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4-1 怪盗一味、電脳都市に現る

 好きを正義に――嫌いを悪に。

 そうしなければ、

 この怒りに、意味が無くなってしまうから。







 ――電脳都市ゴルドデルタ

 基本ファンタジー色が強めのアイズフォーアイズの世界で、神から見放されたゆえに機械文明が発達した、という設定のエリア。

 三角形状の都市構造。中心部は高層ビルが建ち並び、タイヤレスカーがチューブ内を滑走する、子供が夢見る未来都市――しかしバリケード一枚隔てれば、ネオンカラーが原色を謳い、錆びた建物のダクトからは鈍色の煙が噴き出し、お掃除ロボットが殺しを請け負い、電子ドラッグが公然と売られる悪夢のようなサイバーパンク。

 未来社会の光と影、アンドロイド達が闊歩して、サイバネティックに身を投げる。プログラマーやホワイトハッカー等、リアルでもIT職に務めているプレイヤーの多くが拠点としている街。

 ――中心部に聳え立つのは100階建てのビル

 夜を殺す程の眩い光を放つ巨塔。文字通り、この街を管理し、支配する者達の城。

IDを持った者しか入れず、完全なセキュリティが敷かれ、侵入者は消して許さない、難攻不落の電子の要塞、

 それが、今、




「チーフ、スカイゴールド一味が90階まで到達しましたぁ!」

「なんじゃとぉ!?」


 スカイゴールド、シルバーキューティ

 そして、新たに加わった仲間、ブレイズレッドによって、

 縦一直線に蹂躙されていた。




「いやいやいやいやおかしいて!? 予告状もらってから、めっちゃセキュリティ強化したんじゃよ!」

「でも、モスキートサウンドな最先端から、とりもちトラップってクラシカルまで!」

「全部突破されたって!? グリッチか、グリッチなのか!?」


 老人、若人、アンドロイド、白衣姿の彼等がぎゃーぴー騒ぐのは、都市を一望出来る屋上フロア。ホログラフのモニターに映るのは、赤外線トラップを前にして、息を整えている三人。

 尚、この映像は音声抜きで都市で中継され、凄まじい喝采を浴びている。


「でもHPは相当に削れてますわ!」

「そ、そうじゃのう、あと10階もあるからのう!」

「よしんばここまで辿り着いたところで!」


 白衣のプレイヤー達は、屋上中央にそびえる物を見る。


「究極ガーディアンロボ、まもる君がおるからなぁ!」

「頼んだわよ、まもる君!」

「お宝は絶対死守だぜ!」


 白衣達の言葉に、駆動音をたてて、マッスルポーズを取ったのは――これだけ未来都市なのに昭和時代のブリキのオモチャみたいな――身の丈7メートルのロボット。カリガリーの時のように、自重オーバーウェイトで潰れたりしない、ゲーム内の技術で成立させた漢の浪漫巨大ロボである。なお、おとこに性差は無い。

