――都内某所の病院にて
「このベッドに寝ている者達が全て」
「久透リアの仲間達、という事か」
広い病室に並べられたベッドの上で、デバイスを装着したまま仰向けになる者達を見て、白銀アメとその夫は目を細めた。
――警察としてのミッション、リアの手下達の確保
他の部屋の者達も含めれば、317名。老若男女あらゆる者達が、無表情のままに、呼吸すらしてるか怪しく、横たわっている。
「……これだけを見るとやはり、久透リアが言う全人類の不老不死は、VRの世界で永遠に生き続けるという事になりますね」
「ああ、強制でさえなければ、望む者も多いだろう」
「選択肢も無く、無理矢理、私達を不死にしようというのは、彼女のエゴでしょうか」
「解らぬ、だが、どちらにしろ」
ここで、アメの夫は、
「――世界は変わるな」
多くの者達が気付いてる事を、言い始めた。
「……ええ」
人類の発展に、文字通り、爆発的な寄与をもたらした、インドラが創り出したデジタル革命。だけどその技術の結晶たるデバイスが、”全人類を巻き込む洗脳装置”になる事が解ってしまった。
そんなものは怖くて使えない。実際今も、白銀夫妻は、両者ともVRMMO未経験者ではあるけれど、万が一に備えてデバイスを装着していない。
さりとて、今更この未来の技術を捨てる事に、抵抗を覚える者だっている。
――世界が分断される可能性
……だがそれも、そんな困難な未来も、
「怪盗が――世界を奪い返してから、訪れるものです」
ゆえに、二人は、
「今は、私達の務めを果たしましょう」
「うむ」
そう言って二人は、ベッドに眠る手下達を、ベッドに拘束する為に近づいた、
――その時
ガシッ! っと、
「えっ」
動かないはずの腕が動いて、アメとその夫の手首が、無造作に掴まれた、その瞬間、
「――あっ」
まるで、ソラとレインが、手を繋ぐ事で、
すり抜けグリッチを共有するように、二人は、
――ただ触れられただけで、意識を失った
……そしてそれは、この部屋だけでは無く、静かに、だけど確実に、
世界中に起きている事だった。
◇
――VRMMO、アイズフォーアイズ
現実と全く同じ姿になった久透リアは、その小柄な四肢から、蒼い電流をバチバチと全身に纏いながら、五人相手に立ち回る。
「
彼女の動きを防ぐ為の巨大な炎柱を、装備バグによって、左腕で装備したクラマフランマで、目の前に立ち昇らせても、
「
体内電流――全身を雷によって加速させたリアは、その炎で負うべきダメージすらも置き去りにするスピードで、ブレイズの元に潜り込み、思いっきり顎をかちあげた。
「がっ!?」
痛みもあったが、この事で、ブレイズの左腕の装備バグが修正された。
そのまま連打をくらわせようとするリアの周りに、
「
「
――須浦ユニコがブラックパールの力に飲み込まれた時と同じよう
避雷針代わりになる雷杖をオーシャンが呼び出し、それをキューティが限界まで増やした。10本、20本、と倍々で増えていく神の杖は、リアの体から雷を奪っていく、だが、
「え、う、嘘ぉっ!?」
「吸収しきれない、だと!?」
無限に増え続ける杖が、その増殖の速度を超えて砕かれ続け、そして全てが一気に爆ぜる!
「きゃあっ!?」
「うあっ!?」
その衝撃に吹き飛ばされる二人――それとすれ違うようにクロスが突っ込んで、
「
データー破壊グリッチで、神殺しすら叶えようとした、
だが、
「あっ!?」
「……無駄、だ、君達は」
その剣閃を、リアは片手で受け止めた。
――破壊すらも修復する
「最早、私には、適わない」
そして、刃を握った手から電流を放ち、クロスの身を焼いた。そのまま膝を付く彼に目をやる事もなく――リアはそのまま駆け出した。
追いかけるのは――巨神の元に全速力でステップを踏む、スカイである。
「囮での、時間稼ぎ、本命は、アイ、さっきと、やる事は、変わっていない」
後ろから聞こえてくる声にも構わず、スカイは、次々と消えていく淡い光の中から、辛うじてすり抜けバグに使えるものに足をいれて、綱渡りのように加速していく。
そして、なんとか足元までやって来た、だが、
「さぁ、30メートルの、高さの、アイの胸元に、どうやって、飛ぶ?」
――巨神に攻撃させず、ただ突っ立せていた理由
スカイが胸部にまでに辿り着かなければ、虹橋アイを【スティール】出来ない。それがどんな方法かは解らないが、
どちらにしろ、
「――諦めろ」
そう言ってリアは、あっさりと、スカイの目の前に回り込み、拳を振り上げ、
その拳を腹に叩き込む。
鳩尾へのダメージ、くの字に折れる体、
――だがその瞬間スカイは
「盗ませてもらうよ」
ニヤリと笑いながら、リアの腕を取り、
「この雷を!」
――触れれば修正される雷を敢えて全力で受ける
デバッグ作業が困難な理由、それは、
「デバッグが、生み出す、
修正した部分が影響して、新たなバグが発現する現象、デバッガーにとっての悪夢を利用する。
極限まで減少した淡い光は、だからこそ、すり抜けグリッチへと至るか細い道を見つけ出した。
――淡い光に変わり、蒼い稲光を纏ったスカイは
軽く床を踏みしめて、そして、
――真上に飛ぶように放たれる
「
さながら人間レールガン、1秒もせずに巨神の胸元まで舞い上がった怪盗は、そのマントを閃かせながら、仲間達が見守る中で、
「【スティール】!」
虹橋アイを奪い返す為に、その腕を突き出した。
だが、
【スティール】は、
発動しなかった。
「え?」
呆然とするスカイの体を、
「がっはぁ!?」
凄まじい衝撃と痛みが襲った――巨神の平手が、スカイを蠅のように払ったからだ。角度を調整したのかそのままスカイは、キューティ達が集まる場所へ、隕石のように衝突した。
「スカイ!」
キューティが慌てて駆け寄った時には――リアが、その場に【テレポート】してきた。
「――えっ」
それは本来、有り得ない、
「ま、待て、今、一応はPVP中だろ!」
「なんで
だけど、
「頑張った、と、言った、だろ、生きたがり、いや、”死にたくなたがり”の、私が、死を覚悟して、望んだ、結果だ」
そうそれは単純だ、リアは、
「元は、このゲームの、共同の、開発者」
その力を、その権限を取り戻したのであれば、それは、
「
――その力は
呆然とする五人の前に、リアは、唐突に幾つもの映像を浮かべた。
それはゲーム内でなく、現実の映像で、
人々が眠り、そして、
その内の幾らかが、虚ろな表情のままに、動く様子だった。
まるで