――久透リアが12歳になった時
彼女にとって誕生日とは、自分の命を祝う日では無くて、ただひたすらに呪う日だった。産まれる前からの反出生主義、それゆえに、子供の頃から、死にたくないと嘆き続ける彼女を、多くの大人達は恐れ、遠ざけた。
たった一人、母親だけが、リアの悲しみに寄り添っていた。
だからこそとうとう、生まれて初めて、親に聞いたのだ。
「どうして人は、死を悲しみながら生きなきゃいけないの?」
本やネットから、貪るように知識を求め続けていた娘からの、初めての問い。
それに対してリアの母は、驚愕を覚えながら、同時に、涙ぐみながら笑顔を浮かべて、
「悲しい事があるから、楽しい事があるの」
そう言ったのだ。
「……そんなの、おかしい」
「そうね、ありきたりな陳腐な答えかもしれないわね、リアちゃんは、私よりずっとずっと賢いもの、もっとちゃんとした答えを出せるかもしれない」
そこで母親は、笑みを浮かべたままに、
「きっと、貴方は世界中の悲しいを」
今思えば、久透リアは、
「楽しいに、変える力があると思うわ」
この言葉を、間違った意味で、
――悲しみを無くすという意味で
そう、解釈してしまっていた。
だけどこの時、久透リアは、
「Happy Birth Day」
母親から、祝福の言葉を受けて、
「生まれてきてくれて、ありがとう」
生まれて初めて、幸せだと思ったから、
その時のリアは、生まれて初めて笑顔を浮かべる事に、
楽しい事に、夢中だった。
◇
――アイズフォーアイズの宇宙空間
虹橋アイが展開した足場の上で繰り広げられていた、数万単位がぶつかるレイドバトルは、
「指示を聞くより自分で判断して!」
「守るよりも倒すことを考えるでござる!」
「みなぎってきたぁ!」
怪盗とリアの
「楽しいか!」
ドームの中のリアが、
「楽しいか!」
そう叫ぶ程には全く、
「こんな、愚かしい、戦いが、楽しいか!」
理解不能のものであるから彼女は、
「
全方位、ピンポイントではない広範囲による攻撃として、ドーム全体に雷を落としてみせる、だが、
「甘く見られたものだ!」
「
スカイはもちろんの事、キューティを初めとした他のメンバーも、グリッチ無しに雷の雨を躱していく。その中でいの一番に、リアに攻撃をしかけたのはスカイとキューティのコンビ、息のあった連携で、リアの、雷の速度の徒手空拳についていき、確実にリアのダメージを削っていく。
しかし――問題としては、
「全く、解っていた事だが!」
「触れれば触れる程、我達のグリッチが修正されていくな!」
リアの体に拳を当てても、そこから自分達のグリッチが修正される。結果、技のレパトリーが減ったり、同じ技を繰り出すにもより複雑な工程を組む必要がある、だが、
――そこでスカイとキューティは距離をあけ
「「
くるりと抱き合いながら、キスをした。
――二人の体が無敵状態になると同時に
グリッチも、
本来は、バグが起きた時に行う事を、全く逆に使われて、リアは、
「ああ、その、思い出す、力が!」
無敵になった二人が、同時に、すり抜けグリッチで地面を踏んで、高く飛び、
「「
かつて、クロスにとどめをさした合体技を、超至近距離でぶちかましてきても、
――無敵の二人を両手で受け止めた
「なっ!?」
「えっ!?」
余りにも力技な止め方、リアは、普段は存在感の薄い顔に、感情を剥き出しにして吼える。
「過去に、縛られる、力が、悲しみだと、何故、解らない!」
そう言って、
「
両手から迸らせた電熱で、二人を黒く灼いていく!
「ああああっ!?」
「ぐうううっ!?」
「お前達、の、
電撃に縛られ抵抗も出来ない二人、このまま、リアの意志が通ろうとした時、
「――
頭上に巨大な――真っ白な四角形の塊が、3Dモデルソフトで、まず一番最初に表示される、なんの変哲も無い
――ドーム半分を埋め尽くす程の大きさで
「いけぇっ!」
オーシャンのグリッチによって呼びだされる。本来、けして完成済みのゲームには現れないはずの素材が、リアに向かって落下する!
「ちぃっ!」
仕方無し、リアは二人から手を離し、一気に後退した。スカイとキューティはボロボロの体から、
ズシン! っと、目の前に落ちるキューブ、視界を防がれた形になったリアは、当然、上と背後に注意を向けた。
――その瞬間
「
目の前のキューブが、グリッチでクラマフランマを頭に装備し、それをドリルとして突っ込んできたブレイズによって砕かれる!
そしてリアの体に――ドリルがぶち当たった。
「ぐはあっ!?」
貫く事は無かったが、ドームの外側まで吹っ飛ばされたリア。だが秒速で立ち上がり、砕けたキューブが散乱した空間に目を凝らす。
スカイとキューティがそれを踏み台にして、
「さぁ、せぇ、るぅ、かぁ!」
リアは吼えたままに、体中の雷を両手に集め、その電撃を左手では弓にして、右手には矢にして、打ち放つ!
