――怪盗スカイゴールドの3分宣言
「そんなの不可能だよ!?」
「いや、スカイゴールドならあるいは!?」
「てかぎゃふんって何!? どこの言葉!?」
その言葉に周囲が盛り上がる中で、
(バカ言うな!)
郷間ザマは、
(できる訳が無い!)
自分に言い聞かせるように、スカイの発言を否定する。
(アトラクション、謎解き、モンスター! 三つのエリアに分けたのは、仮初めの達成感を与える為だぞ!)
そう、二つまでは攻略させるが、三つ目までにはギリギリ届かせないという仕様。
(ただでさえ難易度をあげてるのに、各エリアを1分でクリアなんて、絶対に無理だ!)
だがそれでも郷間ザマは、イベント主催として、
「い、いいでしょう、それでは!」
動揺しつつも、進行を止める訳にもいかず、トラップコンソールを操作しながら、
「ゲームスタート!」
という声と供にワープして、自身はダンスホールへ戻りつつ、
ツギハギの城に備えられた無数の大砲を、入り口の三人に向かって一斉射撃する!
――しかし再びクロスが刀を構え
「
ただの一振りで無数の玉を半分に分け、その爆発力すらを破壊しながら、後方へと斬り反らしてみせた。
銃弾斬り――フィクションでしか成立しない事を、この仮想の世界で成し遂げた後、爆風に紛れて三人は入り口へと雪崩れ込む。
そしてそのまま三人は分かれ、スカイはアトラクションエリア、キューティはモンスターエリア、クロスは謎解きエリアへと。
3分切りという、不可能への挑戦が始まる。
◇
まず注目を浴びたのが、
その1F、初手から脱落者が続出だった、マグマの綱渡りに挑むスカイだった。
『さぁ、絶妙なバランス感覚が求められるけど、君にこれを攻略できるかなぁ!』
フロアに、
だけどその綱を前に、スカイは、
――その縄を無視して、ファントムステップでマグマへと落ちた
『え?』
自ら落下死を選んだかにみえるシソラだったが、
――沸きたつマグマに、彼の目には淡い光が見えていて
そしてマグマは即死判定ではなく継続ダメージ――そしてダメージを受けた時の
――想定しない挙動を
グリッチを、見せる。
スカイはダメージを負いながらも、
ファントムステップよりも高く飛び、
マグマから綱を踏みしめるどころか、その遥か上、
岩雪崩のステップを飛ばし、ギロチン振り子のステージまで
『えええええええ!?』
ザマが実況も忘れ、驚愕の声をあげる中、
――スカイの動きを見たギャラリーの、全員が思った
「「「配管工64のRTAだぁ!?」」」
2089年、最早学校の授業でも習う程に有名な3Dアクションゲームの
数々の
「え、今、壁に足をひっかけた!?」
「なんだよその安全地帯!」
「なんか斜めにかっとんでるぅ!?」
システムを無理矢理ねじ込んだ、ベーターテスト段階のこの
「――楽しいなぁ」
あらゆるグリッチが使い放題の、
「楽しいなぁ!」
自由に踊れる舞台だった。彼のステップはますます加速し、あっという間に塔の最上階へと向かって行く。
◇
続けて、モンスターエリアの塔に、
『な、なんか、怪盗が凄いけど!』
ザマの声が響く。
怪盗の活躍は想定外であるが、ザマにとって大事なのは、
『忍者の方はどうかな!』
シルバーキューティが、白銀レインが、無様を晒す事である。
モンスターエリアのレベルも、当然、クリア不可能レベルになっている。
だが、
『はぁっ!?』
キューティはその最強のモンスター達を――全てよみふぃぬいぐるみで無限に拘束していった。
「うわぁ、スライムもオークもスケルトンすらも!」
「
「かわいい!」
対象を1分間拘束出来るレアアイテム、それを
「こんなもの、林の中の修行と比べれば、足止めにもならぬ!」
ソラとの通学路を思い出しながら、ザマの叫びがまた響き渡る塔を、どんどん上へと登っていった。
◇
ザマの表情が強張るのに対し、スカイとキューティの活躍を見ているあらゆる者達は、熱狂し、歓喜する。
アイズフォーアイズのプレイヤーも、
「スカイの動きいつも以上にヤバいって!?」
「キューティがんばれ、急げぇ!」
ライトオブライトしか知らない者も、
「か、怪盗かっこいいけど、この
「私、アイズフォーアイズをする!」
普段ゲームをプレイしない者も、
「すごいすごい、こんなのリアルで見た事がない!」
「いや、やってる事バーチャルだけど!」
そして最早、郷間ザマのファンすらも、
「ねぇ、あの人、スカイゴールドって言うの!?」
「こんなの好きになるぅ!」
あらゆる
無論そういうのを一番嫌うのが、
(バカが!)
郷間ザマという男であるが。
(バカどもが!)
ダンスホールで、ひたすらに彼は、怪盗達への罵倒を投げていた。
本来なら、ザマも全力にこの騒ぎにノるのが、自分が生き残る手段だ、しかし、
――怪盗達の狙いの一つは、ライトオブライトの不正を暴く事
これを盗まれてしまっては、今回の騒ぎが”ただの台本有りきのイベント”ではなく、”本当に怪盗が悪にお仕置きをした”という事になってしまう。
そうなれば、ザマも一巻の終わり、しかし、
(――だけど、どうやって僕の所まで来るんだ?)
居城最上階へ転送される為には、三つの塔の最上階にあるアイテムを揃える必要がある。そしてそのアイテムは、共有出来ない。
それにもう一つ、モンスターエリアに入っていった黒コートの男、確かに強くはあるものの、まだ塔の半分にもいってない。
だけど確実に何かがある。
(いやでも、そもそも転送されてこなければいい、ダンスホールは
どれだけ安心を並べ立てても、
(ああ)
不安が募るばかりなので、
「あぁぁぁぁぁっ!」
とうとうザマは、取り繕うことが出来ず、叫んでしまった。それにギョッとするプレイヤー達だったが、ザマは続ける。
「いや、凄いよ! 二人とも! でもそこからどうする、最上階のアイテムをとったところで――」
しかしその時、
ダンスホールのモニターに映るスカイとキューティは、
「え?」
転送用アイテムを無視して、窓から飛び出て、そのまま塔の天辺に立った。
「はぁ? 何して?」
――次の瞬間
謎解きエリアの塔を映す、モニターから、
声がした。
『二人とも』
――ザマの目にもけして捉えられぬ
『
瞬速で。
――ブラッククロスが居合いで放った刀の一振りは
塔の一階、
だが次の瞬間、装置が斜めに真っ二つに切れて、そして、
塔そのものまでもが、切断される!
「えええええ!?」
ダンスホールに声が響き渡る中、塔の倒壊が始まった。