――8月1日午前9時
「ひゃっほー! 海―!」
「最高やねぇ!」
小浜駅から車で30分以内にいける海水浴場はちらほらあって、その内の一つの砂浜に、ソラ達4人は降り立っていた。陽光浴びて波のまにまにを輝せる、雄大な青の海に、心は熱く燃やされる。
「やはり、海と湖は違うな」
「潮風が気持ちいいですよね」
「よっしゃ一番乗り!」
「ああリクヤずるい! うちもぉ!」
そう言って、パラソルもたてず海へと突入するリクヤを、追っかけるウミ。ソラとレインは顔を見合わせた後、お互い笑い合い、
「こら、私達を置いてくな!」
「4人一緒で入ろうよ!」
そう言って追いかける、そのまま二人に追いつけば、示し合わせたとおりに
「あはは!」
「おらおら!」
「やったな!」
「それぇ!」
そのままわちゃわちゃに突入する。水をかけあったり、軽く沈めあったり、踊ったりついでに歌ったり、
普段から現実と仮想問わずに遊ぶ面子であるけれど、こういう旅は初めてで、流石に否応にもテンションはあがった。ソラとレインに関しては、今夜、”告白”という大イベントがあるから、それでギクシャクが続くかと思ったが、電車の中で、うまい事それをリクヤとウミがほぐしてくれた。
「まったまった、楽しいが、一度あがろう! パラソルを立てねば!」
「確かに基地をつくんねーとな!」
「あ、せや、スイカ割りもするんやね!」
「海の家の人にセットを予約してるから、後で取りに行こう!」
――ちなみに4人の水着姿であるが
他の海水浴客同様、紫外線対策バッチリの
だから無邪気に4人は、はしゃぎ、泳ぎ、遊びに遊んだ。
サマータイムは始まったばかり。
◇
アイズフォーアイズの
「ふんふんふ~ん」
鼻歌交じりで山盛りの
――何せ、20周年の大型アップデートが近い
そんな時、コールがかかる。
「あら?」
それは珍しい相手だったので、ちょっと驚きながら通信を開く。
「おはよ~ジキルちゃ~ん」
『はよ、ああ、だる、眠い……』
相手はジキル、灰戸ライドのイマジナリーガールであるが、本人は自分こそが
「一人でなんて珍しいわね~? 社長は?」
『寝てるし』
「寝てるの!? へぇ、寝ててもジキルちゃんだけで動けるんだ~」
『
「それで、なんのご用かしら~」
そうは言いつつも、虹橋アイは、だいたい当たりを付けている。
「ブラックパールの解析は、もう残り1%! ……でも~、その1%が厄介なのよねぇ~、これさえ解ければ、もしかしたら、久透リアの居場所も~」
『――それもあるんだけどさぁ』
ゴスロリパンク姿の少女は、
『なんか、隠してない?』
そう、気怠そうに聞いた。
その言葉に対してアイは――
「隠す?」
本当に何も解ってないように、素っ頓狂に返した。
『……あー、ごめん、なんでもない』
「え、ちょ、ちょっと~気になるじゃな~い、なに、なんなの~?」
『いやいや、私の気にしすぎだし、悪かった、じゃあね』
そのまま一方的にジキルは、通信を切ってしまった。
……一人残されたアイ、とりあえず、シュークリームをもう一つ食むりながら、
「私が、ジキルちゃんに隠し事……?」
その事について考えたけど、本当に全く思い当たる事がなくて、結局再び、業務を再開した。
◇
――アイズフォーアイズ社長室
「どう思った?」
寝ている、と嘘をついた灰戸ライドは、ARで表示される
『わかんない』
それが率直な感想だった。
『まぁ一応? 私詐欺師で? 色んな潜入捜査とかして? アイとも良く仕事する訳だし? それで何か違和感を覚た訳だけどぉ?』
「俺も長い間、人という物を見てきたつもりだ、だが」
アイとジキルのやりとりを見る限り、
