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2-6 ゴールドアンドシルバーインザハウス

 ――水曜日11時57分

 シソラとレインが何故、仕事の日を一日ズラしたかは、インペリアルトパーズでの【特性共有】が、果たしてシソラのグリッチを見抜く力ワールドデバッカーにも作用するかの検証である。

 元々グリッチを見出すのはセンス由来の能力、スキルとは明確に違う。

 だがもしも、その肉体に宿るセンスをログイン前に共有出来るなら、物理的に繋げるなら、つまりは、


「行きましょう」

「ああ」


 ――リアルでは手を繋いで、VRにログインしたならば

 ……二人が降り立ったのは、Lust Edenの店の前。

 足元には入り口へと続く、赤絨毯が敷かれていて、そしてその周囲には、


「うわー! スカイゴールド来たぁ!」

「え、何、あのくノ一!?」

「美男美女カップル!? 推せる!」


 ギャラリーが、グラサン黒スーツに制されながら、二人の登場に声をあげる。


「全く、マドランナが言った通りの状況だね」

「私達はVIPという訳か、広告塔に使われている気もするが」


 二人、歓声を浴びながら、レッドカーペットを踏みしめながら、足並み揃えて入り口の扉へ。

 黒スーツのウェアウルフとダークエルフが、サングラス越しにも解る笑みを浮かべた。


「いらっしゃいませ、怪盗スカイゴールド様」

「お連れ様のお名前を、お伺いしても?」


 それに答えたのは、シソラではなく、


「――シルバーキューティ」


 レイン本人だった。そして、続ける。


「ところで、私のドレスコードは大丈夫か? アクティブ過ぎるなら着替えるが」

「シルバーキューティ様は問題ありませんが」

「スカイゴールド様は、そのままでは」

「――オーナーから聞いてるよ」


 シソラは、懐から何かを取り出す。

 ――それは10周年記念の配布アイテムであり

 今や、怪盗スカイゴールドを象徴するもの。

 赤絨毯周りのギャラリーには、シソラの後ろ姿しか見えていない。しかし、それを装備する所作を伺った瞬間、ある者は歓喜して、またある者は卒倒した。

 身だしなみを整えて、二人は一つ目の扉を潜り、それが閉じられたのを確認してから、二つ目の扉を開く。

 ――静寂である

 照明は点けられていない。だが、


「――見えるか、キューティ」

「ああ、スカイ」


 仕事の時だけは呼び合うようにしたコードネーム――キューティが目を細めれば、


「薄く、本当に朧気だが私にも、ステージ奥に淡い光が見える」


 ブラックヤードに通じるすり抜けバグの場所を、見出していた。


「――さて、それじゃあ、始めようかな」


 フロアの明かりは落ちている、だが、歓迎の準備は整っている。薄闇の中でも解る、この店のキャスト達が勢揃いしてる様子、そして、

 皆その手に、何かしらの武器を握っている。


「暴力禁止の店内で、暴力有りのPVPか」

「マドランナの懐の広さに感謝するよ」

「堕ちても尚、英雄か」

「堕ちてるんじゃなくて、昇天アガってるって言ってるよ」

「――私もそう思っていたが」


 キューティーは、悲しそうに、


「ブラックヤードを彼女が携えてるならば、認められない」

「大丈夫だよキューティ」


 シソラは、


「必ず奪う、我に任せろ」


 そう言ったけど、


「馬鹿を言うな」


 レインは、


「私にも任せろ」


 そう、一蓮托生の悪友に笑う。

 さればシソラは、名乗りをあげる。

 淡く光る仮面を誇るように――




「――我が名は怪盗スカイゴールド」


 その名がフロアに告げられた瞬間、

 フロアにピンクをメインにした、鮮やかなカクテルライトが満たして、

 ――ブラックヤード入り口のサイドでスタンバイしていた

 ジャズバンド達の演奏が、


「罪には罪を! 世界奪還の時来たり!」


 世界を揺らすように、PVPと供にけたたましく始まった。




 ドラムが弾け、サックスが唸り、ベースが確かにリズムを刻む。それをゴージャス&セクシーに演出するカクテルライト。

 そんな音と光の洪水の中ですら、


「いらっしゃいませゲスト様ぁ!」

「本日貸し切りでございますぅ!」

「ブラックヤードに行きたければ!」


 尚も際立つ、極上のキャスト達が一斉に、


「「「私達のサービスを受け取って!」」」


 スカイに向かって襲いかかる――だが、


ファントムステップ怪盗舞踏!」


 最早スカイゴールドの代名詞、すり抜け部分に足をつっこみ、それが閉じる反動で体を射出するテク、これでスカイは、縦横無尽の動きを見せる事が出来る。

 ――だが


「おばかさまぁ!」

「飛んだ先は天井だよー!」


 戦いの舞台は以前のような、中庭や吹き抜けの礼拝室ではない、キャストが言うとおり、勢い侭に天井へとぶつかる――かに見えた。

 ――ガシッ!


