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3-3 どんまいゴエモン

 3年前の春――ちょうどソラ達がゲームを始めた頃、桜国サクラコクという、江戸時代をモチーフにした島国エリアで、特別イベントが発生した。

 桜国サクラコク君主、徳山イエモンNPCが鎖国を宣言。

 徳山家に伝わる秘法、”氷山一切合切永氷エターナルフォースブリザード”という氷水晶によって、全ての桜が花吹雪ごと凍り、そして、桜国周辺を、巨大な氷壁クレパスが覆ってしまった。

 そして、徳山イエモンはAIで作られた合成音声で宣言。


『鎖国を解きたければ、三ヶ月に一度の祭りにて、天守閣から秘宝を盗んでみせよ!』


 時々運営が、プレイヤーの向上心モチベアゲの為に能動的に仕掛ける、お膳立て英雄メイクスター系のイベントで、一年以内には攻略されるはずだったのだが、

 未だこの島国は、厚い氷で閉じ込められている。







 ――金曜日の夜


「うおおおお! 来たぜ来たぜ来たぜぇっ!」


 両手で作った握り拳をバンザイしてあげるは、


「桜国の入り口、桜ノ門!」


 そう、アリクが叫ぶけれど、門というには全くの氷の壁が、立ちはだかる場所であった。高さ30メートルにはなろう巨大なクレパス、飛び越えようとした場合凍り付く。

 ただ、アリクの前の氷壁は、他に比べて、若干薄い色をしていた。

 厚い流氷を、大地のように踏みしめる一行の内、シソラが二人に声かける。


「それじゃあアリク、アウミ、頼めるかな」

「ああ!」

「任しときよぉ」


 そう言えば、アリクがクラマフランマ叫ぶ炎を上段に構え、その後ろで、アイドルジョブのアウミが、羽根つきマイクを片手にもって身構えた。


「アイドルのスキル支援バフ込みでの一撃か」


 レイン、クラスでのウミの穏やかな様子から、さぞポップでキッチュなナンバーで支援すると思ったのだが、


「LAHAAAAAAAAAAAA!!!」

「シャウト!?」


 喉がならせない完璧な腹式、ビブラートかかった高音の後に、


「Clap Clap Hands! Clap! Your Viva Chance!」

「洋曲!?」


 予想外の選曲に目を丸くするレインに、アウミは歌全般好きだからとフォローをいれるシソラ。その間にもその歌は、腹筋シックスパックを盛り上げる程にバフをかけていき、そして、


「【瞬間火力】発動!」


 叫び吼えて、燃える剣を振り下ろす!


クラマフランマバースト炎の絶叫!」


 ――文字通りの最大火力によって、目の前の氷の壁が

 バキーンッ! と砕け散り、桜国へのトンネルが現れる。


「おっしゃ! やったぁ!」

「ボーッとするなよ、走るよ!」

「あ、ほんまよ、もう凍り始めとる!」

「急ぐぞ!」


 四人、全力で洞窟に飛び込む――その瞬間から背後が凍り、入り口が閉じられていく。


「しかしアウミの歌にはビックリしたな、激しいのが好きなのか?」

「穏やかなんも好きですよぉ、ー」


 滋賀県民のマストソング、琵琶湖周航の歌1954年著作権消滅を歌うアウミ、釣られて歌い出すアリクとシソラ、むうっと仲間はずれにされてちょっと拗ねるレイン。


「ログアウトしたら、私にも教えてくれアウミ」

「喜んで!」


 とかなんとか言ってる内に――背後から迫る氷に押し出されるように四人は、

 桜の国へ突入して――




「うわぁ」


 思わず、シソラのリアルの声色が漏れる程、

 広がるのは時代劇のような江戸の街並みに、

 町人、侍、忍者、山伏と、和風の装備で賑やかに闊歩するプレイヤー達。

 目を見張るのは、中央に巨大な城が建っており、そして、

 その傍には、その城を凌ぐ高さ、大きさの、

 ――巨大な桜が氷漬けになって聳え立っていた




 この国のランドマークとして、幽玄ごと凍り付いた、三三〇尺100mを誇る巨大な桜。


「あれが、千本桜の一本目の千年桜!」

「すげー! でっけー!」

「舞い散る桜ごと凍ってる事で、より幻想的だな……」


 残りの三者も三様に驚き、感嘆する。ゲームの中なので当たり前ではあるが、桜が凍っていたからとて、季節が冬な訳でもなく、快晴の中このエリアに住むプレイヤー達は、その氷漬けの巨大な桜も日常のよう、忙しなく、動いていた。

