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3-6 風雲!いえもん城

 翌日、土曜日。

 蒼天の光を浴びて輝くのは、千年桜を包み込む氷塊と、その隣に侍る桜城が天守閣のしゃっちほこであるが、


『トランスフォーム!』


 ――徳山イエモンNPCのその一言で、鯱の目がキュピーンと光り

 通天閣が、さながら蓮の花のように展開していく――外側は大入りの客で埋まったスタンド席、その上にはプロジェクトモニター、少し内側に解説席らしきもの、そして中央には、

 氷山一切合切永氷エターナルフォースブリザード――この国を鎖国する氷水晶が、煌めきながら鎮座していた。


『さぁ今年二回目、通算にすれば10回目! 解氷祭りの始まりだー! 盛り上がってるかー!』


 NPCのMCに、ノリ良くうおおお! と声あげる観客。多くは和装、この桜国の住人であったが、チラホラと西洋風のいでたちをした者が居る。


「ほんっと! クラマフランマ持ってるフレンドいてよかったぁ!」

「怪盗スカイゴールドの活躍、生で見られるんだもんな!」


 桜国の入場者は、怪盗がこのイベントに参加する知らせを受け、一気に増えた。その満員のオーディエンスに応えるように、イエモン、


『ルール説明! 30分以内に、このからくり城の一階からこの天守閣まで駆け上がり、秘宝を手にした者が勝ち! だがしかしぃ!』


 画面が切り替わるとそこに、ギロチン扇風機、落ちたらマグマの綱渡り、間違えたら泥塗れの○×クイズ等、昭和バラエティチックな仕掛けが盛り沢山映る。


『リアルだったらお前はもう死んでるぞってトラップの数々を切り抜けられるか、さぁ、今回の挑戦者は、こいつらだぁ!』


 そう言えば、また画面が切り替わる。桜城の入り口に立ち並ぶ参加者達、その中で、

 カメラは、淡い金色のマスクをつけた男の顔を、切り取るように映し出した。


「「「うおおお! スカイゴールドォォォ!」」」


 天守閣の歓声は、そのままスタートラインでスタンバってるスカイに届く。その隣のキューティ、


「マスクをしてるという事は」

「ああ、シソラじゃなく、怪盗スカイゴールドに挑まれたからね」

「しかしこの注目の中でだと」

「――グリッチは、余程うまくやらないとバレてしまう」


 そう言いながら、スカイは横に目をやった。

 そこには、こちらを睨みながら笑っているアリクと、

 何か、覚悟を決めた表情をした、ゴエモンが居た。


「だけど我は、けして手を抜かない」

「そうか、そうだな」


 レインもふっと笑えば、


「私も全力でお前を助ける」


 怪盗の相棒として、宣言する。そして、


『さぁ、妨害! 協力! 裏切りなんでもありのレースの始まりだぁ! カウントするぞお主達、さん、にぃ、いちぃ!』


 スタート――っと、NPCが言った瞬間、

集団を真っ先に飛び出したのは、


「――義賊ヨーヨー」




音越え犬の散歩マッハウォークザッドッグ!」


 二つのヨーヨーを地面に回し、それを両足で曲芸のようにとらえながら、

 ローラスケーターのように加速した、ゴエモンだった。

 ――腰に、しっかりアリクが腕を回してしがみついている


「「「なにいぃぃぃぃ!?」」」




 ヨーヨーをローラースケート代わりにしての爆走、

 観客席もどよめけば、参加者達もどよめいていて、


「ちょ、何あれ新技!?」

「いやでもあれ石垣にぶつか――」

「石垣登ったぁ!?」


 ギュルギュルと音をたてて登り切り、あっというまに一階をショートカットしたゴエモンとアリク、それだけでなくアリクは急ぎ、入り口の門の上まで移動して、


クラマフランマハンマー炎の衝撃!」


 炎剣の腹で石垣をぶっ壊し、城内への侵入経路をふさいでしまった。


「「「あああああ!?」」」


 全員が阿鼻叫喚をあげる中で、二人ははしゃぐ、


「さっすがアニキ!」

「お前こそだぜゴエモン! じゃあ行くぞ!」

「がってん!」


 そのまま窓から、二階へ突入する二人、足止めを食らった参加者達、


『な、なんとこれは、実質ゴエモンと、アリク以外が脱落、……おや?』


 ……例外があるとすれば、


『な、なんだいつのまに、一階のフロアのマグマ綱渡りを!』


 この騒ぎに乗じて、カメラは勿論、人々の死角を利用して、

 ――抱き合いすりぬけバグ技により


『スカイとキューティーが攻略しているぞぉ!?』


 侵入した、二人の怪盗だけであった。


「うおお! 流石スカイ!」

「でもこれ、ゴエモン逃げ切れるんじゃね!?」

「追いつくか!?」

「引き離すか!?」


 そんな風邪に盛り上がる観客席、その中で、


「うわぁ、スカイも凄いけど、ゴエモンちゃんも凄いねぇ!」


 アウミもテンションMAXになっていて、隣の席のエビモンに、きゃっきゃと話しかける。

 だがしかし、


