――ライブバトルが始まり5曲目という折り返し地点
ユニコがしょっぱなにぶちかました、ノーザンウィンドが再び歌われていて、多くがまず見られない、鏡合わせのライブを楽しみながら、
その内のいくらかが、
「ああもう、なんでこっちにばかり来んだよ!」
「くやしいけど、これが現実だよ!」
「ああ、確かに、ユニコの方が!」
――怪盗側の淡海おしゃんを偽物と断じて
「本物を魅せている!」
怪盗達に襲いかかっていた。
「ファンです! ファントムステップで蹴ってください!」
そんなミーハー感覚で襲ってくる者もいれば、
「淡海おしゃんを穢すなよ、偽物がぁ!」
ブチギレしているファンもいて――時々襲ってくる観客達を相手に、三人は思った異常の苦戦を強いられていた。
本物はこっちなのに、偽物と思われているアウミ、さぞやその心境は、暗く深く沈んでいるだろうと思う。しかし、
(凄いなぁ)
その気持ちは確かにあれど、アウミは、
目の前で踊る、もう一人の自分を、
(追いつきたい)
貪るように真似て、
(追い越したい!)
その上で、自分のオリジナルを加えていく。
――ノーザンウィンドの曲が終わる、だが
その無音の中でアウミは、踊り始めた。
「おお! 怪盗側のおしゃん、凄いぞ!」
「やっぱり、スカイゴールド様の友達が本物なの!?」
自然発生した手拍子、それに合わせて、この日のために練習した高難度のステップ、笑顔と供に繰り出すその踊りに、一瞬、観客達の視線はアウミに集中した。だが、
『おじゃましま~す!』
そこでユニコが――隔てたステージ間を、ジャンプした。だが、
あと一歩届かない、しかし、ユニコはマイクを握ってない方の手を差し出してみれば、
――ガシッと
「あ、スカイが手を握った!」
「助けてあげてる!」
スカイが何故文字通りの手助けをしたかといえば、反射的にとしか言いようが無く――自分のその気持ちすら利用されたかと思うと、スカイは心底ぞっとする。
『おおきに!』
助けられたユニコは、そのままアウミの前へ行って、そしてダンスバトルを仕掛けた。
『ほらほら! もっと!』
『わかってる!』
体を炎のように揺らし、リムのタイミングで表情を切り替え、高く足をあげ、彫像のように美しく、獣の様に自由に舞う。しかし、鏡合わせの均衡が、
やはり、アウミの方から崩れていく。
「あっ!」
ついにはどしん! と、尻餅をついてしまった。
「うおお! 勝ったぁ!」
「やっぱあっちが本物じゃね!?」
「いや、本物とか偽物とかじゃねーよ!」
観客達が求めるもの、それは、
「「「あっちが凄い!」」」
まだ間奏が流れる中――そしてシソラ達がみつめる中で、ユニコは、アウミに手を伸ばす。
「これで解ったやろ」
そして無理矢理手を取って、立たせた後、
アウミの耳元に囁いた。
「
――その言葉を呪いのように残して
ユニコは、バク転を決めて、そして縁で大ジャンプをし、さっき落ちかけた距離をなんなく飛んで、戻ってみせた。そして、
『うちは彼氏を作らへん!』
高らかに、MC。
『トイレにもいかんよ? ごはんは三食マシュマロ! 全人類と貴方だけの恋人!』
それは絵空事、ただの妄想、お伽噺のお姫様、だが、
『うちはみんなの』
『アイドルよぉ!』
「「「うわあああああああ!」」」
歓声はアウミに向かい、そして、
「あっちが本物だ!」
「そうだ、こっちは消せ!」
「殺せぇ!」
簡単に使ってはいけない言葉を、まるでWeTubeのコメント欄に書き込むように、
ただ、
――アウミに殺到する者達を、スカイ達は必死に守る
「な、なんだこいつら、洗脳されてんのかよ!」
「ユニコの作った空気に、完全にあてられている!」
ついにはその、観客達の中の勢い任せの刃が、
「消えろぉ!」
アウミの体を切り裂こうとした。
――その時
アウミは、歌った。
持ち歌では無く――速度増加のバフの歌。
スピードを増したファントムステップから放たれた蹴りが、
アウミを襲ったプレイヤーを、そのままステージ下へ蹴り落とした。
「ぎゃうっ!?」
襲ってきた者が落ちていく――ブレイズもレインも一度も、キレが増した動きで敵を撃退する。そうしてから、アウミを囲むように、背中を向けて集まる三人。
「おいおい、喉の無駄遣いをすんなよ」
「ああ、お前はお前の曲を歌う事だけを考えろ」
「いやでも、
「確かにな!」
「かっこつけてすまなかった、助かった!」
三人からかけられる言葉に、アウミは、いや、
――ブルーオーシャンは
「おおきによ」
力強く笑い、宣言する。
「うち、最後まで歌いきるから」
そしてその笑顔を、ユニコにも向けた――
「付き合って」
願うように、届くように。
――ユニコは言葉を返さなかった
『ほないくよ、6曲目!』
ただ彼女は、ファン達を、
『うみのこライバー!』
喜ばせる事だけ、考えていた。
◇
――ライブバトルが始まり
10曲目が終わった後、訪れた決着は、
『みんな、おおきにぃ!』
ユニコ側の圧勝だった。
「わぁぁぁぁ!」
「すごいぃ!」
「おーしゃーん! おーしゃーん!」
会場の喝采は全て、ユニコの方へ向けられる。彼女は満足したように、笑ってみせる。
無論、中には、アカウント売買をした者が称賛を受けている事態に、戸惑う者もいる。だが、
――2089年のこの時代
アカウント売買は、明確な罪ではない。
BANされたとて、不利益分を罰金として運営に払ったとて、
ただ、淡海おしゃんとしての存在が残る。
「……もう一度言うよ」
ユニコは、アウミ達に、聞こえるように告げる。
「本物は、偽物に勝てへんのよ」
そう、89歳の体は、
15歳の侭に、笑った。
アウミは、それに、
「――ごめんね」
と言った。
「……え?」
「ユニコちゃんと歌えて、楽しかった、けど」
アウミ、
「その、これからする事の、ごめんなさい。……うん、うちじゃかなわへん、アウミじゃ全然、やりたいことできへん、だから」
ユニコにとって訳が解らない事を、
「――
言った後、彼女は、
――BGMとともに歌い始めた
それは失恋の歌。
「え?」
「おしゃんの新曲?」
「聞いた事無い」
観客達がはてなを浮かべる中で、須浦ユニコは、
「待って」
戦慄する。
「――それは」
それは須浦ユニコの歌、
アイドル時代、たった一曲だけ歌った、
――決意の歌
自分の気持ちを込めた歌。
そしてこの歌と供に、
――
彼女だけが見える淡い輝きと供に、オーシャンの