目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
2-end 体重ねてボーイミーツガール

 ――PVPが終了した途端


「だ、大丈夫ですかオーナー!?」

「ちょっと怖かったですよ!?」

「でもブチギレモードかっこよかったぁ!」


 HPが全快して、さっきまで伏せていたキャスト達が、お胸とお尻をばるんばるんさせてマドランナに寄ってきたものだから、頭が処理落ちして真っ赤になるスカイ。キューティも顔を赤らめた後、


「すまない、PVPは終わった、私達には刺激が強すぎるから、コスを戻してくれ」


 と言った。

 キャスト達は慌て、通常の服に着替える。だが、

 ――マドランナはそうしない


「……お願いがあるの、運営さん」


 彼女はせつに、願う。


「ブラックヤードは、私の独断、だから」


 自分だけが、BANされる事を、

 ――だが


「なんの事だか、なぁ、スカイ?」

「ああ、さっき言った通り、我達はただの悪党だ」

「――え?」


 そう言って二人は踵を返す、そして、穴から出て行こうとする。


「ま、待って!?」

「ブラックヤードは10分後に消すよ、それまでに退出しておいてくれ」

「そんな、貴方達は」

「――ああそうだ、マントは明日取りに来るから」


 スカイは、穴の前で両手を広げる。それに向かって、笑みを浮かべてキューティが走り出した。そして、


「我達を店に招待してくれないか?」


 飛びつく――スカイがキューブを操作してるなら、本来、キューティが抱きつく必要はない。

だけど抱き合って、二人で穴をすり抜けていく様子に、

 マドランナは笑って、


「VIP席を用意しとくわ」


 そう告げた。







 さて、その後、色々諸々処理をした後にログアウトして、スカイからソラへ、キューティからレインへと、VRから現実、即ちソラの部屋へ戻ってきた二人だったが、


「……」

「……」


 ログイン前は、手を繋いでいただけである。だがしかし部屋に帰ってみれば、

 ――ベッドの上でソラがレインに押し倒される形になっていて

 胸が、顔を埋めるような格好になっていた。


「え、ええええ!?」

「んむううっ!?」


 驚き声をあげるレイン、胸の中で息もうまくできないソラ、やわらかくて、あったかい。

 ――VR中はリアルの感覚が眠る

 とはいえ、食事をしたり、ダンスしたりする場合、VRとリアルの動きをシンクロフルトラさせる事もある。けれど二人はその設定を切っていたはずだ、なのに、

 VRで抱きついたように、リアルでもレインは、ソラに抱きついていた。


「ちょ、な、何故だ!? 何故こんな!」

「んむ、んむうっ!」

「ああすまない、ともかく離れ――いや寧ろ抱きしめた方がいい!?」

「むぐうう!?」


 完全にパニくったレインは、上から寧ろハグを仕掛けてしまった。早すぎたはずの正面だっこ、彼の頭を、自身の胸へ抱いてしまい、ソラといえばその苦しさと幸せで、頭の中に色々溢れちゃって、

