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5-14 ライトオブライトAny%RTA

 ――怪盗スカイゴールドの3分宣言


「そんなの不可能だよ!?」

「いや、スカイゴールドならあるいは!?」

「てかぎゃふんって何!? どこの言葉!?」


 その言葉に周囲が盛り上がる中で、


(バカ言うな!)


 郷間ザマは、


(できる訳が無い!)


 自分に言い聞かせるように、スカイの発言を否定する。


(アトラクション、謎解き、モンスター! 三つのエリアに分けたのは、仮初めの達成感を与える為だぞ!)


 そう、二つまでは攻略させるが、三つ目までにはギリギリ届かせないという仕様。


(ただでさえ難易度をあげてるのに、各エリアを1分でクリアなんて、絶対に無理だ!)


 だがそれでも郷間ザマは、イベント主催として、


「い、いいでしょう、それでは!」


 動揺しつつも、進行を止める訳にもいかず、トラップコンソールを操作しながら、


「ゲームスタート!」


 という声と供にワープして、自身はダンスホールへ戻りつつ、

ツギハギの城に備えられた無数の大砲を、入り口の三人に向かって一斉射撃する!

 ――しかし再びクロスが刀を構え


一閃斬れぬ物無し


 ただの一振りで無数の玉を半分に分け、その爆発力すらを破壊しながら、後方へと斬り反らしてみせた。

 銃弾斬り――フィクションでしか成立しない事を、この仮想の世界で成し遂げた後、爆風に紛れて三人は入り口へと雪崩れ込む。

 そしてそのまま三人は分かれ、スカイはアトラクションエリア、キューティはモンスターエリア、クロスは謎解きエリアへと。

 3分切りという、不可能への挑戦が始まる。







 まず注目を浴びたのが、階層式上へ上へになってるアトラクションエリア、

その1F、初手から脱落者が続出だった、マグマの綱渡りに挑むスカイだった。


『さぁ、絶妙なバランス感覚が求められるけど、君にこれを攻略できるかなぁ!』


 フロアに、スピーカーオブジェクトを通してザマの実況が響き渡るが、そもそもザマにソラを渡らせる気は無い。何せ現在の綱の設定は、乗ればすぐ滑り落ちる。

だけどその綱を前に、スカイは、

 ――その縄を無視して、ファントムステップでマグマへと落ちた


『え?』


 自ら落下死を選んだかにみえるシソラだったが、

 ――沸きたつマグマに、彼の目には淡い光が見えていて

 そしてマグマは即死判定ではなく継続ダメージ――そしてダメージを受けた時の反動ノックバックを、ファントムステップに重ねた時、このパクリゲーム無理矢理システムをねじ込んだは、

 ――想定しない挙動を

 グリッチを、見せる。




 スカイはダメージを負いながらも、

 ファントムステップよりも高く飛び、

 マグマから綱を踏みしめるどころか、その遥か上、

 岩雪崩のステップを飛ばし、ギロチン振り子のステージまでショートカット上昇した。




『えええええええ!?』


 ザマが実況も忘れ、驚愕の声をあげる中、

 ――スカイの動きを見たギャラリーの、全員が思った


「「「配管工64のRTAだぁ!?」」」


 2089年、最早学校の授業でも習う程に有名な3Dアクションゲームの原型ハジマリ。2089年の今ですらプレイヤーがいて、クリア時間短縮の為の研究や修練が続けられている。

 数々の障害ギミックを前にしたスカイの動きは、全く、それの主人公に似ていた。


「え、今、壁に足をひっかけた!?」

「なんだよその安全地帯!」

「なんか斜めにかっとんでるぅ!?」


 システムを無理矢理ねじ込んだ、ベーターテスト段階のこの世界ゲーム

 間違い探しの達人ワールドデバッカーにスカイとってこのフィールドは、


「――楽しいなぁ」


 あらゆるグリッチが使い放題の、


「楽しいなぁ!」


 自由に踊れる舞台だった。彼のステップはますます加速し、あっという間に塔の最上階へと向かって行く。







 続けて、モンスターエリアの塔に、


『な、なんか、怪盗が凄いけど!』


 ザマの声が響く。

 怪盗の活躍は想定外であるが、ザマにとって大事なのは、


『忍者の方はどうかな!』


 シルバーキューティが、白銀レインが、無様を晒す事である。

 モンスターエリアのレベルも、当然、クリア不可能レベルになっている。見た目はスライムなのに中身はレベル99パッケージ詐欺など、それら最上級を最上階にたっぷりと溢れさせていた。