「アイが何か隠す様子も、ましてや、誰かに脅されて言えない約束をしてるようにも見えない」
『まぁ、そうだよねぇ、やっぱり私の思い過ごしぃ? うわ、だるい事してごめん』
「――それなら一番いいが」
そこで灰戸は、
懸念を表明する。
「本人が、隠している事を、忘れている可能性もある」
『は?』
灰戸の言葉に素の反応を見せるが、すぐ、
『あ、あー、そゆこと? うげ、いやそんなの言われても』
「ああ、仮にそうだった場合、俺達に出来る事は少ない、だが」
『わかった、注意するし』
ジキルは、言った。
『友達
やる気の無い彼女だがやる気が無いなりに、
アイズフォーアイズを、皆が笑顔で楽しむ
今も守ってくれる彼女を、大切にしていた。
◇
――場所は戻って海水浴場のお昼前
「二人とも、そろそろ行こうよ」
「パラソルはもう片付けてるぞ」
スイカ割も終え、ビーチバレーもして、リクヤを砂に埋めてよみふぃの体にして、とウミで出来る事をあらかたやった4人であったが、
「もうちょっと、もうちょっとだけ!」
「ほうよ、海なんて次いつ来られるかわからへんよ!」
そう言ってリクヤとウミは、なかなか海から出てこようとしなかった。跳んで跳ねてその様を写真撮影してと、ともかく、無駄にはしゃぎまくってる。
「本当に元気ですね、二人とも」
「いや、一番
「あはは……」
レインの言葉に、苦笑するソラ、その時、
「えっと、だ」
突然レインが、すすっとソラの正面に立った。
「レインさん?」
疑問に思っている内に、レインは、ラッシュガードの中央一番上にあるチャックをもって、
それを一気に下ろしはじめた。
「え、へっ!?」
砂浜の上の脱衣行為、当然顔を真っ赤にして慌てるソラだったけど、
――現れたのは裸じゃないけれど
「マ、マドランナに選んでもらったが、見せるタイミングが掴めなくて」
レインの豊かな体を包むのは、かなり大胆に責めたピンクとホワイトのマーブルカラーの水着――胸の谷間もあざとくない程度で、そして、揺れる。
「え、え、あの」
突然飛び出してきた
「ど、どうだろうか!」
恥ずかしそうに感想を、せつないまでに必死に聞いてくるものだから、ソラは、
「す、凄いです」
もう、キレイとかカワイイとか、そんな言葉選びをする余裕も無く、言ってしまった。
……5秒ほど、沈黙が流れたが、
「ズルい」
「え?」
「ソ、ソラも見せろ、脱げ!」
「ええ!?」
ここでまさかの要求、いや、世の中ギブアンドテイク、相手が脱いだらこっちが脱がぬのは不作法というものかもしれず、だけど、
「あの、僕、この下は別に何もつけてなくて」
「いや寧ろそういうのが、じゃ、じゃなくて! それでもいいから!」
もう凄い勢いで言われたものだから、ソラ、慌ててラッシュガードのチャックを下ろす。そして、
「こ、こんなんですけど」
別に何もつけている訳ではない、少年特有の、ただの素肌を晒して見せた。
なだらかな胸とおなか、無駄な毛なんて一つもない奇跡のボディ、それを見られて、恥ずかしがる様子、
――それを前にしたレインは
「好きっ!」
「レインさん!?」
「ち、違うのだ今の好きは!? いや違わなくはないけれど、その、破壊力が凄くて!」
「は、破壊力ってなんですか!? あとなんですかその手をわきわきしてるの!」
「――ハグしたい」
「こ、ここではやめてくださーい!」
そんな感じで、ラッシュガードを羽織っただけの状態で向かい合って騒ぐ二人を見て、
「何してるんだあいつら」
「止めにいかんとあかんよねぇ」
真夏のテンションもクールダウンしたリクヤとウミは、仕方無く、海からあがるのだった。