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F-10 最後の切り札

 最後の戦いの舞台――VRMMOアイズフォーアイズ、宇宙空間。

 巨神がクロスによる内側からの一撃により、バラバラに引き裂かれて、中のプレイヤー達を解放しながら崩れていく光景をバックに、虹橋アイが足場を用意してる状況である。

 そんな場所でまず、リアとスカイがぶつかっている。体内電流による超加速VSすり抜けグリッチによる超反応、下手に手を出せない状況で、


「なぁ、一応聞いていい!?」

「アイさんの力で、リアさんを強制ログアウトとかできひんの!?」


 参戦の為に、メニューを開いて準備を整えながら、ブレイズとオーシャンは、500kmの体を脱ぎ去って、158cmに縮んだ虹橋アイに尋ねれば、


「無理!」


 と、何時もののんびり口調でなく、力強く言った。


「私もお母さんも、今は、アイズフォーアイズのGMという立場! お互いに有利な状況を作るので精一杯!」


 単純な話、リアはスカイと戦いながら、この宇宙の足場を消去しようとしている。

 そうはさせじと虹橋アイも、膨大なマルチタスクでそれを阻止している。

 その他にも、互いの【BAN権限】や【空中歩行】に【無敵化】などを使わせないように、お互いに自分達を運営でなくプレイヤー人間にするのに必死なのである。

 そして、虹橋アイが注意すべきはそれだけでなく、自分自身へのハッキング。


「今は拮抗してるけど……! 長引いたらまた、私はお母さんの言いなりパソコンになっちゃうわ! だから!」


 そこで虹橋アイは――この計画の一番の被害者であるはずの娘は、


「それまでに、お母さんを止めてあげて!」


 母に、恨みでなく、救いを求めていた。

 その事実が、自分に対して怒りでなく愛を選ぶような彼女が、


「――やはり、愛は、バグ奇跡か」


 理解出来ない感情を叫ぶ娘に向かって、指鉄砲を作り、


インドラの弾丸穿つ壊劫


 ――その人差し指から電気の弾丸を放つ

 触れるだけで意識すら失う電撃の塊を、


一閃させない!」


 一刀の下に、クロスが斬り伏せたデーター破壊。分かたれた電弾は、後ろでふたつに分かれて爆ぜる。


「――チート越えなんでも有り、め」


 黒統クロ――本来、悪徒計画で、駒になるはずだった人材。盲目なまでに虹橋アイに従順で、言いなりのPCの更に言いなりのPCだったはずなのに、結局、彼の存在が、虹橋アイをパソコンから人間にしてしまった。

 リアは、一気にスカイから距離を開けて、GMの権限、【空中歩行】する。すかさずに、スカイが撃ってきた弾丸と、キューティが投げてきたクナイを、電気の壁で防ぎ落とす。


「虹橋アイ」


 リアは目を細めて、娘に語りかける。


「ログを、今、確認した。お前の、最後の、抵抗プログラムは、胸の、鼓動を、スカイに、聞かせる事だ」


 そして視線を、スカイに向けた。


「思い出す、事を、思い出させる、為に」


 やった事は解っても、それが成功する理由がわからなかった。


「――何故、だ」


 だから、聞く。


「何故、過去を、思いだした、永遠の明日に、不必要な、昨日を、何故、取り戻そうと、した」


 ――どれだけ天才であろうとも

 間違う理由があるとすれば、それは、

 思い込み。

 ……そんな彼女に、スカイははっきりと言った。


「楽しくないから」


 幸せの価値観は人それぞれという前提を、


「――ふざけるな」


 この瞬間まで、知る事が出来なかった彼女は、


「ふざけるなぁっ!」


 激昂した。


「永遠の安寧を、楽しくないからという理由だけで否定するだと!? 死も死に別れも存在しない、誰も悲しまなくても済む世界を、そんな理由で壊したというのか!」


 何時もの区切り区切りの口調じゃない、感情が余りにも迸りすぎて、”まともな”喋り方になっている。リアの体中から溢れ出る電流の火花はますます激しくなり、彼女を畏怖すべき異形へと変えていく。


「ならば私は、君達の世界を否定する!」


 瞬間、リアの背後に、何万本もの稲妻が落ちた。もうもうとエフェクトがたちこえめて、それが晴れた時、

 現れるのは、一万を超えるモンスターの群れ。

 パラメーターを極限まで高めた、アイズフォーアイズのモンスター達が、丸太のように太い腕を持つオークが、三つ首からブレスを吐き出すドラゴンが、身の丈10メートルを越える一つ目の巨人が、運営側のPTとして召喚された。

