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F-5 星を喰らう者

 ――都内某所の病院にて


「このベッドに寝ている者達が全て」

「久透リアの仲間達、という事か」


 広い病室に並べられたベッドの上で、デバイスを装着したまま仰向けになる者達を見て、白銀アメとその夫は目を細めた。

 ――警察としてのミッション、リアの手下達の確保

 他の部屋の者達も含めれば、317名。老若男女あらゆる者達が、無表情のままに、呼吸すらしてるか怪しく、横たわっている。


「……これだけを見るとやはり、久透リアが言う全人類の不老不死は、VRの世界で永遠に生き続けるという事になりますね」

「ああ、強制でさえなければ、望む者も多いだろう」

「選択肢も無く、無理矢理、私達を不死にしようというのは、彼女のエゴでしょうか」

「解らぬ、だが、どちらにしろ」


 ここで、アメの夫は、


「――世界は変わるな」


 多くの者達が気付いてる事を、言い始めた。


「……ええ」


 人類の発展に、文字通り、爆発的な寄与をもたらした、インドラが創り出したデジタル革命。だけどその技術の結晶たるデバイスが、”全人類を巻き込む洗脳装置”になる事が解ってしまった。

 そんなものは怖くて使えない。実際今も、白銀夫妻は、両者ともVRMMO未経験者ではあるけれど、万が一に備えてデバイスを装着していない。

 さりとて、今更この未来の技術を捨てる事に、抵抗を覚える者だっている。

 ――世界が分断される可能性

 ……だがそれも、そんな困難な未来も、


「怪盗が――世界を奪い返してから、訪れるものです」


 ゆえに、二人は、


「今は、私達の務めを果たしましょう」

「うむ」


 そう言って二人は、ベッドに眠る手下達を、ベッドに拘束する為に近づいた、

 ――その時

 ガシッ! っと、


「えっ」


 動かないはずの腕が動いて、アメとその夫の手首が、無造作に掴まれた、その瞬間、


「――あっ」


 まるで、ソラとレインが、手を繋ぐ事で、

 すり抜けグリッチを共有するように、二人は、

 ――ただ触れられただけで、意識を失った

 ……そしてそれは、この部屋だけでは無く、静かに、だけど確実に、

 世界中に起きている事だった。







 ――VRMMO、アイズフォーアイズ

 現実と全く同じ姿になった久透リアは、その小柄な四肢から、蒼い電流をバチバチと全身に纏いながら、五人相手に立ち回る。


パイルフレイムバンカー!ぶっさされ炎杭


 彼女の動きを防ぐ為の巨大な炎柱を、装備バグによって、左腕で装備したクラマフランマで、目の前に立ち昇らせても、


インドラの槍刻みし壊劫


 体内電流――全身を雷によって加速させたリアは、その炎で負うべきダメージすらも置き去りにするスピードで、ブレイズの元に潜り込み、思いっきり顎をかちあげた。


「がっ!?」


 痛みもあったが、この事で、ブレイズの左腕の装備バグが修正された。

 そのまま連打をくらわせようとするリアの周りに、


ケラノウスソング雷が集まる丘で!」

無限増殖の術インフニティ!」


 ――須浦ユニコがブラックパールの力に飲み込まれた時と同じよう

 避雷針代わりになる雷杖をオーシャンが呼び出し、それをキューティが限界まで増やした。10本、20本、と倍々で増えていく神の杖は、リアの体から雷を奪っていく、だが、


「え、う、嘘ぉっ!?」

「吸収しきれない、だと!?」


 無限に増え続ける杖が、その増殖の速度を超えて砕かれ続け、そして全てが一気に爆ぜる!


「きゃあっ!?」

「うあっ!?」


 その衝撃に吹き飛ばされる二人――それとすれ違うようにクロスが突っ込んで、


二重ノ一閃クロスロスト!」


 データー破壊グリッチで、神殺しすら叶えようとした、

 だが、


「あっ!?」

「……無駄、だ、君達は」


 その剣閃を、リアは片手で受け止めた。

 ――破壊すらも修復する


「最早、私には、適わない」


 そして、刃を握った手から電流を放ち、クロスの身を焼いた。そのまま膝を付く彼に目をやる事もなく――リアはそのまま駆け出した。

 追いかけるのは――巨神の元に全速力でステップを踏む、スカイである。


「囮での、時間稼ぎ、本命は、アイ、さっきと、やる事は、変わっていない」


 後ろから聞こえてくる声にも構わず、スカイは、次々と消えていく淡い光の中から、辛うじてすり抜けバグに使えるものに足をいれて、綱渡りのように加速していく。

 そして、なんとか足元までやって来た、だが、


「さぁ、30メートルの、高さの、アイの胸元に、どうやって、飛ぶ?」


 ――巨神に攻撃させず、ただ突っ立せていた理由

 スカイが胸部にまでに辿り着かなければ、虹橋アイを【スティール】出来ない。それがどんな方法かは解らないが、

 どちらにしろ、


「――諦めろ」


 そう言ってリアは、あっさりと、スカイの目の前に回り込み、拳を振り上げ、

 その拳を腹に叩き込む。

 鳩尾へのダメージ、くの字に折れる体、

 ――だがその瞬間スカイは


「盗ませてもらうよ」


 ニヤリと笑いながら、リアの腕を取り、


「この雷を!」


 ――触れれば修正される雷を敢えて全力で受ける

 デバッグ作業が困難な理由、それは、


「デバッグが、生み出す、バグ奇跡か!」


 修正した部分が影響して、新たなバグが発現する現象、デバッガーにとっての悪夢を利用する。

 極限まで減少した淡い光は、だからこそ、すり抜けグリッチへと至るか細い道を見つけ出した。

 ――淡い光に変わり、蒼い稲光を纏ったスカイは

 軽く床を踏みしめて、そして、

 ――真上に飛ぶように放たれる


ファントムライジング怪盗雷昇!」


 さながら人間レールガン、1秒もせずに巨神の胸元まで舞い上がった怪盗は、そのマントを閃かせながら、仲間達が見守る中で、


「【スティール】!」


 虹橋アイを奪い返す為に、その腕を突き出した。




 だが、

 【スティール】は、

 発動しなかった。




「え?」


 呆然とするスカイの体を、


「がっはぁ!?」


 凄まじい衝撃と痛みが襲った――巨神の平手が、スカイを蠅のように払ったからだ。角度を調整したのかそのままスカイは、キューティ達が集まる場所へ、隕石のように衝突した。


「スカイ!」


 キューティが慌てて駆け寄った時には――リアが、その場に【テレポート】してきた。


「――えっ」


 それは本来、有り得ない、


「ま、待て、今、一応はPVP中だろ!」

「なんでテレポート禁じ手ができるんよ!」


 だけど、


「頑張った、と、言った、だろ、生きたがり、いや、”死にたくなたがり”の、私が、死を覚悟して、望んだ、結果だ」


 そうそれは単純だ、リアは、


「元は、このゲームの、共同の、開発者」


 その力を、その権限を取り戻したのであれば、それは、


君達プレイヤーは、GMに、逆らえない」


 ――その力は運営に匹敵する

 呆然とする五人の前に、リアは、唐突に幾つもの映像を浮かべた。

 それはゲーム内でなく、現実の映像で、

 人々が眠り、そして、

 その内の幾らかが、虚ろな表情のままに、動く様子だった。

 まるで操られているたんぱく質で出来たPCかのように。


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