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5-end ラブラブしよう-上野の大きなクジラの前で-

 翌日、VRMMO、アイズフォーアイズにて。


「ログイーンっと」


 今日は朝からアカネと――なんとなくサクラには内緒にして――遊ぶ為に、アリクはこの世界にやって来た。スポーンするのは、昨日、ログアウトした場所であるドワーフの酒場前。すると、


「ん?」


 まだ開店もしてないというのに、やたらと人が多い。それに目立つのは、既プレイヤーに引きつられた若葉マークの初心者プレイヤー達である。


「な、なんだこれ?」

「あ、いたいた、アニキ!」

「おお、アカネ」


 そこに義賊姿のアカネがやってきたので、軽く挨拶。そのあとアリクは当然の様に聞いた。


「なんかやたら今日、新規プレイヤー多いよな、なんでだ?」

「なんでって、ほら、昨日のアレ」

「ああ、アレ?」


 そもそもアリクは昨日、このドワーフの酒場にて、シソラが参上するかもしれないライトオブライトの中継をフレンド達と眺めていた。

 なので、スカイゴールドの世界を越えた活躍と、そのあとの顛末嘘みたいな本当な話も把握している。


「え、って事は、こいつら、スカイの活躍を見て始めたプレイヤー?」

「そうさね、で、ドワーフの酒場ってアニキ達の御用達の店だからさ」

「ああなるほどなぁ」


 いわゆる聖地巡礼というものだろう。しかし、確かにスカイゴールドの活躍は凄まじかったが、ここまでの影響力があるとは思わなかった。


「ああでも、学校で習ったな、昔のVRSNSで人口が増えたの、人気WeTuberスタンなんとかさんの配信が切っ掛けだったって」

「結局、楽しそうにプレイしてる人が一番の広告さ」


 などとそんな話をしてる内に、


「え、あれ、アリクじゃない!?」

「ああ本当だブレイズレッドだぁ!」

「スカイに勝ったゴエモン、じゃなかった、アカネちゃんもいるぅ!?」


 二人の素性も気付かれる――ちょっとあわあわなアカネを見て、アリクは彼女を抱え上げ走り出した。


「え、アニキ、逃げるの!」

「チヤホヤされるのも悪くねぇが、今日はお前と遊ぶ約束だからな!」


 適当に撒いたら静かな場所ログイン制限に行こうぜと言って、ぐんぐん追ってくる者を突き放すアリク達。

 その最中でも、目に見えて新規ユーザーは増えていて、新たな人達が来る事に、隠せない喜びを覚えていた。







 一方その頃、上野にある国立科学博物館前。


「素晴らしかったな!」

「ええ、本当に!」


 その入り口直ぐに設置されてある、巨大なシロナガスクジラのオブジェの近くにて、二人は声をあげて、博物館での体験を喜びを語っていた。


「漫画で見てから、ずっと行きたかったんですよね」

「私は科学系WeTuberで興味をもっていたな、どれも本当に圧巻だった」


 地球の成り立ちや日本の風俗、動物の多様性や、科学の進歩と人類の営み、それらを時代に語り継ぐ事を目的とした展示物は、あらゆる意味で”他人事じゃない今の僕等を作る物”。二人は、この場所に驚嘆と感謝を覚えていた。


「本当なら、もっとゆっくり見ていきたかったが」

「アイさんが予約してくれた店に、行かなきゃいけませんしね」

「予約と言えば、社長がとってくれたお寿司屋さんは何時だったか?」

「18時ですね、その前に白銀湯に行って……」


 本日のプログラムは、ホテルに戻るまでずっとふたりっきり、正真正銘の東京デートである。朝から緊張はしていたものの、それよりも一緒に同じ好きな物を見て、好きな事をしていく楽しさの方が上回って、