 科学者達の見解は、流石に怪盗も適うまい、であった。

 ――だが


「……なんかあの三人、相談してません?」


 アンドロイドが、モニターの中の三人の様子がおかしい事に気付いた。赤外線トラップに目もくれず、何やら話し合った後、


「あれ?」

「組み体操?」

「何しとるんじゃ?」


 スカイがブレイズの右足を、キューティがブレイズの左足を、それぞれに持ち上げた。即席足長お兄さんになったブレイズは、炎の剣、クラマフランマを頭上に掲げ、

 ――なんとギュルルと回し始めた


「「「ドリル!?」」」


 頭に装備された剣の刀身がスパイラル、炎の螺旋に目を奪われる中、怪盗と忍者は、タイミングを合わせて同時に飛んで、

 ――この時、踏みしめた二人の足が

 床にめり込んだすり抜けグリッチのは、カメラの角度的に誰も確認出来ず、

 すり抜けで足をめりこませたオブジェクトが閉じた時、怪盗が作った三角形が、

 回転する頂点を掲げ、

 射出する。




「「「怪盗炎翔ファントムロケット」」」


 超加速により真上へ飛んだ燃えるドリルが、

 すり抜け部分を抉り、床を壊し、それを都合10階分繰り返す事で、

 ――屋上まで到達し

 巨大ロボットまで、破壊せしめてみせた。


「「「ま、まもるく~ん!?」」」


 爆発炎上するロボットの中から、スカイはこのPVPの勝利条件の一つ、ブラックパール――ではなくて、まもる君を動かす動力源、

ジェネレーターコアシステム科学の力ってすげーを、単純にスティールしてみせた。




「素晴らしい歓迎トラップに感謝するよ!」


 爆炎にマントを揺らめかせて着地しながら、スカイ、


「だが、確かに奪わせてもらった!」


 そう言って勝利宣言、だが、


「ま、まだじゃ!」

「PVPのもう一つの勝利条件は、このトラップタワーから逃げ切る事よ!」

「体力ミリ状態で、100階降りるなんて無理だろう!」


 と白衣達思ったその時には、


「「「あっ」」」


 ――スカイが三人の注目を集めている間に

 キューティがまず、畳を一枚用意して、それにブレイズが仰向けに寝て、

続けて彼女、よみふぃの、お尻の部分に穴があいたでっかい布袋を用意してて、

 そしてその穴に、バグで体にクラマフランマを装備したブレイズが、腹筋から炎を噴射する事で、

 ――よみふぃ熱気球を作り上げ

 あとはふくらんだよみふぃと畳を、和紐で連結して、

 そのまま、ぷかぷか、浮かび上がらせた。


「ああ!?」


 いつまにやらそんな事おもしろクラフトされてて、


「よっしゃ、テイクオフだ!」

「スカイ、乗れ!」


 スカイは言われるままに畳へ飛び乗る。気球は現実の法則よりも、ゲームらしさを優先して、どんどんビルから離れていき、


『GAME CLEAR!』


 勝利条件が満たされた。

 ――遠くなっていく怪盗達に


「くそう、スカイゴールドめぇ!」

「覚えてなさい、次はもっとえげつない罠を用意するから! また来てね!」

「ねぇグリッチなの、グリッチなんでしょ!?」


 白衣達の声がかけられて、スカイ達は、それに笑みを浮かべた後、

 都市中から沸き上がる歓声を眼下にしながら、そのままリアルへとログアウトした。







 ――白金ソラの部屋

 VRMMOでは夜の街であったが、現時刻は、日曜日の11時である。


「いや~! いいトレーニングになったぜ!」

「凄く手強かったね」

「うむ、正直、けていてもおかしくなかった」


 ソラとレインが、神の悪徒計画を、怪盗の仲間になったリクヤに明かしてから3週間程経っていた。

その間に三人は、RMT業者の調査をしたり、表舞台で活躍したり、裏でこっそり悪党を退治したり、「夏コミの題材にしていいですか!?」と言われシソラとレインが慌てたり、アリクがアカネをドワーフの酒場に案内してたら謎の冷たい視線を感じたり、と。

 ――本日の電脳都市でのPVPは、相手からの挑戦状が切っ掛けだった


「流石、今までクリア者0組の超難関ダンジョンだよなぁ」

「ファントムロケットでショートカットするのは予定通りだったけど」

「体力が本当に限界だった」


 感想会と反省会を行う三人、暫く離してから、リクヤ、


「にしてもやっぱり、俺にはすり抜け部分が見えねぇんだよなぁ」


 ――本日も試みた事が、失敗した事を嘆く

 ソラとレインは、リアルで手を繋ぐ事で、すり抜けグリッチの能力を【特性共有】出来る。

 しかし、リクヤはソラと手を繋いでも、それこそ抱きついてログインしても、同じ事は出来なかった。


「やっぱり、お前らみたいに愛の力が無いと無理とか?」

「ま、真顔で何を言ってるの」

「そ、そうだ、たまたま私とソラの体の相性が良いだけだろう」

「その言い方も問題ありますよ!?」


 顔を真っ赤にしあうソラとレインを見て、あ、やっぱり適わんわ、と思うリクヤ。


「とりあえず腹減った~、飯にしない?」

「あ、その前にサウナに入らない?」

「そうだな、賛成だ」


 サウナに入った後は、五感にバフがかかる。とりわけ味覚の向上が凄まじく、某本から引用すれば”800円の天丼が2000円の味に感じる”レベルである。さて早速、脱衣場へ向かおうとしたその時、

 ――付けっぱなしの左耳デバイスからコールがかかった


「ウミからだ」

「WeTubeの配信、終わったんかな? 」


 三人、中指二回、人差し指一回、こめかみをタップして通話を開始する。そして耳骨じこつに響いた声は、


『こ、こんにちはぁ、今、大丈夫やろかぁ』

「なんだどうした、元気が無いようだが……」


 レインが心配する程に、少し、テンションが低い様子。ウミ、続けて、


『ええ知らせと、悪い知らせがあるんよ、……どっちから聞きたい?』


 まるでお芝居テンプレートのようなセリフ、三人は顔を見合わせてから、ソラが、


「じゃあ、いい知らせから」

『うん、えっと、うち、アイズフォーアイズのミュージックフェス、出る事になった』

「あ、あのプレイヤー音楽やってる奴が主催の、月一の音楽イベント!?」

「選ばれるなんて凄いじゃないか! おめでとう!」


 そう、それはとても喜ばしい事、2020年代から盛んになったメタバースの音楽フェスは、現代においても盛り上がりを見せている。

 ――世界一のVRMMOでの音楽イベントに参加出来る栄誉

 だがしかし、


『悪い知らせはね』


 ウミが告げた、次の言葉は、


『うち、炎上してもうた』

「え?」

『初めての男性Vtuberさんとのコラボ動画が、プチ燃えちゃってるんよぉ……』

「「「ええええ!?」」」


 その喜びを、台無しにするものだった。


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