好きを正義に――嫌いを悪に。
そうしなければ、
この怒りに、意味が無くなってしまうから。
◇
――電脳都市ゴルドデルタ
基本ファンタジー色が強めのアイズフォーアイズの世界で、神から見放されたゆえに機械文明が発達した、という設定のエリア。
三角形状の都市構造。中心部は高層ビルが建ち並び、タイヤレスカーがチューブ内を滑走する、子供が夢見る未来都市――しかしバリケード一枚隔てれば、ネオンカラーが原色を謳い、錆びた建物のダクトからは鈍色の煙が噴き出し、お掃除ロボットが殺しを請け負い、電子ドラッグが公然と売られる悪夢のようなサイバーパンク。
未来社会の光と影、アンドロイド達が闊歩して、サイバネティックに身を投げる。プログラマーやホワイトハッカー等、リアルでもIT職に務めているプレイヤーの多くが拠点としている街。
――中心部に聳え立つのは100階建てのビル
夜を殺す程の眩い光を放つ巨塔。文字通り、この街を管理し、支配する者達の城。
IDを持った者しか入れず、完全なセキュリティが敷かれ、侵入者は消して許さない、難攻不落の電子の要塞、
それが、今、
「チーフ、スカイゴールド一味が90階まで到達しましたぁ!」
「なんじゃとぉ!?」
スカイゴールド、シルバーキューティ
そして、新たに加わった仲間、ブレイズレッドによって、
縦一直線に蹂躙されていた。
「いやいやいやいやおかしいて!? 予告状もらってから、めっちゃセキュリティ強化したんじゃよ!」
「でも、モスキートサウンドな最先端から、とりもちトラップってクラシカルまで!」
「全部突破されたって!? グリッチか、グリッチなのか!?」
老人、若人、アンドロイド、白衣姿の彼等がぎゃーぴー騒ぐのは、都市を一望出来る屋上フロア。ホログラフのモニターに映るのは、赤外線トラップを前にして、息を整えている三人。
尚、この映像は音声抜きで都市で中継され、凄まじい喝采を浴びている。
「でもHPは相当に削れてますわ!」
「そ、そうじゃのう、あと10階もあるからのう!」
「よしんばここまで辿り着いたところで!」
白衣のプレイヤー達は、屋上中央にそびえる物を見る。
「究極ガーディアンロボ、まもる君がおるからなぁ!」
「頼んだわよ、まもる君!」
「お宝は絶対死守だぜ!」
白衣達の言葉に、駆動音をたてて、マッスルポーズを取ったのは――これだけ未来都市なのに昭和時代のブリキのオモチャみたいな――身の丈7メートルのロボット。カリガリーの時のように、
科学者達の見解は、流石に怪盗も適うまい、であった。
――だが
「……なんかあの三人、相談してません?」
アンドロイドが、モニターの中の三人の様子がおかしい事に気付いた。赤外線トラップに目もくれず、何やら話し合った後、
「あれ?」
「組み体操?」
「何しとるんじゃ?」
スカイがブレイズの右足を、キューティがブレイズの左足を、それぞれに持ち上げた。即席足長お兄さんになったブレイズは、炎の剣、クラマフランマを頭上に掲げ、
――なんとギュルルと回し始めた
「「「ドリル!?」」」
頭に装備された剣の刀身がスパイラル、炎の螺旋に目を奪われる中、怪盗と忍者は、タイミングを合わせて同時に飛んで、
――この時、踏みしめた二人の足が
すり抜けで足をめりこませたオブジェクトが閉じた時、怪盗が作った三角形が、
回転する頂点を掲げ、
射出する。
「「「
超加速により真上へ飛んだ燃えるドリルが、
すり抜け部分を抉り、床を壊し、それを都合10階分繰り返す事で、
――屋上まで到達し
巨大ロボットまで、破壊せしめてみせた。
「「「ま、まもるく~ん!?」」」
爆発炎上するロボットの中から、スカイはこのPVPの勝利条件の一つ、ブラックパール――ではなくて、まもる君を動かす動力源、
「素晴らしい
爆炎にマントを揺らめかせて着地しながら、スカイ、
「だが、確かに奪わせてもらった!」
そう言って勝利宣言、だが、
「ま、まだじゃ!」
「PVPのもう一つの勝利条件は、このトラップタワーから逃げ切る事よ!」
「体力ミリ状態で、100階降りるなんて無理だろう!」
と白衣達思ったその時には、
「「「あっ」」」
――スカイが三人の注目を集めている間に
