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5-etc プライドの真価

 ――ソラから逃げ出した郷間ザマだったが


「ああ、う、うう、ううぅ」


 堕ちて、失って、その上で――バカにしていた人間から”逃げ出した”彼が行き着いた先は、当然のように、人目を避けるような路地裏だった。


「う、うぐ、うえぇっ!」


 吐き気がする――嗚咽が響く、しかし、喉からは何も出てこない。そんなものはとっくに搾り尽くしてしまった。

 ――人生の全てがうまくいっていた生きるのってチョロすぎw

 自分が優れた人間であり、他者は利用する為の道具、それが当然の権利であり、そして、彼のプライドであった。

 それが、一夜で崩されたのである。

 かつて、自分が臆病者と罵った白銀レインと、

 ソラと呼ばれていた少年――怪盗スカイゴールドに。


「ああ、ああぁぁぁっ!」


 そして何よりもザマにとって許しがたいのは、ソラとレインに対しての屈辱感よりも、今は、恐怖の方が勝っているのである。

 それが辛い、苦しい、死にたくなる。何かと比べる事で生きてきた彼にとって、それを失う事はどうしても許せなかった。

 だけど、怒りが他人に向かない他責

 恐ろしい事に、自分へと向いていく自責。そうそれは、

 ――俺って実はたいしたことない?


「いやだぁぁぁぁ!」


 ……挫折は成長の切っ掛けでもある。無論、今までのザマの生き方も、善悪を取り除き強弱で考えれば強い類い。しかしそれが破られたなら、どうにか建て直す必要がある。

 だけど今のザマにとって、無理だった。

 このまま郷間ザマは――少年は、傷つけられたプライドを抱えて、過去の栄光にすがりながら、

 ただ惨めに堕ちていくばかりの未来が待っていた。

 だけど、


「いい、声だ」


 路地裏に、似つかわしく無い、澄んだ声。


「感情の、発露、行き場の無い、衝動、それこそが」


 そこに現れたのは、


「人を、救う」


 ――久透リア


「……な、なんだよ、なんだよぉ」


 透明感のある少女、そのあまりにも浮き世離れた存在に、


「なんなんだよぉ!」


 ザマはポケットの中から、今度こそナイフを取り出して、飛びかかろうとしたその瞬間、

 ――パスッと、軽い音がした

 そして、


「熱っ」


 ザマの左太ももが熱をもった。慌てそこに目をやれば、

 ――血が滴っている


「……すま、ない」


 自分が、久透リアが構える、


「一応は、正当防衛、だ」


 サイレンサー付の銃で撃たれた事に気付いてから、


「ぎゃああああああ!?」


 痛みもだが、銃で撃たれたというその恐ろしさ非日常に再び悲鳴をあげる。手に握ったナイフも放り出して、うずくまくりながらその傷口を押さえる。

 その様子を見て、


「殴られる、覚悟は、あっても、撃たれる、覚悟は、ないか、そうだな、日本は、銃社会じゃない」


 ――女子供に殴られても死なない

 それが、今までザマが、弱者を挑発してきた理由。だが、


「ひ、ひい、やだ、殺さないで、殺さないで」


 致命傷ではないけれど、相手が銃を持っていることにすっかり脅えをみせる。命を懇願する様子に、リアは淡々と告げる。


「当たり前、だ、殺さない、その、代わり」


 それは最早、悪魔の言葉、


「お前の感情を、私に、くれ」


 ――郷間ザマは

 須浦ユニコの代わり。


「な、なにを、何を言ってるんだよ、なんなんだよ!」

「ライトオブライト、は、いわば、保険だった、そこまで期待、してなかった、だが」


 久透リアは銃を片手にゆっくりと近づき、足を押さえるザマにしゃがみこむ。


「お前が、いてくれて、嬉しい」


 そのまま銃口を、額に突きつけた。


「プライドの、真価は」


 そしてそのまま、


「砕けた時に、発揮、される」


 引き金を引いた。

 ――カチリと

 空砲、弾丸がこめられていないその音に郷間ザマは、気絶こそしなかったものの、

 小便を漏らした。


「大丈夫、殺したりなんか、しない、ただ」


 リアは無表情に、けど、

 目だけはまるで笑うように、


「――お前の、誇りを、丁寧に砕く」


 言った。


「永遠、に」


 その言葉に、ザマは再び大きな声をあげた。

 ようやくその悲鳴に気付いたいくらかが、この路地裏を覗き込んだが、

 その時にはもう、誰もいなかった。


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