「いいこと。まず、お兄様たちに不信感を与えては駄目よ」
「そ、それはそうですね……」
「あと、お父様にも」
「それは当然では」
マリアのペットが飼育されている小屋がある敷地は広い。彼女が沢山の動物と過ごしてみたいという夢を叶えた場所なだけあって、しっかりと手入れが行き届いている。メイドたちが世話をほとんどしているらしいのでそのおかげもあるのだろう。
柵と小屋に仕切られている中に様々な動物たちが住んでいる。鷲や鷹、インコやオウムはもちろん、獅子や虎、狼などもいてよく育てられるものだなと驚いていれば、「竜人には敵わないからみんな襲ってこないのよ」と教えてくれた。
彼らは本能で竜人には敵わないと理解しているらしく、襲ってくることはないらしい。むしろ、怯えさせてしまうこともあるのだと教えてくれた。
確かに見た目は人間でも竜になれる存在なのだから怖がる気持ちも分からなくもないとアメリは納得する。
「普段はワタクシと一緒にいれば大丈夫。ワタクシなら誤魔化せるし、お兄様たちは疑わないもの」
「め、迷惑かけます……」
「迷惑だなんて思ってないわ! むしろ、あんちゃんとまたこうして出逢えたことが嬉しいのよ!」
ずっと、後悔していたことがあるのだとマリアは話す。まだ六歳という若さだったというのに病気になって、何度も病院に連れて行ってどうにか治そうとしたけれど死なせてしまった。
獣医の人からは「貴女はよくやりましたよ。立派な飼い主です」と言われても、もっとできることがあったのではと何度も思った。
もし、生まれ変わることがあったらまたあんこに会って、仲良くしたいとごめんねと謝りたかったのだと。
「ワタクシ、何もできなかったから……」
「そんなことはないです。ご主人……じゃなかった、マリア様は最後まで一緒に居てくれたじゃないですか」
死ぬ瞬間まで傍に居てくれて、最後まで笑顔で見送ってくれて。きっと泣きたかっただろうにそれを堪えてずっと撫でてくれた。
その優しさがあったから旅立つ時も苦しくはなかったのだとアメリは思っている。だから、「ありがとう、マリア様」と笑んだ。
マリアは泣きそうになるのを堪えながら「ワタクシのほうこそ、ありがとう」とアメリを抱きしめた。
「今度は絶対に死なせないわ!」
「でも、無理しないでくださいね?」
「せっかく、生まれ変わってまたあんちゃんに出逢えたんだから全力よ!」
またあんこと仲良くしたいと願ったことが叶ったのだからそれを無駄にはしたくない。次は絶対に幸せにしてみせるんだと拳を握るマリアに、自分が生まれ変わった理由はもしかしてこれが原因ではとアメリは気づく。
マリアがこの乙女ゲームの世界に転生して、彼女の「またあんこと仲良くしたい」という願いによって自分も引っ張られたのではないかと。そう考えるとこんな前世家猫が乙女ゲームなどという自分が触ってもないものの中に転生できたのも理解できる。
「あんちゃん、お兄様たちに気に入られればここでずっと生きていられるから大丈夫よ!」
「大丈夫ですかね、それ」
「大丈夫よ! ワタクシもいるのだから!」
どこから湧いてくるのだろうか、その自信と思いながらも今はマリアに頼るしかないので、アメリは「頑張ります」と返事をした。