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4-end 歌い繋ぐ彼方

 謎の人物による、アウミこと、淡海おしゃんのアカウント売買事件から数日後。

 須浦ユニコという存在が認知されなかった事から、結局、”本当にアウミのアカウントを盗んだ愉快犯がいて、怪盗はそれをエンタメ的に解決した”、というくらいに落ち着いた。

 風の噂で、”愉快犯は永久BANなどの厳しい処置を受けた”と流れた事で、怪盗スカイゴールド一味の活躍の中でも、ここまで明確に、悪者をやっつけた、という件は珍しかったから、ますますスカイゴールドの人気はあがる事になった。

 ただ、いくらもてはやされても、


「――本当の事を、皆に言うべきでしょうか」


 白金ソラの心は、晴れない。

 学校からの帰り道、普段なら林を駆け抜けているが、今日はそんな気分じゃないと、自動運転のバスの後部座席に座る。

 たまたま二人だけの車内になったので、ソラは、隣に座るレインに語りかけた。

 須浦ユニコというアイドルが、この世界ゲームにいた事を、明かしたくもある。

 だけどそれは同時に、ユニコの凶行も、伝えなければならなくなる。


「……前も言った通り、真実が常に人を癒やすとは限らない」

「解ってます、……だけど」

「ああ、お前が、そう思う気持ちはとても大切だ」


 レイン、


「だけど、今は私達の胸に秘めておこう」

「……そうですね」


 この問いかけに、答は無い。

 あったとしても好き嫌いで、そしてそれに、正義か悪をあてはめるべきでもない。

 正義という言葉は、ブラックパール黒い信念のように、あっさりと自制を殺す。


「……すまないな」

「え?」

「いや、悩み苦しむお前を元気づける術が、私にはないから、……この計画神の悪徒に巻き込んでおいて」

「大丈夫ですよ、話を聞いてくれるだけで」

「……うん」


 確かにそれはそうだと、レインは思う、

 だけど、それでも、


(もっと、支えたい)


 もっと思いやりたくて、だから、

 ――スッと


「あっ」


 レインは、ソラの右手に、左手の指を絡めた。

 ……異性から、というより、レインからの体温は、ソラにしっかりとときめきを生むけど、


「……」


 それよりも、安心をうむ。言葉は万能だけど、ぬくもりも偶には役に立つ。

 バスは帰路を走って行く。







 ――長浜某所の病院、最上階にて


「この部屋の人、亡くなったのよね」

「結局誰だったんだろう」

「すごくいい人で、かわいらしいおばあちゃんだったけど」

「心はずっと、若いままだったのよね」

「60歳まで心だけじゃなくて、体まで若かったらしいわよ」

「嘘、流石にそれは、有り得ないでしょ」

「そうよねぇ」


 主の居なかった病室の外から、声が聞こえる。

 ただベッドだけが置かれている部屋に、久透リアが立っていた。

 35歳までの不老は、須浦ユニコ自身の思い込みの力であるが、

 ――60歳までの不老は彼女の成果である


「君の、怒りでも」


 リア、


「強い、感情、でも」


 言葉を紡ぐ。


「人の、救いに、至らなかった」


 それは協力者への慰労にも聞こえたし、


「だけど、君は、笑って、死んだ」


 長年連れ添った、戦友への手向けにも、そして、


「死を、乗り越える、ものは、なんだ、救いを――」


 友達への、


奇跡バグを、作り出すものは、なんだ」


 鎮魂歌にも似ていて。

 ――その時、ドアが開いた

 久透リアが振り返れば、


「あれ、ハナカさん、ここにいたの?」

「おつかれ~」


 ドアの外にいた二人に、この病院での名前で呼ばれた。


「ごめんなさい、部屋の整理をしてたんです」


 髪は黒く染めていて、肌にはうっすらと化粧をし、健康的な色を重ねている。ごく普通の人に、なりきる。

 彼女の変装は、ジキルやユニコのようになりきるのではなく、人の思い込みを利用する。

 完璧に近づく程、間違い探しデバッグのように粗が目立つ。だからピンポイントで、その人らしい部分だけを作る。あとは、からっぽ透明の方がいい。

 一度、そうだと思わせれば、あとは勝手に透明部の部分を、思い込んで補完してくれる。


「――寂しい部屋になったわね」

「名前も知らないおばあちゃんだけど」


 鈴木ハナカだと、自分を思い込んでる二人の前で、


「……笑顔で逝ったって、聞いてます」


 リアはその時、笑ってみせた。


「お疲れ様でした」


 だけどその気持ちが本当なのか嘘なのか、

 リア自身にも、解らなかった。







 バスの中では繋いだ手を、停留所では名残惜しそうに離す。そうして、二人して我が家である――琵琶湖畔の民泊施設へ帰ってきた、ソラとレイン。


「あれ、靴がある?」

「宿泊客が来てるのか?」

「平日なのに、珍しいですね」


 そう、本当に珍しい。

 そもそも白金家が経営する民泊施設は、週末すら客が入らない時も多い。ただ、父である白金テツは農作業に電気工事から料理屋の助っ人まで、地元のなんでも屋というポジションであり、白金カナも、イラストエッセイリストとして定期的な収入を得ている。

