お姉ちゃんが好き。
パパも好き、ママも好き。
他はいらない。
……友達を作った方がいいよって言う、パパとママ、嫌い。
お姉ちゃんはそんな事言わない。お姉ちゃん、好き。
ランドセルを買ってくれる、パパとママが好き。
ランドセルを川に落として、汚したお姉ちゃん嫌い。
そんなお姉ちゃんを、ちょっと叱るだけのパパとママ、嫌い。
私と遊んでくれる、お姉ちゃんが好き。
他の子と遊んでる、お姉ちゃんが嫌い。
いい子な私を、褒めてくれる、パパとママが好き。
不真面目なお姉ちゃんにも、優しいパパとママ、嫌い。
みんなに好きって言われる、お姉ちゃんが好き。
みんなに好きって言われる、お姉ちゃんが嫌い。
お姉ちゃんが好き、お姉ちゃんが嫌い。
――わけわかんない
……万引きをした、お姉ちゃん、嫌い。
落ち込んでるお姉ちゃんを、励ますパパとママ、嫌い。
悪いことしても、友達が減らない、お姉ちゃんが――わからない。
わからない。
万引きをさせようとした、だけど、しなかった。
私のおかげで、万引きをしないって言った。
好き。
嫌い。
わかんない。
……万引きをしたお姉ちゃんが、ゲームで、盗みをはじめた。
嫌い。
そんなことするお姉ちゃん、嫌い。
だけどそれで人気者になったお姉ちゃんが嫌い。
私みたいに正しくないのに、みんなに愛されるお姉ちゃんが嫌い。
ゲームだろうと、悪い事をするお姉ちゃんが、嫌い。
私の事が好きな、お姉ちゃんが好き。
私だけにしか愛されない、お姉ちゃんが好き。
――そんな風に思う自分が大嫌い
お姉ちゃんみたいじゃない、自分が嫌い。
わかんない。
わかんないよ。
どうしたらいいかわからないよ。
――お姉ちゃん
本当だったら、何時かそのまま姉にぶつけられるはずだった想いを、
受け止めたのは、黒い真珠だった。
◇
「足場さえ凍っていればぁっ!」
怪盗の機動を奪うのを、暴風だけに頼ったりせず、エビモンは意識的にスカイの足元を凍らせていく。だがその時、
「――左腕装備」
利き手じゃない方で握ったクラマフランマは、彼の腕を、覆うように変形し、
「
ブレイズがその武器を打ち込むと、そこから、炎の柱が噴き上がり、凍り付いた床をとかし、そして乾かしていった。
「サンキューブレイズ!」
即座ファントムステップで、エビモンまでの高度まであがったスカイ、そのまま彼女へと回し蹴りを放つが、それは氷で作られた盾でガードされて――しかし、
グルリと、
「――あっ」
「義賊ヨーヨー」
エビモンの足首に、ゴエモンの放ったヨーヨーが絡み、
「
捉えたエビモンをそのまま単純ぶん回し、勢いつけて地面に叩き付ける!
「――カハッ」
高所から妹を引きずり落とした姉は、そのまま、エビモンの元へと駆けていった。
「サクラ!」
本当の名前を呼びながら、ヨーヨーで激しく攻撃しながら、
「ごめん! ごめんなさい! アタイ、なんも解ってなかった!」
「解った所で――どうするんですか!」
エビモンも当然抵抗する、激しいヨーヨーの乱舞をしのいでいく、
「こんなの、ただの嫉妬だって、解るでしょう!」
持たざる者の、持つ者への羨望、
それが、姉への複雑な感情で、歪んだ――いや、
どこまでも純粋になってしまった。
だからこそ、
「アタイもサクラに嫉妬してた!」
「――なっ」
本当の事を伝えなきゃ、
「妹なのに、アタイよりしっかりしてて、真面目で、頭が良くて! 皆あなたの友達になりたがってて! 男の子にもモテて、それに」
後悔をする。
「サクラって名前が、キレイで!」
「――姉さん」
それがどんなに、くだらない事でも。
「だから止めたいの、こんな事をするサクラは、嫌いなんだ!」
「う、うるさい」
「私が、私が好きなサクラは!」
「黙れぇぇぇっ!」
咆哮と供に――彼女の体が放たれた冷気は、
ゴエモンの体を一瞬で氷で包み、そして、
立ち上がっていた炎の柱すらも、凍らせて、
砕いた。
――その氷柱が崩壊した向こうで