「えっ」


 怪盗は、天井に手を突っ込んだ。

 ――傍から見たら、平面を無理矢理掴んでぶら下がってるように


「「「えええええ!?」」」


 スカイはにやりと笑うと、そのまま雲梯のように天井を渡りながら、高所を取った状態でキャスト達を足蹴にしていった。


「か、かっこいい!」

「かっこいいか!?」


 絵面的には微妙ではあるけれど、虚を突くという意味では怪盗として満点。天井を渡りながら、キャスト達を倒していくスカイ、


「くそっ!」


 ガンナーキャストがその銃口を、空渡りのスカイへ向けた、

 だが、


「――ニンジャスキル」

「え?」


 背後から声――振り返る間も無く、


「【一撃必殺】」


 そのガンナーの首が、後ろからかっ切られる――血飛沫は出ないが、衝撃のエフェクトが爆ぜた後、ガンナーは戦闘不能になった。


「ア、 アイエエニンジャ!?」

「ニンジャナンデ!」

「何十年前の反応をしてるのだ、お前達は!」


 スカイが高所で注目を集める中で、キューティは地を這うようにひらりひらりと移動して、長距離攻撃持ちを優先的に倒していく。ある程度数が減った段階で、


「スカイ、やれ!」


 そうキューティが言えば、スカイは天井を離してテーブルに降りて、

 ――天地に溢れる淡い光

 それを、頭の中で線に繋ぎ、それを辿るよう、勢い良く射出する!


ファントムロード怪盗舞道!」


 地面と天井をスーパーボールのように跳ねる軌道上で、


「ぎゃあ!?」

「ぐわ!?」

「もがぁ!」


 キャスト達を倒していく――ダメージ足らずには、キューティが手裏剣を投げトドメを刺す。

 ――ジャズが激しく響く中、あっという間にフロアは掃討された

 ただし、


「こ、この、全くふざけないで!」


 ブラックヤードの入り口前、舞台の中央に陣取る、


「怪盗はともかく、その忍者はなんなのよぉ!」


 八本足全てに、武器を携えたオクトンナを除けば――彼女は中ボスとして君臨していた。

 剣、槍、弓、槌、八つ足に握られた装備品の数こそが、彼女の強さ、バトルマスターいっぱい武器使えるレアジョブである事を示していた。

 だが、


「――忍法」

「え?」


 キューティの右手には何かが握られている、

それは手の平サイズの、よみふぃのぬいぐるみ、それを、

 ――一オクトンナに投げつけた


強制変化の術かわいくなぁれ!」


 ぬいぐるみがオクトンナの体に触れた瞬間、ポンッ! と、白煙がオクトンナを包み、そして、


「な、何よこれぇ!?」


 煙が晴れれば彼女は――顔だけを露出した、よみふぃの着ぐるみに身を包まれていた。八本足を無理矢理格納する形で。


「ちょ、動きにくい、腕を出せない!? あぁ着ぐるみの中で触手がぬめるぅ!? セルフプレイ!」

「リアルとバーチャルでこれだけ体の差があるなら、脅威では無いかもしれぬが」

「いや、相手をしてたら面倒だったかも、ありがとうキューティ」

「感謝はあとだ、この着ぐるみは拘束アイテム、1分経てば変化は解ける」


 非戦闘員PVP不参加のバンドがジャズを奏でるステージを突っ切り、淡く輝く場所へ走る。

 ――壁に黒い穴が空いた

 オーナーの入場許可を唯一得たスカイはその穴に、背から突っ込んだ。そして、

 両手を広げる。


「キューティ!」


 飛び込んできたキューティを、しっかり、スカイは抱きしめる。

 ――これが一番うまく行く方法

 VRでも、体を重ねる事でのすり抜けグリッチ【特性共有】

 かくして、


「「「えっ」」」


 時間稼ぎも出来ないどころか、本来、通るはずも無かったキューティすらも、抱き合ったままにブラックヤードに行ってしまった事は、


「「「ええええええ!?」」」


 キャスト達に、動揺と衝撃を与えていた。

 ――ゲストがいなくなったフロア

 それでも音楽は止まらないDon’t stop music









 ――抱き合った二人が飛び込んで


「いたっ」


 VRに痛みは無い――それでも普通にゲームをプレイしてても、思わず飛び出るダメージへの反応。理由はスカイが、背中と尻を打ったからだった。


「いつつ」


 と思い、瞳を開ければ、

 ――キスするまでに近い、キューティの顔があった

 2.8秒の無言の後、


「す、すまない!」

「いや、我こそごめん!」


 慌て体を離す二人、顔を真っ赤にして周囲を見渡せば――


「――ここは」


 先程の、淫らを隠そうともしないフロアと違い、そこは開けた部屋――いや、色とりどりの花が咲き乱れる外であった。蝶が舞って小川も流れる。楽園とはこの事か。

 ――だが


「いらっしゃい」


 マドランナの声がした方を振り向けば、

 スカイは勿論、キューティも、

 より酷く赤面する。


「ようこそ、私の楽園へ」


 ――たわわ、たわわと

 謎の光に邪魔されず、沢山のキャスト達が、


「歓迎するわ、二人とも」


 紐で箇所を引っかけただけの裸同然で、膨らみを揺らしてたから。


「「ええええ!?」」


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