 そもそもこの家とて、自宅兼という趣が強い。玄関口が住人と客共通なのがその証拠、とりあえず二人は、人の気配がする食卓の方へと顔を出せば、


「おいしい~」

「――えっ」


 思わず、ソラは、驚いた。

 席に座る後ろ姿が、だってとっても、

 でかかったから。そしてそれが誰であるかを、


「あ、アイさん!?」


 レインが叫べば、




「あ、レインちゃ~ん!」


 それは、七色の髪をしている――巨躯だった。

 振り返った立ち上がった彼女の背丈は、202cmに達する。

 その上で腰まで伸びた長髪は、プリズムのような煌めきを魅せ、

 笑顔で垂れ目、優しそうなお姉さんの向こうで、

 ――空っぽになった皿がテーブルにうずたかく積もってる


「それに、ソラくんね~」


 そんな長身女性うおでっかな、のしのしと、152cmのソラの前にやってきて、


「はじめまして~」


 のんびりとした口調のまま、ぎゅうっ! と、ソラを抱きしめた。


「うわぁ!?」




 おっきい、でっかい、

 ――やわらかい

 顔を真っ赤にするソラ152cmに構わず、ぬいぐるみを抱くようにぎゅうぎゅうする虹橋アイ202cm


「ちょ、ちょっと虹橋さん、うちの息子に何を!」

「ちょっと羨ましいぞ、ソラ!」

「あなた何を言ってるの! ソラにはレインさんがいるのよ!?」

「母親殿も何を言ってるのですか!?」


 でも、実際レインもジェラっちゃってるので、


「やめてくださいアイさん!」


 と、真っ赤な顔でレインは抗議をした、すれば、


「あ、ごめんなさ~い」


 そう言ってアイはそのまま、


「はい、レインちゃんも、ぎゅ~」


 っと、二人まとめてハグをした。


「こ、こういう事じゃないです!?」

「ちょ、ちょっとまずい、まずいです! 溺れる!」


 アイの腕の中で、レインのあんなところやこんなところおっきいでっかいやわらかいが当たって、より顔を真っ赤にするソラ、であったが、その時、

 ――チーン! と、オーブンが鳴った


「次何できました~!?」


 二人を離して振り向けば、


「牛すじと赤蒟蒻煮込みのチーズピザ」

「余り物のアレンジレシピですけど」

「いただきま~す!」


 おっきなピザが皿の上にのってるのを見れば、ソラとレインに、一緒に食べましょ~う! と言ってから離して、席に着いた。二人、赤くなった顔を見合わせたあと、アイの正面に回る。

 皿の数的に、もう十人前以上は、食べているようだ。


「ごめんなさ~い、私体が大きくて、食いしん坊なの~」

「在庫一掃出来て助かるけど」

「材料の買い出しにいかなきゃならんな」


 両親がそう言う中でも、ピザのピースを丁寧に味わうようにたいらげていく。


「えっと、虹橋アイさんだ」

「は、はい、アイズフォーアイズのAI管理者でしたっけ」

「神の悪徒計画の発案者よ、よろしく~」


 と言った。

 ……両親が居る状況で、神の悪徒といういかにもなフレーズを使うのはどうかと思ったソラだったが、


「大丈夫よ~、ただのサークル活動みたいにしか思われてないわ~」

「えっ」


 ソラの頭の中を、読み取るような事を言って見せるアイ。


「あ、ごめんなさい、つい癖で~」

「アイさんはAI担当だが、ともかく、頭が回るんだ、予測が出来るくらい」

「そ、そうなんですか?」

「本当にちょっと! ちょっとだけだから~」


 そのちょっとが凄いと思いながら、ソラ、いただきますをしてから、ピザをむる。レインもご相伴にあずかり、両親が次の料理を準備しはじめた段階で、早速、質問した。


「それで、アイさんが来た目的はなんですか?」

「ユニコさんのデバイスから、何かわかりましたか?」


 ただの旅行、という訳じゃないだろう。宿泊するなら、素晴らしいサウナがあり料理も美味い、近江北リゾートという施設がある。

 虹橋アイは、まずこう言った。


「次の祝日、インドラの日は空いてる?」

「えっと」

「特に、予定はないですけど」


 ――インドラの日

 それは、テープPCを初めとしたデジタルの革命。超省電力超省スペース超スパコンという、嘘みたいな本当夢描く侭の未来社会を、今に実現するベース、

 インドラという、デジタル技術が生まれた日だ。


(ユニコさんもインドラの闇、って、言ってた)


 ――ユニコがブラックパールで覚醒した時、ソラの頭によぎったもの

 雷という神の領域を、人が扱うようになった、特別な日、世界的祝日。

 虹橋アイは、


「よかった、それじゃ、オフ会しましょ~う!」

「え?」

「はい?」

「――神の悪徒オフ会」


 アイは、笑顔で手を合わせて、


「怪盗、詐欺師、そして私の暗殺者と、みんな集まって東京で遊びましょ~う!」

「「ええええ!?」」


 と、二人で驚いた後、次に両親が、「詐欺師!?」「暗殺者!?」と、料理の手を止めて振り返ってきたから、ソラは慌ててゲームの話だから! と弁明した。

 ――かくして、インドラの日祝日と連結した土日連休を利用しての

 ソラとレインの、2泊3日の東京旅行が始まる。







 ――その日の夜、アイズフォーアイズにて


「みんな、おおきによぉ!」


 怪盗の一味となったアウミこと淡海おしゃんは、急遽、ソロライブを行っていた。ゲリラにも関わらず集まった、1000人のオーディエンスの前で、笑顔で、明るく、パフォーマンスしていく。

 あの日、ユニコが魅せた、完璧からはまだ遠い。

 だけどその理想を目指し、越えていこうと脈動する姿は、どんどん成長し変わっていく姿は、

 人々に、愛されるものだった。


「ほな次の歌は、うちの友達が好きだった曲!」


 イントロが流れた瞬間、あの曲だ! と会場が盛り上がる。そしてアウミは、ユニコの顔を思い浮かべながら、

 曲名を、叫んだ。


「遥か彼方のミレニアムスター!」


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