――時刻は15時、ライトオブライトにて
プレオープンイベントに
『さぁ、僕の所まで辿り着けるかな!』
最上階までに辿り着いた者だけが、ナイトに扮する郷間ザマとのPVPに挑む事が出来る。勝てば2000万円という破格のイベントに、有名なプロゲーマー達も並んでいた。
(まぁもちろん、厄介そうなのは審査で弾かせたけど)
万が一の可能性は排除するこの男、ザマは、ソラの予想通りチート使いである。
ザマも、そして社長である眞司マンジも、それが悪い事だとは思わなかった。
――ゲームはエンターティメントであるのなら
ゆえに、今のザマにとって、プレイヤーの笑顔は、
(楽しいなぁ)
本当に、キラキラ輝く宝物だった。
(本当、クズばっかりだ)
――
『制限時間は30分、それじゃ、スタート!』
ザマの号令を合図に、プレイヤー達は駆け出した。賞金目的、売名行為、純粋にゲームを楽しむ為、そして、
何よりもザマにとって嬉しいのは、
――自分と直接話したいがためだけに、ゲームに参加した者
(会える訳ないだろ?)
そういう者が現れる度に、彼の心は、
(
◇
――イベントが始まって15分後
「待たせた」
「あ、おかえり~クロ君、ちゃんと買えた?」
「ああ」
クロはアイの傍にあったテーブルに、ダンボールの中身をぶちまけた。中から出てきたのは――様々な意匠で
「東京ばなナ! 金の鈴もなか! レンガパンにバターメープルクッキーも!」
テーブルの上に山盛りなのは、東京駅で売られているお菓子、ばなナをあけて、あむっとはみつくアイ。しっとりあまい甘味に、脳に喜びをあげさせていると、
「これだけ糖分があれば足りるだろうけど」
クロ、ダンボールとは別に持って来た、紙袋の中から取りだしたのは透明なタッパー。その中身は、
「手作りのシフォンケーキ!」
「
手ずから作ったものも、東京土産の脇に添えた。そうしてから、自身のデバイスのARを起動する――アイは自分の周りに沢山の仮想モニターを浮かべ、ライドはライトオブライトのWeTube配信をながめ、そして、
ソラとレインは、肌に貼り付けたテープPCを輝かせながら、手を繋いで、既にVRへとログインしていた。
ぼうっと、座っている二人の様子を眺めるクロの背後で――ガリィ! っと聞こえる。振り返ると、仮想で再現した堅ボーロを、噛み砕き、そして嚥下するジキルの姿。
『ソラと手を繋ぐと、すり抜けグリッチがレインも使えるようになる』
他の誰にも真似できない、レインだけの特性であるものの、
『いや本当訳がわかんないんし、どうなってんのこれぇ?』
そのメカニズムは解明されていない。そんなの有り得る? と、ジキル、アイに聞いた。すると、アイはにこやかに答えた。
「きっと、愛じゃないかしら~」
『いや、ゴリゴリ理系のAI担当が、愛とか言うなし』
「え~でも~そっちの方がステキじゃない、ねぇ、社長~」
「ああ! 全ては愛によって生まれる!」
そう豪快に笑った灰戸だったが、
「――ゆえに、とても残念だ眞司マンジ、昨日会った時にお前に、何か事情がある様子がでも伺えれば、今回の計画も行わなかったが」
――
「俺はこいつの非道を、見逃すわけにはいかん!」
愛無き者への罰を。
ただし、それは、
「……相手に非があるにしろ、俺達の行為はけして褒められたものじゃない」
黒統クロはが指摘する通り、久透リアへの手がかりを求めているとはいえ、アイズフォーアイズへの被害を、法的な機関に頼らず私的に解決しようとするのは、社会的に考えれば問題があった。
だが、それでもだ、
「ソラと、ソラの友達を悲しませる奴は、許せない」
それは何よりも、クロが優先する事だった。
「なぁに、これは
ライドはニヤリと笑い、
「ならば、
それこそが彼等の
――神の悪徒達の誇りは
ソラ達の
「クロく~ん」
「――ああ」
呼びかけたアイに渡されたテープPC、クロは、それを箇所に貼り付けた後、レインと手を繋ぐ、幼馴染みの隣に行く。
今はVRの世界をみつめている、かつての友達の顔を、ヘルメット越しで見た後、
メニューを起動してログインし、
「行くぞ」
その声と供に彼は、ソラやレインと同じく無防備な状態になった。
『それじゃ私も、予定通りよろしく』
続けて、AR空間からVR空間へと移動するジキル、部屋に意志あるままに残るのは、灰戸と、そして、
大量の東京銘菓を、味わいながら貪りつつ、仮想のキーボードを叩くアイのみ。
「そろそろ食事時かね?」
「――ええ」