「――えっ」
熱く、熱く燃えている。ブレイズが、クラマフランマを装備して――
「――
キューティが命懸けの心地で増やした、頭、胴、両腕、両足、
合計6本分のクラマフランマを、
「おおおおっ」
文字通り、己の身と心を燃やしながら装備したブレイズの体、
握り拳を突き上げる姿勢を取った彼の全てが、
「おらぁぁぁぁぁぁっ!」
――剣の形に炎上する
「スカァイ!」
呼びかけを聞けば――スカイはブレイズの足元の床に、手をすり抜けで突っ込んだ。バグが消えれば押し出される――加速する腕で、炎の大剣と化した友達を無理矢理に持ち上げ、同時に飛び、頭上へ構え、
「――こんな」
ただそれを見上げるばかりのエビモンへ、
「こんなのってぇっ!?」
「――
振り落とす。
「「
巨大な燃えあがる剣の直撃を受けた彼女、
HPが0になるのは当然、ブラックパールと融合した氷水晶が、
砕け、消える。
――その途端
千年桜の氷が砕けた。
三年前に時が止まっていた桜吹雪が、
ダイヤモンドダストの煌めきと供に、舞う。そして、
花弁の一つが、
ゴエモンへと、落ちれば、
――彼女の氷もとけていった
三年ぶりの桜吹雪は、
季節遅れの春を、この国へと、
取り戻していった。
◇
「――あ、戻った」
突然目の前がブラックアウトしたアウミ、何故かスカイ達とも連絡がとれないので、動画用のサムネ作りをしていたが、ようやくそれが解除された途端、
「「「桜だぁぁぁぁぁ!」」」
「ええぇっ!?」
気がつけば、桜城よりも遥か高く聳え立つ千年桜は復活し、
会場のモニターには、国内のあちらこちらで甦った桜と、それに歓喜する人々が映っていた。
「いやいや、解氷の処理でロードが重くて落ちてたって運営さぁ!」
「まぁいいじゃないですかぁ、
「それより、本当に、桜が戻って来たんだぁ!」
だいたい20分遅れでやってきたゴエモンの快挙に、皆一様に笑顔を浮かべていた。だけどその立役者たるゴエモンといえば、天守閣の中央で――すっかり地味な姿に戻った妹のエビモンを抱いて泣いていた。
「ごべん、ごめんねぇっ! アタイ、本当、……ごめぇぇん!」
それは傍から見れば、不甲斐ない姉を今まで支えてくれてありがとう、という感じだが、実情は違う。
その時、エビモンは、
千年桜を見て、思いだしていた。
――幼き頃から、姉と桜を見ていた時の事
二人とも、
桜が好きという事。
「辞めるがら、ずっと一緒にいるから、だがら」
「――ごめんなさい」
「……え?」
……たった一言、零れてしまえば、
あとはもう雪崩のように、
「ごめんなさい、ごめん、姉さんごめん、辞めなくていい、ごめんなさい、ごめん……」
ボロボロと泣きながら、エビモンの方からゴエモンを抱き返す。ゴエモンは、その彼女の所為に、また涙を溢れさせて、
もうお互い、涙と鼻水で顔をハチャメチャにしながら、泣き続けた。美しい姉妹愛だなぁと周りが感じる中で、レインは、
「――ブラックパールというものが消滅してしまったな」
「本当なら奪って、解析したかったところだよね」
「春よ来い、というキーワードも言わずに、イベントがクリアになった事も含め謎は多いが」
「そうだね」
こんなに、美しい桜と、
あんなに、幸せそうな姉妹の前で、
「これ以上は野暮だな」
「――ああ」
二人は何も言わなかった。
それはブレイズも同じ気持ちだった。
だが、それでも、
言わずにはおれぬ事があった。
「あのよ、さっき俺がやったのって、なんだったんだ?」
「「あっ」」
「つかお前らがやってたスキルも変だし、なんかバg――」
慌て、ブレイズの口を防ぐスカイ、
「そ、それ以上はログアウトしてから!」
「むぐぅ!」
「そ、そうだ、アウミと合流しよう、おーいアウミ!」
かくして、桜国の事件も大団円。
――この場所が花吹雪に包まれる中
人々の心も舞い踊り、そして、
泣いて涙しその後に、
姉妹も笑顔を、浮かべるのであった。