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6-2 VR女子会 in Lust Eden

 東京での一件から時は過ぎ、ソラ達は夏休みに突入していた。それはつまり、怪盗一味の活躍が増える事を意味していた。

 株式会社ZEROの不正発覚の切っ掛けとなった、あの事件以来、スカイゴールドの人気と供に、アイズフォーアイズのアクティブプレイヤーは増加している。ニューユーザーはもちろんの事復帰組も多い。

 ライトオブライトのプロモーション効果を、そっくりそのまま、アイズフォーアイズがかっさらった形である。


「とはいえ、これからのZEROとの話し合いを考えると頭が痛いが」

「レインさん」

「社長は、裁判もめんどくさいから和解へもっていこうと考えてるらしいが、眞司マンジが退任という条件を受け入れるかどうか」

「レインさん」

「ただ、アイさん曰く、ブラックパールの解析は相当に進んだらしい」

「レインさん」

「久透リアの目的も解るかもしれないと、ああ、それと郷間ザマだが、どこか雲隠れしてな」

「レインさん」


 ……LustEdenの個室にて、聞いてもいない事を喋るレインに、アウミ、マドランナ、アカネ、サクラが、名前を呼びながら圧力をかける。それに対してレイン、


「な、なんだ、私に何を聞きたいのだ!」


 と言うものだから、アウミが、


「シソラとの事!」


 とズバリと問うた。その名前を聞くだけで、顔を真っ赤にするレイン。


「シ、シソラとは、その、変わらず仲良くやらせてもらっている」

「ええ、仲が良いのはいいことよ? でも」

「東京でデートしてきてから、二人とも、ギクシャクしてるじゃないか」


 それは、時々一緒に仕事をしたり、遊んだりしているマドランナとアカネの目にも明らかだった。


ファントムロマンスだいしゅきふんふふのような技まで編み出したのに、何故そうなってるかが不思議というか」

「ちょっと待てサクラ!? 何か今、私とシソラの技に不埒な妄想をしなかったか!?」

「いえ、ラブラブで羨ましいなとだけ」

「ラ、ラブラブ……」


 互いにハグしあうのは、そうしないと壁をすり抜けられないからという理由があるものの、傍から見ればそれはもう、そうなのだろう。ファントムロマンスを行う前に、レインが煙幕を使うのは、この技がグリッチである事を隠したいというのも理由だが、


「わ、私だって恥ずかしいのだ、だけど、仕方無く」


 羞恥心が最もの理由なのを知るのは、怪盗一味が、”神の悪徒”という、運営の息がかかっているメンバーという事を把握している者達だけである。


「と、ともかく、私とシソラについて、これ以上話す事はない」

「せやけど、夏休みに入ってから、一緒にいる時間は長いのになんや距離があいてるでしょ?」

「それが、なんだ?」

「それがなんだって、言わんといてくださいよ」


 そこでアウミは目を細めて、


「はよ告白して、付き合いましょ?」


 そうあっさりと言うものだから、


「――告白」


 すっかりレインは絶句する。だが、周りからすれば今のレインとシソラは、いいから早くひっつけ状態である。


「なんだよ忍者、怪盗の奴が好きなんだろ?」

「す、好き、好きではあるが」

「恋人になりたくないのですか?」

「な、なりたくない訳じゃないが」


 どんどんと追い詰められていくレインに、最後、マドランナが、


「――私を倒し、改心させた二人の関係を、疑う訳じゃないけれど」


 とどめを刺す。


「迷っている内に、誰かにとられるかもしれないわよ」

「――誰かに」


 ――そんな事は絶対有り得ないレイソラが公式

 それはマドランナ自身が解っている。あくまで彼女の言葉は、レインの本音を引き出す為トークスキルである。

 これくらい脅さなければ、どうにも彼女の心は解れないと踏んで。

 ――その結果


「……私は、かわいいもかっこいいも好きだ」


 聞かれても無いけど、今度こそ、聞きたかった事を語り出すレイン。


「そうしたらあの日、出会ったあいつはとてもかわいくて、だけど、VRではかっこよくて……」


 それは他者に話すというより、


「強くて、優しくて、頼りがいがあって、だけど危なっかしい所もあって、弱い姿も晒して、抱きしめたくなって、何よりも」


 自分に聞かせる物語みたいに。


「一緒にいるのが、楽しくて」


 守りたい、守られたい。

 ずっと供に生きていきたい。


「……だからそう、私は」


 この時、17歳の少女は、


「私は、白金しろかなソラが大好きだ」


 とうとうきちんと、言い切った。

 ……そしてその後、物凄い勢いで周囲を見回す。


「ど、どしたんレインさん?」

「いや! 実は裏でこっそりシソラがいるとか、そういう罠じゃないか!?」

「流石にそんな事人でなしはしないわよ」


 疑心暗鬼になっているレインをマドランナがなだめた後、アカネとサクラが口を開く。


「じゃああとは告白するだけさ!」

「いや姉さん、そんな簡単な話じゃありません」


 好きにしろ嫌いにしろ、相手への気持ちを伝える事の困難さは、


「……あくまで、私の経験からですが」


 サクラは良く解っている。アカネは、妹のその態度に慌ててごめんと言った。

 そんな中で、レイン、


「……色々気遣ってくれて、まずは、感謝する」


 まず謝意を述べた後、


「その上で、ソラにどういう風に告白するかは、私に決めさせて欲しい」


 そう、手助けは要らないと言った。

 ……それがなかなか出来なさそうだから、この女子会は開かれた訳だが、


「まぁ、そうね、あとはがんばってもらいましょう」

「ソラへの気持ちを確認させられただけで、うちらとしては十分」

「応援してるよ、忍者!」

「フラれた時は慰めて――いや、それは有り得ませんね」


 そんな風に言ってくれるフレンド友達に、レインは感謝を抱く。

 一人だけじゃ、きっと整理がつかなったこの気持ち。


(ああ、私は本当に、出会いに恵まれている)


 虹橋アイから始まった、この世界の幸せを再び噛みしめて――


「あ、せや、もうちょいソラに惚れた理由を詳しく」

「え?」

「そうねぇ、東京でのノロケ話ももっと聞きたいわ」

「ていうかアニキに聞いたけど、同じ部屋で泊まったってマジ!?」

え、そこまでところで姉さん今なんと言いましたか? アニキってアリクさん?二人の関係はアリクさんにその話を一体どのタイミングで聞いたというのですか進まれてた最近なんだか私に隠れてこそこそログインする事があるみたいですがのですか?もしかしてその時にアリクさんと会ってるとかそういうのは良く無いというか


 ……出会いに感謝しつつも、この喧噪ばかりはどうにかならないかと、レインは顔を真っ赤にしながら思った。







 その頃、アイズフォーアイズ直下の街にある、社員専用のマンション、その一室。

 ――目を見開き、立ち尽くす黒統クロ

 そんな彼に、イスに座っても尚、その大きさを隠せない虹橋アイが、笑顔でゆっくりと語りかける。


「断ってもいいのよ、クロ君」


 その微笑みを見てクロは――体の強張りを消し、目を細めて言った。


「俺は、アイさんを疑わない」

「……そう」


 虹橋アイが、クロのパートナーであると同時に、レインの恩人である彼女が、


「改めて、願うわ」


 黒統クロに頼んだ願いは、


「レインちゃんを、BANして」


 彼女を世界ゲームから、殺すアカウント停止事だった。


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