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F-end 世界の終わりに微笑みを

 ――それから3年の月日が経ち

 時に西暦2092年において――VRMMOアイズフォーアイズのサービスは終了して、

 そして、


「がはははっ」


 それに代わって、灰戸ライド達が新しく作りあげたVRMMOが、


「がーはっはっはっは!」


 ――レインボフォートゥモロ

 意訳、虹が作る明日という、相変わらずのネーミングンセンスなタイトルのゲームであった。アイズフォーアイズの世界観はほぼそのままに、グラフィックやセキュリティ等、基本的なスペックを跳ね上がっている。

 それにくわえ今まで以上に自由度を売りにしてて、おかげさまで、社長である灰戸ライドも、毎日のようにレイドボスとして降臨するようになった。巨人になった社長は大暴れ。


「さぁ、俺に勝てる奴はいるかぁ!」

「――ここに居るし」

「何っ!?」


 と、灰戸が言った時には、彼のもう一つの人格、ジキルが足元にいて、

 ――思いっきり小指を踏んづけたクリティカルヒット


「ぐおおおおおお!?」


 余りの痛み――実際は痛くないがなんかノリで――で巨体ごと仰向けになり倒れる褐色の巨人。これはチャンスとばかり、多くのプレイヤー達が一気に群がる。


「ぐおっ!? ちょっと待て、立ち上がる時間をくれ君達ぃ! フルボッコは卑怯だぞぉ!」

「ああいいから、さっさとぶっ倒して、じゃないと会議に間に合わないし」

「やめろぉ、くそ、この正気めぇ!」


 ――灰戸ライド、及びその正気であるジキル

 引き続きVRMMOの運営を続ける。尚、長浜名物堅ボーロは、月1ダースの単位で消費中。







 ――福井県小浜市にある呑んべえ鯖養殖場にて


「おおいカリガリー、じゃなかったトモエ! 何してんだよ!?」


 そう、金髪で日焼け肌でガタイのいい――グドリーの中の人が叫ぶ先には、スチロール製の魚箱を持ち上げる女性がいた。


「何って、働いてるんじゃないか」

「バカ、腹ん中に赤ん坊がいるだろが!?」

「いやいや、出産はまだまだ先だよ」

「だ、だけどなぁ」

「ああもう、……ウチノヒトハゲンジツダトイイダンナスギマスネー」

「キャラが違うのはお前もだろが、もう!」


 ――グドリーとカリガリーの中の人

 呑んべえ鯖の養殖業を営みつつ、ほぼ毎日のようにレインボーフォートゥモロにログイン。2週間前、初めて怪盗スカイゴールドに勝利した。







 ――レインボーフォートモロゥに開店したLust Eden

 新しいVRMMOにおいても許された夜の店にて、相変わらずその豊満な恵体を、高貴に揺らしながら、人々を楽しませていた。

 ただし今日の主役は彼女ではなく、ステージの上で、ジャズバンドの演奏をバックに、


「遥か彼方のミレニアムスター!」


 今や、世界的――はまだ遠いけど、日本ではかなり有名になったVtuber、淡海おしゃんである。


「本当にいい歌よね」


 そう、バーカウンターで呟く彼女は、


「貴女にも、届いてるわよね」


 カウンターに飾られている、おしゃんこと、アウミが容易した写真、

 現役時代の須浦ユニコの笑顔へ、グラスを傾けた。

 ――マドランナとアウミ

 マドランナの方は相変わらず、リアルでは真面目に、そしてVRMMOではとびっきり乱れるというライフスタイルを送るが、現在はその真面目高貴不真面目ドスケベも受け入れてくれる人と同棲中。

