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5-10 コロッケそばと作戦会議

 基本、コロッケそばというのは、関東でしか食べられない。

 これは、関西側のうどんだしが、鰹と昆布の薄口であり、コロッケとの相性がいまいちな事、フライものよりも天ぷらの方が、うどんの付け合わせサイドキックとして好まれた事が歴史にある。

 醤油が濃いめのつゆだからこそ、あげたコロッケの揚げ風味を損なわない。カラっとあがった衣にじゅんわりと濃いつゆが染みる事で、中のほくほくじゃがいもとの相性も極まって、そばと絶妙なハーモニーを奏でる。

 ――そんなある意味最も身近な東京名物を


「あ、おはよ~レインちゃん、ソラ君」


 既に10杯目に突入しながら、202cmの高身長、虹橋アイは揃ってやってきた二人に挨拶をした。

 ――灰戸ライドに指示されてやってきた、2Fの多目的ルーム

 アイの後ろにはそばだけでなく、ごはん、パン、小鉢、オムレツ、味噌汁、スープが、兵隊のように整然と並ぶ、和洋あらゆるの簡易型モーニングバイキングのコーナーが出来ている。


「え、ここって、レストラン?」

「朝食会場は、1Fでしたよね?」


 ソラ、レインの質問に、ふふんっと鼻を鳴らすのは、スーツ姿のライド。


「俺は社長だからな! わがままを言って準備させたケータリング!」


 そんな堂々と言う事かなぁと思いつつ、おにぎりやカップ味噌汁など、立食メインの献立を見ながら、おなかをぐうと鳴らすソラとレイン。


「折角用意していただいたもの、感謝していただきます」

「あ、そういえば十字架は?」

「彼は別のお仕事~本番前に合流するから~」


 アイがそう言った後、ソラとレイン、とりあえずのごはんを右手と左手にそれぞれ確保した。そのタイミングで、


「さて、あらましは既に昨日に説明しているが、今回の作戦について話し合おうか」


 ライドがそう言えば、ソラとレイン、ARデバイスを起動する。部屋の中央に表示されたのは――ライトオブライトが本日行うイベントの舞台、”ラビリンス”の透過3Dモデルだった。

 西洋風の城であり、中央の大きな居城部分を取り囲むように、三つの塔が取り囲んでいる。

 そしてワイプで、ザマがそのアスレチックが攻略する様子も、同時に流れる。苦戦するところを見せつつも、それを見事なプレイで切り抜け、制限時間内に辿り着く。


「確かに面白そうなアトラクションですし、ザマさんのプレイもうまいですけど」


 トマトとあおさの味噌汁をすすった後、海苔と山葵のおにぎらずを囓るソラに続いて、レイン、


「――ここまでいえもん城をパクられては、興醒めだな」


 ミニカスクートとコーヒーを手にしながら、目を細める。

 風雲いえもん城。

 アイズフォーアイズの桜国サクラコクで、3年ものあいだ開国の重石になっていた競争型コンテンツ。確かに舞台は西洋風の城であるし、アトラクションの順番も入れ替えられているが、ガワを除いてフレームを見れば、最早、モデルやプログラムごとぶっこぬいている流用している事は明らかだった。


