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第5話:なんとかなるかもしれないぞ!

 アメリは何とも言えない表情で目の前にいる動物たちを見つめる。鷲や珍しい柄のオウムにインコ、檻に入れられた狼に大柄の猫のような動物が、これまた豪奢な応接室に集められていた。


 彼らは動物好きのマリアの誕生日祝いとして贈られてきたのだという。父である国王、デーヴィドはその動物たちを贈ったハーヴァード男爵と談笑していたとのこと。


 ハーヴァード男爵との間で何か問題があったことはなく、そもそも彼らは学友であり仲は良好であった。


 他にクリストファー侯爵もその場にいてマリアの誕生日祝いを贈っていたらしく、あとは警護の騎士たちと召使いが数名いただけだ。


 犯行はその三人へお茶が出された時のこと、デーヴィドがお茶に一口をつけて異変に気づいた。お茶を飲まないように二人に告げて自身のティーカップを一匹のインコに飲ませる。


 すると、インコは泡を吹き倒れてしまった。毒が仕込まれていたと、すぐにお茶を用意したメイドが拘束されるも、彼女は自分ではないと犯行を認めていないということだった。



「メイドは今、独房にいるの。なかなか罪を認めないから、本当の犯人がいるんじゃないかって騒ぎになってって……」



 犯人が確定していない以上、騒ぎが治まることはなくそれで大変なことになっていたのだとマリアは説明した。


 だいだいのことを理解したアメリは自分のこの動物と喋れる(まだ分かってないが)の力で解決すれば、死亡エンド一直線から逸らすことができるかもしれないと考えたようだ。


 とはいえ、まだ分かると決まったわけではないのでアメリは恐る恐るを見渡した。動物たちが用意さた室内にはその場にいた人物たちが呼び出されていて、彼らは訝しげにアメリを見つめている。



「まずは、本当にお前が動物の言葉が分かるのか、見せてみろ」


「ど、どうやって……」



 テオの言葉にアメリが返すと、バージルが「席順を動物に聞いてみてください」と言った。動物たちが覚えており、会話ができるのなら当てられるでしょうと。


 なるほど、アメリは恐る恐る動物たちに聞いてみるとオウムが鳴き始めた。



『おれは覚えている。あいつが左で、あいつが右だ』



 それに続くようにインコが鳴く。



『そうそう。でも、あいつじゃ分からないよ』


『名前、名前。そうそう、ハーヴァード、ハーヴァードが右だよ』



 続いて狼が呻る。



『あとはあれだ、主人の父がそのハーヴァードというやつの前だ』



 大柄の猫と鷲が鳴く。



『クリストファーが右よ、右。あたし、名前は憶えているの』


『そうだ、そうだ。われらは物覚えはいいぞ』



 どうやら、自分は動物と会話ができるらしいというその事実に驚きながらもアメリはえっとと席のほうを見た。



「ハーヴァード様がデーヴィド王の前で……クリストファー様がハーヴァード様の隣です」



 呼ばれた二人が顔を見合わせる。アメリはすみませんと二人に頭を下げて席へと案内してみせるとそれを見た騎士や召使いがひそひそと話す。



「おい、確かにあの席順だったぞ」


「俺も覚えている、間違いない」



 どうやら、席順は合っていたらしくてハーヴァードもクリストファーも驚いた様子だ。デーヴィドもふむと顎に手を当てて興味深げに見つめてくる。


 どうでしょうかとどきどきしながら言葉を待てば、黒髪を掻きながらハーヴァードが「合っているよ」と答えた。



「本当に動物の言葉が分かるのかい?」


「はい……」


「なら、ワタシたちが何を話していたかも分かるのか?」


「えっと、動物たちにも分かる単語と分からない単語があるらしくて……。全文、正しくは言えないですが、だいたいなら、多分……」



 それを聞いて「動物たちにはどう聞こえていたんだ」と眼鏡を押し上げてクリストファーが問うので、アメリは「どんな話をしていましたか」と動物たちに聞いた。


 彼らはうーむと、どう言葉にすればいいかと考えている様子であったが、オウムが思い出したようにあぁと鳴いた。



『あれだ、あれ、娘とかいうのの話をしていた』



 それに反応したのがインコで「娘の話をして騒いでいた」と鳴き、狼もそうだそうだと相槌を打つ。



『難しい話は分からないが、娘というのの話はしていた』



 アメリは動物たちの会話を聞いて考える。娘、自身の娘たちの話をしていたのだろうかと素直にそう二人に答えてみれば彼らは目を瞬かせていた。



「確かに娘の話をしたな」


「あぁ。娘の話で少し盛り上がってしまった記憶がある」



 次々にアメリが言い当てるものだから本当に動物と会話ができるのではないかと周囲は思い始めた。それでもまだ疑いというのはあるらしく、何か仕掛けがあるのではと疑っている様子だ。



