目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
6-6 人に、平等に約束されしもの

「本当に久しぶりです、元気でした?」

「ええ、おかげさまで」


 日焼けして精悍な顔をした、体躯のいい男。いかにも海の男という風体ながら、その口調や振る舞いはゲームの中そのもの。

 ――小悪党グドリー

 ソラにとっての初めてのゲームフレンドで、ソラを、怪盗シソラへと導いた先達。

 レイン達はこの思わぬ再会に配慮して、レストランに頼んで料理をタッパーにいれてもらい、自分達の部屋へと戻り、ソラとグドリーを二人だけにした。

 積もる話も、あるだろうからと。


「というか、漁師だったんですね」

「正確には養殖業ですが、まぁ、私はリアルの事を徹底して話しませんでしたから」

「あ、でも、焼き鯖好きって」

「……流石にその情報だけで、|私が鯖養殖をしてるなんて気付けないでしょう《ショルメでも無理ゲー》」


 それはそうだと二人で笑った後、その笑みのままグドリー中の人は、


「――私がアイズフォーアイズから去った理由ですが」

「えっ」


 唐突に切り出した事に、ソラは驚いた。だけどグドリー、


「知りたかった事でしょう? あの時は、配慮してくれましたが」

「そ、そうですけど、いいんですか?」

「まぁ、詳細は言えませんが――」


 グドリー曰く、彼がやってる養殖業が、とある理由でお金が足りなくなったらしい。

 ゲームでは平気な風を装っていたが、クラマフランマという、お金になる手段を渡された。

 ……どうせやめるならという、誘惑に、抗えなかった。


「……本当に、どうかしてしましたよ、でもそこまで、追い込まれていたのも事実だ」

「グドリーさん……」

「だから、あんな無理な条件無茶な方法で助けを求めたんです、バカらしいでしょう?」

「そんな」


 グドリーの行いを、否定しようとしたがそれより前に、


「ありがとう」


 と、グドリーは言った。


「あなたのおかげで私は、踏みとどまれた」

「……仮に、僕がPVPで負けてたとしても、売る気はなかったでしょ?」

「そのつもりではありましたが――いや、人の心なんて、簡単に間違ってしまう」


 ただ純粋に生きてきた人が、何かを切っ掛け最悪の日にどん底まで転げ落ちるなんて、侭有る世界。


「だから、何度も言います、ありがとう、怪盗」

「……グドリーさん」


 そこでソラは笑って、


「感謝する小悪党なんて、聞いた事がないですよ?」

「む、それは……」

「もっと皮肉を言ってくれないと」

「いや、難しいですよそんなの、恩人相手に」


 傍から見れば二人は大人と子供、だけど本人達は、あの世界ゲームのままに話している。


「でも、本当に安心しました、アカウントを消してたから心配しましたけど」

「ああそれですが――」


 ここでグドリーは、


「アカウントは、消したんじゃなくて、消えたんですよ」

「……え?」


 とても、意外な事を言った。


「いや、もしかしたら無意識に消したかもしれませんが」

「ど、どういう事ですか?」

「いえ、貴方がログアウトした後の記憶が曖昧でね、気がついたら部屋で寝ていて、起きたらアカウントが消えていた」

「はぁ……」


 グドリーが、明確な意志を以て、世界ゲームから離れた訳じゃない事には驚いた。

 だが、グドリーはすぐにまた微笑んだ。


「でも結果的に、それが良かったと思います、復帰のためにアカウントだけは残しておこうかとも考えましたが」


 それは、偽らざる本音、


「そこで踏ん切りを付けなければ、こちらの世界リアルに、集中出来なかったでしょうから」

「――グドリーさん」

「……長く話してしまいましたね」


 そう言って立ち上がろうとするグドリーに、


「あ、あの!」


 慌て、ソラは声をかける。


「ゲームに、戻る戻らないはグドリーさんが決める事ですけど、カリガリーさん達に、無事な事だけは、自分の口で伝えて欲しいんです」

「……」

「カ、カリガリーさんへの連絡手段はあるはずですよね、だから」

「解りました」

「え?」


 それはもう、あっさりと、


「君にそう促されて、やっと決心がつきました。近々、そうします」

「ほ、本当ですか、ありがとうございます!」

「例を言うのは私の方ですが――ところで」

「え?」


 そこでグドリーは――底意地悪そうにニヤリと笑い、


「シルバーキューティとは、リアルでも恋仲なのですか?」

「ふぇ!?」


 小悪党らしく、思春期の少年かわいいなぁをからかった。


「いえ、厨房の人と相談しながらね、そちらの様子は聞いたり眺めたりしてたのですが、まぁ本当にラブラブと言うか」

「た、ただ隣でごはんを食べてただけですよ!?」

「一挙一動がそういうオーラに溢れてるんですよ」

「そ、そうなの?」


 そこでグドリーは、今度こそしっかり立ち上がり、


「――詳細は言えませんがね」


 中指で、存在しないメガネのブリッジをあげながら、


「どれだけ大切な人でも、別れはいつ来るか解らない」

「……え?」


 少し、寂しそうな目をしながら、


「だから、怠けてる余裕はないですよ?」


 ――グドリーがあそこまで追い詰められた理由は


「っと、そろそろ行かなければ、それじゃ」


 そう言って今度こそ、踵を返しレストランの入り口へと向かうグドリー、それに対してソラは、


「あの、グドリーさん!」


 あの日のように願いを込めて、


「おやすみなさい!」


 またあのセリフを、元気良く言った。

 ――それに対してグドリーは


「いつになるか解りませんが、また会った時は、叩きつぶしてやりますよ!」


 明確に、世界ゲームへの復帰を近い、それに対してソラは花火の様に笑顔を浮かべ、


「待ってるぞ、我達、怪盗一味が!」


 そう”かっこよく”、返事をした。







 所変わってホテルの部屋、女子サイド。


「うう、緊張してきた……」


 ――決戦告白まで残り1時間という状況

 二人とも未成年ではあるので、夜のデートスポットに行く訳にもいかない。ので、告白場所は、ホテルの駐車場、という事になっている。

 殺風景ではあるけれど、そこが一番人気ひとけが少ないから。


「もう、成功間違いなしやのに、肩の力抜いたらどうです?」

「い、いや、好きって言うだけじゃないんだぞ!? ウミが言ったこともしなければと考えると」

「でも、したいでしょ?」

「し、したいが」

「ほな、心素直なままにするだけよ」


 ……なんとなく納得しそうになったものの、


「よく考えたら、ウミは恋愛経験があるのか?」

「え?」

「何やら恋愛の達人のようにアドバイスしてるが、本人はどうなのだ?」

「え、いや、うちはほら、今は歌うのが楽しいし」


 痛いところを突かれ目を反らすウミ、はぁ、とため息をつきながらレインは、

 ――ARを立ち上げデバイスを操作する

 だが、


「……ダメだな」

「どしたん?」

「いや、告白の前に、話したい人がいて」

「親御さん?」

「お、親はダメだ! 母はともかく、特に父には」


 そう断った後、レインは、

 少し寂しそうに言った。


「いくら連絡しても、アイさんと繋がらないのだ」


 ――それが何を意味するかを知るのは

 決戦後の事になる。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?