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3-5 告白花火-ケンカするため仲が良い-

『――ただいまより今年度第二回、解氷祭りの前夜祭』


 天守閣に登った徳山イエモンNPCが、合成音声を響き渡せる様子が投影された青空が、


火桜ひざくら祭りを開始する!』


 その宣言と供に、一瞬で夜空に変わり、そして、

 ――大輪の花火をドーン! と咲かせてみせた


「うおお!」

「凄いね!」


 桜国の上空で爆ぜる火の虹華にじかは、ただ夜空に咲くだけで無く、その色を、氷漬けになった巨大な千年桜の氷面を反射して、より幻想的にこの場所を彩っていた。

 屋台が並び人々行き交う広場にて、次々とあがる花火を見上げる、シソラとアリクの元に、


「ま、待たせたな」


 直前で、雪結晶柄からよみふぃ柄の浴衣に着替えてきたレインと、


「おまたせぇ」

「アニキー!」


 鶴亀ポップ浴衣のアウミ、そして、小判柄浴衣のゴエモンが現れた。


「あ、あのシソラ――」

「レイン、浴衣かわいいね」

「あ、ああ、ありがとう」


 真っ先に言われたい事を言ってくれたシソラに、恥ずかしがりながら笑うレイン、親指たててGJするアウミ。


「ゴエモンも着替えたのか、かわいいじゃん!」

「アウミさんが選んでくれたのさ! それに――レインさん!」

「ああ」


 レインはアイテムボックスからコリーフ変化葉っぱを取り出すと、それをポイっとアリクに投げる。煙でポンっと包まれて、それが晴れると――今様色#d0576bの甚兵衛姿に着替えていた。


「おお!?」

「折角の祭りだ、着飾ってもいいだろう?」

「サンキューレイン! 妬ましいけど愛してる!」

「じゃあ行こうぜアニキ!」

「え、お、おい皆で回るんじゃないのかよ!?」

「怪盗と一緒にいられるかってんだい! じゃあ、あ~ばよっ!」


 そう言ってゴエモンは、アリクの背中を押して雑踏の中へと消えていく。


「本当、元気いっぱいの子だよね」

「――ああ、だが私達の先輩だ」

「え、どういう意味?」

「後で話す、それじゃあ私達は三人で」

「ああ! 飛び入りOKのライブ会場あるぅ!」

「え?」


 と、レインが思った時にはもう、アウミはその舞台へダッシュして、司会の人とお喋り――そして30秒も経たない内に、こぶしをきかせた演歌を歌い始めた。


「……どうやら、我達二人だな」

「あ、ああ、その、それで、お前にも服を用意してるのだが」


 少し迷いながら、レインは、


「二つ用意してるのだが、どちらがいいか決めてくれ」


 そう言って、二枚の木の葉を翳し、説明をはじめた。







 ――静岡県浜松市のとある家


「あれ、サクラちゃん」

「アカネとVRMMOをしてたんじゃないのかい?」


 台所にやってきた少女――エビモンの中の人、サクラは、両親の視線を受けながら冷蔵庫を開け、麦茶を取り出した。

 続けて棚からグラスを取りだし、それを注ぐ。


「今日はお祭り、私、騒がしいのちょっと苦手だから」

「そうなのね」


 麦茶を飲むサクラに、父親が話しかける。


「そうだ、サクラ、来月お前達の誕生日だろ?」

「アカネからはもう聞いてるけど、貴方は何が欲しい?」

「――今は特に何も思いつかないかな」


 サクラは、


「高校受験に、役立てそうなものがいいかな」

「いや、勉強も大事だけど、遊ぶのも大事だぞ」

「好きなものを買っていいのよ」

「ありがとう、考えとく」


 そう笑顔で言ってから、リビングを出る。そして、

 ――目を閉じる

 思い浮かぶのは姉の顔、だけどそれは、

 VRMMOのものじゃない。


「――私が欲しいのは」


 彼女はどこまでも、望んでいた。

 ゴエモンという仮想じゃなく、アカネという現実を。







 ――金魚すくい

 リアルでは近年、持ってかえって飼育する手間などから不人気となり、スーパーボールなどにとってかわっているもの。それがバーチャルでは存分に味わえるので、アリクとゴエモンは金魚すくい対決をしていた。


「てかマジもんの姉妹だったんだな」

「そうだよ双子さ、よーし取りぃっ!」

「ええ、もう!?」


 アリクが3匹に対しゴエモンは規定数の10匹目、これにてゴエモンは勝利して、彼女のステータスに”金魚すくい”の実績が解除される。


「うわ、ランキング1位!? すげーなお前!」

「ふふん、そうだぜ、もっと褒めてくれよなアニキ!」

「本当すげー! ……すげーのにさ」


 そこでアリクは、疑問を放つ。


「なんでお前、皆からどんまい、って言われてるんだ?」

「うっ」


 そう、既にいくつかの屋台を回ってきた二人、そして明日のレースに出る事を言う度、どんまいって言われる。それも嫌味じゃなくて、心配そうに。


「……まあほら、アタイ、皆の期待を裏切り続けてるから」

「レース、まぁ、そりゃなぁ」


 優勝すれば桜国は開国、しかし、いつも一歩及ばずのタイムアウト。最初こそ皆、前日はがんばれ! と応援してくれたが、今は負けてもどんまい、という形で声をかけてくる。


「でも、嘘でもいいからがんばれって言われたいよなぁゴエモン」

「――いや、本音言うとさ、皆に言われるのはいいのさ」

「ん?」


 ゴエモン、立ち上がる。そしてそのまま歩き出したので、アリクは慌てて着いていく。


「辛いのは、エビモンに桜を見せてやれない事だよ」

「桜?」

「私がこのゲームを始めた時、もうこの国の桜がすっごいキレイでさ、感動しちゃったんだよ。桜が大好きなエビモンにも見て欲しかった。ところが一週間後、一緒にログインしたその日に桜は氷漬けさ」