「正確には、いえもん城をベースにして、様々なデーターをツギハギしたキメラダンジョンだが」

「あまり考えたくないですけど、アイズフォーアイズの社員さんに、協力者がいるんですか?」

「その可能性は低いわね~」


 ソラの問いかけには、アイ、


「色々調査したけれど、外部からデーターを抜いた、っていう可能性が一番高いわ~」

「となるとやはり――久透リアが?」


 レインの問いかけには、ライド、


「ああ、彼女が、ZEROにデーターを横流ししたと考えるべきだろう」


 そう言った後、ホットドッグにがぶりとかぶり付き、それをしっかり咀嚼してから飲み下した後、


「ジキルゥ!」


 そう思いっきり叫べば、耳に指を突っ込んだ状態で、朝からゴスロリ姿のジキルが、うざったそうに現れる。


『ああもううるさい、こんな奴が自分だと思うと、本当に朝から死にたいし』

「それはすまなかった! なんか食うか!」

『え、なにそのナチュラル煽り? 私データー上の存在なんだが?』


 俺が食えばお前の栄養になるだろう、と、いや気持ち悪い事言うなし、と、そんなやりとをした詐欺師チーム。


『とりま、二人とも、昨日説明した通り、怪盗チームにはこのラビリンスを攻略してもらうし』

「はい」

「それは了解してます、ただ」

『まぁそうだよね、ぶっちゃけ、本番のイベントでは』


 ジキルは心底、めんどくさそうに言った。


『絶対攻略出来ない無理ゲーになってるからねぇ、このパクリ城』

「通り抜けられないタイミグのギロチンとか~乱数判定をプレイヤーに不利にするとか~」

「まともに攻略させる気がないのは、知っています」


 MMOにおいて、高難易度コンテンツを作る事そのものは、けして悪い事じゃなく、寧ろやり甲斐要素エンドコンテンツである。

 しかし、高難易度と理不尽はイコールにしてはいけないし、しかもその理不尽の理由が、


演出運営の都合だというのだから、全く、救われん」


 2000万円のプロモーションを、可能な限り引っ張りたいゆえに、暫くは成功者を出さないという方針。やってる事は詐欺である。


「当たらない宝くじを売っているようなものだもの~」

「ええ、……ところでアイさん、それ、何杯目ですか?」

「15杯目~」

「本当に健啖家ですね……」


 コロッケを出汁に崩しながらそばと啜ると美味しいの~、と言うアイに、冷や汗をかくレイン。


『まぁそんな理不尽だから、怪盗に任せるしかない訳でさぁ、このステージ』


 ただ一人この中で、食事をしていないジキルが、


『本番までに、チャートをちゃんと組める?』


 AR越しにソラに問いかける。


『入り口から三つのエリアに行けるようなっててぇ、それぞれ、アトラクションエリア、謎解きエリア、モンスターエリアになってる』

「各エリア10分ずつを想定してて、全てクリアした者が、中央居城最上階桜国でいうなら天守閣の部分の、ダンスホールへ転送されるのよね~」

『だけど実際は、クリアさせる気無しの理不尽無理ゲーだけど、いけそなの?』


 それに対し、ソラは、


「出来ます」


 頑張りますとか、やってみますとかじゃなくて、ハッキリと断定、なんの根拠も無いというのに。

 だが、周囲にとっては、全力で信じられる発言だった――特に、相棒であるレインにとっては。彼女が少年をみつめながら、笑みを浮かべる様子を見て、アイも灰戸も喜びを見せる。


「さて、本来の俺達の作戦は、このラビリンスの攻略だけだったが」


 さて、灰戸が口を開く、


「昨日の一件でもう一つの目的が生まれた」

「郷間ザマをやっつける~!」

「これに関しては、レイン君に不快な思いをさせてしまった。まさかZEROに関わる人物が、君にとってのトラウマだったとは、リサーチ不足だ」

「いえ、親にも言ってなかった事ですから、それに――」


 レインはソラの方をみやる。


「ソラがぎゃふんと言わせてくれますから」


 その信頼の表情に、


「はい!」


 そう元気良く答えるソラ。四人の雰囲気はとても良く、作戦の明るい未来を示しているようだった。だが、

 ――こういう会議には必ず必要な意見がある


『でもさぁ』


 ネガティブである。


『郷間ザマって、超凄腕のゲームプレイヤーだし? 舐めてかかって返り討ち、なんて事なくない?』


 それは盛り上がりに水を差す発言であるけれど、確かに必要な懸念だった。善意と同じく、ポジティブも地獄への道を作りかねない。

 しかしソラは、


「大丈夫です」


あっさり言った。


「ザマは――あの男は大したプレイヤーじゃありません」

「え?」

『どして?』


 疑問に対して、ソラは、


「あれだけレインさんに執心していたザマが、アイズフォーアイズに追っかけてこなかったのは何故ですか?」

「――あっ」

「今までのプレイ動画を確認しましたけど、株式会社ZERO、専属のプレイヤー」


 レインは務めて、彼の事を思い出さずに生きようとしてきた。

 だから、ちょっと考えれば解る事にも気付かなかった。

 それをソラはあっさりと言う。


「ザマは会社ZEROから、公式チートをもらってプレイしています」


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