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5-12 グラットンモードは最強

 ――リアルのソラ達が居る、ホテル2Fの多目的ルーム

 AIの特性は、創造力よりもその学習能力である。AIは、人間ではとてもじゃないが覚えられない無数のデーターを、ほぼ無限に記録する。

 ただしその為にはバカみたいに電力が必要、いくら吸収しても満たされないよう、情報をひたすらに収集する様は、まさに大食らいグラットンの名にふさわしい。

 ――膨大な情報を以て神を為す

 アイズフォーアイズの基幹AIの名はテンパランス、節制と調和をもって世界を管理する。

 しかし、時に世界そのものを食らう時には、”アイズフォーアイズのシステムをパクって作られたライトオブライトに無理矢理にアイズフォーアイズのキャラをぶちこむ”為には、


「――おいィ」


 東京甘味を貪りながら、


「おいィィィ!」


 暴食の獣になる事も致し方ない。今、虹橋アイは、体どころかその長髪も虹色ゲーミングに輝かせながら、リアルタイムでライトオブライトにハッキングを仕掛けてた。

 仮想のインターフェース入力手段も格段に増え、まばたき、呼吸、果ては最早頭の中で思うだけで脳波コントロールできる仮想PCを操っていく。


「グラットンすごいですね!」

「それほどでもない!」


 超ハイテンションの彼女を更に鼓舞する灰戸の言葉にも、謙虚に答えるアイ。ちょうどそのタイミングで、灰戸に通信コールが届いた。

 それに応答一番、灰戸は叫んだ。


「連絡が遅いぞ眞司マンジィ!」

『な、な、なんだよぉ!?』


 コールしたのにいきなり叫ばれたもんで、眞司は明らかに動揺を見せた。


『いや、もう、お前は何をしてるんだ!? なんで私のゲームに、お前のゲームのプレイヤーがいる!?』

「いや、ちょっと盗ませてもらいたくてね」


 灰戸、ニヤリと笑い、


「俺達から盗んだ一切合切と、久透リアの手がかり、そして、お前達の不正の証拠」

『ふ、不正!?』

「ああ、今更しらばっくれてくれるなよ?」


 WeTubeの配信、ザマの背後に、


「ジキルがあたりをつけていたライトオブライトのシークレットデーターを、怪盗達が盗み出せるように」


 白い輝きが現れて、


「今、アイ君が”お宝化”した」


 それが納まると――蓋が半開きになっている、大きな宝箱が出現した。この演出に、現地組や視聴者は興奮を隠せないようだったが、


「ははは! 眞司、お前も見ているか、ザマの顔を!」


 モニターで確認出来るザマの表情は、明らかな焦りを見せている。


「宝箱の中に、よほど人に見せたくない情報ものがあるようだな!」


 その証拠に、ザマは慌てて宝箱に駆け寄り、蓋をしっかりと閉めた。プレイヤーや視聴者達はザマの挙動に不可思議なんでなんで?を覚えつつも、最早このイベントに、すっかり色めきたっている。

 ――ライトオブライトVSアイズフォーアイズ

 両方のVRMMOを知ってる者ならば、灰戸ライドの出自も含めれば、この構図に、興奮しないはずもない。


「なぁに、盗まれなければいいだけだ、ゲームの設定プログラムが強すぎるせいで、スカイ君達がその宝を盗まなければ、我々も不正の証拠は手に入れられないのでね」

『そ、それにしたって、おかしいだろ!?』

「何がだ?」

『全てだ! な、なんで、こんな目立つような事をする!? 不正の証拠を盗む手段がこれ以外無い? お前、他にちゃんと試したのか!』


 眞司の指摘は、的外れという訳ではない。

 機密情報を盗み出す手段が、ゲームのイベントをクリアする事。仮にそうなったとしても、まともなら、別の術が無いか模索するはずだ。わざわざこんなおおっぴらにやる必要も無い。

 実際――郷間ザマもその事を認識して、”なぜ普通にデーターを盗まなかったのか?”と困惑している様子が、見て取れた。


「――我々はこそ泥じゃないんでね」


 しかし、灰戸は迷わなかった。


「怪盗なんだから、世間にかっこよく見せ付けなきゃなぁ劇場型犯罪!」

『この享楽主義者エンタメ大好き人間がぁっ!?』


 こっそり静かに糾弾するのでなく、すっきり派手に満座の前で罪を暴く。怪盗とは、そうでなくてはならない。古事記には流石に書かれて無くても、数多の作品で書かれてる。

 ――その為ならば虹橋アイは

 大切な仲間と、その友達の為ならば、


「グラットンモードは闇と光が備わり最強ぉ!」


 202cmの細胞全てを、デジタルに燃やす事を厭わなかった。







 ――東京都、新宿御苑

 日本の首都の特徴として、想像以上に公園が多い事があげられる。特に新宿という、ゲームでも有名な夜の街の象徴がある地域にも関わらず、この公園はまるで喧噪のエアポケット。緑の芝生、木々の彩り、例え夏の暑い日でも、癒やしを求めて訪れる人々が多数。

 ここより臨む高層ビルと、空を飛ぶ旅客機を、どこか別の世界のものように感じる人がいる中で、

 彼女は――久透リアは、その広場にて、この季節なのに汗一つかかずに、木陰の下でARを起動し、ライトオブライトの様子を、”配信”ではなく”ハッキング”を眺めていた。

 怪盗達の登場と、それに湧く観衆、そして、


「――虹橋アイ」


 見えなくとも見える、彼女のみわざに、素直に驚嘆していた。


「ここまで、成長、したか」


 システムは同じだから、別ゲームのデーターを持って行ける。

 ただしそれは、あらゆるセキュリティ障害を乗り越えられたらの話である。


「ただ、想定内、ではある、誤算、でもない」


 だがそれでも、リアは、


「少し、嬉しい」


 そう、無表情のままに呟いた。

 ――そしてリアはそのまま視線を

 ”想定外”であろう状況に、笑顔の奥で戸惑いを見せる見えなくても見える、郷間ザマに注目する。


「君も、とても、興味深い」


 そしてリアは、祈るように、

 また、呟いた。


「――プライドの、真価は」


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