――この人でしょうか
◇
「え、ちょっと」
「モンスターの塔が」
「ぶった切れて、倒れるぅ!?」
またもや
「あ、アスレチックの塔に」
「スカイがいる方へ倒れる!」
そのまま凄まじい勢いで根元を抉り、今度はスカイが頂点に立つ塔を倒して見せた。そしてその塔が向かうのは、
「――モンスターの塔」
三つだけのドミノ倒し――謎解きの塔も倒れ始めるが、その矛先が、キューティが乗ってる頂点が向かうのは、
「
一直線に傾く謎解きの塔に、スカイは飛び乗り駆け出した。走って行くその先には、キューティが待っている。
『む、無理だぁ!』
ザマの声が、明らかな動揺が、外に響く。
『この
どれだけ言葉で否定しても、ザマの不安は、いや、
――恐怖はけして無くならない
『無理だ、お、お前達は、僕の所まで絶対来れない!』
だってその時キューティは、ダンスホールへと倒れていく塔の先端に乗ったキューティは、
『そんなの、すり抜けない限り!』
――両手を広げながら笑ってたから
待ち構えていてくれたキューティに、
スカイは全力で飛びつき、抱きついた。
――ファントムステップは浅くしか沈めない
だけど、二人でならあの時のように、
LustEdenの時のように、
どんな
叶えられる。
「「
瓦礫と供に、ダンスホールまで
ワルツを踊るように、ザマのいるダンスホールの宙に舞った。
――傍目から見れば、瓦礫の隙間をかいくぐってきたかのような二人に
『「ひいいっ!?」』
ザマの悲鳴が、スピーカーと声帯から同時に飛び出す。自分の無様な声が漏れたのに気付くと、まずザマはその
そんな世間体を気にしている内に、
「いってこいキューティ!」
「ああ!」
着地したレインが、全速力でザマへと向かって走り出す。
「ひっ」
ザマは、自分から、今まで自分が貶してきた者達のような声が、漏れている事に驚きを覚えていた。
自分が雑魚のように、情けない悲鳴をあげるだなんて、
「許せるか」
耐えられない。
「許せるかよぉ! 君みたいな、臆病者にぃ!」
その激情が、彼の体をチートに包む――最強の装備、最強のステータス、最強のコード、その余りにも過剰な力は、
禍々しく可視化されている――装飾や突起がゴテゴテの剣や鎧、その上、宙にすら浮くのだから、誰の目から見ても、チートを使ってると解るくらい。
だけどレインの胸中は、その圧倒的な装備より、
――臆病者
その言葉が何よりも、胸を抉った。
(怖い)
そうこの時に来てまで、レインの心は脅えている。
あの時のトラウマに、支配されている、
だが、
「私が今から、お前を殴るのは!」
拳を固めて、
「お前への復讐の為じゃない、だけど、弱かった私への決別の為じゃない!」
吼えて叫び、そして、
「弱かった私がいたからこそ! 生きる為の理由に気付けた事の、また強くなれた事の!」
ただ、チートを展開する事しか考えなかったザマの、ガラ空きの顔面に、
「証明だぁ!」
拳を叩き付ける。
ザマの顔面が、ぐしゃりと歪む。
――VR上で痛みは無いが、衝撃はある
(あ、ああ)
そしてその上で、ザマには呪いのような言葉を
ぎゃふん、と、言わせる、と。
(だ、誰が君に対して、言うか)
人と言う者は、それを否定しようとすればする程、
(言うか)
それを認めてしまうという、一種の脳の、
(言うものか!)
バグがある、そしてそれは、
「――このぉ」
恐怖が切っ掛け、
「ザマァァァァァ!」
名前を呼んだだけか、それとも言葉の方での意味でか、どちらにしろ、今までの思いを込めたキューティの――白銀レインの一撃は、その恐怖を呼びだすには十分なもので、
結果、ザマは殴り飛ばされながら、
いっそ清々しい程までに、
「ぎゃふん!」
と、言った。
――それはパブリックボイスには流れなかったけど
殴られる様と、口の動きの様子から、誰の目にも明らかなもので。
……そのまま仰向けに倒れたザマは、HPがまだある状態なのに、立ち上がらない、立ち上がれない。
その様を、キューティが見守る中、
――3分までの時間を10秒も残して
スカイが宝箱に近づき、それに触れて、機密データーをアイテムとして
「すげぇ!」
「怪盗最高!」
「アイズフォーアイズ最強ぉ!」
――多くの人々がこの幕引きに歓喜する
それはまるで、世界が恋をするような熱だった。