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2-5 えっちなのはいけないと思います!←なぜ

 結論から言ってしまえば、えっちなのは悪く無い。

 えっちな事で、他人の心身を傷つけたり、自分を滅ぼす事がアウトである。

 前者は言語道断として後者について――人生、エロに対する自制心を覚えなければとてもまずい。エロは程々なら幸福の材料でも、過剰に脳を灼いてしまえばポルノ中毒人生設計生存戦略をコントロールしにくくなる。本能という獣は乗りこなしてこそのもの。

 ゆえに、特に多感な思春期に、それをなるべく遠ざけるのは理に適ってはいる。

 ――とはいえだ


若人わこうどが修行僧でも無いのに、えっちな気持ちをスイッチのように全く断つ事がこく、というよりほぼ不可能なのは解ってるつもりだ」

「ご、ごめんなさい」

「あ、謝らなくてもいいし、正座にならなくていい、私はお前を軽蔑も断罪もしない」


 一度、VRMMOからログアウトした二人、パジャマ姿のままでシソラの部屋で向かい合っていた。ソラ、言われて足を崩したが、それを見たレイン、


(女の子座り――かわいい)


 と思ったけど、口には出さないレインに、ソラは続けた。


「マドランナさん、きっと、僕を堕とせると思ってます」

「そしてお前は、それに抗う自信がない」

「はい」

「ブラックヤードにお前が一人で行く事は、みすみす身も心も捧げるという事か」


 絶対にえっちに負けたりしない!→えっちには勝てなかったよ……。

 という風に、古よりエロは歴史を変えてきた。そう、2089年の今だって、今日もどこかで誰かがエロで交わる。

 それで生きる人もいれば、死ぬ人だっている事実。


「情けないですよね」

「いや、だから私は軽蔑しないと」

「怪盗スカイゴールドなら、有り得ません」

「――あっ」


 ソラが思い描く理想の怪盗は、どれだけの美貌を持つ女性相手だろうと、けして心を乱したりせず、愛する時は、何よりも真摯に愛を注ぐ。

 それに比べて、白金ソラときたら、


「簡単に、女性の人になびくなんて」


 そう自分を――貶めていた。

 ……欲情のコントロールはとても難しい、思春期なら当たり前の事を、余りに禁忌だと思ってしまうと、どこか歪に育ってしまう。

 やりすぎは良く無いし、我慢しすぎるのも良く無い。

 だけどそんなファジー中庸な感覚を、言葉で諭すのも難しくて。

 ――だから


「……後ろを向け、ソラ」

「え?」

「は、早くしてくれ」

「は、はい」


 ――訳も解らず立ち上がって後ろを向いた瞬間

 ギュッっ、と、


「――へ」


 ソラはいきなり、レインに抱きしめられた。


「っ!!??!??」


 人間、本当に驚くと、声も出せなくなってしまう。

 腕の暖かな感触、背を擦る胸の膨らみ、熱っぽい吐息、彼女の香り、

 そんなステキに包まれて、パニックになり顔真っ赤になるソラへ、レインは言葉を贈る。


「――何故私が、こんな事をしたか解るか?」

「わ、わかりません」

「こうしたかったからだ!」

「ええ!?」


 顔を真っ赤にするソラだけど、同じくらい、レインも顔を赤くした。


「その、正直、私のこの行いが、でたいから来るのか、えっちだから来るのか、私にも解らない、だけど、暴走させていけないものだとは思う!」

「え、えっとレインさん」

「正面からハグは危険だと判断したから後ろからだが、こ、これでもう幸せ過ぎる……」

「あの、その」

「このまま、お前の匂いをスンスンするのはギリギリセーフだろうか?」

「ギリギリアウトですよ!?」


 ソラのつっこみに、すまない、と呟いて、


「――私だって、一目でお前をかわいいと思った」

「えっ」

「昔から、かわいいものが好きだった、だから学校の挨拶の時、”可憐な少年”なんて夢みたいな存在に心が奪われた、胸だって高鳴っていた」

「そ、そうなんですか」

「はしたない女と軽蔑するか」

「そんな事!」


 ソラは、後ろからハグをされたまま、しどろもどろになりながら、

 ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「なんていうか、嬉しいです、僕もレインさんが、キレイだと思っていた」

