基本、コロッケそばというのは、関東でしか食べられない。
これは、関西側のうどんだしが、鰹と昆布の薄口であり、コロッケとの相性がいまいちな事、フライものよりも天ぷらの方が、うどんの
醤油が濃いめのつゆだからこそ、あげたコロッケの揚げ風味を損なわない。カラっとあがった衣にじゅんわりと濃いつゆが染みる事で、中のほくほくじゃがいもとの相性も極まって、そばと絶妙なハーモニーを奏でる。
――そんなある意味最も身近な東京名物を
「あ、おはよ~レインちゃん、ソラ君」
既に10杯目に突入しながら、202cmの高身長、虹橋アイは揃ってやってきた二人に挨拶をした。
――灰戸ライドに指示されてやってきた、2Fの多目的ルーム
アイの後ろにはそばだけでなく、ごはん、パン、小鉢、オムレツ、味噌汁、スープが、兵隊のように整然と並ぶ、和洋あらゆるの簡易型モーニングバイキングのコーナーが出来ている。
「え、ここって、レストラン?」
「朝食会場は、1Fでしたよね?」
ソラ、レインの質問に、ふふんっと鼻を鳴らすのは、スーツ姿のライド。
「俺は社長だからな! わがままを言って
そんな堂々と言う事かなぁと思いつつ、おにぎりやカップ味噌汁など、立食メインの献立を見ながら、おなかをぐうと鳴らすソラとレイン。
「折角用意していただいたもの、感謝していただきます」
「あ、そういえば十字架は?」
「彼は別のお仕事~本番前に合流するから~」
アイがそう言った後、ソラとレイン、とりあえずのごはんを右手と左手にそれぞれ確保した。そのタイミングで、
「さて、あらましは既に昨日に説明しているが、今回の作戦について話し合おうか」
ライドがそう言えば、ソラとレイン、ARデバイスを起動する。部屋の中央に表示されたのは――ライトオブライトが本日行うイベントの舞台、”ラビリンス”の透過3Dモデルだった。
西洋風の城であり、中央の大きな居城部分を取り囲むように、三つの塔が取り囲んでいる。
そしてワイプで、ザマがそのアスレチックが攻略する様子も、同時に流れる。苦戦するところを見せつつも、それを見事なプレイで切り抜け、制限時間内に辿り着く。
「確かに面白そうなアトラクションですし、ザマさんのプレイもうまいですけど」
トマトとあおさの味噌汁をすすった後、海苔と山葵のおにぎらずを囓るソラに続いて、レイン、
「――ここまでいえもん城をパクられては、興醒めだな」
ミニカスクートとコーヒーを手にしながら、目を細める。
風雲いえもん城。
アイズフォーアイズの
「正確には、いえもん城をベースにして、様々なデーターをツギハギしたキメラダンジョンだが」
「あまり考えたくないですけど、アイズフォーアイズの社員さんに、協力者がいるんですか?」
「その可能性は低いわね~」
ソラの問いかけには、アイ、
「色々調査したけれど、外部からデーターを抜いた、っていう可能性が一番高いわ~」
「となるとやはり――久透リアが?」
レインの問いかけには、ライド、
「ああ、彼女が、ZEROにデーターを横流ししたと考えるべきだろう」
そう言った後、ホットドッグにがぶりとかぶり付き、それをしっかり咀嚼してから飲み下した後、
「ジキルゥ!」
そう思いっきり叫べば、耳に指を突っ込んだ状態で、朝からゴスロリ姿のジキルが、うざったそうに現れる。
『ああもううるさい、こんな奴が自分だと思うと、本当に朝から死にたいし』
「それはすまなかった! なんか食うか!」
『え、なにそのナチュラル煽り? 私データー上の存在なんだが?』
俺が食えばお前の栄養になるだろう、と、いや気持ち悪い事言うなし、と、そんなやりとをした詐欺師チーム。
『とりま、二人とも、昨日説明した通り、怪盗チームにはこのラビリンスを攻略してもらうし』
「はい」
「それは了解してます、ただ」
『まぁそうだよね、ぶっちゃけ、本番のイベントでは』
ジキルは心底、めんどくさそうに言った。
『絶対攻略出来ない無理ゲーになってるからねぇ、このパクリ城』
「通り抜けられないタイミグのギロチンとか~乱数判定をプレイヤーに不利にするとか~」
「まともに攻略させる気がないのは、知っています」
MMOにおいて、高難易度コンテンツを作る事そのものは、けして悪い事じゃなく、寧ろ
しかし、高難易度と理不尽はイコールにしてはいけないし、しかもその理不尽の理由が、
「
2000万円のプロモーションを、可能な限り引っ張りたいゆえに、暫くは成功者を出さないという方針。やってる事は詐欺である。
「当たらない宝くじを売っているようなものだもの~」
「ええ、……ところでアイさん、それ、何杯目ですか?」
「15杯目~」
「本当に健啖家ですね……」
コロッケを出汁に崩しながらそばと啜ると美味しいの~、と言うアイに、冷や汗をかくレイン。
『まぁそんな理不尽だから、怪盗に任せるしかない訳でさぁ、このステージ』
ただ一人この中で、食事をしていないジキルが、
『本番までに、チャートをちゃんと組める?』
AR越しにソラに問いかける。
『入り口から三つの
「各エリア10分ずつを想定してて、全てクリアした者が、
『だけど実際は、クリアさせる気無しの理不尽無理ゲーだけど、いけそなの?』
それに対し、ソラは、
「出来ます」
頑張りますとか、やってみますとかじゃなくて、ハッキリと断定、なんの根拠も無いというのに。
だが、周囲にとっては、全力で信じられる発言だった――特に、相棒であるレインにとっては。彼女が少年をみつめながら、笑みを浮かべる様子を見て、アイも灰戸も喜びを見せる。
「さて、本来の俺達の作戦は、このラビリンスの攻略だけだったが」
さて、灰戸が口を開く、
「昨日の一件でもう一つの目的が生まれた」
「郷間ザマをやっつける~!」
「これに関しては、レイン君に不快な思いをさせてしまった。まさかZEROに関わる人物が、君にとってのトラウマだったとは、リサーチ不足だ」
「いえ、親にも言ってなかった事ですから、それに――」
レインはソラの方をみやる。
「ソラがぎゃふんと言わせてくれますから」
その信頼の表情に、
「はい!」
そう元気良く答えるソラ。四人の雰囲気はとても良く、作戦の明るい未来を示しているようだった。だが、
――こういう会議には必ず必要な意見がある
『でもさぁ』
ネガティブである。
『郷間ザマって、超凄腕のゲームプレイヤーだし? 舐めてかかって返り討ち、なんて事なくない?』
それは盛り上がりに水を差す発言であるけれど、確かに必要な懸念だった。善意と同じく、ポジティブも地獄への道を作りかねない。
しかしソラは、
「大丈夫です」
あっさり言った。
「ザマは――あの男は大したプレイヤーじゃありません」
「え?」
『どして?』
疑問に対して、ソラは、
「あれだけレインさんに執心していたザマが、アイズフォーアイズに追っかけてこなかったのは何故ですか?」
「――あっ」
「今までのプレイ動画を確認しましたけど、株式会社ZERO、専属のプレイヤー」
レインは務めて、彼の事を思い出さずに生きようとしてきた。
だから、ちょっと考えれば解る事にも気付かなかった。
それをソラはあっさりと言う。
「ザマは