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3-9 SAKURAドロップス

 お姉ちゃんが好き。

 パパも好き、ママも好き。

 他はいらない。

 ……友達を作った方がいいよって言う、パパとママ、嫌い。

 お姉ちゃんはそんな事言わない。お姉ちゃん、好き。

 ランドセルを買ってくれる、パパとママが好き。

 ランドセルを川に落として、汚したお姉ちゃん嫌い。

 そんなお姉ちゃんを、ちょっと叱るだけのパパとママ、嫌い。

 私と遊んでくれる、お姉ちゃんが好き。

 他の子と遊んでる、お姉ちゃんが嫌い。

 いい子な私を、褒めてくれる、パパとママが好き。

 不真面目なお姉ちゃんにも、優しいパパとママ、嫌い。

 みんなに好きって言われる、お姉ちゃんが好き。

 みんなに好きって言われる、お姉ちゃんが嫌い。

 お姉ちゃんが好き、お姉ちゃんが嫌い。

 ――わけわかんない

 ……万引きをした、お姉ちゃん、嫌い。

 落ち込んでるお姉ちゃんを、励ますパパとママ、嫌い。

 悪いことしても、友達が減らない、お姉ちゃんが――わからない。

 わからない。

 万引きをさせようとした、だけど、しなかった。

 私のおかげで、万引きをしないって言った。

 好き。

 嫌い。

 わかんない。

 ……万引きをしたお姉ちゃんが、ゲームで、盗みをはじめた。

 嫌い。

 そんなことするお姉ちゃん、嫌い。

 だけどそれで人気者になったお姉ちゃんが嫌い。

 私みたいに正しくないのに、みんなに愛されるお姉ちゃんが嫌い。

 ゲームだろうと、悪い事をするお姉ちゃんが、嫌い。

 私の事が好きな、お姉ちゃんが好き。

 私だけにしか愛されない、お姉ちゃんが好き。

 ――そんな風に思う自分が大嫌い

 お姉ちゃんみたいじゃない、自分が嫌い。

 わかんない。

 わかんないよ。

 どうしたらいいかわからないよ。

 ――お姉ちゃん




 本当だったら、何時かそのまま姉にぶつけられるはずだった想いを、

 受け止めたのは、黒い真珠だった。







「足場さえ凍っていればぁっ!」


 怪盗の機動を奪うのを、暴風だけに頼ったりせず、エビモンは意識的にスカイの足元を凍らせていく。だがその時、


「――左腕装備」


 利き手じゃない方で握ったクラマフランマは、彼の腕を、覆うように変形し、


パイルフレイムバンカーぶっさされ炎杭!」


 ブレイズがその武器を打ち込むと、そこから、炎の柱が噴き上がり、凍り付いた床をとかし、そして乾かしていった。


「サンキューブレイズ!」


 即座ファントムステップで、エビモンまでの高度まであがったスカイ、そのまま彼女へと回し蹴りを放つが、それは氷で作られた盾でガードされて――しかし、

 グルリと、


「――あっ」

「義賊ヨーヨー」


 エビモンの足首に、ゴエモンの放ったヨーヨーが絡み、


世界巡り!アラウンド・ザ・ワールド


 捉えたエビモンをそのまま単純ぶん回し、勢いつけて地面に叩き付ける!


