東京での一件から時は過ぎ、ソラ達は夏休みに突入していた。それはつまり、怪盗一味の活躍が増える事を意味していた。
株式会社ZEROの不正発覚の切っ掛けとなった、あの事件以来、スカイゴールドの人気と供に、アイズフォーアイズのアクティブプレイヤーは増加している。ニューユーザーはもちろんの事復帰組も多い。
ライトオブライトのプロモーション効果を、そっくりそのまま、アイズフォーアイズがかっさらった形である。
「とはいえ、これからのZEROとの話し合いを考えると頭が痛いが」
「レインさん」
「社長は、裁判もめんどくさいから和解へもっていこうと考えてるらしいが、眞司マンジが退任という条件を受け入れるかどうか」
「レインさん」
「ただ、アイさん曰く、ブラックパールの解析は相当に進んだらしい」
「レインさん」
「久透リアの目的も解るかもしれないと、ああ、それと郷間ザマだが、どこか雲隠れしてな」
「レインさん」
……LustEdenの個室にて、聞いてもいない事を喋るレインに、アウミ、マドランナ、アカネ、サクラが、名前を呼びながら圧力をかける。それに対してレイン、
「な、なんだ、私に何を聞きたいのだ!」
と言うものだから、アウミが、
「シソラとの事!」
とズバリと問うた。その名前を聞くだけで、顔を真っ赤にするレイン。
「シ、シソラとは、その、変わらず仲良くやらせてもらっている」
「ええ、仲が良いのはいいことよ? でも」
「東京でデートしてきてから、二人とも、ギクシャクしてるじゃないか」
それは、時々一緒に仕事をしたり、遊んだりしているマドランナとアカネの目にも明らかだった。
「
「ちょっと待てサクラ!? 何か今、私とシソラの技に不埒な妄想をしなかったか!?」
「いえ、ラブラブで羨ましいなとだけ」
「ラ、ラブラブ……」
互いにハグしあうのは、そうしないと壁をすり抜けられないからという理由があるものの、傍から見ればそれはもう、そうなのだろう。ファントムロマンスを行う前に、レインが煙幕を使うのは、この技がグリッチである事を隠したいというのも理由だが、
「わ、私だって恥ずかしいのだ、だけど、仕方無く」
羞恥心が最もの理由なのを知るのは、怪盗一味が、”神の悪徒”という、運営の息がかかっているメンバーという事を把握している者達だけである。
「と、ともかく、私とシソラについて、これ以上話す事はない」
「せやけど、夏休みに入ってから、一緒にいる時間は長いのになんや距離があいてるでしょ?」
「それが、なんだ?」
「それがなんだって、言わんといてくださいよ」
そこでアウミは目を細めて、
「はよ告白して、付き合いましょ?」
そうあっさりと言うものだから、
「――告白」
すっかりレインは絶句する。だが、周りからすれば今のレインとシソラは、いいから早くひっつけ状態である。
「なんだよ忍者、怪盗の奴が好きなんだろ?」
「す、好き、好きではあるが」
「恋人になりたくないのですか?」
「な、なりたくない訳じゃないが」
どんどんと追い詰められていくレインに、最後、マドランナが、
「――私を倒し、改心させた二人の関係を、疑う訳じゃないけれど」
とどめを刺す。
「迷っている内に、誰かにとられるかもしれないわよ」
「――誰かに」
――
それはマドランナ自身が解っている。あくまで彼女の言葉は、レインの本音を
これくらい脅さなければ、どうにも彼女の心は解れないと踏んで。
――その結果
「……私は、かわいいもかっこいいも好きだ」
聞かれても無いけど、今度こそ、聞きたかった事を語り出すレイン。
「そうしたらあの日、出会ったあいつはとてもかわいくて、だけど、VRではかっこよくて……」
それは他者に話すというより、
「強くて、優しくて、頼りがいがあって、だけど危なっかしい所もあって、弱い姿も晒して、抱きしめたくなって、何よりも」
自分に聞かせる物語みたいに。
「一緒にいるのが、楽しくて」
守りたい、守られたい。
ずっと供に生きていきたい。
「……だからそう、私は」
この時、17歳の少女は、
「私は、
とうとうきちんと、言い切った。
……そしてその後、物凄い勢いで周囲を見回す。
「ど、どしたんレインさん?」
「いや! 実は裏でこっそりシソラがいるとか、そういう罠じゃないか!?」
「流石に
疑心暗鬼になっているレインをマドランナがなだめた後、アカネとサクラが口を開く。
「じゃああとは告白するだけさ!」
「いや姉さん、そんな簡単な話じゃありません」
好きにしろ嫌いにしろ、相手への気持ちを伝える事の困難さは、
「……あくまで、私の経験からですが」
サクラは良く解っている。アカネは、妹のその態度に慌ててごめんと言った。
そんな中で、レイン、
「……色々気遣ってくれて、まずは、感謝する」
まず謝意を述べた後、
「その上で、ソラにどういう風に告白するかは、私に決めさせて欲しい」
そう、手助けは要らないと言った。
……それがなかなか出来なさそうだから、この女子会は開かれた訳だが、
「まぁ、そうね、あとはがんばってもらいましょう」
「ソラへの気持ちを確認させられただけで、うちらとしては十分」
「応援してるよ、忍者!」
「フラれた時は慰めて――いや、それは有り得ませんね」
そんな風に言ってくれる
一人だけじゃ、きっと整理がつかなったこの気持ち。
(ああ、私は本当に、出会いに恵まれている)
虹橋アイから始まった、この世界の幸せを再び噛みしめて――
「あ、せや、もうちょいソラに惚れた理由を詳しく」
「え?」
「そうねぇ、東京でのノロケ話ももっと聞きたいわ」
「ていうかアニキに聞いたけど、同じ部屋で泊まったってマジ!?」
「
……出会いに感謝しつつも、この喧噪ばかりはどうにかならないかと、レインは顔を真っ赤にしながら思った。
◇
その頃、アイズフォーアイズ直下の街にある、社員専用のマンション、その一室。
――目を見開き、立ち尽くす黒統クロ
そんな彼に、イスに座っても尚、その大きさを隠せない虹橋アイが、笑顔でゆっくりと語りかける。
「断ってもいいのよ、クロ君」
その微笑みを見てクロは――体の強張りを消し、目を細めて言った。
「俺は、アイさんを疑わない」
「……そう」
虹橋アイが、クロのパートナーであると同時に、レインの恩人である彼女が、
「改めて、願うわ」
黒統クロに頼んだ願いは、
「レインちゃんを、
彼女を