 そして召喚の落雷は落ち着く様子も無い――モンスターの無限湧きという設定絶望を隠そうとしない。


「このゲームを楽しめるとクソゲー思うな! もう一度言う!」


 リアのこれからの計画、圧倒的物量によるスカイ達の打倒、のち、虹橋アイの再洗脳。その為に、


GAME OVER遊びは終わりだ!」


 NPM無慈悲の怪物を、突撃させようとしたその時、


「いいえ、まだ」


 虹橋アイが、


「遊びは続くわ、お母さん」


 微笑んだ。




 怪盗スカイゴールドの背後に、

 淡い光が拡がっていく。そしてそこからせり上がるように、


「――がはははは」


 豪快なあの笑い声が聞こえて、


「がーっはっはっはっは!」


 全長10メートルサイクロプスと同サイズ、腰布を巻き、腕輪をはめた褐色の巨人が、

 ――灰戸ライド社長の戦闘用アバターが出現し

 それに続いて、アイズフォーアイズのプレイヤー達も、

 淡い光バグを通じて、この場所へ現れた。




「――なっ」


 テレポートではない、グリッチである。

 虹橋アイもう一人のGMが、つまり公式の人間が、掟破りのグリッチ使用。それにより、ウォリアー、ソーサラー、シーフにアサシン、ありとあらゆるジョブのプレイヤーが、1000人前後現れた。

 全員に――状況は説明している。


「うおおお!? 何このフィールド!?」

「こんなのサ終レベルですやん!」

「やっべ、テンションぶちあがってきた!」


 そう口々に笑顔で叫ぶアイズフォーアイズのプレイヤー達――いや、良く見れば、鉄パイプ装備みたいな、別VRMM0ゲームのプレイヤーすら存在する。


「待たせたなぁっ! 久透リアぁっ!」


 その中で、一番でっかい声が叫ばれたもんだから、全員が耳を塞いだ。そしてそれに文句を言ったのは、


「あーうっさいし、もう私、寝たいんですけど……!」

「それは困るな、マジ寝されたら、俺が暴れられないじゃないか!」


 巨人になったハイドの肩の上にのっている、ゴスロリパンク姿のジキルである。


「世界を救うゲームだぞ、こんな楽しい時に寝てられるか!」

「あーもう、本当エンタメ主義、……まぁけどそうだよねぇ」


 そこでジキルは、


「ゲームは、楽しくなきゃゲームじゃないし」


 そうリアに、


「遊ぼうよ、リア」


 告げた。

 ――だけどその言葉はリアには届かない


「……ああ」


 解放されたプレイヤーの中から、戦えそうな面子を、アイとジキルがこの場所に運んできたのは解る。それはいい、だが、

 この戦いに参加してるプレイヤー達が、

 全員、楽しそうに笑っている理由だけがわからない。


「ああっ!」


 だからもう、考えない、


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 灼熱のように叫びながら、リアは、モンスターの群れと供に前進する。

 それと同時に、スカイは、

 叫んだ。




「我が名は怪盗スカイゴールド、そして!」


 ――小浜の夜


「我が一味の名は!」


 あの日、付けようとした自分のを、今ここで、

 披露する。


Le Sept de cœur!七罪よ鼓動と供に


 ハートの7、

 怪盗小説、アルセーヌ・ルパンの一遍。




「え、ちょっと待て、スカイ、何だそれ!?」

「だから、我が一味の名前だよ!」

「ああ、マドランナにお前が送った予告状か!」

「怪盗ルパンのか、なるほど、相変わらずお前らしいな」

「なんやかっこええね!」


 ――七罪肯定

 結局人は欲望を、生まれ持った性質原罪を、七つの罪を捨てきれない。

 ならばせめてその原罪で、

 誰も傷つけず、楽しもうと、

 そのままなら、誰かを傷つけてしまうこの罪も、誰かの幸せに、喜びに、

 愛へと変える方法が、きっとある。

 ――例えばそれの一つが

 アイズフォーアイズたかがゲームだと知ったから、、


「皆、がんばって!」


 背後から聞こえるアイの為、そして、大好きなゲームこの世界を守る為、


「さぁ、行こう!」


 怪盗達はリア達へ、


「世界を奪い返す為!」


 その身を投げ打つよう踊らせた。

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