キューティがまず、畳を一枚用意して、それにブレイズが仰向けに寝て、
続けて彼女、よみふぃの、お尻の部分に穴があいたでっかい布袋を用意してて、
そしてその穴に、バグで体にクラマフランマを装備したブレイズが、腹筋から炎を噴射する事で、
――よみふぃ熱気球を作り上げ
あとはふくらんだよみふぃと畳を、和紐で連結して、
そのまま、ぷかぷか、浮かび上がらせた。
「ああ!?」
いつまにやら
「よっしゃ、テイクオフだ!」
「スカイ、乗れ!」
スカイは言われるままに畳へ飛び乗る。気球は現実の法則よりも、ゲームらしさを優先して、どんどんビルから離れていき、
『GAME CLEAR!』
勝利条件が満たされた。
――遠くなっていく怪盗達に
「くそう、スカイゴールドめぇ!」
「覚えてなさい、次はもっとえげつない罠を用意するから! また来てね!」
「ねぇグリッチなの、グリッチなんでしょ!?」
白衣達の声がかけられて、スカイ達は、それに笑みを浮かべた後、
都市中から沸き上がる歓声を眼下にしながら、そのままリアルへとログアウトした。
◇
――白金ソラの部屋
VRMMOでは夜の街であったが、現時刻は、日曜日の11時である。
「いや~! いいトレーニングになったぜ!」
「凄く手強かったね」
「うむ、正直、
ソラとレインが、神の悪徒計画を、怪盗の仲間になったリクヤに明かしてから3週間程経っていた。
その間に三人は、RMT業者の調査をしたり、表舞台で活躍したり、裏でこっそり悪党を退治したり、「夏コミの題材にしていいですか!?」と言われシソラとレインが慌てたり、アリクがアカネをドワーフの酒場に案内してたら謎の冷たい視線を感じたり、と。
――本日の電脳都市でのPVPは、相手からの挑戦状が切っ掛けだった
「流石、今までクリア者0組の超難関ダンジョンだよなぁ」
「ファントムロケットでショートカットするのは予定通りだったけど」
「体力が本当に限界だった」
感想会と反省会を行う三人、暫く離してから、リクヤ、
「にしてもやっぱり、俺にはすり抜け部分が見えねぇんだよなぁ」
――本日も試みた事が、失敗した事を嘆く
ソラとレインは、リアルで手を繋ぐ事で、すり抜けグリッチの能力を【特性共有】出来る。
しかし、リクヤはソラと手を繋いでも、それこそ抱きついてログインしても、同じ事は出来なかった。
「やっぱり、お前らみたいに愛の力が無いと無理とか?」
「ま、真顔で何を言ってるの」
「そ、そうだ、たまたま私とソラの体の相性が良いだけだろう」
「その言い方も問題ありますよ!?」
顔を真っ赤にしあうソラとレインを見て、あ、やっぱり適わんわ、と思うリクヤ。
「とりあえず腹減った~、飯にしない?」
「あ、その前にサウナに入らない?」
「そうだな、賛成だ」
サウナに入った後は、五感にバフがかかる。とりわけ味覚の向上が凄まじく、某本から引用すれば”800円の天丼が2000円の味に感じる”レベルである。さて早速、脱衣場へ向かおうとしたその時、
――付けっぱなしの左耳デバイスからコールがかかった
「ウミからだ」
「WeTubeの配信、終わったんかな? 」
三人、中指二回、人差し指一回、こめかみをタップして通話を開始する。そして
『こ、こんにちはぁ、今、大丈夫やろかぁ』
「なんだどうした、元気が無いようだが……」
レインが心配する程に、少し、テンションが低い様子。ウミ、続けて、
『ええ知らせと、悪い知らせがあるんよ、……どっちから聞きたい?』
まるで
「じゃあ、いい知らせから」
『うん、えっと、うち、アイズフォーアイズのミュージックフェス、出る事になった』
「あ、あの
「選ばれるなんて凄いじゃないか! おめでとう!」
そう、それはとても喜ばしい事、2020年代から盛んになったメタバースの音楽フェスは、現代においても盛り上がりを見せている。
――世界一のVRMMOでの音楽イベントに参加出来る栄誉
だがしかし、
『悪い知らせはね』
ウミが告げた、次の言葉は、
『うち、炎上してもうた』
「え?」
『初めての男性Vtuberさんとのコラボ動画が、プチ燃えちゃってるんよぉ……』
「「「ええええ!?」」」
その喜びを、台無しにするものだった。