「なら、犯人は見たのか?」



 テオの質問に場が静まる。これは暗殺を行った犯人を捜すために集められたのだ、アメリは多少の不安を抱きながらも動物たちに問う。


 動物たちは暗殺という言葉を理解できなかったので、アメリは「仲間のインコが倒れた時のことだよ」と説明してみた。それを聞いたインコがあぁっと翼をばたつかせる。



『あれか! あれは覚えている! わたしの仲間が死んだ! ご主人の父が殺した!』


「その前のことは覚えている?」


『その前? あぁ、飲み物を飲む前?』



 覚えている、覚えているとインコだけでなく他の動物たちも話す。なら、覚えていることを教えてほしいとアメリがお願いすると鷲が鳴いた。



『わしは一番、入り口に近かった。竜人が二人やってきたんだ。何か持っていた、竜人はあれに飲み物を入れるんだったか』


「ティーカップとポットかな?」



 アメリは近くに置いてあったティーカップとポットを指さすと鷲はそうだそうだと鳴き、それに続き大柄の猫が口を開いた。



『あたしは後ろの方にいたんだ。その竜人がその容器に水を注いでいたのを見ていた』


「その時、何かおかしなことはなかった?」


『おかしなこと? ……あぁ、注いだ竜人じゃなくて、別の竜人が運んだんだ』


『でも、運んでいた竜人おかしかった。粉が入った器以外の場所から粉を出したんだ』



 オウムは大柄の猫の言葉に続けて言った。それを聞いてアメリは粉というのは砂糖ではないだろうかとティーセットの隣に置かれた容器を掴んだ、これのことかと。オウムはそうだそうだと返す。



『竜人が運ぶ時だ。竜人が手から何かを入れたのを見たんだ!』



 どうやら、手に掴んでいた何かを入れたらしい。話をまとめると、メイドが二人やってきてそのうち一人がお茶を淹れ、一人がそれを運んだ。


 けれど、運んだ人物がこっそりと手に持っていた何かをカップに入れたということらしい。


 アメリが誰が運んでいたか覚えているかと動物に聞くと皆が皆、覚えていると答えた。



「えっと、お茶を準備したメイドが二人いたと思うのですが、その一人が手に隠し持っていた何かを入れたようです」



 その言葉に皆、顔を見合わせる。「やはり、メイドが犯人か」と言うテオにアメリは首を振って答える。



「お茶を淹れたメイドと運んだメイドは別人です」


「はぁ? じゃあ、仕込んだ犯人は別ってか?」


「はい。拘束されたのはお茶を淹れた人物ですよね?」



 アメリの問いにバージルが頷く。毒殺を試みたのだ、お茶を淹れた人物を疑うのは当然のことだ。


 お茶を運んだメイドは疑わなかったのかという疑問が出るが、兵士たちは気づいていなかったらしく、デーヴィドたちも話をしていたためにメイドに目を向けていなかったらしい。



「で、誰かはわかるのか?」


「えっと、お茶を運んだのはあの人です」



 アメリが指さした先、そこには青ざめた表情をした金髪のメイドが立っていた。



「ち、違う、私じゃ……」



 メイドは慌てて自分ではないと言う、こんなものでたらめだと。確かに証拠と言うのがないので犯人であるとは言い切れない。


 事件が起きた直後ならば残っているだろうが暗殺事件が起こったのは三日前なのである。証拠を持ち歩いているわけもなくて捨てられたのはほぼ確定だ。


(と、いうかよく受け入れたな、貢物! まだ三日でしょうに!)


 暗殺事件があったというのによく他国の貢物をと突っ込みたいがそんな場合ではない。アメリは頭を抱えそうになるのを必死に堪えながらどうしたものかと考える。そんな時だ、マリアに抱えられていたメルゥが鳴く。



『こいつ、見たにゃぁ。お気に入りのお花がいっぱいある屋根の下で寝ていたらやってきて、土に穴を掘っていたのにゃ』


「それ、場所覚えてますか、メルゥ様!」


『覚えているにゃぁ』



 アメリが急にメルゥと会話をし始めたので、マリアはえっと飼い猫を見ればメルゥはにゃあと鳴いているだけだ。



「えっと、メルゥ様がそのメイドが土に何かを埋めていたと言っています」


「ほう」



 デーヴィドはそれを聞いて目を細めるとメイドの顔色はますます悪くなっていく。



「なら、その場所に案内してもらおうか」



 父から言うとは思っていなかったのかテオは少し驚いた表情をみせる。「案内できるね?」と王に問われ、アメリはメルゥ様っと手を合わせると、彼は「仕方ないにゃ」と鳴いてそれを了承した。



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