最後の戦いの舞台――VRMMOアイズフォーアイズ、宇宙空間。
巨神がクロスによる内側からの一撃により、バラバラに引き裂かれて、中のプレイヤー達を解放しながら崩れていく光景をバックに、虹橋アイが足場を用意してる状況である。
そんな場所でまず、リアとスカイがぶつかっている。体内電流による超加速VSすり抜けグリッチによる超反応、下手に手を出せない状況で、
「なぁ、一応聞いていい!?」
「アイさんの力で、リアさんを強制ログアウトとかできひんの!?」
参戦の為に、メニューを開いて準備を整えながら、ブレイズとオーシャンは、500kmの体を脱ぎ去って、158cmに縮んだ虹橋アイに尋ねれば、
「無理!」
と、何時もののんびり口調でなく、力強く言った。
「私もお母さんも、今は、アイズフォーアイズのGMという立場! お互いに有利な状況を作るので精一杯!」
単純な話、リアはスカイと戦いながら、この宇宙の足場を消去しようとしている。
そうはさせじと虹橋アイも、膨大なマルチタスクでそれを阻止している。
その他にも、互いの【BAN権限】や【空中歩行】に【無敵化】などを使わせないように、お互いに自分達を
そして、虹橋アイが注意すべきはそれだけでなく、自分自身へのハッキング。
「今は拮抗してるけど……! 長引いたらまた、私はお母さんの
そこで虹橋アイは――この計画の一番の被害者であるはずの娘は、
「それまでに、お母さんを止めてあげて!」
母に、恨みでなく、救いを求めていた。
その事実が、自分に対して怒りでなく愛を選ぶような彼女が、
「――やはり、愛は、
理解出来ない感情を叫ぶ娘に向かって、指鉄砲を作り、
「
――その人差し指から電気の弾丸を放つ
触れるだけで意識すら失う電撃の塊を、
「
一刀の下に、クロスが
「――
黒統クロ――本来、悪徒計画で、駒になるはずだった人材。盲目なまでに虹橋アイに従順で、言いなりのPCの更に言いなりのPCだったはずなのに、結局、彼の存在が、虹橋アイをパソコンから人間にしてしまった。
リアは、一気にスカイから距離を開けて、GMの権限、【空中歩行】する。すかさずに、スカイが撃ってきた弾丸と、キューティが投げてきたクナイを、電気の壁で防ぎ落とす。
「虹橋アイ」
リアは目を細めて、娘に語りかける。
「ログを、今、確認した。お前の、最後の、
そして視線を、スカイに向けた。
「思い出す、事を、思い出させる、為に」
やった事は解っても、それが成功する理由がわからなかった。
「――何故、だ」
だから、聞く。
「何故、過去を、思いだした、永遠の明日に、不必要な、昨日を、何故、取り戻そうと、した」
――どれだけ天才であろうとも
間違う理由があるとすれば、それは、
思い込み。
……そんな彼女に、スカイははっきりと言った。
「楽しくないから」
幸せの価値観は人それぞれという前提を、
「――ふざけるな」
この瞬間まで、知る事が出来なかった彼女は、
「ふざけるなぁっ!」
激昂した。
「永遠の安寧を、楽しくないからという理由だけで否定するだと!? 死も死に別れも存在しない、誰も悲しまなくても済む世界を、そんな理由で壊したというのか!」
何時もの区切り区切りの口調じゃない、感情が余りにも迸りすぎて、”まともな”喋り方になっている。リアの体中から溢れ出る電流の火花はますます激しくなり、彼女を畏怖すべき異形へと変えていく。
「ならば私は、君達の世界を否定する!」
瞬間、リアの背後に、何万本もの稲妻が落ちた。もうもうと
現れるのは、一万を超えるモンスターの群れ。
パラメーターを極限まで高めた、アイズフォーアイズのモンスター達が、丸太のように太い腕を持つオークが、三つ首からブレスを吐き出すドラゴンが、身の丈10メートルを越える一つ目の巨人が、運営側のPTとして召喚された。
そして召喚の落雷は落ち着く様子も無い――モンスターの無限湧きという
「このゲ
リアのこれからの計画、圧倒的物量によるスカイ達の打倒、のち、虹橋アイの再洗脳。その為に、
「
「いいえ、まだ」
虹橋アイが、
「遊びは続くわ、お母さん」
微笑んだ。
怪盗スカイゴールドの背後に、
淡い光が拡がっていく。そしてそこからせり上がるように、
「――がはははは」
豪快なあの笑い声が聞こえて、
「がーっはっはっはっは!」
――灰戸ライド社長の戦闘用アバターが出現し
それに続いて、アイズフォーアイズのプレイヤー達も、
「――なっ」
テレポートではない、グリッチである。
全員に――状況は説明している。
「うおおお!? 何このフィールド!?」
「こんなのサ終レベルですやん!」
「やっべ、テンションぶちあがってきた!」
そう口々に笑顔で叫ぶアイズフォーアイズのプレイヤー達――いや、良く見れば、鉄パイプ装備みたいな、別
「待たせたなぁっ! 久透リアぁっ!」
その中で、一番でっかい声が叫ばれたもんだから、全員が耳を塞いだ。そしてそれに文句を言ったのは、
「あーうっさいし、もう私、寝たいんですけど……!」
「それは困るな、マジ寝されたら、俺が暴れられないじゃないか!」
巨人になったハイドの肩の上にのっている、ゴスロリパンク姿のジキルである。
「世界を救うゲームだぞ、こんな楽しい時に寝てられるか!」
「あーもう、本当エンタメ主義、……まぁけどそうだよねぇ」
そこでジキルは、
「ゲームは、楽しくなきゃゲームじゃないし」
そうリアに、
「遊ぼうよ、リア」
告げた。
――だけどその言葉はリアには届かない
「……ああ」
解放されたプレイヤーの中から、戦えそうな面子を、アイとジキルがこの場所に運んできたのは解る。それはいい、だが、
この戦いに参加してるプレイヤー達が、
全員、楽しそうに笑っている理由だけがわからない。
「ああっ!」
だからもう、考えない、
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
灼熱のように叫びながら、リアは、モンスターの群れと供に前進する。
それと同時に、スカイは、
叫んだ。
「我が名は怪盗スカイゴールド、そして!」
――小浜の夜
「我が一味の名は!」
あの日、付けようとした自分のを、今ここで、
披露する。
「
ハートの7、
怪盗小説、アルセーヌ・ルパンの一遍。
「え、ちょっと待て、スカイ、何だそれ!?」
「だから、我が一味の名前だよ!」
「ああ、マドランナにお前が送った予告状か!」
「怪盗ルパンのか、なるほど、相変わらずお前らしいな」
「なんやかっこええね!」
――七罪肯定
結局人は欲望を、生まれ持った
ならばせめてその原罪で、
誰も傷つけず、楽しもうと、
そのままなら、誰かを傷つけてしまうこの罪も、誰かの幸せに、喜びに、
愛へと変える方法が、きっとある。
――例えばそれの一つが
「皆、がんばって!」
背後から聞こえるアイの為、そして、
「さぁ、行こう!」
怪盗達はリア達へ、
「世界を奪い返す為!」
その身を投げ打つよう踊らせた。