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5-11 プライドVSプライド

 ――時刻は15時、ライトオブライトにて

 プレオープンイベントに招待されたサクラを含むプレイヤー達は、各サーバー100人までの上限を設けて、古城の前にあるスタートラインに整列していた。


『さぁ、僕の所まで辿り着けるかな!』


 最上階までに辿り着いた者だけが、ナイトに扮する郷間ザマとのPVPに挑む事が出来る。勝てば2000万円という破格のイベントに、有名なプロゲーマー達も並んでいた。


(まぁもちろん、厄介そうなのは審査で弾かせたけど)


 万が一の可能性は排除するこの男、ザマは、ソラの予想通りチート使いである。

ウォールハック壁を透過とかオートエイム自動照準など、露骨なものは流石に無いが、ほんのすこしだけ得をするようなチートを”バレたとて運営のミス”で片付けられるレベルで使用していた。

 ザマも、そして社長である眞司マンジも、それが悪い事だとは思わなかった。

 ――ゲームはエンターティメントであるのなら

 情報弱者疑う事を悪だと思う善人を楽しませる為の嘘は、寧ろどんどんやるべきだ、というスタンスだった。そしてなにより、それが許されると増長していた。

 ゆえに、今のザマにとって、プレイヤーの笑顔は、


(楽しいなぁ)


 本当に、キラキラ輝く宝物だった。


(本当、クズばっかりだ)


 ――こちら側利用する者である事の優越感


『制限時間は30分、それじゃ、スタート!』


 ザマの号令を合図に、プレイヤー達は駆け出した。賞金目的、売名行為、純粋にゲームを楽しむ為、そして、

 何よりもザマにとって嬉しいのは、

 ――自分と直接話したいがためだけに、ゲームに参加した者


(会える訳ないだろ?)


 そういう者が現れる度に、彼の心は、


ゲーム生き方が下手な奴に、人権はないんだから)


 プライド誰かと比べる事で、満たされる。







 ――イベントが始まって15分後


「待たせた」


 モーニングバイキングがすっかり無くなった虹橋アイが残さず食べた、ミーティングルームの扉が、ヘルメットを被ったクロによって開かれた。そして彼は――台車にのせた段ボール箱を、そのまま部屋に運び入れる。


「あ、おかえり~クロ君、ちゃんと買えた?」

「ああ」


 クロはアイの傍にあったテーブルに、ダンボールの中身をぶちまけた。中から出てきたのは――様々な意匠で包装パッケージングされたお菓子。


「東京ばなナ! 金の鈴もなか! レンガパンにバターメープルクッキーも!」


 テーブルの上に山盛りなのは、東京駅で売られているお菓子、ばなナをあけて、あむっとはみつくアイ。しっとりあまい甘味に、脳に喜びをあげさせていると、


「これだけ糖分があれば足りるだろうけど」


 クロ、ダンボールとは別に持って来た、紙袋の中から取りだしたのは透明なタッパー。その中身は、


「手作りのシフォンケーキ!」

だめ押しブーストに使ってくれ」


 手ずから作ったものも、東京土産の脇に添えた。そうしてから、自身のデバイスのARを起動する――アイは自分の周りに沢山の仮想モニターを浮かべ、ライドはライトオブライトのWeTube配信をながめ、そして、

 ソラとレインは、肌に貼り付けたテープPCを輝かせながら、手を繋いで、既にVRへとログインしていた。

 ぼうっと、座っている二人の様子を眺めるクロの背後で――ガリィ! っと聞こえる。振り返ると、仮想で再現した堅ボーロを、噛み砕き、そして嚥下するジキルの姿。


『ソラと手を繋ぐと、すり抜けグリッチがレインも使えるようになる』


 他の誰にも真似できない、レインだけの特性であるものの、


『いや本当訳がわかんないんし、どうなってんのこれぇ?』


 そのメカニズムは解明されていない。そんなの有り得る? と、ジキル、アイに聞いた。すると、アイはにこやかに答えた。


「きっと、愛じゃないかしら~」

『いや、ゴリゴリ理系のAI担当が、愛とか言うなし』

「え~でも~そっちの方がステキじゃない、ねぇ、社長~」

「ああ! 全ては愛によって生まれる!」


 そう豪快に笑った灰戸だったが、


「――ゆえに、とても残念だ眞司マンジ、昨日会った時にお前に、何か事情がある様子がでも伺えれば、今回の計画も行わなかったが」


 ――世界ゲームへの愛が無く、ただ金と名誉ばかり求めるなら


「俺はこいつの非道を、見逃すわけにはいかん!」


 愛無き者への罰を。

ただし、それは、


「……相手に非があるにしろ、俺達の行為はけして褒められたものじゃない」


 黒統クロはが指摘する通り、久透リアへの手がかりを求めているとはいえ、アイズフォーアイズへの被害を、法的な機関に頼らず私的に解決しようとするのは、社会的に考えれば問題があった。

だが、それでもだ、


「ソラと、ソラの友達を悲しませる奴は、許せない」


 それは何よりも、クロが優先する事だった。


「なぁに、これはゲーム世界の話だ」


 ライドはニヤリと笑い、


「ならば、ゲーム世界で決着といこうじゃないか!」


 それこそが彼等の大義名分言い訳、それに、鉄槌を人任せにする程、

 ――神の悪徒達の誇りは

 ソラ達のプライド誰かと比べる必要がないものは、安くない。


「クロく~ん」

「――ああ」


 呼びかけたアイに渡されたテープPC、クロは、それを箇所に貼り付けた後、レインと手を繋ぐ、幼馴染みの隣に行く。

 今はVRの世界をみつめている、かつての友達の顔を、ヘルメット越しで見た後、

 メニューを起動してログインし、


「行くぞ」


 その声と供に彼は、ソラやレインと同じく無防備な状態になった。


『それじゃ私も、予定通りよろしく』


 続けて、AR空間からVR空間へと移動するジキル、部屋に意志あるままに残るのは、灰戸と、そして、

 大量の東京銘菓を、味わいながら貪りつつ、仮想のキーボードを叩くアイのみ。


「そろそろ食事時かね?」

「――ええ」


 灰戸の言葉に呼応するように――アイの長身の周囲を、仮想上のモニターにキーボード、左手デバイスも増えていく。タイピングだけでなく、視線の移動や首の動きでもコンソールを操作し、次々と画面を呼びだして、マルチタスク千手観音っていった末に、


