「福井県小浜市で!?」
『コラボイベント!?』
ソラの部屋でソラの声が響き、続いてリモートで顔を映してるリクヤの声が響いた後、
『うむ!』
社長室をバックにした、灰戸ライドの声が響いた。
『正確にはコラボイベントの為の調査だがな! 夏休み、経費は俺がもつから、怪盗のメンバーで行ってもらいたい!』
――福井県小浜市
ソラ達が住む湖南地域から、車でだいたい1時間くらいで行ける、日本海に接する福井県の港町である。湖はあるけど海無しな滋賀県民は、泳ぎや釣りなどのマリンレジャーを楽しみに良く足を伸ばす。
ソラも何度か、自動運転のバスに乗って、家族とともに遊びにいった場所であるが、
「確かにいい所ですけど、コラボイベントですか?」
『普通そういうのって、大都市でやるイメージあっけど』
それは確かだ、人数が多いゲームのイベントなら、人数が多い場所でやるのが道理、ただ、
『地方のファンにリーチするのも、昔からの
ユーザーに楽しんで貰う為にはそう動く事もある。損得抜きは商売上有り得なくとも、地方コラボは
『とはいえ、あくまで調査だ、どこをコラボ地にするかは今後の調査で決まる』
『なるほど』
「でもそれだと、小浜市に住んでいる人達に頼んだ方がいいんじゃ?」
確かに近くはあるけれど、そっちの方が道理のような気がした、だが、
『何、白銀レイン君が、切っ掛けが欲しいと言ってきてな』
「え?」
今の発言で、小浜調査がレインの発案とまでは解ったが、”切っ掛け”というフレーズには違和感をもつ、それを問い質そうとした時、
『こら、言うなし』
「わっ」
『うおっ!?』
いきなりジキルがインターセプトしてきた。そしてそのまま灰戸につっこむ。
『そういうのは言わない方がいいっしょ、何してんのおっさん』
『いいや逆に言ってた方が良くないか? 今後の二人の為に』
『最悪、それ、余計なお世話』
『若者の背は押したくなるものじゃないか』
ソラにとってチンプンカンプンな
『あ~、そういう事か~』
「え、なにリクヤ、解ったの?」
『いやまぁ、どうせ直ぐ解るわ、なぁおっさん』
『うむ!』
『ちょ、社長をおっさんと呼ぶなし』
いいじゃん同じ神の悪徒仲間なんだからーと言うリクヤ、全くウェルカム! といちいち叫ぶ灰戸に、げんなりするジキル。
『まぁともかく、詳細はまたレイン君から聞くがいい、そろそろ失礼していいかな?』
「あっ」
アイズフォーアイズの社長と来れば、そのスケジュールは秒刻み、だがそれを承知の上でソラは、
「あの、クロスは元気にしてますか!」
そう聞かずにはいられなかった――それに対しては、
『ああ、近いうちに会いに行くと言ってたぞ!』
灰戸はサムズアップで答えた。そしてソラのぱぁっと輝く笑顔を確認した後、高笑いしながら、ジキルと供に通信を切った。
そして、リクヤとだけのリモートになる。
『クロスって、お前の幼馴染みかもしれないっていうあのヘルメット男?』
「うん!」
――ブラッククロス
ライトオブライト事件の時に突然現れた協力者、その謎めいたビジュアルと、刀一本で全てを
とはいえ、白金ソラにとっては、
「そっか、会えるんだ、嬉しいな」
ただただあの日、淡く輝く琵琶湖の辺で遊んだ、懐かしい幼馴染みである。
『うぅん、現在親友の俺にとって、これは喜ぶべきか嫉妬すべきか』
「そ、そこは普通に喜んでよ、紹介するからさ」
『だな! よぉし、新旧マブダチ対決でもすっか!』
「争わないで!」
突然別れてしまったけれど、何故か虹橋アイと供に現れて、そして、一緒に戦ってくれた幼馴染み。
……無論ソラからすれば、それは確定事項ではないけれど、それでも、
「もしかしたら、怪盗の仲間になってくれるかもしれないし」
『なんかネットでもそんな噂されてるけど、その為には俺を倒してもらわなきゃな!』
「リクヤのクロスへのそこまでの対抗心はなんなの!?」
それは必ず叶う、約束された未来に思えた。
そして実際に、それは果たされる事になる
だけど、それは――
◇
その日の夜、
「――以上が現時点での、小浜調査の仮スケジュールだ」
ソラの部屋にやってきたレインは、小浜調査の行程をソラに告げた。といってもその内容は、朝から海で泳いで、その後サウナに入って、軽く観光をした後、5階建ての老舗ホテルに泊まり、そのまま名物を食べて寝て、翌朝も観光をした後帰宅という、一泊二日の旅行プランであるが。
単純、仲の良い友達4人でいく小旅行である。それでも、
「た、楽しみですね!」
あの東京での出来事――うっかり告白みたいな事をしちゃった件から――レインとギクシャクし続けているソラにとっては、その状態を解消出来るかもしれないチャンスだった。
(あの日からもう、レインさんが好きで好きでしょうがない)
ならばさっさと正式に告白しろという話であるが、そんな簡単に勇気を出せる程、
(VRの、怪盗シソラでなら、接する事が出来るのに)
つくづくソラは、自分に自信をもてない事が情けなかった。ただそれはもう自分の性分であり、受け入れるしかないと思っていた。
……でも、
「その、それでだソラ、当日の夜だが、二人きりになりたくてな」
「え? ……僕とレインさんと二人で?」
「うむ、だからその、なんていうか」
そこでレインは一度顔を反らし、耳の裏の赤さまで見せたあと、
顔の向きはそのままに、ソラを見やり、
「私もがんばるから、覚悟をして欲しい」
と、言った。
「……え?」
っと、ただそんな反応をみせたソラに対して、それ以上は何も言えず、レインは勢い良く立ち上がり、部屋をそのまま出て行く。
一人取り残された状態で、レインの言葉の意味を考えている内に、
――灰戸ライドの言葉も思い出す
(切っ掛けが欲しい、って)
それが、何かをする為の切っ掛けだとすれば、その何かとは、何か?
レインが顔を赤くしてた理由を考えてみれば、
――流石にソラも鈍くなく
(告白?)
それに思い当たった途端、
「わ、わぁっ!?」
訳も解らず声が出ていた。そのまま顔を真っ赤にして、自分の小さな体をぎゅっと腕を回していた。
「こ、告白、そんな、え、それって」
胸の動機が止まらずに、喜びと驚きが両方とも唸りをたてて――ちなみに一枚壁の向こう、レインも自分の部屋で、よみふぃのぬいぐるみをひしゃげるまでに抱きしめて足をバタバタしてて、
――これだけ想いあってるのだから
二人の幸せな未来は、約束されているかのように見えた。
……だけど、ソラもレインも気付いていない。
――もう一つの約束は
黒統クロとの再会は、