 その時、バタンッ! と、


「ちょっと、凄い声がしたけど大丈夫!?」


 ソラの母親、カナが入って来て、


「あっ」


 時が、止まる。

 処理落ちもしてないのに。

 ――性教育は難しい

 かつて自分が得た経験や、教えられた知識が、今からの時代に生きる子に相応しいかも解らない。どこまで縛り、どこまで緩めるか、ファジーなんて無理難題。


「お、お母さんね」


 だが少なくとも、今の状況は、


「若い二人には、そういうのまだちょっと早いと思うのよ!」

「ち、違うのです母親殿!? これには訳が!」

「と、とりあえずレインさん離れてください!」


 そう心配するのは最も過ぎるので、二人は慌て釈明しはじめた。 







 ――翌日


「なぁ、お前見た!?」

「当たり前だろ!」

「巷で噂の怪盗スカイゴールド」


 アイズフォーアイズの世界では、


「Lust Edenの大立ち回りの動画!」

「マジでこんな動きしてたのかよ!?」


 Lust Edenのスタッフが編集した、怪盗の活躍映像が流れていた。

 無論、都合の悪い真実は伏せた状態、セリフはカットしたものではあるけれど。


「ええええ!? 何ですの、マドランナさんのこの姿!?」

「燃えてかっけぇ!?」


 そしてこの動画での話題は、怪盗だけでなく、


「つか誰よ!? このよみふぃチックなニンジャ!」

「めっちゃセクシー、そんで強い!」

「レアアイテムを湯水の如く、どれだけ稼いで金策しておるのじゃ!?」


 美しき銀髪のニンジャ、シルバーキューティーにも集められ、


「あーーー!? 私のスカイゴールド様が!? 脳が、破壊、される!」

「カプ厨でよかったー、夏コミこれでいきたい」

「息ピッタリのコンビですね~」


 二人揃ってその活躍は、世界ゲーム中を揺らしていた。

 ただし、繰り返すのだけど、


「てか後半のバトルシーン、謎の光多くね!?」


 都合の悪い真実は隠すものである。グリッチとか、ブラックヤードとか、運営の手先とか、あとスカイゴールドが中の人年相応に、揺れるたわわに赤面してた事も含めて。







 そしてその夜、Lust EdenのVIPルームである個室にて。


「ブラックヤードを持って来たプレイヤーに!」

「この世界ゲームから、えっちが無くなると脅迫されただと!」


 怪盗スカイゴールド御用達という、宣伝動画のおかげで、何時も以上に賑わってるフロアの喧噪も届かぬVIPルームにて、モクテル片手、レインは驚きの声をあげる。

 マドランナ、片目を細めながら、


「20周年のアップデートに合わせて、運営がそう調整しようとしてると。私達のこの姿――レインさんの今の姿すらアウトって言われたわ」

「だから、この世界に隠し部屋を作りたかったんだ」

「ええ、稼いだお金は、装置の支払いにあてていたわ」


 口座もあからさまに怪しい所だった、と。


「少なくとも、私の知る範囲ではそんな話えちち絶許は聞いていない、そもそも社長が許さない」

「株主総会の質疑応答で、えっち過ぎるのは良く無いけど、えっちなのは悪く無いって、ハッキリ言ってたよね」

「私もそう思ったけれど、ブラックヤードを見て、考えを改めたの」

「――それは」


 シソラが思い当たった事を、先にマドランナが口にする。


「こんなプログラム、運営側の人間にしか作れない、だから情報は信用性がある」

「そういう事に、なるよね」

「……そうか……やはり」


 レイン、


「神の悪徒計画を知ってるのは、私を含め極少数だ」

「内部の犯行も疑ってるのでしょうね」

「運営のスタッフがRMTをやってたってパターンもあるもんね」

「――だが、それでもだ」


 ブラックヤードに、運営が関わってる可能性は高い。

 だがそれでも、納得出来ない事がある。


「ゲーム上とはいえ、人の心を狂わせるプログラムとは、なんだ?」

「――それは」


 チートで、パラメーターを弄る事は出来たとしても、

 リアルの心まで操るなんて、それは、VRの範疇を超えている。

 運営側とて、そんな技術を作れるとは到底思えない、

 思えないが――事実として、竜は、黒い慟哭に感情を暴走させた。


「……マドランナ、本来の貴方が、ブラックヤードを使うなんて選択するとは思わない、だが、もしもブラックヤードを受け取ったその時すらから操られていたならば」


 ――そんな洗脳染みた事

 ……出来るはずがないと、即座否定出来ず。

そのまま今度はシソラが、気に掛かっていた事を聞いた。


「これを売った奴はどんな人だった?」

「――解らなかったのよ」


 マドランナ、


「長い間店をやって、沢山の人と会ってきた、だから、なんとなく相手の事が解るようになった」


 思いだそうとしても、


「だけど、あの装置を持って来た人は、どれだけ見つめて、どれだけ話しても」


 ――その姿汎用アバターの奥にあるものに


「中身が、全く解らなかった」


 透明な、存在だった。

 本当にそこに居たのかも、解らないくらいに。

 その言葉に、不安を覚えながらも、レイン、


「……わかったマドランナ、これからも協力を頼めるか?」

「もちろんよ、うちの店の子達全員で応援するわ」

「でも、30くらいスタッフがいるだろ? 逆に情報が漏れたりしないかな?」

「客商売は口の堅さが売り、そして私達から裏切り者はけして出ない」


 マドランナは、何故かそこで足を組み直して笑う。


「性癖って絆は強いのよ?」

「そ、そうか」

「――どちらにしろ、ブラックヤードの解析待ちだな」


 シソラ、その発言に、


「それをやってくれるのも、神の悪徒計画の参加者?」


 そう聞けば、レインは笑った。


「ああ、そもそもその人こそが神の悪徒計画の発案者であり、そして、私の恩人だ」

「へぇ、恩人」

「どんな方かしら?」


 レインが笑みを浮かべ、嬉しそうに語る、

 その人の名は、


「――虹橋アイ」


 殺し屋に命じて、


「このゲームの、AIの開発兼管理者だ」


 グドリーを、このゲームからBANした者だった。







 ――それから幾らか時が経ち

 高層ビルの最上階、全面ガラス張りの吹き抜けのフロア、

 スタンディングディスクの前に立ち、ARグラスで、”ブラックヤードの解析結果”をみつめる、大柄で、派手な柄のスーツを着込んだ日焼け肌の壮年。

ロマンスグレーのオールバック、口回りには威厳タップリの髭、銅も、腕も、足も太い。

 報告書に刻まれた名を見て、真っ白な歯を見せてニヤリと笑う。

 ――その時通信が届いて


『社長、株主総会の時間です』


 と、耳骨を揺らしたから、


「わかったぁっ!」


 ――太く重く厚みのある低音で

 ガラスすら割れそうなdbマックスで大砲の様に叫んだ。ARをオフにして、大股でドシドシと、世界を揺らすように、一歩一歩踏みしめて扉へ向かう。


「さぁ、今日もパーティーの始まりだ! だのにどうした勿体ないぞ!」


 そして、自動で開く扉を潜り抜け、笑顔で叫ぶ。


「君はどこに消えたんだい!? 久透くとうリアぁっ!」


 ――灰戸はいどライド

 2062年に、世界初のフルダイブVRを作った男であると同時、

 アイズフォーアイズを運営する会社のCEOである。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?