目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
4-8 楽演バトル! 淡海ナリキリと化した先輩

 ――ライブバトルが始まり5曲目という折り返し地点

 ユニコがしょっぱなにぶちかました、ノーザンウィンドが再び歌われていて、多くがまず見られない、鏡合わせのライブを楽しみながら、

 その内のいくらかが、


「ああもう、なんでこっちにばかり来んだよ!」

「くやしいけど、これが現実だよ!」

「ああ、確かに、ユニコの方が!」


 ――怪盗側の淡海おしゃんを偽物と断じて


「本物を魅せている!」


 怪盗達に襲いかかっていた。


「ファンです! ファントムステップで蹴ってください!」


 そんなミーハー感覚で襲ってくる者もいれば、


「淡海おしゃんを穢すなよ、偽物がぁ!」


 ブチギレしているファンもいて――時々襲ってくる観客達を相手に、三人は思った異常の苦戦を強いられていた。

 本物はこっちなのに、偽物と思われているアウミ、さぞやその心境は、暗く深く沈んでいるだろうと思う。しかし、


(凄いなぁ)


 その気持ちは確かにあれど、アウミは、

 目の前で踊る、もう一人の自分を、


(追いつきたい)


 貪るように真似て、


(追い越したい!)


 その上で、自分のオリジナルを加えていく。

 ――ノーザンウィンドの曲が終わる、だが

 その無音の中でアウミは、踊り始めた。


「おお! 怪盗側のおしゃん、凄いぞ!」

「やっぱり、スカイゴールド様の友達が本物なの!?」


 自然発生した手拍子、それに合わせて、この日のために練習した高難度のステップ、笑顔と供に繰り出すその踊りに、一瞬、観客達の視線はアウミに集中した。だが、


『おじゃましま~す!』


 そこでユニコが――隔てたステージ間を、ジャンプした。だが、

 あと一歩届かない、しかし、ユニコはマイクを握ってない方の手を差し出してみれば、

 ――ガシッと


「あ、スカイが手を握った!」

「助けてあげてる!」


 スカイが何故文字通りの手助けをしたかといえば、反射的にとしか言いようが無く――自分のその気持ちすら利用されたかと思うと、スカイは心底ぞっとする。


『おおきに!』


 助けられたユニコは、そのままアウミの前へ行って、そしてダンスバトルを仕掛けた。


『ほらほら! もっと!』

『わかってる!』


 体を炎のように揺らし、リムのタイミングで表情を切り替え、高く足をあげ、彫像のように美しく、獣の様に自由に舞う。しかし、鏡合わせの均衡が、

 やはり、アウミの方から崩れていく。


「あっ!」


 ついにはどしん! と、尻餅をついてしまった。


「うおお! 勝ったぁ!」

「やっぱあっちが本物じゃね!?」

「いや、本物とか偽物とかじゃねーよ!」


 観客達が求めるもの、それは、


「「「あっちが凄い!」」」


 中身レッテルよりも、外面本質だった。

 まだ間奏が流れる中――そしてシソラ達がみつめる中で、ユニコは、アウミに手を伸ばす。


「これで解ったやろ」


 そして無理矢理手を取って、立たせた後、

 アウミの耳元に囁いた。


本物現実偽物理想に勝てへんよ?」


 ――その言葉を呪いのように残して

 ユニコは、バク転を決めて、そして縁で大ジャンプをし、さっき落ちかけた距離をなんなく飛んで、戻ってみせた。そして、


『うちは彼氏を作らへん!』


 高らかに、MC。


『トイレにもいかんよ? ごはんは三食マシュマロ! 全人類と貴方だけの恋人!』


 それは絵空事、ただの妄想、お伽噺のお姫様、だが、


『うちはみんなの』


 虚偽だからこそ人はそれを、


『アイドルよぉ!』


 本気ノリで、信じられる。


「「「うわあああああああ!」」」


 歓声はアウミに向かい、そして、


「あっちが本物だ!」

「そうだ、こっちは消せ!」

「殺せぇ!」


 簡単に使ってはいけない言葉を、まるでWeTubeのコメント欄に書き込むように、


ただ、衝動ノリに乗せて、アウミ達を攻撃する。

 ――アウミに殺到する者達を、スカイ達は必死に守る


「な、なんだこいつら、洗脳されてんのかよ!」

「ユニコの作った空気に、完全にあてられている!」


 ついにはその、観客達の中の勢い任せの刃が、


「消えろぉ!」


 アウミの体を切り裂こうとした。

 ――その時




 アウミは、歌った。

 持ち歌では無く――速度増加のバフの歌。

 スピードを増したファントムステップから放たれた蹴りが、

 アウミを襲ったプレイヤーを、そのままステージ下へ蹴り落とした。




「ぎゃうっ!?」


 襲ってきた者が落ちていく――ブレイズもレインも一度も、キレが増した動きで敵を撃退する。そうしてから、アウミを囲むように、背中を向けて集まる三人。


「おいおい、喉の無駄遣いをすんなよ」

「ああ、お前はお前の曲を歌う事だけを考えろ」

「いやでも、バフが無かったら我達間に合ってないよね」

「確かにな!」

「かっこつけてすまなかった、助かった!」


 三人からかけられる言葉に、アウミは、いや、

 ――ブルーオーシャンは


「おおきによ」


 力強く笑い、宣言する。


「うち、最後まで歌いきるから」


 そしてその笑顔を、ユニコにも向けた――


「付き合って」


 願うように、届くように。

 ――ユニコは言葉を返さなかった


『ほないくよ、6曲目!』


 ただ彼女は、ファン達を、


『うみのこライバー!』


 喜ばせる事だけ、考えていた。







 ――ライブバトルが始まり

 10曲目が終わった後、訪れた決着は、


『みんな、おおきにぃ!』


 ユニコ側の圧勝だった。


「わぁぁぁぁ!」

「すごいぃ!」

「おーしゃーん! おーしゃーん!」


 会場の喝采は全て、ユニコの方へ向けられる。彼女は満足したように、笑ってみせる。

 無論、中には、アカウント売買をした者が称賛を受けている事態に、戸惑う者もいる。だが、

 ――2089年のこの時代

 アカウント売買は、明確な罪ではない。

 BANされたとて、不利益分を罰金として運営に払ったとて、彼女が牢に繋がれる前科持ちのアイドルになる訳ではない。

 ただ、淡海おしゃんとしての存在が残る。


「……もう一度言うよ」


 ユニコは、アウミ達に、聞こえるように告げる。


「本物は、偽物に勝てへんのよ」


 そう、89歳の体は、

 15歳の侭に、笑った。

 アウミは、それに、


「――ごめんね」


 と言った。


「……え?」

「ユニコちゃんと歌えて、楽しかった、けど」


 アウミ、


「その、これからする事の、ごめんなさい。……うん、うちじゃかなわへん、アウミじゃ全然、やりたいことできへん、だから」


 ユニコにとって訳が解らない事を、


「――ブルーオーシャン怪盗として、うち、悪い事をする」


 言った後、彼女は、

 ――BGMとともに歌い始めた

それは失恋の歌。


「え?」

「おしゃんの新曲?」

「聞いた事無い」


 観客達がはてなを浮かべる中で、須浦ユニコは、


「待って」


 戦慄する。


「――それは」




 それは須浦ユニコの歌、

 アイドル時代、たった一曲だけ歌った、

 ――決意の歌

 自分の気持ちを込めた歌。




 そしてこの歌と供に、

 ――怪盗夜曲ファントムセレナーデ

 彼女だけが見える淡い輝きと供に、オーシャンのグリッチ裏技が始動する。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?