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3-8 燃えよ剣

クラマフランマバースト炎の絶叫!」


 桜国サクラコクへの侵入経路をこじ開ける究極の炎も、


「クソ、少しとけるだけじゃん! ああもうアウミがいたらなぁ!」


 天守閣への階段に塞がる氷塊を、無くす事は出来なかった。それでも、体力脳疲労の限界まで、同じ【瞬間火力】を繰り返すアリクの背に、


「もういいよアニキ、もういいから!」


 ゴエモンはそう、呼びかける。だが、


「うるせぇ! お前の妹を正気にする為、ダチも踏ん張ってんだ! ブラックパールだかなんだか知らねぇけど、あれを取ればいいんだろ!」

「もういいの」

「後は俺達がやるから、お前はここに隠れて――」

「本当は心のどこかで、サクラの事を疑ってた!」


 ――その叫びに

 思わず、アリクは振り返る。


「……二年前から、急に義賊仕事がうまくいかなくなった、間取図が違ったり、クラフトアイテムに欠陥品が混ざってたり」

「それって、まさか」

「きっと、サクラの仕込みさ、……今までのレースも、誰かから解らない妨害を受けてたし、それにアニキ達と初めて会った時も」


 ――瓦屋根を踏み外してそのまま落ちた


「後ろから、押された気がする……」


 だけどそんなの認めたく無かった。

 妹がそんな事をするはずが無いと、願ってた。だけど、


「サクラは本当に、怪盗に勝って欲しかったんだよ、アタイを一生、敗者にする為に」


 その推理が真実なのは、直情タイプのアリクにも解った。

 ――だけどそれでも


「おらぁ!」

「アニキ!?」


 再び、天守閣へのルートを塞ぐ氷を、クラマフランマで打ち始める。


「クソ、溶けろ、砕けろ! 通しやがれ!」

「もういいって、言ってるじゃないかアニキ!」

「だったらなんで、お前は泣いてるんだよ!」

「――え」

「もういいよなんて言葉はなぁっ!」


 振り上げたその剣は、


「満足した奴が、笑いながら言う言葉だろ!」


 アリクの叫びと供に、炎をあげる、


「泣いてるって事は不満ってことだ! お前も、俺も、まだ満足してねぇんだから、生きてんだから!」


 ――それがどれだけ醜い嫉妬でも


「まだ欲しいって、叫ぶしかねーだろがぁっ!」


 その声は、その炎は、

 冷えたアカネの心に火を灯して、

 そして、


「え?」

「……へ?」

「な、なんだ!? クラマフランマが金色――スカイのマスクみたいに光ってる!?」

「な、何を言ってるのさアニキ?」

「いやだって、武器がほんのり金色、あれ、装備欄も!?」


 突然起きた、アリクにしか認識出来ない現象、それに心は戸惑いつつも、

 彼の体は、すべき事を選択する。

 ――グリッチ始動







 例えどんな分野であろうと、何事も基本が大事、それゆえに、


ファントムステップ怪盗舞踏――」


 オーソドックスを奪われた怪盗は、


「くっ!?」


 嫉妬の氷を操る相手に、うまく踊れずにいた。


「ダメだスカイ! すり抜けグリッチを使用するには、余りにも足元が覚束なすぎる!」

「飛んだ所で、この風じゃ……!」


 エビモンにとってこの風は、最強の防御壁になっていた。銃やクナイの遠距離攻撃も、辿り着くまでに反らされる。

 高見の見物をされるはマドランナに続き二度目、しかし今回は、相手の命へ届く手段が無い。


「……このブラックパールは、空間を、望み通りに変えるものと聞きました、それならば」


 それは、


「きっと、この国を消す事も出来ますよね、貴方達ごと」

「――バカな」

「そんな事が出来るはずが無い!」


 レインの言葉が正常、違法ツールに、そこまでの力はきっと無い。仮に出来たとて、バックアップは存在する。

 ――だがそれでも、それを叶える奇跡があるとしたら

 それはある人間にしか引き起こせない異常、理論上有り得ない、偶さかを運命と謳うような所業、


「大丈夫ですよ姉さん、世界ゲームが消えたって」


 ――信念


「私だけしか、貴方を愛さないのですから」


 それが例え罪だと言われようと、

 身を滅ぼす程に信じる物があって、それだけで、人は、呆気なく、

