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F-13 そして明日は悲しみと供に

 ――全人類VRMMO監禁事件

 それから1週間経った世界。

 世界中の人間を、少なくとも確認出来る範囲では、漏れなく、デバイスを通じて昏倒させたというこの事件、しかし、死者は全く出なかった。

 とはいえ、恐怖は残るはずである。

 VRMMOをやってるかどうか関係無く、デバイスを装着してるだけで、何時どこで、意志が乗っ取られるか解らない。そんなものは使ってられないけれど、今じゃ、これが無ければ生活が成り立たない者達も多くいる。

 世界滅亡のトリガーになってもおかしくない、だけど、

 “まだ”そうはなっていなかった。

 ……アイズフォーアイズの本社がある街、そこに在る病院の、特別治療室で、

 久透リアは、ベッドに横たわっていた。

 白金ソラを初めとした、多くの人々に囲まれて。

 不老不死を謳っていた彼女だが、インドラの酷使は、最早、彼女の体を維持を不可能にしていた。

 姿こそ、老化せずに以前のままを保っていても、その中身はボロボロだった。


「――全く、人類君達、という、ものは、愚か、だよ」


 最早彼女は、自力で起き上がる力もない。


「これだけの、事が、あっても、尚、私の、技術を、捨てないと、言うのだから」

「仕方無いだろ、捨てないというよりは捨てられない、それに」


 灰戸ライドは答える。


「VRMMOへと強制ログインさせる為のプログラム事態の解析は完了した、それに対するセキュリティのアップデートも容易だった――お前のおかげでな」


 自分のしでかした事件の後始末に、リアは最後に協力した。


「遅かれ早かれ、”脳を使ってのフルダイブする機械”なんてものに、今回のような事は起きてもおかしくなかった、全人類がそれを誰も死なないで体験出来たのは、寧ろ僥倖だろうな」

「相変わらず、楽観に、過ぎる、会社は今、潰れかけて、いるだろ?」

「いいや、意外と助けてくれる者達も多くてな! なんとかなりそうだ!」


 そう言って、病人の前でがははっ! と笑う灰戸、それに対して、少しだけ笑ってからリアは、


「アイ」


 娘の名を呼んだ。

 すると、202cmという巨躯でなく、VRの時と同じく、158cmまでに縮んだアイが、灰戸と入れ替わるように、リアの枕元に立つ。


「なに、お母さん」


 のんびりとした口調ではない――作られた母性じゃない、彼女の素の性格、

 それに対してリアは、


「すまなかった」


 と、一言だけ告げた。


「……お母さんが、私を人間じゃなくてロボットにしたかったのは、人間と同じ苦しみを味合わせたくなかったからでしょ」

「バカ、言うな、私は、実の娘を、利用しただけ、の、鬼畜だ」

「そんなことないよ、お母さんは優しすぎただけ」


 ――優しいから間違える


「……お母さんのお母さんが亡くなった時、側にいて、一緒に泣いてくれる誰かがいたらよかったの」

「……そう、だな、だが、私は、間違えた」


 そこでアイに続いて、リアは、


「白金ソラ」


 自分の目を、最後に覚ましてくれた少年の名を呼ぶ。


「……はい」

「私の――いや、私の母の願い、は、ゲームを作った、時点で、叶って、いた」


 ――悲しみは消す為にあるんじゃない


「悲しみが、喜びに、いや」


 死という逃れられぬ宿命すら、


「楽しみに、変わる、場所」


 そうなるように、生きる事こそが、

 人類に残された、幸せになる方法。


「――リアさん」

「……聞いて、いいか」


 そこでリアは、世界の進化に多大な貢献をしつつも、自分の思想をぶつけて、今の世界を消し去ろうとした久透リアは、

 自分を止めた少年に、尋ねた。


「怪盗、ごっこは、楽しいか?」


 ……怪盗は、犯罪である。どれだけ手並みが素晴らしくても、現実で行えばただの罪。憧れてもなるべきものではない、だけど、

 ――現実ではけして許されなくても

 その夢が、叶えられる場所がある。だから、


「はい」


 ソラはちゃんと、力強く答えたユーザーアンケート

 それを聞いて嬉しそうに笑った後、リアは、


「すま、ないが」


 突然、今にも消え入りそうな掠れ声で、


「娘と、二人に、してくれる、か」


 そう、言った。

 ……その言葉に、アイリアを残して、全員が部屋を出て行く。

 ――死を恐れ、死に別れを恐れた彼女だけれど

 最後は穏やかに、笑っていたと、

 この10分後、クロの胸の中で、泣きじゃくりながらアイは語った。







 ――それから更に2週間後

 午後六時三十分、滋賀県湖北地域にある、民泊兼自宅である、ソラの部屋にて。


「……当たり前と言えば当たり前ですけど、色々と間違って伝わってますね」


 アイズフォーアイズの全面協力で、セキュリティがアップデートされたデバイスで、ARを起動して、ソラとレインはニュースをチェックしていた。

 ――久透リアの犯行目的は、アイズフォーアイズへの復讐

 VRダイブ中の保護プログラムを、悪用する方法を開発した――

 概ね、これが”真実”として出回ってる情報である。リアの正体が不老不死である事や、チャンドラバブであった事などは、全く書かれていない。


「というよりは、余りにも荒唐無稽に過ぎて書けないといった所か」

「事実はニュースよりも奇なり、ですか」


 怪盗スカイゴールドの活躍も、WeTubeの配信の範囲でしか語られておらず、虹橋アイの情報も、全くニュースになっていなかった。


「眠っている間のプレイヤーの記憶もないみたいですし」

「最後の戦いに集まってくれた1000人も、極一部しか記憶に無いみたいだからな」


 あれだけの事が起こっても、世界はつつがなく回っている。

 喜ばしいのか恐ろしいのか、灰戸ライドが言った通り、世界中からのアイズフォーアイズへの意見は同情的ですらある。

 それでも、リアの言った通り、このゲームをまた楽しめるかどうかは解らない。再開へ向けての準備すらも、ろくに整っていない。

 ――だけど


「また、遊びましょう」

「――ああ」


 VRMMOは、たかがゲーム生きる理由だ。

 無意味だからこそ価値がある。どうしようもない現実を糧に、夢を描ける場所である。だから今は悲しくても、それが喜びになる日が、きっと来る。

 だから、


「……なぁ、ソラ、いいか?」

「あ、……ど、どうぞ」


 その日までは、別の喜びを、ただただ唇を重ねる事を、


「ソラ」

「――レインさん」


 赤らめた顔を近づけながら、

 しようとした時、

 ――ガチャッ!


「ソラー、レインさーん、生姜焼き出来た」

「……」

「……」

「ご、ごめんなさい」


 顔を真っ赤にしたソラの母親は、叫んだ。


「さきにそっちを食べてから来て! それじゃ!」

「た、食べるって、どういう表現ですか母親殿!」

「というかちゃんとノックしてよ!?」


 どれだけ世界が変わっていても、

 くだらない日常も続いていく。

 それは仮想も現実も同じで、

 ――それが永遠じゃない理由を

 二人はもう、手にしていた。

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