――それから3年の月日が経ち
時に西暦2092年において――VRMMOアイズフォーアイズのサービスは終了して、
そして、
「がはははっ」
それに代わって、灰戸ライド達が新しく作りあげたVRMMOが、
「がーはっはっはっは!」
――レインボフォートゥモロ
意訳、虹が作る明日という、相変わらずのネーミングンセンスなタイトルのゲームであった。アイズフォーアイズの世界観はほぼそのままに、グラフィックやセキュリティ等、基本的なスペックを跳ね上がっている。
それにくわえ今まで以上に自由度を売りにしてて、おかげさまで、社長である灰戸ライドも、毎日のようにレイドボスとして降臨するようになった。巨人になった社長は大暴れ。
「さぁ、俺に勝てる奴はいるかぁ!」
「――ここに居るし」
「何っ!?」
と、灰戸が言った時には、彼のもう一つの人格、ジキルが足元にいて、
――
「ぐおおおおおお!?」
余りの痛み――実際は痛くないがなんかノリで――で巨体ごと仰向けになり倒れる褐色の巨人。これはチャンスとばかり、多くのプレイヤー達が一気に群がる。
「ぐおっ!? ちょっと待て、立ち上がる時間をくれ君達ぃ! フルボッコは卑怯だぞぉ!」
「ああいいから、さっさとぶっ倒して、じゃないと会議に間に合わないし」
「やめろぉ、くそ、この正気めぇ!」
――灰戸ライド、及びその正気であるジキル
引き続きVRMMOの運営を続ける。尚、長浜名物堅ボーロは、月1ダースの単位で消費中。
◇
――福井県小浜市にある呑んべえ鯖養殖場にて
「おおいカリガリー、じゃなかったトモエ! 何してんだよ!?」
そう、金髪で日焼け肌でガタイのいい――グドリーの中の人が叫ぶ先には、スチロール製の魚箱を持ち上げる女性がいた。
「何って、働いてるんじゃないか」
「バカ、腹ん中に赤ん坊がいるだろが!?」
「いやいや、出産はまだまだ先だよ」
「だ、だけどなぁ」
「ああもう、……ウチノヒトハゲンジツダトイイダンナスギマスネー」
「キャラが違うのはお前もだろが、もう!」
――グドリーとカリガリーの中の人
呑んべえ鯖の養殖業を営みつつ、ほぼ毎日のようにレインボーフォートゥモロにログイン。2週間前、初めて怪盗スカイゴールドに勝利した。
◇
――レインボーフォートモロゥに開店したLust Eden
新しいVRMMOにおいても許された夜の店にて、相変わらずその豊満な恵体を、高貴に揺らしながら、人々を楽しませていた。
ただし今日の主役は彼女ではなく、ステージの上で、ジャズバンドの演奏をバックに、
「遥か彼方のミレニアムスター!」
今や、世界的――はまだ遠いけど、日本ではかなり有名になったVtuber、淡海おしゃんである。
「本当にいい歌よね」
そう、バーカウンターで呟く彼女は、
「貴女にも、届いてるわよね」
カウンターに飾られている、おしゃんこと、アウミが容易した写真、
現役時代の須浦ユニコの笑顔へ、グラスを傾けた。
――マドランナとアウミ
マドランナの方は相変わらず、リアルでは真面目に、そしてVRMMOではとびっきり乱れるというライフスタイルを送るが、現在はその
アウミは前述の通り、Vtuber活動を順調に過ごしながら――ひょんな事から出会った年下のVtuberと、
◇
――静岡県浜松駅にて
「アニキ、お疲れ!」
「久しぶり、アカネ!」
「久しぶりって、昨日もVRで会ったじゃないか」
「いやほら、リアルだと久しぶりじゃん」
そんな風に和やかに話す、リクヤとアカネの様子に、
「
ジェラシーを全く隠そうともしないサクラ――だが、そんな言葉もリクヤには届いておらず、
「よっしゃ、それじゃ行こうぜ!」
「わ、ちょ、ちょっとアニキ!?」
「何をナチュラルに手を繋いでるんですか!?」
元気いっぱいに駆け出す二人を、慌ててサクラは追いかけて。
――リクヤ、そしてアカネとサクラ
最強の男になる為という具体性の無い目的の為ながら、大学に進学。全力で学び、全力で遊び中。アカネとはVRではほぼ毎日会っている。
アカネは高校卒業後、リクヤと一緒になりたいと思っていて、両親の許可もとれていはいるが、サクラの許しはなかなか降りず――再び、いえもん城で決着を付ける事に。
◇
――某地方にあるとある農園にて
道具の片付けを行っている男がいた。彼は黙々と、丁寧に、その作業を続けていたが、
「――郷間ザマだな」
それに話しかける、黒服の男がいた。
「……なんの用だよ」
「そう、身構えるな、敵じゃない、……君を恨んでいる人間は多くいるだろうが」
「解っている」
「だが、今は贖罪の日々を過ごしているのも知っている」
「――何が言いたいんだ」
「かつて、あらゆるグリッチを駆使したというプレイヤースキル」
男は告げる。
「その力で、少しだけ、世界を良くしてくれないか」
――郷間ザマ
かつてのプレイヤースキルの腕をかわれ、VRSNSの事件を担当する、政府直属の組織に勧誘される。己の過去を知った上で、受け入れてくれた人がいるこの地を離れる気は無く、リモートでならと承諾。
少し先の未来、白金の怪盗と共闘する事になる。
◇
――滋賀県長浜市壁黒スクエア
観光客で溢れる通りでは、様々な物が売られていて、その中で、
「うわぁ! クロ君、小鮎のてんぷらが売ってる、揚げたてで美味しそう!」