 こんな時間がずっと続けばいい、そう思った時、


「――見つけた」


 声がした――二人、振り返ると、


「あは、あはは」


 そこに居たのは、二日前会った時とは明らかに違う様相を見せる、


「あーはっはっはっは!」


 郷間ザマの姿だった。

 ――一夜にして何もかもを失った者

 うまく生きてきたゲームがうまいつもりでありながら、ただただチート卑怯に助けられていた事に気付かれた者、

 そういう者達の怒はどこへ向かうのか? 当然、自責に全く陥らない他責主義は、


「お前だ」


 理不尽な逆ギレで、そして、その思いは、


「お前の所為だ!」


 呆気なく人を殺すに至る――彼はポケットの中のナイフを握り、狂気の笑みを浮かべながら、レインへとゆっくり近づき、そして、

 一気に距離を詰めようと、駆け出した。




 次の瞬間、ソラがレインの前に立ちふさがり、

 ――ザマがポケットから何かを取り出す動作を制止し


「へっ」


 と言った時には左手を握り、そのまま、

 ――ぐるりと一回転させた宙で側転

 手を握った状態で、シフトウェイトだけで、そうした後、

 すたりと、何事も無く着地させた。




「……え?」


 本日は日曜日、周囲に当然人は居る。ザマの奇声はもちろんだが、”背が低い男の子に手を握られてた背の高い男が、くるりと一回転した様”も当然、見られていた。


「え、な、なに今の? パフォーマンス?」

「固まってるけど」

「握手……? 仲良い……?」


 不幸中の幸いか、余りにも面相が違っているせいか、ここにいるのが郷間ザマだと気付く者は奇跡的にいなかった。ただ、そんな幸せの中でも、ザマは背筋を凍らせていた。


「……多分、来ると思ってました」


 ソラは、静かに呟く。

 ただ手を握られている、それだけなのに、

 ――目の前の、バカにしたはずの少年が

 とんでもない人の形をした化け物フィジカルモンスターである事を知り、そして、その眼差しが、

 自分を射抜いた怪盗のものである事にも気付いた、


「一つだけ、忠告します」


 その瞬間、


「僕のレインさんに手を出すな」


 ――白金ソラのその言葉と

 身も心も凍るような眼差しに、


「ひい」


 すっかり脅えた郷間ザマは、


「ひいいいい!?」


 色を無くして、そのまま、手足をバタバタさせながら逃げていった。その様子を見送るソラは、ため息を吐く。


(……ポケットの中、なんだったんだろう)


 もしもそれが凶器の類いだった場合、流石に、警察への通報案件ではあるが、


(確かめるような余裕、なかったなぁ)


 どちらにしろ今の事も、頼れる大人達灰戸やアイに報告すべきだろうと思ってると、


「ソ、ソラ」


 レインが話しかけてくる。振り返ると、何やら顔が真っ赤である。


「え、あの、どうしました」

「ど、どうしたって、今の、セリフ」

「セリフ?」


 ……この時、ソラは、


「あっ」


 とんでもない事を言ったのに、気付いた。

 ――僕のレインさんに手を出すな


(わぁぁぁぁ!?)


 どれだけ独占欲丸出しなんだと、どれだけレインが大切なんだと、そして、

 どれだけレインが、好きなんだと。

 こんなのはもう間接的な告白である、自分のうっかり溢れ出た思いが、相手に伝わってしまった事に、ソラも真っ赤になってわたわたもうそれは湯沸かし器のようにである。


「え、えっと、今のはその!」


 そして、何か言葉をひねり出す前にレインは、

 感極まって、ソラを思いっきりぎゅうっと抱きしめてしまった。


「ひゃわっ!?」

「す、すまない、でも、お前が悪いんだぞ! そ、そこまで言ってくれるから!」

「レ、レインさん、見られてますよ!」

「わかってる、わかってるが……!」


 嬉しいやら恥ずかしいやら、衆目の中、だっこしてぎゅーをされ続けるソラ。言葉では否定しつづけるけど、その心は、


(ああ、だめ、好き……)


 もうすっかり、彼女に溺れてしまうのだった。

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