 ――簡単に奇跡なんて起こしてしまう

 だけど奇跡を手にする権利は、


「――あぁぁぁぁぁぁ」


 誰にだって、


「――えっ」


 平等に。




ヘッドフレイムドリル俺の頭が炎転突破!」


 その叫び声と、天守閣入り口の氷を砕いて現れたのは、

 ――頭にクラマフランマを装備して

 その刀身を螺旋状に回転させ、腰にゴエモンをしがみつかせた、

 アリクだった。


「「ええええ!?」」




 アリクの頭でドリルがギュルル。


「アリク!? どうしたんだよそれ!?」

「クラマフランマがドリルになってるだと!?」


 ドギモを抜かれたのは怪盗と忍者だけでなく、


「あ、貴方、なんですかそれは!?」


 余りにも珍妙に登場した事で、すっかり、動揺したエビモンもだった。そんな三人に対するアリクのレスポンスは、


「なんか出来た!」


 だった。


「訳が解らない事を言わないでください!」


 心底からそう叫ぶにエビモンに対し、スカイとキューティは間抜けにもやっと思い当たる。


「もしかして、グリッチ?」

「――強制装備バグ」


 ――昔々のRPGで有名

 本来ならば装備出来ない、消費アイテムやキーアイテムを、無理矢理、武器や防具とするバグである。単純に数値をカンストするものもあれば、特定のイベントをスキップしていきなりラスダン突入など、今、エビモンが使ってるブラックパール並みに、世界ゲームを壊しかねない禁断の秘技ウラワザ


「せ、千本つららサウザンドアイスニードル!」


 恐怖すら感じたエビモンは、つららの雨を頭上からアリク達に落とした。だが、


「火ぃ、貸してくれアニキ!」

「おうよ!」


 続いて穴から飛び出たゴエモンが、己の体をそのまま、アリクの頭上の炎ににつっこませた――着地した途端、燃えたヨーヨーを、全方位に振り回す!


炎回の理ループザファイアーループ!」


 ドーム状になるまで繰り広げられた炎のヨーヨは、全てのつららから三人を守り切った。

 その間に、アリクはクラマフランマを――”体”に装備して、そして、


シックスパックボルケーノ腹筋大噴火!」

「あぁっ!?」


 腹筋から炎を放ち、空浮かぶエビモンに、初めてダメージを与えて見せた。周囲の暴風が弱まり、エビモン、よろめく。

 しかしこの時、彼女の殺気は、


「何を、しているんですか姉さん!」


 ――立ち直った様子を見せる姉に向けられた


「私は貴方に、立派になんかなって欲しく無い!」

「――アタイ、ゲームを辞める、サクラが望むならそうする」


 だけどその前に、


「妹が間違った事してるなら、それを正してあげるのがお姉ちゃんでしょ!?」

「――なっ」

「アタイの事は嫌いでいい、だけど、皆に迷惑はかけちゃダメ!」

「……それが、そういうのが!」


 泣きそうになりながら、その涙を必死にこらえて、


「誰かに手を差し伸べる事が、私に出来ない事をする姉さんが!」

「大嫌いなんだよね、解ったよ! でもアタイは」


 妹の望み通り、石を投げられる罪人になる事すら、


「サクラが好きだ!」


 ――厭わない姉のその気持ちが


「あぁぁぁぁっ!」


 エビモンの心を掻き毟る――再び彼女の周りを激しい吹雪だ。その勢いは、さっきよりも増している。

 だがその凶暴を見ても、アリクの心は落ち着いてた。

 それどころか、少し照れた様子で、


「あのよぉスカイ、前から考えてたんだけど」


 こう言った。


「俺が怪盗になるとしたら、コードネーム、ブレイズレッドでいいか?」


 ……それは本当に、彼にピッタリのネーミングセンスで、

 スカイだけでなく、キューティも笑う。


「行こう、ブレイズ」

「後れを取るなよ」

「何を言ってんだよキューティ」


 ブレイズは、クラマフランマをその手で握り直して、

 駆ける。


「俺はお前よりもずっと前から、スカイの友達なんだぜ!」

「そいつは、嫉妬するなぁ!」


 互いに嫉み合う二人に続いて、


「モテモテだね、怪盗!」

「ああ、二人とも!」


 ゴエモンと供に、スカイも走る。


「我の大切な友達だ!」


 淡い光をたなびかせて。

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