 だが、


『はぁっ!?』


 キューティはその最強のモンスター達を――全てよみふぃぬいぐるみで無限に拘束していった。


「うわぁ、スライムもオークもスケルトンすらも!」

四つ耳三ツ目二つ眉の一個口四三二一→よみふぃのマスコットキャラになってる!?」

「かわいい!」


 対象を1分間拘束出来るレアアイテム、それを無限バグに用意出来るキューティにとって、モンスターはただの障害物にしか過ぎない、そして、


「こんなもの、林の中の修行と比べれば、足止めにもならぬ!」


 ソラとの通学路を思い出しながら、ザマの叫びがまた響き渡る塔を、どんどん上へと登っていった。







 ザマの表情が強張るのに対し、スカイとキューティの活躍を見ているあらゆる者達は、熱狂し、歓喜する。

 アイズフォーアイズのプレイヤーも、


「スカイの動きいつも以上にヤバいって!?」

「キューティがんばれ、急げぇ!」


 ライトオブライトしか知らない者も、


「か、怪盗かっこいいけど、この世界ゲームには無いジョブだよな!」

「私、アイズフォーアイズをする!」


 普段ゲームをプレイしない者も、


「すごいすごい、こんなのリアルで見た事がない!」

「いや、やってる事バーチャルだけど!」


 そして最早、郷間ザマのファンすらも、


「ねぇ、あの人、スカイゴールドって言うの!?」

「こんなの好きになるぅ!」


 あらゆる世界立っている場所の垣根を越えて、最早惹かれざるを得なかった。それはそう、”異世界からの乱入者”であり、”難攻不落の城を突破する怪盗”なんていう、映画のような活劇を、リアルタイムで行う者達だもの。冷笑主義も、長期スパンで見ると悪くは無いが、短絡的に考えるなら、お祭り騒ぎには自ら飛び込んだ方が得をする感動しようとしない奴に感動はやってこない

 無論そういうのを一番嫌うのが、


(バカが!)


 郷間ザマという男であるが。


(バカどもが!)


 ダンスホールで、ひたすらに彼は、怪盗達への罵倒を投げていた。

 本来なら、ザマも全力にこの騒ぎにノるのが、自分が生き残る手段だ、しかし、

 ――怪盗達の狙いの一つは、ライトオブライトの不正を暴く事

 これを盗まれてしまっては、今回の騒ぎが”ただの台本有りきのイベント”ではなく、”本当に怪盗が悪にお仕置きをした”という事になってしまう。

 そうなれば、ザマも一巻の終わり、しかし、


(――だけど、どうやって僕の所まで来るんだ?)


 居城最上階へ転送される為には、三つの塔の最上階にあるアイテムを揃える必要がある。そしてそのアイテムは、共有出来ない。

 それにもう一つ、モンスターエリアに入っていった黒コートの男、確かに強くはあるものの、まだ塔の半分にもいってない。

 だけど確実に何かがある。


(いやでも、そもそも転送されてこなければいい、ダンスホールはオブジェクト厚い壁に囲まれて、入り口も出口も無い)


 どれだけ安心を並べ立てても、


(ああ)


 不安が募るばかりなので、


「あぁぁぁぁぁっ!」


 とうとうザマは、取り繕うことが出来ず、叫んでしまった。それにギョッとするプレイヤー達だったが、ザマは続ける。


「いや、凄いよ! 二人とも! でもそこからどうする、最上階のアイテムをとったところで――」


 しかしその時、

ダンスホールのモニターに映るスカイとキューティは、


「え?」


 転送用アイテムを無視して、窓から飛び出て、そのまま塔の天辺に立った。


「はぁ? 何して?」


 ――次の瞬間

 謎解きエリアの塔を映す、モニターから、

 声がした。


『二人とも』


 ――ザマの目にもけして捉えられぬ


一閃ぶちのめしてこい


 瞬速で。




 ――ブラッククロスが居合いで放った刀の一振りは

 塔の一階、謎の答えを入力する装置フェルマーの定理レベルの前で、空を切る。

 だが次の瞬間、装置が斜めに真っ二つに切れて、そして、

 塔そのものまでもが、切断される!




「えええええ!?」


 ダンスホールに声が響き渡る中、塔の倒壊が始まった。


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