 アウミは前述の通り、Vtuber活動を順調に過ごしながら――ひょんな事から出会った年下のVtuberと、世界VR含むを巻き込む大恋愛を繰り広げる事になる。







 ――静岡県浜松駅にて


「アニキ、お疲れ!」

「久しぶり、アカネ!」

「久しぶりって、昨日もVRで会ったじゃないか」

「いやほら、リアルだと久しぶりじゃん」


 そんな風に和やかに話す、リクヤとアカネの様子に、


お疲れ様ですなんで来ちゃうんですか


 ジェラシーを全く隠そうともしないサクラ――だが、そんな言葉もリクヤには届いておらず、


「よっしゃ、それじゃ行こうぜ!」

「わ、ちょ、ちょっとアニキ!?」

「何をナチュラルに手を繋いでるんですか!?」


 元気いっぱいに駆け出す二人を、慌ててサクラは追いかけて。

 ――リクヤ、そしてアカネとサクラ

 最強の男になる為という具体性の無い目的の為ながら、大学に進学。全力で学び、全力で遊び中。アカネとはVRではほぼ毎日会っている。

 アカネは高校卒業後、リクヤと一緒になりたいと思っていて、両親の許可もとれていはいるが、サクラの許しはなかなか降りず――再び、いえもん城で決着を付ける事に。







 ――某地方にあるとある農園にて

 道具の片付けを行っている男がいた。彼は黙々と、丁寧に、その作業を続けていたが、


「――郷間ザマだな」


 それに話しかける、黒服の男がいた。


「……なんの用だよ」

「そう、身構えるな、敵じゃない、……君を恨んでいる人間は多くいるだろうが」

「解っている」

「だが、今は贖罪の日々を過ごしているのも知っている」

「――何が言いたいんだ」

「かつて、あらゆるグリッチを駆使したというプレイヤースキル」


 男は告げる。


「その力で、少しだけ、世界を良くしてくれないか」


 ――郷間ザマ

 かつてのプレイヤースキルの腕をかわれ、VRSNSの事件を担当する、政府直属の組織に勧誘される。己の過去を知った上で、受け入れてくれた人がいるこの地を離れる気は無く、リモートでならと承諾。

