――VRMMOライトオブライト
ゲームの内外問わず、多くの人々の注目が、宝箱の前で焦りをみせているザマでなく、ラビリンス入り口の怪盗達に集まる中で、
「――クロスって」
その怪盗のリーダー、スカイは、ヘルメットから三つ編みを下げる、黒いコート姿の存在に、呆然としていた。
「え、誰々あの男!?」
「怪盗の新メンバー!?」
他のプレイヤーが、その正体が解らない中で、ソラには心当たりがある。
彼には、黒統クロという幼馴染みが居た。
小説、漫画、アニメ、あらゆる
だけど黒統クロは、中学生になる前に、突然姿を消した。
もしも目の前の、刀を下げたコートの男が
その幼馴染みだというのなら――
「あの」
「怪盗スカイゴールド」
クロスは、スカイの言葉を遮るように、
「俺の素性より、今は大切な事があるだろ?」
クロスは、ヘルメット越しでも伝わるくらいに、
「郷間ザマを、ぎゃふんと言わせる」
笑顔でそう、告げてみせる。
「……わかった、ブラッククロス」
スカイも今は、笑みを見せる。そしてレインに目配せをした、その時、
「初めましてですね、怪盗スカイゴールド!」
ザマが――スカイ達の前に、ワープして来た。
そしてにこにこと笑みを見せる、だが、
(何を考えて乗り込んできた、クズが! 僕の秘密を盗もうとして!)
無論、その心は苛立ちに塗れている――だが、
(……本当に、何を考えて、乗り込んできたんだよ?)
郷間ザマが、アイズフォーアイズまで、レインを追ってこなかった理由は、”白金ソラ”の予想通り、株式会社ZEROのゲームでしか
だが、ライトオブライトに置いては、彼は絶対的強者。
(ああ、もしかして、リベンジしたくて僕と対決するイベントをねじこんだの? 昨日今日の思いつきか、それともあらかじめ決めてかはわかんないけど)
ザマは、心の中で、
(
どこまでも、レインを見下しながら、
(この世界で僕に適う訳ないだろ、
表面では、爽やかな笑みを浮かべる。
「僕も知らなかったんですけど、運営は、こんなイベントを用意してたんですね!」
「――ああ、そうだな、我と、クロス、そして」
スカイはそこで、視線を彼女に、
「シルバーキューティと、お前との直接対決だ」
白銀レインのアバターへと向けた。レインは、視線をひたすらにザマへと向け、屹立する。
――だが
「震えてどうしました、キューティさん?」
「っ!」
レインの体は震えていない、だけど、心はそうじゃない。
レインを、弱者達を、蛇のように見て来た男だからこそ、ザマはレインの中にある脅えを見抜く。
(――この男は)
あの頃と同じような、天使のように笑いながら、
「あ、大きなイベントだから、緊張しちゃってるのかな?」
心の裏で、悪魔のようにほくそ笑んで、
「それとも、何か思い出した?」」
その
幸せな日常が、ただの噂一つで、徐々に自分へと牙を剝き、
そしてその仕掛け人が――恋人にはならなかったが、友だと信じていた者だった事の驚愕。15歳にして、自分の心に突き刺さった
そしてここで白銀レインは郷間ザマに対し、憎悪を抱けなかった。ただ、恐怖した。
怒りや屈辱を覚えられない己、そこまでされて、脅え逃げる事しか出来なかった、自分の弱さに対する絶望。
あの頃が、全身を飲み込みそうになった時、
「キューティ」
その一言が、
……スカイから彼女の背中へとかけられた、重くも無く軽くも無い、いつもどおりの呼びかけが、
彼女の凍てつく心に
「まぁそもそも、忍者ってこそこそ逃げるタイプのジョブだから、このイベントには不向きかも」
だから、キューティは、
「――お前こそ」
「ん?」
キューティは言った。
「逃げるのか?」
――その一言が
他の者からなら、笑って受け流していただろうその言葉が、
よりにもよってあの
「そんな訳ないだろ!?」
「うわ、ザマさん叫んだ?」
「え、怒った? 怒った?」
「あんな姿見せるの珍しいねぇ」
今までの会話の内容こそ届いてないけれど、穏和な彼が叫んだ様子はバッチリと見られ、彼の
「挑戦を受けてくれてありがとう、ライトオブライトの
あとはもうスカイが、講じていたあらゆるプランの中から、この状況に最適解の流れに”盛”っていく。
「ルールは30分以内に、お前の後ろに現れた宝箱を盗み出せたら我達の勝ち」
「その宝箱には、この世界の秘密が隠されているらしいからな」
秘密という言葉に、プレイヤー達は騒ぎ出す。それがきっと前向きな情報だと信じているから。
しかし、ザマがさっき伺ったものはそんなものじゃない。
(公式チート、アイズフォーアイズのデーターをパクった証拠、RMT業者と癒着してる奴のやりとり情報!)
