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5-8 死なない理由はくだらない程いい

『GAME CLEAR!』


 ところ変わってアイズフォーアイズ、AI音声による勝利ファンファーレが響いている場所は、爽風吹き抜ける草原。


「よっしゃ、やったぜー!」


 アウミの支援込みで、クラマフランマバーストで痛快ばっさりやっつけた、サイクロプスの前で勝ち誇るアリクに、


「流石だぜアニキー!」

「うわっと!?」


 ゴエモン――改め、アカネが思いっきり抱きついた。ちょっと顔を赤くしたアリクだが、すぐに支援サンキューな! ってやって、えへへ、ってアカネもちょっと照れて、それを見て、


「いやですからなんなんでしょうかアリクさん桜国サクラコク外の案内をアリクさんがするのは解りますけどちょっと姉さんを甘やかしすぎいえ姉さんの方が甘えているのは解りますがそれを受け入れるというのがどう考えてもギルティと言いますか」

「ステイ、サクラちゃん、ステイ」


 嫉妬ジェラるサクラを見て、冷や汗をかくアウミ、本日は怪盗業義賊業もお休みして、4人でモンスター討伐系クエストで遊んでいた。


「あ、そういえば、アカネ、サクラ」

「なんだい!」

「なんですか?」


 目を輝かせるアカネ、じとーっと見てくるサクラ、姉妹の湿度差を気にしないままに、


「お前達、ライトオブライトって知ってる?」

「ああ、新しいVRMMOだね!」

「徹底した初心者への優しさを歌っているVRMMOですね」


 そうそう! と、アリク、言った後、


「いや、アウミともさっき相談したけど、ベーターテストの募集が来たら、試しにプレイしてみねぇ?」

「へぇ、アニキってアイズフォーアイズ以外もやるんだ」

「意外ですね、一筋かと思いました」


 双子の言葉に、首を振る。


「楽しい方は多い方がいい! つか、ちょっと別ゲーやるだけで浮気って心狭すぎだろ」

「せやねぇ、まぁ、うちはちょっと、歌う事ができひんそうやから、覗くだけになりそうやけど――あ、そうそう」


 アウミが、思いだした事を話す。


「シソラとレインさん、そのライトオブライトの発表会にお呼ばれして、今、東京に行ってるんよ」

「ええ、じゃあ、新幹線でうちらの家静岡県清水市通りがかったんだ!」


 そうはしゃぐアカネであったが、サクラは驚いた顔をした。


「それは、あの、いいのでしょうか? 高校生の男女が二人で、泊まりの旅って」

「いやいや、流石に部屋は別々だろぉ」

「ほうよ、同じ部屋な訳ないやん」

「そうだよサクラ、あの二人ラブラブっぽいけど、流石にそこまではいかないだろうさ」

「ですね、考えを飛躍させすぎました」

「「「「あっはっはっは!」」」」


 川に流れる木の葉のように、とりとめなく続いた会話は、そのまま笑い声で締めくられた、その時、


「あれ、カリガリーからメッセージだ?」

「あ、うちにも来とる、フレンドグループへの一斉送信やね」


 二人は内容を確認して、そして、

 絶句した。


「……どうしたんだいアニキ?」

「何か、良く無い事があったのですか?」


 双子の心配に、アリクとアウミは、


「ライトオブライトと、契約プレイヤー郷間ザマに」

「怪盗スカイゴールドが、予告状を出した言うてる」


 そう、寝耳に水という体で話したものだから、当然桜国サクラコクの義賊姉妹も、声をあげて驚くのだった。







 ――一方その頃、都内某ホテル712号室前にて


「あ、あの」


 自分とレインが泊まる部屋が同室なのを知ったソラは、目の前の彼女に負けないくらい顔を赤くしたまま、


「ぼ、僕、別の部屋探してもらいますから!」


 慌て、そう言って”どこかへ”去ろうと振り返ったが、

 ――同時に服の裾をぎゅっと握られた


「あっ」


 ……たかが服の裾を掴まれただけで、レインの行いに拘束力なんて無い。それでも、己に伝わった彼女の所為は、ソラの歩みをピタリと止めた。


「……そ、その、ソラ」

「は、はい」


 声色から、お互い、いっぱいいっぱいだ。

 それでも、


「今夜は、私を一人にしないで欲しい」


 ――ザマの事で心が不安だからと

 したい事を伝えなくてはいけないから、そうしたならば、