「
――高速で放たれたその矢は
スカイとキューティには掠りもせず、ただ、
ドーム中央で、
爆ぜた。
「くあっ!?」
「ぐあああっ!」
超新星に匹敵する雷の大爆発――その衝撃に、スカイとキューティは勿論、ブレイズとオーシャンも、砕かれたキューブと供に、ドームの壁まで吹っ飛ばされた。ハニカム構造にすらヒビが入り、遂には砕ける。元より、雷属性のリアを除いて、このドーム内に居る者達全員に、ダメージが入っていく。
雷弾は肥大化していき、最早砕かれたドームからはみだすようにして、
――全てを飲み込んでいく
はずだったけど、
「――えっ」
ただ一人、この状況で、
暗躍する男が居て――
「
リアをドーム中央まで吹き飛ばすだけでなく、中央で爆ぜ続けていたインドラの矢すら斬り伏せて、一際大きな発光と供に消してみせた。
全てが消えた後、頭から下へと落ちていくリア、その目は閉じられていたけれど、
「――まだ」
声と供に瞼が、
「まだ!」
開かれる――
だけど、その時にはもう、
スカイ、キューティ、ブレイズ、オーシャン、クロス、
五人の怪盗がそれぞれのグリッチを使って、
攻撃を、仕掛けてきていた。
スカイの、すり抜けバグで加速された蹴りが、
キューティの、増殖バグで増えたクナイが、
ブレイズの、装備バグで全身装着されたクラマフランマが、
オーシャンの、呼び出しバグで用意された壊れ武器が、
クロスの、データー破壊バグによる一閃が、
一気呵成に、
炸裂する。
「「「「「
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
打撃投撃斬撃あらゆるダメージソースのフルコース――しかもそれは一度だけじゃない、リアが倒れるまで、何度だって繰り返される波状攻撃。普通ならこのまま押しきれる、だが、
「クソぉ、淡い光が!」
リアに攻撃する度に、怪盗達の視界から、グリッチの為の淡い光が無くなっていく。それでも、
「最後まで、グリッチを見つけ出せ!」
「ほうよ、ここまで来たら、全部出しきるんよ!」
怪盗達は全てを振り絞る、どれだけバグを修正されても、完璧の中の
――それは紛う事無き悪党の手段
世界を、
奪い返す為の
そしてとうとう、
「――あっ」
クロスの強烈な一閃で、
リアのHPがゼロになり、
彼女の体が宙に舞った。
「あ、あ、あぁぁぁ」
あとはもう合成音声が、怪盗達の勝利を告げる、
――はずだった
「――
その時リアは――己を過剰に
HP0の表示が、英数字や記号などがまざって、バグりはじめる!
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
静電気ですら起きるプログラムエラー、それを、意図的に引き起こして、そして、
「
自分の体すらもその
小柄な体をバグで肥大させていきながら、
「私、は!」
怪盗の勝利を、
「母との、約束、を!」
悲しみのある世界を否定する為に、足掻く。
――バシュッ! と
彼女のバグった顔の隣を、何かが通過した。
――それはワイヤー
スカイの構えた銀の銃から放たれたワイヤーフックは、
キューブによって砕けた、ドームの天井に出来た引っかかりをしっかり絡んだ。
――スカイの足元に見える、最後の淡い光
彼はそれを全力で踏んで、
――すり抜けグリッチ
その勢いで、舞い上がる。
――グリッチで加速した秒速四発の回し蹴りが
「がぁっ!?」
リアの、バグらせた体を抉る、だが、その一発で終わらない。
「がっ!? ぐっ! あ、がっ、あ、ああ、がぁぁ!」
ワイヤーで自分の体を空へと巻き上げながら、連続で蹴りを叩き込んでいく。
衝撃を受ける度に、彼女の雷は薄れ、バグも薄らいでいく。
――怪盗の連続蹴りを受けながら
「何故、どうして! 現実を!」
リアは、今までの無表情を、
「悲しいばかりの現実を、
苦しそうに、そして悲しそうに歪めながら叫んだ。
それに対してスカイは、
「我の夢は!」
言った。
「その現実から生まれたから!」
――その言葉が
……その事実が、
リアに、母の言葉を、
「――そう、か」
思い出させた。
「悲しみは、消すもので、なく」
そして、
「喜びに――楽しみに、変える、もの、だったか」
笑みを浮かばせた。
――清々しいまでの笑顔を浮かべた彼女に
スカイは一度、目を閉じて、
だけど直ぐにその瞳を開き、
フックを解けば、ドームの外まで飛び出して、
――
「
星が輝く中で、
最後の一撃を与えたスカイゴールドは、
楽しそうに、笑った。
凄まじい衝撃音と供に、リアは蹴り叩き落とされる。
――それと同時に
モンスターは消えていき、ドーム外のプレイヤーは、ざわめき始めるが、
すぐにそれは歓声に変わる――ドームの中の様子が、外からも見えたから。
怪盗達を称える声が響く中で、そして、
スカイ達が、倒れたリアに近づく中で、
PVPに負けた彼女は、
自らの口で、告げた。
「
――その言葉を引き金に
この世界、VRMMOというゲームに囚われた者達の、
ログアウトが始まっていく。