『GAME CLEAR!』
ところ変わってアイズフォーアイズ、AI音声による勝利ファンファーレが響いている場所は、爽風吹き抜ける草原。
「よっしゃ、やったぜー!」
アウミの支援込みで、クラマフランマバーストで痛快ばっさりやっつけた、サイクロプスの前で勝ち誇るアリクに、
「流石だぜアニキー!」
「うわっと!?」
ゴエモン――改め、アカネが思いっきり抱きついた。ちょっと顔を赤くしたアリクだが、すぐに支援サンキューな! ってやって、えへへ、ってアカネもちょっと照れて、それを見て、
「いやですからなんなんでしょうかアリクさん
「ステイ、サクラちゃん、ステイ」
「あ、そういえば、アカネ、サクラ」
「なんだい!」
「なんですか?」
目を輝かせるアカネ、じとーっと見てくるサクラ、姉妹の湿度差を気にしないままに、
「お前達、ライトオブライトって知ってる?」
「ああ、新しいVRMMOだね!」
「徹底した初心者への優しさを歌っているVRMMOですね」
そうそう! と、アリク、言った後、
「いや、アウミともさっき相談したけど、ベーターテストの募集が来たら、試しにプレイしてみねぇ?」
「へぇ、アニキってアイズフォーアイズ以外もやるんだ」
「意外ですね、一筋かと思いました」
双子の言葉に、首を振る。
「楽しい方は多い方がいい! つか、ちょっと別ゲーやるだけで浮気って心狭すぎだろ」
「せやねぇ、まぁ、うちはちょっと、歌う事ができひんそうやから、覗くだけになりそうやけど――あ、そうそう」
アウミが、思いだした事を話す。
「シソラとレインさん、そのライトオブライトの発表会にお呼ばれして、今、東京に行ってるんよ」
「ええ、じゃあ、新幹線で
そうはしゃぐアカネであったが、サクラは驚いた顔をした。
「それは、あの、いいのでしょうか? 高校生の男女が二人で、泊まりの旅って」
「いやいや、流石に部屋は別々だろぉ」
「ほうよ、同じ部屋な訳ないやん」
「そうだよサクラ、あの二人ラブラブっぽいけど、流石にそこまではいかないだろうさ」
「ですね、考えを飛躍させすぎました」
「「「「あっはっはっは!」」」」
川に流れる木の葉のように、とりとめなく続いた会話は、そのまま笑い声で締めくられた、その時、
「あれ、カリガリーからメッセージだ?」
「あ、うちにも来とる、フレンドグループへの一斉送信やね」
二人は内容を確認して、そして、
絶句した。
「……どうしたんだいアニキ?」
「何か、良く無い事があったのですか?」
双子の心配に、アリクとアウミは、
「ライトオブライトと、契約プレイヤー郷間ザマに」
「怪盗スカイゴールドが、予告状を出した言うてる」
そう、寝耳に水という体で話したものだから、当然
◇
――一方その頃、都内某ホテル712号室前にて
「あ、あの」
自分とレインが泊まる部屋が同室なのを知ったソラは、目の前の彼女に負けないくらい顔を赤くしたまま、
「ぼ、僕、別の部屋探してもらいますから!」
慌て、そう言って”どこかへ”去ろうと振り返ったが、
――同時に服の裾をぎゅっと握られた
「あっ」
……たかが服の裾を掴まれただけで、レインの行いに拘束力なんて無い。それでも、己に伝わった彼女の所為は、ソラの歩みをピタリと止めた。
「……そ、その、ソラ」
「は、はい」
声色から、お互い、いっぱいいっぱいだ。
それでも、
「今夜は、私を一人にしないで欲しい」
――ザマの事で心が不安だからと
したい事を伝えなくてはいけないから、そうしたならば、
ソラは無言のまま、振り返り、ドアを開けた。レインも静かなまま、だけど心臓をドクドクと高鳴らせたままに、一緒に部屋へと入っていった。
◇
――それから1時間後
ホテルの部屋にて、パジャマ姿になった二人は、同じベッドに横たわっていた