「テンパランスモード反転!」


 彼女は、テープPCを貼ってない素肌に、


「発動! グラットンモード!」


 ――虹色の幾何学模様を浮かび上がらせた







 15分後、ライトオブライト。


「なかなかやりますね、だけどこれで!」


 ノービスオブラビリンスの最上階のダンスホール。残り時間10秒で、騎士姿のザマの元へ辿り着いた唯一のプロゲーマージョブは戦士を、


ライトオブライトソード集えこの剣の光に!」


 光輝く剣の一閃を見舞う――挑戦者はそれを、紙一重で回避したが、


(チートっと)


その僅かな差を埋めるプログラムが発動した。結果、ダメージを受けたプレイヤーは敗れ倒され消失し、そのまま時間切れのアラームが鳴った。


「うわぁ、惜しい!」

「だけどやっぱりザマ氏が強し~!」

「すごいすごい、本当にすごぉい!」


 モニターで激闘を見守っていたファン達は、まるでドラマ台本のような流れに興奮し、この世界に君臨する勝者に、歓声と拍手を送る。


「応援、ありがとうみなさん! でも、僕も本当に危なかった本当はチョロすぎた!」


 そこでザマは、カメラ目線。


「見て貰った通りライトオブライトは、誰もが平等にチャンスがあるVRMMOです! この世界では、理不尽なんて存在しなく、僕も皆も、一緒にこの世界を生きる一人のプレイヤーです!」


 そんな事はない、この世界は公平感だけは演出しといて、いかにそこから搾取するかに特化したゲームである。


(本当は僕だけ、神に選ばれし者運営からのチート付与なんだけどね)


 だけどそれは、眞司マンジや郷間ザマにとっては、当たり前の事。


(だって君達は、騙されなきゃ幸せになれないだろ?)


 ザマにとって、騙すという行為は、


(疑う事を捨てた、バカなんだから)


 バカの相手をしてあげる為の、当然の対価であった。

 ――だけどそれは誇りなどでは無く

 ただの傲慢にしか過ぎないのだから、


「……ん?」


 それをただす者は、当然、

 現れる。

 ――ノービスオブラビリンスの入り口である、門前の橋に


「え、ちょ、ちょっと何!?」

「なんかゲートっぽいの出てない!?」


 バチリバリチと火花が飛び散り、如何にもといった異空間への入り口が、ぐいぐいと拡大していく。


「え、な、なに!?」


 全く知らされていない展開を、ダンスホールにもあるモニターで確認しながら、ザマも観衆達と同じ反応をする。


(もしかして、僕も知らないサプライズ? そういうのは嫌いなんだけどなぁ)


 そう思ったザマだけど、

 ゲートが開ききり、そこから、

 ――現れたのは




「え?」


 ザマはその光景に、呆気に取られ、


「ええっ?」


 そしてテストプレイヤーの半分も戸惑いを見せたが、


「――来た」


 残り半分は、


「本当に来たぁ!?」

「うっそマジで!」

「予告状の通りじゃん!」


 ――歓喜を叫ぶ

 その声に答えるように現れたのは、


「――我が名は怪盗スカイゴールド」


 システム上、絶対に、この世界ゲームに来られるはずが無い、


「罪には罪を! 世界奪還の時来たり!」


 ノーネクタイの怪盗と、

 凛と立つ、忍者の姿だった。




 ――ジキルとアイの共同作業


(はぁぁぁぁぁぁぁ!?)


 喉を震わせ発声したかった驚きを、なんとか無理矢理抑え込みながら、ザマは、スカイとキューティの姿をみつめる。


(有り得ないだろ!? なんで、ライトオブライトに、アイズフォーアイズのアバターでログインしてるんだ!?)


 そんな風に心中はパニくりつつも、体は冷静にすべき事を選んでいた――


無様に死ね!出落ち


 ラビリンスに配置されたトラップはコントロール出来る――外に設置されている大砲を操作し、最大火力で、橋上のスカイとキューティに向けて放った。二人は、それに即座に反応し、避けようと動いたが、

 ――次の瞬間、ゲートからもう一つの影が降りて


「伏せろ」


 その声を聞いたスカイとキューティは、言われるままにしゃがみ込む。すると、頭上を何かが通り過ぎる。

 ――それが刀の一閃であった事を

 スカイとキューティは、大砲の弾が二つに分かれ、後方で爆発した事から知った。


「はぁ!?」


 とうとう、ザマから声が漏れる。しかし驚いたのは彼だけじゃない。


「い、今のは」

「いや、お前は」

「……俺は本来、人でなしの暗殺者だが」


 今し方、砲弾を両断するという絶技を見せた者は、


「今だけは、怪盗の一味として働かせてくれ」


 ――白金ソラの幼馴染みは

 この世界でも、ヘルメットを被ったままに名乗った。


「ブラッククロス、それが、俺の怪盗としての名前だ」


 ――クロスという名前に

 ここに来てようやくソラは、同じ名字の幼馴染みを思い出すに至った。

 自分を怪盗にしてくれた、友人の笑顔を。


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