「――そうか、なんだか安心した」


 レインは、腕に力を込めた。


「私達は、最初は外面見た目で惹かれ合った、心を一等にせぬろくでなしだ」


 そして、告げる。


「お前と同じく、私も情けないから、安心してくれ」

「……そう、ですね」


 お互い、さっきまでのドキドキが少しおさまって、今は心地よさすら覚える。

 好きになる切っ掛けが見た目だとしても、今は互い、目を閉じていても、


「僕達、悪い人ですね」

「それはそうだ、悪党だもの」


 ぬくもり体温という、

 好きになっていく理由の芽吹きが、感じられて嬉しかった。

 ――人が人を好きになるのは

 優しさ、共感、意外な一面、趣味、居心地、エトセトラ、

 それに辿り着けるのであれば、

 切っ掛けはきっとなんだっていい。

 ……とまぁ、なんかいい感じに話がまとまった所で、


「それであの、どうしましょう?」

「え?」

「結局、問題は解決してないですよね」

「む」

「招待を受けた僕は、すり抜けバグ無しでも通されると思います」

「むむ」

「だけど、レインさんは通さない」

「むむむ」


 何がむむむだとつっこむ人おらず、ソラはレインにハグされたまま。


「こうやってお前を抱きしめてたら、ブラックヤードに同行出来ないか」

「多分、レインさんだけ弾かれます」

「お前の”多分”は絶対だろうな」


 でも実際の所、マドランナの誘惑をはね除ける為には、レインとの潜入が絶対条件だ。

 レインの目の前で堕とされるという、お約束な展開ウスイホンも当然あるが、単純に戦力的に考えても、数は多い方が良い。


「私にもグリッチすり抜け箇所を見抜く力があればな」

「僕の力、貸せたらいいんですけど」


 それは、妄想の類いであった。

 ――だが


「「あっ」」


 二人同時に、可能性に気付いた。

 ――友達がくれた宝物







 翌日の夜――Lust Edenのシャワールームにて、この店と、この街の顔であるマドランナは、一糸纏わぬ姿でその豊かな起伏に、湯水を浴びて、流していく。

 しかしその体の大切な部分は全て、ホワイトライトエフェクト謎の光で覆われる。運営の、R-18フィルター。

 わずらわしい、と正直に思う。

 それでもマドランナは、このVRでは全く意味の無いルーティンを、けして止めない。

 ――暖めずには要られないのだ


「ふぅ」


 シャワーの銓を締めた後、メニューから何時ものチャイナドレスに着替える。体の起伏にぴったりと吸い付く衣裳で、開店前のフロアへ足を伸ばせば、


「オーナー!」

「あら、オクトンナ」


 タコのキャストがうねうねとやってきて、そして、


「舞台の真ん中に、こんなのが!」


 8本足の一つに、トランプのカードを持っていて、その裏側にはマジックでこう書かれていた。




 明日12時、貴殿のブラックヤードを貰い受ける

 怪盗スカイゴールド




 それはトランプを使った予告状だった。


「ど、どうやって店に入って来たのか、オーナー以外店は開けられないはずなのに!」

「すり抜けてきたのかもしれないわね」

「え?」


 くすりと楽しそうに微笑みながら、マドランナは、柄の上に書かれたメッセージをみつめた。そして、


「数字を当てましょうか」

「へ?」

「ハートの7」

「なっ、なんで!?」


 ――怪盗の切り札

 ほんの少しでも、”怪盗物”というジャンルが好きなら、心当たる物がある。


「モーリス・ルブラン作『アルセーヌ・ルパン』に、トランプを題材にした短編があるの」


 切り札とは、他のカードよりも一等強い力を持つと、”自らの意志で定めた”カードに他ならない。

 ゆえに、ルパン怪盗の切り札とするのなら、


Le Sept de cœurbハートの7


 招待状のなぞなぞを解いた怪盗は、

 返事の手紙予告状を送り届けた。


「と、ともかく、まずいですよオーナー! このままじゃ」

「ねぇ、オクトンナ」


 だが、そもそもに、

 何故マドランナは、こんな挑発をしたのか?

 ――理由は


「怪盗も恋に堕ちたクラブなんて、とってもステキだと思わない?」


 逃げずに、戦う為。

 自分の居場所楽園を守る為、

 もうけして、失わない為失楽園


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