 ソラは無言のまま、振り返り、ドアを開けた。レインも静かなまま、だけど心臓をドクドクと高鳴らせたままに、一緒に部屋へと入っていった。







 ――それから1時間後

 ホテルの部屋にて、パジャマ姿になった二人は、同じベッドに横たわっていた


「す、すまない、これで大丈夫だと思うから!」

「は、はい、わかりました!」


 とは言ってもそんなふんにゃかほんにゃか的な意味では無い。部屋は広々としていたが、何故かベッドが一つしか無かった。当然、二人はパニックになったが、ソラは、ソファで寝ると言ったけど、レインは体を痛めて明日のプランに差し支えたらどうする! と発言し、お互い主張しあった結果、


「その、でも、それでも、緊張はするな……」

「は、はい……」


 幸いというか、元々二人用なのか、ベッドのサイズは大きかった上に、クローゼットに抱き枕まであったので、それを互いの間において、仕切りを作っただけである。

 つまり、お互い顔だけが見える状態、それでも、


(レ、レインさんと一緒に寝るなんて……)


 意識する、しない方がおかしい、体の火照りは凄まじく、耳の裏どころか、鼻の穴の中すら鉄の様に熱く感じる。

 全く体が落ち着かず、思わず、ぎゅっと目を閉じてしまった。

 ……その時、


「――ソラ」


 呼びかけられたから、目を開けば、


「ありがとう」


 と、いきなり言われた。

 ……ぽかん、としている所で、彼女は真面目な面持ちのままに、続ける。


「手を、握ってもいいか」


 その言葉を聞いた途端――自分でも不思議なくらい、ソラの体から、熱が無くなった。

 ただ、愛しい人の願いを聞きたくなって、無言で手を、横たわっている自分が視線の先へと延ばす。

 手の指と指が、絡んだ。

 ときめきと同時に、ぬくもりにも触れる。


「私が、高校を辞めて、引き籠もってる時」


 ――ザマのような外道に、怒りを抱かず、脅えるばかり

 そんな自分の弱さじゃ、この世界に生きられない、そう思ったレインは、


「死のうかなと、思った日があった」

「――あ」


 それはそうだろう、生きてきて、そう思わなかった人なんて、逆に珍しい。

 ましてや15歳の少女に訪れた、悪の華との最悪の出会いは、それに至っても何もおかしくない。

 だけどそれでも、


「ただ、私は、その時に」


 生きる理由があるとすれば、


「――ああでも明日は、アイズフォーアイズにログインしたら、よみふぃのアイテムがもらえる日だなって思ったんだ」


 それは案外、くだらないもの。


「……私は、自分でも一瞬、呆然としたんだ。今死のうとした人間が、ゲームのログボを気にして、死ぬのを一日伸ばすなんて、でも」

「――私達はそんな」


 その時ソラは、


「くだらない理由で、毎日を生き延びている」


 ソラは、始めて彼女と会った時の言葉を思い出して、復唱した。

 それを聞いて、レインはにこっと笑った。


「家族や仲間、子供の頃からの夢、きっとそういうのが、生きる理由だと私は思ってた、だが」


 ログインしてもらったよみふぃのグッズは、かわいかった。

 ほんのささやかな、あたたかな感情が、

 もう一日、もう一日と、レインを明日へと向かわせた。


「……そうですよね、僕も、漫画やゲームの発売日も楽しみで、生きてます」

「ああ、月曜日の週刊少年漫画雑誌ブルーマンデブレイカーが、どれだけの命を救ってきたか解らない」


 生きる理由に、必ずしも、たいそれたものなんて要らない。

 寧ろくだらない方が、軽やかに明日を生きられる。


「だから私は、アイズフォーアイズを守る事にした、私と、皆が生きる為」

「……僕も、レインさんの、くだらない理由になれて嬉しいです」

「バカ言うな、怒るぞ」


 そう言いながらも、レインは愛しそうに笑って、


「お前にとって私は、大切な理由だ」

「――僕もです」


 それは真摯な告白だったけど、

 二人の心は穏やかだった。

 大好きな漫画の発売日、水曜日限定のカレーパン、そしてゲームを一緒に遊ぶ約束、

 くだらないものこそが何時かきっと――かけがえのないものになる世界だから、二人はそれを胸に秘めて、手を繋いだ侭、眠りに就いた。

 また明日、生きる為に。


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