ザマにとって問題なのは、
(――僕の不正の証拠!)
その一点、そう、それは存在しないはずのものだった。ライトオブライトの悪事がバレた時、
(あのクソ社長が、何してるかなぁ!)
眞司マンジという男が、郷間ザマという男をいつか脅す為に、個人的に保管していた
どちらにしろ、この宝箱を盗まれれば、ZEROだけでなくザマも終わる。
それでもザマは――笑みを浮かべた。
「わ、わかりました、キューティさん、さっきはどなってごめんなさい! ライトオブライトは、公平平等なVRMMO、あなたがたの挑戦を受け入れます!」
そう、諸手をあげて歓迎の素振りを見せるが、
「――相変わらずお前は、偽るのがうまいな」
レインはただ、そう言った。
ザマだけでなく、全員がぽかんとする中で、クロスが一歩、ノービスオブラビリンスの前に踏み出す。
そして刀を抜きながら、
「アイさん」
そう呟くと、彼の刀身が光り出した。その状態で、背後の二人に呟く。
「昨日の打ち合わせで言った通り、俺のグリッチは」
そうそれは、
「――データー破壊だ」
シソラの友達、グドリーのアカウントを消した力。
――虹橋アイとのハッキングとの連携により
彼にだけ見える、淡い光へと放った一閃は、
ノービスオブラビリンスの
「えっ」
ごく普通を装った城の姿が崩れていき、
剥き出しのままに現れたのは、
「ええええ!?」
――様々なデーターをツギハギしたキメラダンジョン
アイズフォーアイズのいえもん城をベースにした、不格好なオブジェクトだった。
「え、なになに!?」
「ノービスオブラリンスがバグった!?」
「なんか日本のお城っぽくなったんだけど!?」
突如目の前に現れた、異様としかいいようがない建築物に対して、
「いやていうかこれ、桜国のいえもん城じゃん」
「あれ、でもあそこの部分デッカブリッジじゃね?」
「ドラゴンツリーのトラップもあるんですけど!」
アイズフォーアイズプレイヤーが、見知ったオブジェクトに対して言及する。辛うじて、ザマが今いるダンスホールだけはオリジナルだが、それ以外は全くアイズフォーアイズのダンジョン丸パクリだった。
「ノービスなんてよく言えた物だね」
肩をすくめながら、スカイ、
「
「い、いや、これは」
汗をだらだら流すザマ、だったが、
「そ、そう、実はライトオブライトは、ZEROの元社長の灰戸ライド氏にも協力いただきまして、このイベント用のダンジョンも、素材を提供してもらったんです!」
そう慌てて切り返す。半分はその意見に盛り上がるが、もう半分は困惑した。
「いや、灰戸社長と眞司社長ってめちゃくちゃ仲悪いだろ?」
「でもこうやってコラボしてるって事は、仲直りした?」
「にしたって、この演出は悪趣味すぎますよぉ」
ザマとて、この言葉に無理があるのは百も承知である。だがそれでも切り抜けなければならない。
「せ、制限時間は30分!」
そう言いながら、トラップのコンソールを弄り、全てを”クリア不可能”レベルまであげる。
「それまでに、怪盗達は、この宝物を盗めるか」
しかし、難攻不落の城を前にして、スカイは、
「――3分だ」
そう、あっさりと宣言した。
「……え?」
ザマが呆気にとられ、周囲がどよめく中、スカイは、
「予告状、忘れてないよね郷間ザマ」
そう言った後、何かを促すように、キューティへ視線をやる――一瞬、顔を赤らめた彼女だったが、
すぐにモニターへと向き直り、
「今からお前を、ぎゃふんと言わせる!」
そう、強く言って見せた。
――現実世界の二人の手はその時
堅く強く、握られていた。