟かれた言葉にテオが眉を寄せた。



「指輪は見つかったからいいだろう」


「そうですけど……。あんなものがいたら怖いじゃないですか」


「お前が何かしなければ、何もしねぇよ。カラスだって頭悪くねぇからな。つか、竜人に動物は何もしてこねぇ」



 微妙な空気が流れる。居心地の悪いその空間をどうにか変えようとアメリは「ユーリィ様は用事があったのでは」と聞いてみた。すると、彼女は「あぁ、そうでしたわ」と思い出したようにテオに近づく。



「テオ様、わたくし貴方とお話がしたくて今日は参りましたの。お仕事が片付いたと聞きましたから」



 ユーリィは「ここ最近はゆっくりお話ができなかったでしょう?」と微笑む。なんという変わり身だろうか、あんなに冷めていた瞳が熱の籠ったものになっている。その変わり身の早さにアメリは驚いたけれど理解できなくはなかった。


(テオ様が好きなんだろうなぁ……)


 好きだからこそ、頻繁に訪れてはテオにアピールをするのだ。まだ婚約者候補が確定していないのだから必死になるのも無理はないなとアメリはユーリィの行動に納得する。



「あ? やだ」


「え?」


「俺はアメリと今日は過ごすって決めてるんだ」



 テオは「こいつの能力についていろいろ知りたいしな」と笑みをみせながら振り向く。やめてくれと思わず出そうになる言葉をアメリはぐっと堪える。


 ユーリィの形相に冷や汗が流れる、凍り付きそうなほど冷めた瞳が痛いほどに突き刺さった。



「え、えっとわたしなんかにお構いなく……」


「はぁ? お前と過ごすって決めてんだよ、文句あんのか?」


「あ、ありません!」



 文句などないとアメリはぶんぶん首を左右に振れば、「なら、いいじゃねぇか」とテオはユーリィにそういうことだからと彼女の誘いを断る。


 それがまた彼女の怒りを増幅させたのか睨みつけられてしまう。あぁ、視線が痛いとアメリは気が遠くなりそうであった。


 恋する女性というのは恐ろしいものだ、家猫で外にも出たことのない身では味わえるものではない恐怖がそこにある。

 自分もきっと悪役令嬢時代にリリアーナにしていたのだろうなと思うと、恋というのは怖いものだなとアメリは実感した。



「お前もしつこいな。頻繁に来られても困るんだよ」



 テオの「俺にも仕事はあるんだ」という言葉にユーリィは反論しようと口を開くも、それを遮るように追い打ちをかけられる。



「今日はお前の相手をしてる暇はない。帰れ」



 低い声。駄々をこねる子供を叱るような声音にユーリィは眉を寄せて、強く拳を握ると返事もせずに駆けだしてしまった。


 突然、走り出した主を執事たちは慌てて追いかけていく。そんな中、赤毛のメイドはアメリに一礼してお礼を言ってから走っていった。


 嵐のように駆け抜けていった様子にアメリはおおぅと小さく呟く、テオの言葉というのは彼女に効果覿面だなと。



「アメリー!」


「っ! マリア様?」



 ユーリィと入れ違うようにマリアが駆け寄ってくる、その後ろにはバージルがいた。どうして二人がと首を傾げてみれば、「見かけたのよ!」と言われる。



「こっちに来るのがね、ペットたちのお家から見えたの! だから、また何かあったのかしらって思って!」



 マリアは「あの女がが走っていったから、きっと何かあったのでしょう?」と目を輝かせている。



「バージルはどうしたんだ」


「マリアに付き合っていたのですよ」



 薄緑の長い髪を流してバージルは小さく溜息をつく。「お兄様、お休みなんでしょう! ならワタクシに付き合って!」とせがまれたのだという。そんなバージルに「お前は妹に弱いねぇ」とテオはからかうように笑った。



「ねー、何かあったの?」


「あー、それはな」



 テオは今あった出来事を簡潔に二人に話すとマリアは「ほら、あの女は性格が悪い!」と口に出す。



「指輪が無くなったからって、すぐに盗っただなんて決めつけて!」


「しかし、そう疑ってしまうのは仕方ないだろう?」


「バージルお兄様、そろそろ気づいてよ!」



 マリアは「あの女は性格が悪いわ!」と言ってバージルに抱き着くのだが彼は困ったように眉を下げていた。


 ユーリィは王子たちの前では猫を被っていたようで、バージルはその厚い皮の姿の時にしか彼女と会っていないようだ。



「俺もあいつは性格が悪いと思うぞ」


「テオまで……」



 テオの言葉にアメリは少し驚いた、彼は気づいているのかと。それと同時に態度が冷たかったのもそのせいだったのかもしれないなと彼の行動に少し納得してしまう。



「別にあいつのことはいいんだよ。それよりアメリ、よくやったな!」



 わしゃわしゃと犬を褒めようにテオはアメリの頭を撫でる。急だったので、おうっと思わず姿勢を崩した。



「テオお兄様、そんなに撫でては髪の毛が乱れてしまいますわ! 今は髪を結っていないのですから!」


「あ、そうか、すまない」


「い、いえ……」



 ぼさぼさになった髪を手櫛で整えながら笑みを作るアメリの様子にテオはうーんと考える素振りをみせた。



「髪飾りか……」


「ワタクシは髪を結わないから……。あってもアメリは長いし髪の量もあるからワタクシのは無理ね」


「私ので良ければ使いますか?」



 バージルはそう言って手首につけていたブレスレットのような髪飾りを取り出す。きらりと輝くそれにアメリはぶんぶんと首を左右に振った。



「だ、大丈夫です!」



 王子の私物品を借りるわけにはいかないので、「気にしなくて大丈夫ですから」と言うのだがマリアがでもと口にする。



「アメリは髪が長いわ。風が吹いた時にすぐに乱れてしまうもの。結ったほうがいいわよ」



 召使いたちに用意させましょうとマリアは提案するのを聞いて、そこまでしてもらわなくてもいいのだがとアメリは思った。「髪を短く切るという手段もあるので」と言ったその言葉に反応したのはテオだった、「切る必要はないだろう」と反論されてしまう。



「たかが、髪飾り一つだろ。お前が髪を切る必要はない」


「えっと、でも……」


「髪飾り一つぐらい用意してやる」



 だから、切るなというテオの強い一言にアメリは頷くしかなかった。マリアも綺麗な髪なのだから切る必要はないというものだから。



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