「食べてもいいけど、食べ過ぎないでくれよ」
テンションがあがる158cmのアイに、黒統クロは苦笑する――再婚した両親の、結婚記念日祝い用に買った、ガラス細工の入った紙袋をその手に下げた彼は、
「いっぱい食べると、すぐに背が伸びちゃうだろ」
そう忠告したならば、
「だ、大丈夫だから、セーブするから!」
かつてののんびり口調ではなく、ハキハキした様子でそう答えた。
虹橋アイの身長は、現在は基本、158cmで固定しているが、
調子にのって食べ過ぎてしまうと、すぐにそれが体の成長に繋がってしまう――即ちそれは、虹橋アイが相変わらず、世界を全て食らう可能性がある危険人物である事の証左。
だけど、
「おっきくなっちゃったら、クロ君と一緒に歩けなくなるもの」
――その思いが
黒統クロへの思いこそが、彼女の暴食を止めていた。
そう思われる事が、クロは素直に嬉しい。
「あ、でも、たまにはおっきくなって、ぎゅっとしてあげるからね」
「そ、それは、まぁ、……ありがとう」
――黒統クロと虹橋アイ
二人ともレインボーフォートモロゥに入社して、月単位で、東京と滋賀県を行ったり来たりの生活を送っている。
リアの命日には、毎年必ず、久透リアとその母が暮らしていた家に赴いている。
◇
――レインボーフォートゥモロ本社の特別室
よみふぃのぬいぐるみやグッズが溢れた、彼女だけに許された特別なワーキングスペース、その部屋で、
「ソラ、聞こえるか?」
ARで表示した画面に映る彼に話しかける――だがソラは今、VRMMOにはログインしていない。
『聞こえるよ、レインさん』
――19歳になった彼の今の職業は
『残念だけど、確保が出来たのは一人だけ』
『な、なんなんだよこのガキはぁ!?』
『……一応、もう、
そう、とほほと、あの日から全く変わらない己の容姿を嘆きながら、コンクリート張りの窓の無い部屋で、筋肉むきむきのマッチョマンを、床に押さえつけている白金ソラ。
現在彼は、白銀アメとその夫と同じ、少し特殊な警察に所属していた。VRMMOでの活躍は勿論、素の化け物染みたスペックが採用理由である。
「おい容疑者聞こえるか、私の夫を馬鹿にするな」
『お、夫!? 子供なのにもう結婚してるの!?』
『こ、子供じゃないし、まだ籍はいれてないです、それよりレインさん』
「ああ、送って来てくれたデーターは、既に解析した」
そこでレインはくすりと笑い、
「奴等が利用しているのは、ダークウェブのようなVRSNSじゃない」
『既存のゲームに潜り込んでる?』
「ああ、それもよりにもよって」
こう言った。
「レインボーフォートゥモロにだ」
『――そっか、なら』
「ああ、早く帰ってこい」
そこでレインは、胸を高鳴らせる。
「お前は私がいないと、かっこよくなれないだろう?」
その言葉に、少し顔を赤くしながらも、
『はい!』
元気の良い返事をする。
――ソラとレイン
ソラの現在は前述の通り、主に、表も裏も関係無く、VRSNSを利用した犯罪を取り締まっている。レインはレインボーフォートゥモロの要職に。仕事の合間、灰戸の許可を得て、ソラの仕事をサポートしている。
◇
――5時間後
VRMMOレインボーフォートゥモロ、そこに、
しっかりと鍵をかけた、広々としたダンスホールに、二つの影と――大量のレアアイテムが存在した。
「ああもう最悪だ、あいつ、ここの事をゲロったりしないだろな!」
「いや、居場所がわかっても、入れたりはしねぇよ」
「畜生、やっと金に出来る物を揃えたのによう」
如何にも怪しい商人風のキャラクターをした彼等は、RMT業者であった。
――2092年の現在において
リアルマネートレードを取り締まる法律が、一部ではあるが成立した。これにより、悪質であるならば、彼等を捕まえる事が可能になった。
しかし、法は魔法ではない。ダメだといっても、それをやろうとする者はいる。
「ともかく、ブツはここに置いておくしかねぇな」
「まぁこんな所にまで盗みに来る奴なんか」
――その時
「
その声と供に、
巨大な扉の鍵穴から、ガチャリと音がした。
「え?」
「は?」
本来、この洋館には、許可された者しか入る事が出来ない。
それこそ、ドアノブをデーター破壊グリッチで
――怪盗以外に有り得なく
バカン! と、勢い良く扉が開けば、そこには、
「ごめんね皆、急に呼びだして」
「いいって、どうせすぐ済むだろ?」
「配信には間に合わせるんよ」
「俺も早く、アイさんとシフォンケーキを食べたい」
「私はそうだな――キスがしたい」
靴音を鳴らしながら入ってくる五人に、レアアイテムを背後にして、明らかな動揺を見せる
「だ、誰だおまえらぁっ!?」
「え、おい、まさかっ!?」
そう、驚きを叫びつつ、懐から取り出した銃を放つ、
――それに襲われる白き怪盗は
言い放つ。
世界がいずれ終わるように、
明けぬ空もあるだろう、止まぬ雨もあるだろう。
人生は無意味で、命に価値は無くて、
それでも何かを求められずにいられない僕等は、
生きる事そのものが罪のようで、
だからこそ――その原罪と供に、
「我が名は怪盗スカイゴールド」
――怪盗は、楽しそうに笑う
「罪には罪を、世界奪還の時来たり!」
あの日の淡い輝きが、これからも、
悲しみを喜びへと変える事を信じて。