灰戸の言葉に呼応するように――アイの長身の周囲を、仮想上のモニターにキーボード、左手デバイスも増えていく。タイピングだけでなく、視線の移動や首の動きでもコンソールを操作し、次々と画面を呼びだして、
「テンパランスモード反転!」
彼女は、テープPCを貼ってない素肌に、
「発動! グラットンモード!」
――虹色の幾何学模様を浮かび上がらせた
◇
15分後、ライトオブライト。
「なかなかやりますね、だけどこれで!」
ノービスオブラビリンスの最上階のダンスホール。残り時間10秒で、騎士姿のザマの元へ辿り着いた唯一の
「
光輝く剣の一閃を見舞う――挑戦者はそれを、紙一重で回避したが、
(チートっと)
その僅かな差を埋めるプログラムが発動した。結果、ダメージを受けたプレイヤーは敗れ倒され消失し、そのまま時間切れのアラームが鳴った。
「うわぁ、惜しい!」
「だけどやっぱりザマ氏が強し~!」
「すごいすごい、本当にすごぉい!」
モニターで激闘を見守っていたファン達は、まるで
「応援、ありがとうみなさん! でも、僕も
そこでザマは、カメラ目線。
「見て貰った通りライトオブライトは、誰もが平等にチャンスがあるVRMMOです! この世界では、理不尽なんて存在しなく、僕も皆も、一緒にこの世界を生きる一人のプレイヤーです!」
そんな事はない、この世界は公平感だけは演出しといて、いかにそこから搾取するかに特化したゲームである。
(本当は僕だけ、
だけどそれは、眞司マンジや郷間ザマにとっては、当たり前の事。
(だって君達は、騙されなきゃ幸せになれないだろ?)
ザマにとって、騙すという行為は、
(疑う事を捨てた、バカなんだから)
バカの相手をしてあげる為の、当然の対価であった。
――だけどそれは誇りなどでは無く
ただの傲慢にしか過ぎないのだから、
「……ん?」
それを
現れる。
――ノービスオブラビリンスの入り口である、門前の橋に
「え、ちょ、ちょっと何!?」
「なんかゲートっぽいの出てない!?」
バチリバリチと火花が飛び散り、如何にもといった異空間への入り口が、ぐいぐいと拡大していく。
「え、な、なに!?」
全く知らされていない展開を、ダンスホールにもあるモニターで確認しながら、ザマも観衆達と同じ反応をする。
(もしかして、僕も知らないサプライズ? そういうのは嫌いなんだけどなぁ)
そう思ったザマだけど、
ゲートが開ききり、そこから、
――現れたのは
「え?」
ザマはその光景に、呆気に取られ、
「ええっ?」
そしてテストプレイヤーの半分も戸惑いを見せたが、
「――来た」
残り半分は、
「本当に来たぁ!?」
「うっそマジで!」
「予告状の通りじゃん!」
――歓喜を叫ぶ
その声に答えるように現れたのは、
「――我が名は怪盗スカイゴールド」
システム上、絶対に、この
「罪には罪を! 世界奪還の時来たり!」
ノーネクタイの怪盗と、
凛と立つ、忍者の姿だった。
――ジキルとアイの共同作業
(はぁぁぁぁぁぁぁ!?)
喉を震わせ発声したかった驚きを、なんとか無理矢理抑え込みながら、ザマは、スカイとキューティの姿をみつめる。
(有り得ないだろ!? なんで、ライトオブライトに、アイズフォーアイズのアバターでログインしてるんだ!?)
そんな風に心中はパニくりつつも、体は冷静にすべき事を選んでいた――
(
ラビリンスに配置されたトラップはコントロール出来る――外に設置されている大砲を操作し、最大火力で、橋上のスカイとキューティに向けて放った。二人は、それに即座に反応し、避けようと動いたが、
――次の瞬間、ゲートからもう一つの影が降りて
「伏せろ」
その声を聞いたスカイとキューティは、言われるままにしゃがみ込む。すると、頭上を何かが通り過ぎる。
――それが刀の一閃であった事を
スカイとキューティは、大砲の弾が二つに分かれ、後方で爆発した事から知った。
「はぁ!?」
とうとう、ザマから声が漏れる。しかし驚いたのは彼だけじゃない。
「い、今のは」
「いや、お前は」
「……俺は本来、人でなしの暗殺者だが」
今し方、砲弾を両断するという絶技を見せた者は、
「今だけは、怪盗の一味として働かせてくれ」
――白金ソラの幼馴染みは
この世界でも、ヘルメットを被ったままに名乗った。
「ブラッククロス、それが、俺の怪盗としての名前だ」
――クロスという名前に
ここに来てようやくソラは、同じ名字の幼馴染みを思い出すに至った。
自分を怪盗にしてくれた、友人の笑顔を。