「す、すまない、これで大丈夫だと思うから!」
「は、はい、わかりました!」
とは言ってもそんなふんにゃかほんにゃか的な意味では無い。部屋は広々としていたが、何故かベッドが一つしか無かった。当然、二人はパニックになったが、ソラは、ソファで寝ると言ったけど、レインは体を痛めて明日のプランに差し支えたらどうする! と発言し、お互い主張しあった結果、
「その、でも、それでも、緊張はするな……」
「は、はい……」
幸いというか、元々二人用なのか、ベッドのサイズは大きかった上に、クローゼットに抱き枕まであったので、それを互いの間において、仕切りを作っただけである。
つまり、お互い顔だけが見える状態、それでも、
(レ、レインさんと一緒に寝るなんて……)
意識する、しない方がおかしい、体の火照りは凄まじく、耳の裏どころか、鼻の穴の中すら鉄の様に熱く感じる。
全く体が落ち着かず、思わず、ぎゅっと目を閉じてしまった。
……その時、
「――ソラ」
呼びかけられたから、目を開けば、
「ありがとう」
と、いきなり言われた。
……ぽかん、としている所で、彼女は真面目な面持ちのままに、続ける。
「手を、握ってもいいか」
その言葉を聞いた途端――自分でも不思議なくらい、ソラの体から、熱が無くなった。
ただ、愛しい人の願いを聞きたくなって、無言で手を、横たわっている自分が視線の先へと延ばす。
手の指と指が、絡んだ。
ときめきと同時に、ぬくもりにも触れる。
「私が、高校を辞めて、引き籠もってる時」
――ザマのような外道に、怒りを抱かず、脅えるばかり
そんな自分の弱さじゃ、この世界に生きられない、そう思ったレインは、
「死のうかなと、思った日があった」
「――あ」
それはそうだろう、生きてきて、そう思わなかった人なんて、逆に珍しい。
ましてや15歳の少女に訪れた、悪の華との最悪の出会いは、それに至っても何もおかしくない。
だけどそれでも、
「ただ、私は、その時に」
生きる理由があるとすれば、
「――ああでも明日は、アイズフォーアイズにログインしたら、よみふぃのアイテムがもらえる日だなって思ったんだ」
それは案外、くだらないもの。
「……私は、自分でも一瞬、呆然としたんだ。今死のうとした人間が、ゲームのログボを気にして、死ぬのを一日伸ばすなんて、でも」
「――私達はそんな」
その時ソラは、
「くだらない理由で、毎日を生き延びている」
ソラは、始めて彼女と会った時の言葉を思い出して、復唱した。
それを聞いて、レインはにこっと笑った。
「家族や仲間、子供の頃からの夢、きっとそういうのが、生きる理由だと私は思ってた、だが」
ログインしてもらったよみふぃのグッズは、かわいかった。
ほんのささやかな、あたたかな感情が、
もう一日、もう一日と、レインを明日へと向かわせた。
「……そうですよね、僕も、漫画やゲームの発売日も楽しみで、生きてます」
「ああ、
生きる理由に、必ずしも、たいそれたものなんて要らない。
寧ろくだらない方が、軽やかに明日を生きられる。
「だから私は、アイズフォーアイズを守る事にした、私と、皆が生きる為」
「……僕も、レインさんの、くだらない理由になれて嬉しいです」
「バカ言うな、怒るぞ」
そう言いながらも、レインは愛しそうに笑って、
「お前にとって私は、大切な理由だ」
「――僕もです」
それは真摯な告白だったけど、
二人の心は穏やかだった。
大好きな漫画の発売日、水曜日限定のカレーパン、そしてゲームを一緒に遊ぶ約束、
くだらないものこそが何時かきっと――かけがえのないものになる世界だから、二人はそれを胸に秘めて、手を繋いだ侭、眠りに就いた。
また明日、生きる為に。