「――カハッ」


 高所から妹を引きずり落とした姉は、そのまま、エビモンの元へと駆けていった。


「サクラ!」


 本当の名前を呼びながら、ヨーヨーで激しく攻撃しながら、


「ごめん! ごめんなさい! アタイ、なんも解ってなかった!」

「解った所で――どうするんですか!」


 エビモンも当然抵抗する、激しいヨーヨーの乱舞をしのいでいく、


「こんなの、ただの嫉妬だって、解るでしょう!」


 持たざる者の、持つ者への羨望、

 それが、姉への複雑な感情で、歪んだ――いや、

 どこまでも純粋になってしまった。

 だからこそ、


「アタイもサクラに嫉妬してた!」

「――なっ」


 本当の事を伝えなきゃ、


「妹なのに、アタイよりしっかりしてて、真面目で、頭が良くて! 皆あなたの友達になりたがってて! 男の子にもモテて、それに」


 後悔をする。


「サクラって名前が、キレイで!」

「――姉さん」


 それがどんなに、くだらない事でも。


「だから止めたいの、こんな事をするサクラは、嫌いなんだ!」

「う、うるさい」

「私が、私が好きなサクラは!」

「黙れぇぇぇっ!」


 咆哮と供に――彼女の体が放たれた冷気は、

 ゴエモンの体を一瞬で氷で包み、そして、

 立ち上がっていた炎の柱すらも、凍らせて、

 砕いた。

 ――その氷柱が崩壊した向こうで


「――えっ」


 熱く、熱く燃えている。ブレイズが、クラマフランマを装備して――


「――無限増殖の術インフィニティ


 キューティが命懸けの心地で増やした、頭、胴、両腕、両足、

 合計6本分のクラマフランマを、


「おおおおっ」


 文字通り、己の身と心を燃やしながら装備したブレイズの体、

 握り拳を突き上げる姿勢を取った彼の全てが、


「おらぁぁぁぁぁぁっ!」


 ――剣の形に炎上する


「スカァイ!」


 呼びかけを聞けば――スカイはブレイズの足元の床に、手をすり抜けで突っ込んだ。バグが消えれば押し出される――加速する腕で、炎の大剣と化した友達を無理矢理に持ち上げ、同時に飛び、頭上へ構え、


「――こんな」


 ただそれを見上げるばかりのエビモンへ、


「こんなのってぇっ!?」

「――クラマフランマフルアーマー命燃やして


 振り落とす。





「「ファントムブレイズ!怪盗狂焔」」


 巨大な燃えあがる剣の直撃を受けた彼女、

 HPが0になるのは当然、ブラックパールと融合した氷水晶が、

 砕け、消える。

 ――その途端

 千年桜の氷が砕けた。

 三年前に時が止まっていた桜吹雪が、

 ダイヤモンドダストの煌めきと供に、舞う。そして、

 花弁の一つが、

 ゴエモンへと、落ちれば、

 ――彼女の氷もとけていった




 三年ぶりの桜吹雪は、

 季節遅れの春を、この国へと、

 取り戻していった。







「――あ、戻った」


 突然目の前がブラックアウトしたアウミ、何故かスカイ達とも連絡がとれないので、動画用のサムネ作りをしていたが、ようやくそれが解除された途端、


「「「桜だぁぁぁぁぁ!」」」

「ええぇっ!?」


 気がつけば、桜城よりも遥か高く聳え立つ千年桜は復活し、

 会場のモニターには、国内のあちらこちらで甦った桜と、それに歓喜する人々が映っていた。


「いやいや、解氷の処理でロードが重くて落ちてたって運営さぁ!」

「まぁいいじゃないですかぁ、詫び石ゲーム内通貨もらえるみたいですし」

「それより、本当に、桜が戻って来たんだぁ!」


 だいたい20分遅れでやってきたゴエモンの快挙に、皆一様に笑顔を浮かべていた。だけどその立役者たるゴエモンといえば、天守閣の中央で――すっかり地味な姿に戻った妹のエビモンを抱いて泣いていた。


「ごべん、ごめんねぇっ! アタイ、本当、……ごめぇぇん!」


 それは傍から見れば、不甲斐ない姉を今まで支えてくれてありがとう、という感じだが、実情は違う。

 その時、エビモンは、

 千年桜を見て、思いだしていた。

 ――幼き頃から、姉と桜を見ていた時の事

 二人とも、

 桜が好きという事。


「辞めるがら、ずっと一緒にいるから、だがら」

「――ごめんなさい」

「……え?」


 ……たった一言、零れてしまえば、

 あとはもう雪崩のように、


「ごめんなさい、ごめん、姉さんごめん、辞めなくていい、ごめんなさい、ごめん……」


 ボロボロと泣きながら、エビモンの方からゴエモンを抱き返す。ゴエモンは、その彼女の所為に、また涙を溢れさせて、

 もうお互い、涙と鼻水で顔をハチャメチャにしながら、泣き続けた。美しい姉妹愛だなぁと周りが感じる中で、レインは、


「――ブラックパールというものが消滅してしまったな」

「本当なら奪って、解析したかったところだよね」

「春よ来い、というキーワードも言わずに、イベントがクリアになった事も含め謎は多いが」

「そうだね」


 こんなに、美しい桜と、

 あんなに、幸せそうな姉妹の前で、


「これ以上は野暮だな」

「――ああ」


 二人は何も言わなかった。

 それはブレイズも同じ気持ちだった。

 だが、それでも、

 言わずにはおれぬ事があった。


「あのよ、さっき俺がやったのって、なんだったんだ?」

「「あっ」」

「つかお前らがやってたスキルも変だし、なんかバg――」


 慌て、ブレイズの口を防ぐスカイ、


「そ、それ以上はログアウトしてから!」

「むぐぅ!」

「そ、そうだ、アウミと合流しよう、おーいアウミ!」


 かくして、桜国の事件も大団円。

 ――この場所が花吹雪に包まれる中

 人々の心も舞い踊り、そして、

 泣いて涙しその後に、

 姉妹も笑顔を、浮かべるのであった。


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