「……あまり期待しては、姉がかわいそうです」

「――え」

「毎年、いつも天守閣までには辿り着きます、だけどいつもあと一歩の所で失敗する……」


 エビモンの目は、


「一位になんてならなくていい、姉さんは姉さんです」


 諦めがあった。

 それは一見、偉くなんかならなくっていいという、姉思いの言葉に見えたけど、


「……本当にええの、エビモンちゃん?」


 アウミからすれば、


「お姉ちゃんきっと、エビモンちゃんが見てるから、がんばってるんよ」


 ちょっと、寂しい事で。

 エビモンは返事をしなかった。

 だけどじっと、姉の活躍をみつめていた。







 ――残り時間3分になって


「義賊ヨーヨー!」


 天守閣展開会場へと続く階段の前でゴエモンは、


綾取り毒蜘蛛ストリングプレイスパイダートキシン!」


 触れれば糸が絡み、毒針を搭載したヨーヨーが体を蝕むトラップを、宙へ十個以上設置した。

 だがその半分を、レインが投げクナイで叩き落とし、それで出来た隙間に、怪盗は身を滑り込ませた。


「あ、足止めがきかない!?」

「オレが止める! 先に行けゴエモン!」

「頼んだアニキ!」


 ゴエモンは駆け上がる、階段を、天守閣の道を、

 ――いつもゴールへ辿り着くときは、10秒を切っていた

 だが今回は、


『ああ、天守閣に真っ先に躍り出たのはゴエモンだぁ!』


 時間はまだ、1分もある!

 仮につまずいたって、立ち上がれる!

 そして、


「いけぇ! ゴエモン!」

「やれーーー!!! ゴエモン!」

「――がんばれ」


 声が、聞こえる。


「がんばれゴエモォン!」

「スカイに勝て!」

「がんばれーーー!」


 何時以来か解らない声援、それで涙ぐみそうになりながら、

 あと10メートルの距離を、駆けようとした時、

 ――背後から二つの影が飛び出した


『ああっとここで、スカイとキューティも来たぁ!』


 スカイはワイヤーガンを秘宝へ構え、

 キューティは拘束衣よみふぃ着ぐるみをゴエモンへ投げようとする。

 チェックメイト、もう終わり、これから起こるは予定調和の逆転劇、

 ゴエモン自身が、振り返らずとも、そう思った

 その時だった。


「――オレが止めるって」


 それはまず声から響いて、そして、


「言っただろうがあぁぁぁぁ!!!」


 続いてやって来た。




クラマフランマキャノン投げ叫ぶ炎!」


 なんて事はない、ただただ、階段途中のアリクは、自分の武器を放り投げた。

 だけどそのただの単純明快が――怪盗と、忍者の身を焼き、よろめかせる。

 ――ゴエモンはその間に駆けて、そして

 転んで、

 だけど手を伸ばして、

 倒れながら、

 ――氷水晶に手を触れた


『GAME CLERA!』




「……え?」


 ――静寂

 ……の、中で、ゴエモンは倒れた体を座り直させたら、その手に氷水晶が握られてた。手を伸ばしても、今まで、手が届かなかったものが目の前にある。

 呆然としてると、


「ゴエモン!」


 声がしたから振り向けば、

 ボロボロの体で、階段をのぼりきったアリクがサムズアップで笑顔を浮かべ、

 そして、その隣に座り込んだ怪盗と、忍者も笑みを浮かべていて、

 ゴエモンは、


「――やった」


 喜びを、


「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 爆ぜさせた。

 ――待ってましたかのように、盛り上がる観客達


「やった、やったゴエモン!」

「ス、スカイが負けた!? そんなぁ!」

「いや両陣営とも凄かったでござるよぉ!」


 困惑も混じるが、それを上回る声の方が大きく、ゴエモンは額の角で氷水晶をぐりぐりとしてる、そこに、


「姉さん」

「あ、エビモン!」


 ――妹が、観客席から降りて、声をかけてきた


「やったよ、アタイやったよ! これでエビモンに桜見せてあげられる!」

「……姉さん」

「イエモン、どうやったら氷は解けるのさ!」

『お天道様に掲げて、春よ来いと言えばOKですよ』

「そっか、じゃあ、エビモンお願い!」


 ゴエモンはなんの躊躇もなく、氷水晶を妹に手渡した。

 誰もなんの文句も言わない、スカイもキューティも、観客席のアウミも、そして、投げたクラマフランマを回収したアリクも、ただ見届けるだけである。

 ――開国の儀式を託されて

 エビモンは、彼女は、


「姉さん」


 こう言った。




「なんで姉さんが、英雄になってるの?」


 、


「万引きをした犯罪者の癖に」




 彼女のアイテムボックスから飛び出したブラックキューブ黒い庭発生装置のような物

 否、ブラックボール黒い球が、氷水晶と融合しはじめた。


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