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5-15 ロマンスの神様


 ――この人でしょうか







「え、ちょっと」

「モンスターの塔が」

「ぶった切れて、倒れるぅ!?」


 またもやミラクル漫画じゃねーか、全身全霊のクロの抜刀と、ブーストシフォンケーキをかけたアイのハッキングは、塔の一つを真っ二つにして、


「あ、アスレチックの塔に」

「スカイがいる方へ倒れる!」


 そのまま凄まじい勢いで根元を抉り、今度はスカイが頂点に立つ塔を倒して見せた。そしてその塔が向かうのは、


「――モンスターの塔」


 三つだけのドミノ倒し――謎解きの塔も倒れ始めるが、その矛先が、キューティが乗ってる頂点が向かうのは、


ダンスホール見た目は天守閣だぁ!」


 一直線に傾く謎解きの塔に、スカイは飛び乗り駆け出した。走って行くその先には、キューティが待っている。


『む、無理だぁ!』


 ザマの声が、明らかな動揺が、外に響く。


『このダンスホール天守閣の壁は、塔がぶつかる衝撃じゃ潰れないそういう設定!』


 どれだけ言葉で否定しても、ザマの不安は、いや、

 ――恐怖はけして無くならない


『無理だ、お、お前達は、僕の所まで絶対来れない!』


 だってその時キューティは、ダンスホールへと倒れていく塔の先端に乗ったキューティは、


『そんなの、すり抜けない限り!』


 ――両手を広げながら笑ってたから




 待ち構えていてくれたキューティに、

 スカイは全力で飛びつき、抱きついた。

 ――ファントムステップは浅くしか沈めない

 だけど、二人でならあの時のように、

 LustEdenの時のように、

 どんな浪漫だって、

 叶えられる。


「「ファントムロマンス怪盗浪漫!」」


 瓦礫と供に、ダンスホールまですり抜けグリッチて、

 ワルツを踊るように、ザマのいるダンスホールの宙に舞った。




 ――傍目から見れば、瓦礫の隙間をかいくぐってきたかのような二人に


『「ひいいっ!?」』


 ザマの悲鳴が、スピーカーと声帯から同時に飛び出す。自分の無様な声が漏れたのに気付くと、まずザマはそのパブリックボイススピーカを閉じた。

 そんな世間体を気にしている内に、


「いってこいキューティ!」

「ああ!」


 着地したレインが、全速力でザマへと向かって走り出す。


「ひっ」


 ザマは、自分から、今まで自分が貶してきた者達のような声が、漏れている事に驚きを覚えていた。

 自分が雑魚のように、情けない悲鳴をあげるだなんて、


「許せるか」


 耐えられない。


「許せるかよぉ! 君みたいな、臆病者にぃ!」


 その激情が、彼の体をチートに包む――最強の装備、最強のステータス、最強のコード、その余りにも過剰な力は、

 禍々しく可視化されている――装飾や突起がゴテゴテの剣や鎧、その上、宙にすら浮くのだから、誰の目から見ても、チートを使ってると解るくらい。

 だけどレインの胸中は、その圧倒的な装備より、

 ――臆病者

 その言葉が何よりも、胸を抉った。


(怖い)


 そうこの時に来てまで、レインの心は脅えている。

 あの時のトラウマに、支配されている、

 だが、


「私が今から、お前を殴るのは!」


 拳を固めて、


「お前への復讐の為じゃない、だけど、弱かった私への決別の為じゃない!」


 吼えて叫び、そして、


「弱かった私がいたからこそ! 生きる為の理由に気付けた事の、また強くなれた事の!」


 ただ、チートを展開する事しか考えなかったザマの、ガラ空きの顔面に、


「証明だぁ!」


 拳を叩き付ける。

 ザマの顔面が、ぐしゃりと歪む。

 ――VR上で痛みは無いが、衝撃はある


(あ、ああ)


 そしてその上で、ザマには呪いのような言葉を投げかけ予告状られていた。

 ぎゃふん、と、言わせる、と。


(だ、誰が君に対して、言うか)


 人と言う者は、それを否定しようとすればする程、


(言うか)


 それを認めてしまうという、一種の脳の、


(言うものか!)


 バグがある、そしてそれは、


「――このぉ」


 恐怖が切っ掛け、


「ザマァァァァァ!」


 名前を呼んだだけか、それとも言葉の方での意味でか、どちらにしろ、今までの思いを込めたキューティの――白銀レインの一撃は、その恐怖を呼びだすには十分なもので、

 結果、ザマは殴り飛ばされながら、

 いっそ清々しい程までに、


「ぎゃふん!」


 と、言った。

 ――それはパブリックボイスには流れなかったけど

 殴られる様と、口の動きの様子から、誰の目にも明らかなもので。

 ……そのまま仰向けに倒れたザマは、HPがまだある状態なのに、立ち上がらない、立ち上がれない。

 その様を、キューティが見守る中、

 ――3分までの時間を10秒も残して

 スカイが宝箱に近づき、それに触れて、機密データーをアイテムとしてストック盗む、これにより、勝負は怪盗側アイズフォーアイズの勝利に終わり、


「すげぇ!」

「怪盗最高!」

「アイズフォーアイズ最強ぉ!」


 ――多くの人々がこの幕引きに歓喜する

 それはまるで、世界が恋をするような熱だった。


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