 少し先の未来、白金の怪盗と共闘する事になる。







 ――滋賀県長浜市壁黒スクエア

 観光客で溢れる通りでは、様々な物が売られていて、その中で、


「うわぁ! クロ君、小鮎のてんぷらが売ってる、揚げたてで美味しそう!」

「食べてもいいけど、食べ過ぎないでくれよ」


 テンションがあがる158cmのアイに、黒統クロは苦笑する――再婚した両親の、結婚記念日祝い用に買った、ガラス細工の入った紙袋をその手に下げた彼は、


「いっぱい食べると、すぐに背が伸びちゃうだろ」


 そう忠告したならば、


「だ、大丈夫だから、セーブするから!」


 かつてののんびり口調ではなく、ハキハキした様子でそう答えた。

 虹橋アイの身長は、現在は基本、158cmで固定しているが、

 調子にのって食べ過ぎてしまうと、すぐにそれが体の成長に繋がってしまう――即ちそれは、虹橋アイが相変わらず、世界を全て食らう可能性がある危険人物である事の証左。

 だけど、


「おっきくなっちゃったら、クロ君と一緒に歩けなくなるもの」


 ――その思いが

 黒統クロへの思いこそが、彼女の暴食を止めていた。

 そう思われる事が、クロは素直に嬉しい。


「あ、でも、たまにはおっきくなって、ぎゅっとしてあげるからね」

「そ、それは、まぁ、……ありがとう」


 ――黒統クロと虹橋アイ

 二人ともレインボーフォートモロゥに入社して、月単位で、東京と滋賀県を行ったり来たりの生活を送っている。

 リアの命日には、毎年必ず、久透リアとその母が暮らしていた家に赴いている。







 ――レインボーフォートゥモロ本社の特別室

 よみふぃのぬいぐるみやグッズが溢れた、彼女だけに許された特別なワーキングスペース、その部屋で、


「ソラ、聞こえるか?」


 ARで表示した画面に映る彼に話しかける――だがソラは今、VRMMOにはログインしていない。


『聞こえるよ、レインさん』


 ――19歳になった彼の今の職業は


『残念だけど、確保が出来たのは一人だけ』

『な、なんなんだよこのガキはぁ!?』

『……一応、もう、成人済み19歳です』


 そう、とほほと、あの日から全く変わらない己の容姿を嘆きながら、コンクリート張りの窓の無い部屋で、筋肉むきむきのマッチョマンを、床に押さえつけている白金ソラ。

 現在彼は、白銀アメとその夫と同じ、少し特殊な警察に所属していた。VRMMOでの活躍は勿論、素の化け物染みたスペックが採用理由である。


「おい容疑者聞こえるか、私の夫を馬鹿にするな」

『お、夫!? 子供なのにもう結婚してるの!?』

『こ、子供じゃないし、まだ籍はいれてないです、それよりレインさん』

「ああ、送って来てくれたデーターは、既に解析した」


 そこでレインはくすりと笑い、


「奴等が利用しているのは、ダークウェブのようなVRSNSじゃない」

『既存のゲームに潜り込んでる?』

「ああ、それもよりにもよって」


 こう言った。


「レインボーフォートゥモロにだ」

『――そっか、なら』

「ああ、早く帰ってこい」


 そこでレインは、胸を高鳴らせる。


「お前は私がいないと、かっこよくなれないだろう?」


 その言葉に、少し顔を赤くしながらも、


『はい!』


 元気の良い返事をする。


 ――ソラとレイン

 ソラの現在は前述の通り、主に、表も裏も関係無く、VRSNSを利用した犯罪を取り締まっている。レインはレインボーフォートゥモロの要職に。仕事の合間、灰戸の許可を得て、ソラの仕事をサポートしている。







 ――5時間後

 VRMMOレインボーフォートゥモロ、そこに、悪質なツールブラックヤード的なで用意された、特殊な方法でしか入る事が出来ない、巨大な屋敷にて。

 しっかりと鍵をかけた、広々としたダンスホールに、二つの影と――大量のレアアイテムが存在した。


「ああもう最悪だ、あいつ、ここの事をゲロったりしないだろな!」

「いや、居場所がわかっても、入れたりはしねぇよ」

「畜生、やっと金に出来る物を揃えたのによう」


 如何にも怪しい商人風のキャラクターをした彼等は、RMT業者であった。

 ――2092年の現在において

 リアルマネートレードを取り締まる法律が、一部ではあるが成立した。これにより、悪質であるならば、彼等を捕まえる事が可能になった。

 しかし、法は魔法ではない。ダメだといっても、それをやろうとする者はいる。


「ともかく、ブツはここに置いておくしかねぇな」

「まぁこんな所にまで盗みに来る奴なんか」


 ――その時


マスターキーハンド全てに通ず


 その声と供に、

 巨大な扉の鍵穴から、ガチャリと音がした。


「え?」

「は?」


 本来、この洋館には、許可された者しか入る事が出来ない。

 それこそ、ドアノブをデーター破壊グリッチで斬った弄った後に、すり抜けグリッチで手を突っ込んで、中から弄らない限りには、だから、

 ――怪盗以外に有り得なく

 バカン! と、勢い良く扉が開けば、そこには、




「ごめんね皆、急に呼びだして」

「いいって、どうせすぐ済むだろ?」

「配信には間に合わせるんよ」

「俺も早く、アイさんとシフォンケーキを食べたい」

「私はそうだな――キスがしたい」


 靴音を鳴らしながら入ってくる五人に、レアアイテムを背後にして、明らかな動揺を見せるRMT業者二人組


「だ、誰だおまえらぁっ!?」

「え、おい、まさかっ!?」


 そう、驚きを叫びつつ、懐から取り出した銃を放つ、

 ――それに襲われる白き怪盗は

 ファントムステップ怪盗舞踏で宙を舞いながら、

 言い放つ。




 世界がいずれ終わるように、

 明けぬ空もあるだろう、止まぬ雨もあるだろう。

 人生は無意味で、命に価値は無くて、

 それでも何かを求められずにいられない僕等は、

 生きる事そのものが罪のようで、

 だからこそ――その原罪と供に、


「我が名は怪盗スカイゴールド」


 ――怪盗は、楽しそうに笑う


「罪には罪を、世界奪還の時来たり!」




 あの日の淡い輝きが、これからも、

 悲しみを喜びへと変える事を信じて。

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