「あー……」

「アタイはこの国の桜を取り戻して、エビモンに見て欲しいのさ、だけど」


 妹は姉に、


「無理しなくていい、姉さんは普通でいいって」


 そう言った。

 ……アリクは最初、辛いよな、と声をかけようとした、だが、


「お前ら姉妹、仲がいいんだな」


 そう、言い直した。ゴエモンはにこっと笑った。


「アタイね、ちっちゃな頃、万引きした事があるんだ」

「――え」

「エビモンが欲しがってたお菓子があって、気がついたらそれをポケットにいれて――店を出てた――ううん、自分の意志で”出た”」


 ――それは一桁歳の頃の衝動


「でもすぐ怖くなって、店に戻って、店員さんに盗んだって言って、謝って、警察呼んで下さいって言って、その後親が来て」


 結局この事件は、自動ドアを潜り抜けてからすぐ戻って来た事もあり、強く怒られはしたものの、特別穏便にすまされた。ただ、


「一人で出掛けるのが怖くなった、また盗んじゃいそうだって、でもそしたらエビモン――妹が手を繋いで、一緒に出掛けてくれたのさ」


 自分が盗みをしないように、手を繋いでくれた。

 姉が引きこもりにならないように、妹が助けた。

 ――それから時が経って、ゴエモン一人で出掛けるようにもなったが


「一人でも盗みはしなかったよ、したら、妹が悲しむから」

「……ゴエモン」

「だから、アタイが明日のレースで優勝したいってのは」

「妹への恩返しか?」

「それもあるけど、きっと、それ以上に」


 そこでゴエモンは立ち止まり、

 花火彩る空でなく、地面を見て、


「サクラに、かっこつけたいだけなのさ」


 寂しげな笑みと供に、そう、言葉を落とした。

 それ以上はゴエモンは何も言わなかった、だが、

 言いたい事はアリクに伝わってくる。

 怪盗に開国してもらいたくないのはただのゴエモンの我が儘。

 彼女本人が一番それを良く解っていて、そう、

 ただの醜い嫉妬だという事を、自覚しているのだ。

 ――だからこそ


「よし、ゴエモン」

「……え?」

「スカイゴールド、探すぞ」

「――へっ?」


 そう言ったアリクは、ゴエモンの手首をガシッと掴み、そのまま走り出す。


「え、ちょっとアニキ!?」

「よーしどこにいる、いや探す前に、文房具屋だ!」

「な、何するつもりだ!? アニキ、アニキィ!」


 戸惑う彼女を引っ張りながら、アリクは、雄叫びを機関車の蒸気のようにあげながら走り出した。一方その頃ライブ会場のアウミは、チャンネル登録と高評価をお願いしてた。







 小川流れる、氷漬けの桜並木が広がる土手にござを敷き、二人の男女が座っている。

 一方はよみふぃ柄の浴衣を着たレイン、しかし隣に居るのは、


「わぁ」


 同じよみふぃ柄の浴衣を着た、


「桜色の花火!」


 リアルの”白金ソラ”の風貌に寄せた、シソラであった。


「氷漬けの桜の代わりに、空に桜を咲かせるんですね」

「あ、ああ」

「……どうしました?」

「いやその、確かに、提案したのは私だが――その姿で良かったのか?」

「――良かったって」


 怪盗をお休みして祭を楽しむ――ならばいっそ、リアルの姿に近くしたらどうだろう、というのがレインの提案だった。

 もちろん、普段のシソラの姿に合わせた浴衣も用意していた。だが、シソラは前者を選ぶ。

 ただぶっちゃけてしまえば、


「それが建前なのは、お前なら気付いてるだろ……」

「え、ええまぁ」

「かっこよくなりたくて、VRMMOをはじめたお前に、私のお気に入りの姿を押し付けた事、今更罪悪感が湧いてきて」

「ほ、本当に今更ですよ、もう」

「すまぬ……」


 少し気まずい沈黙が流れる、

 だが、


「……他の人に、かわいいって言われるのは、別に嬉しくないですけど」


 シソラはここで、おそらくは、


「レインさんに言われると、嬉しいです」

「!」


 とんでもない事を、赤い顔、小さな声で言ったものだから、


「シ、シソラ?」


 レインの中で竜巻のようにうずまく感情が、雪崩のように彼へ襲いかかろうとした、その時、


「シソラァァァ!」

「わ!?」

「ふぇっ!?」


 ロマンティックをぶち破り、アリクが、ゴエモンと供にやってきた。


「い、いやアニキ、その男の子誰なのさ!?」

「シソラだ!」

「嘘ぉ!?」


 驚きで丸くなった二人の目に、そのまま飛び込んできたのは、

 ――アリクがもった果たし状


「――怪盗スカイゴールド」


 その中身を、読み上げるまでもなく、


「明日の祭り、ゴエモンと、俺と勝負しろぉ!」


 そう、叫ぶものだから、


「い、いやアリク!? いきなりどうした!? もう少し説明を」

「レインさん、変化を解いてくれますか?」

「え、ああ」


 促されて変身解除、スーツ姿に、マントをはためかせる怪盗姿。


「ん、あれスカイゴールド!?」

「いつのまに!?」

「なんかゴエモンちゃんもいるぅ!?」


 周囲の当然のざわつきも気にせず、シソラは、

 ――中学生からの友達に


「その挑戦、受けて立つ!」


 と宣言した。

 ざわついていた喧噪は、次の瞬間、歓声に変わり、

 その日の内に、怪盗VS義賊のニュースは、桜国の外にまで広がっていった。


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