 ――ただし


「さぁて、今日は前夜祭!」

「二時間後に夜になるんだっけ?」

「花火を打ち上げるでござるからな~、……むむ?」


 この桜国の住人にとって、クラマフランマで入国してくるプレイヤーはギリ日常であるが、


「「「怪盗スカイゴールド!?」」」

「えっ」

「なっ」


 時の人の来訪となれば、それは素晴らしき非日常エンターティメント、あっというまに、シソラとレインに人集りが出来た。


「あの、ファンです怪盗様! 握手してくだしあsia!」

「あの畳返しの術どうやってるんですか!? 同じ忍者、ご伝授いただきたい!」

「うちの国には観光で!? それとも仕事!?」


 そんな感じでチヤホヤされて、二人は慌てて対応する中、アリクとは言うと、


「妬ましいぃ」

「ジェラシー隠そうとせんね、アリク」

「もうすっげー羨ましい! けどちょっと誇らしい! なんだよこのめんどくせー感情!」

「やっぱ鎖国したエリア言うても、リアルで情報は流れてきてるんやね」


 などと、アウミが分析し終えた時、


「――妬ましい」

「ん?」

「え?」


 そのフレーズが、アリクじゃない誰か、少女の声で放たれた。アリクは勿論、シソラ、そして周囲の者達もその方を”見上げ”る。

 二階建ての瓦屋根の上で、腕を組んで立っているのは、二人組、


「ああ、あのコンビは!」

「怪盗を出迎えに来やがったのか!?」

「ちょっと危ないよそんなとこにいちゃ!?」


 驚かれたり心配されたりするその内の一人が、

 舞台役者のように声をあげた――




「アタイの名は、義賊のゴエモン!」


 紅白色の縄で縛った、曼珠沙華のように跳ねる赤髪、

 赤とオレンジが入り混ざる、ハッピのような衣裳を身につけ、

 胸にはサラシ、手にはヨーヨー、顔には赤いラインで化粧。

 そして額から生える紅の角二つ、

 ――一言でまとめるなら、鬼子のかぶき者


「こいつはアタイの相棒、エビモン!」


 名を呼ばれた背後の女性は、どこまでも派手なゴエモンに対し、

 青を基調とした地味な忍び衣裳、頭巾も被って、自己主張控えめ。

 蒼い角すら、薄らげな印象、そんな彼女を引き連れながら、


「――音に聞こえしスカイゴールド」


 ゴエモンは、片足をあげ、


「アタイの国じゃ、何も盗ませないからなぁ!」


 踏みしめると同時に見得を切ろうとして、


「あっ」


 ――その勢いで


「ああぁぁぁぁぁ!?」


 滑り落ちた。




 どしーん、と。


「ふげぇ!」


 二階の屋根から落ちるゴエモン、周りが「言わんこっちゃない!」とか「大丈夫……?」と心配する中、ゴエモンは立ち上がろうとしたが、


「あれ、HPがゼロになってる!?  クリティカルダメージ打ち所悪かった!?」


 行動不能状態で慌てるゴエモンの傍に、エビモンがゆたりと降りてきた。


「姉さん、とりあえずリスポーンしましょう」

「ええ!? 怪盗に会えたんだぞ!? 長屋に戻ったらもう会えないかもだろ!」

「すいません、姉が失礼しました、どうぞ観光をお楽しみください」

「ちょっとエビモン!? なんでお話つけてんの!」


 彼女への扱いはぞんざいで、その態度はエビモンだけじゃなく、周囲も呆れているようだった。


「またやからしたなぁゴエモンちゃん」

「デビューした時に比べてダメダメだねぇ」

「どんまい、ゴエモン」


 バカにされてるというより、憐れまれている感じである。そんなあんまり状態の彼女を見て、レイン、


「どうするシソラ?」

「聞かなくても、解ってるよね」


 レインに問われたシソラは、アイテムボックスを開きながら、ゴエモンに近づこうとしたが、


「おい」


 それより先に、


「ほらよ」


 アリクが、復活アイテムそこそこ高いをゴエモンに使った。


「え、ええ!?」


 思わぬ施しにビックリしながら立ち上がるゴエモン、


「な、なんでアタイを助けた!? アンタはスカイゴールドの仲間なんだろ!?」

「確かにあいつとはリアルでもマブダチだ、だが」


 アリク、


「最近はメチャクチャあいつに嫉妬してる! つまり俺とお前の心は一つだぜ!」

「お、おお!」

「という訳で助けた! 俺達は仲間だ!」

「アニキ!」

「おう、俺はお前のアニキだ!」

「アニキィ!」


 いきなりに、盛り上がる二人。ので、置いてけぼりを食らうシソラ達。

 そんな中、エビモンがやってきて、


「姉さんを助けて頂いてありがとうございます」


 その御礼に、観光案内をするという申し出を、とりま受け入れる事にした。

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