――白銀レインが転校してきた初昼休み
「好きな食べ物はなんですか!」
「お寿司だ、ヅケとトリガイとナミダマキ」
「外国ってどこから?」
「北欧の小さな国、詳細はいずれ」
「なんでそんな喋り方!?」
「ジャパンかぶれの父の影響」
転校挨拶からハートキャッチした彼女は、当然ながら
それも、白金ソラの隣にて。
(まさか、席が隣になるなんて)
ただしこれは偶然ではない。持って来た席をどこに配置するべきか、担任がAI教師に相談しようとしたら、背が高いから後ろがいい、と、言ったのがソラの隣だったのである。
(――僕の正体が解ってるっぽい)
隣席になった彼女が、軽く会釈するだけで、名前も聞いてこなかった事がその証左である。シソラの中身であるソラは、彼女がリアルで接触してきた意味を考える。
(普通に考えたら、協力者を監視する為)
周りが次々と、質問する中で、
(だけど、わざわざ入学してまで?)
ソラだけは頭の中で自問自答を繰り返していた、だが、
「あのさ、レイン!」
リクヤが質問者になる、するとウミが眉をしかめる。
「ちょっとリク、レインさん年上やのに呼び捨てって」
「構わない、言った通り私達は学友、好きに呼ぶがいい」
「じゃあレイン、聞きたいんだけど、それよみふぃだよな!」
リクヤはここで――彼女がかばんに下げていた、アイズフォーアイズのマスコットを指摘した。
「あ、ほんまや、レインさんプレイヤーなん?」
「ああ、3年前からのユーザーだ」
「俺らと同じ時期じゃん!」
喜んだリクヤはウミと、そして、ソラに目配せする。するとレインも視線移動に気付きソラへ向き、
「君もプレイヤーなのか? そうか」
と、嬉しそうに微笑んだ。
(いや、知ってますよね……笑顔が怖い……)
と思ったが、口には出せない。するとレインは周りを見渡し、
「他にアイズフォーアイズのプレイヤーはいたりするか?」
と聞いた、しかし、
「あ、ごめんなさい俺は別ゲーで」
「私も昔はやってたんですけど」
「ちょっと自由度が高すぎるんですよね」
「ゲームだけど、努力だけじゃなくて運も必要な部分もあって」
「そ、そうか」
運営側の白銀レインには、耳が痛い言葉が飛んでくる。
若人にゲームが流行る理由として、現実社会と違い”努力がパラメーターや実績として可視化”されやすい所にあり、最弱スキルの下克上みたいな、異世界転生のノリすらも許容する自由度は、裏を返せば不平等。
“
(だからアイズフォーアイズは、新規プレイヤーが減っていってる)
おかげで、ちょっとしょんぼりしたレインにだが、リクヤは明るい侭にこう言った。
「それじゃレイン、怪盗スカイゴールドは知ってる?」
その言葉に、ぱぁっと顔を輝かせるレイン。
「もちろん! 私は彼のファンだ」
「マジ!?」
「ほんま有名人なったねぇ、シソラ」
こんな直球ストレートで褒められるとは思わず、顔を赤くするソラ。
「実はな、その怪盗と俺とウミ、リア友なんだぜ!」
「――そうか」
その言葉に、驚く様子はないレイン、それはそうだろう、彼女は既に自分がここに居る事を知って、この高校に転校してきた。
――だから
「そう、その怪盗がこいつ!」
「白金ソラなんよ!」
ついに呼ばれて、ああ、どんな反応をすべきかと、
そう、思った時、
「え?」
「へっ」
レインはソラの顔を見て、一瞬呆気に取られた後、
「ええええ!?」
と、驚愕で顔を歪めたものだから、
(ええ!?)
と、ソラも驚いた。しかし、その驚き声する間も無く、
――ガシッ! っと
「うわっ!?」
ソラの手首を掴んだレインは、そのまま教室の外へ連れ出そうと立ち上がった。
「ちょ、ちょっと私と来い! シソラ、じゃなくて白金ソラ!」
「い、行くってどこへ!? レインさん、転校したばかりですよね!」
「屋上とかあるだろ! 案内を頼む!」
「いや、案内する僕を引っ張らないでください!?」
そのまま
◇
「何故ここに呼ばれたか、わかりますね?」
「え!」
と、話すのは屋上、はどこの高校でも基本的に開放されてないので、人寄りつかぬ校舎裏。初めての出会い時の挨拶を再びされて、ソラは同じように困惑顔。
しかし以前と違うのは、レインがよみふぃでなくリアルアバターで、尚且つ、ソラと同じく戸惑ってる事である。
「本当にお前がシソラなのか?」
「は、はい、知ってたんじゃないですか?」
「いや、名前や住所、この高校に通ってるまでで、顔は知らない」
考えてみれば当然の事、基本的に、容姿の情報までは運営に登録しない。
ソラは納得いったが、レインにはまだ解らない事があった。
「怪盗シソラの背は、私と同じくらいだったろ」
「は、はい」
「それなのに何故、お前の背丈であのパフォーマンスが出せるのだ?」
「――あっ」
この時、ソラはやっとレインが
「戦闘時は、限りなく
VRMMO上の如何ともしがたい仕様、それは、”VRでちっちゃくてもリアルで大きいとズレが生じる”事である。
戦闘時以外なら、よみふぃみたいなマスコットキャラも可能。だがバトル時はそうもいかない。
「ゆえ、ドールマスターという、小さなキャラでも大きな体を動かせるジョブを実装したが」
「それ、確かにリクヤやウミにも言われてるんですけど、なんか、馴れちゃって」
「馴れる、ものなのか」
少し考えた後、レイン、
「もしかしすれば、そのズレを許容し戦う事が」
瞳でしっかりソラを捉え、
「お前が
そう、真剣な面持ちで語りかけられる。
碧い眼で真っ直ぐに射抜かれると、初めて会った時のように、ドキリとする。
「ともかく、驚かせてすまなかった」
「い、いえ、席も隣にしてきたし、てっきり気付いてたかと思いました」
「あれはお前がかわいくて――」
「え?」
「ああいや、そ、そういえばゲームではボイチェンなのだな」
「いやその――一応、我の声帯だよ」
「両声類!? そ、そうか、器用なのだな、ええと、……そうだ!」
レインは、ハっとして言った。
「どうして土日はログインしなかった!」
「あっ」
――それがわざわざ、リアルでコンタクトを取ってきた理由
「これからの事とか色々話したい事があったのに、メッセージも送っていただろ! 運営の名で!」
「あ、あの、運営からのメッセージ、後回しにしがちで」
「公式情報は出来れば即に目を通してもらえると有り難い!」
「ご、ごめんなさい! ……でも、僕と連絡する為だけに、転校して来たんですか?」
「いやこれは社長からの命で」
「え、社長?」
「ともかく、怪盗スカイゴールド!」
「は、はい!」
彼女はそこで、一歩踏みだし顔を近づけて、頬赤くするシソラに言う。
「早速だが、今度は私と組んで仕事をして欲しい」
「わ、わかりました、何を盗めばいいんですか?」
「――秘密の部屋だ」
「え?」
隠し部屋に潜入、するのではなく、
「私達運営にも監視できず、RMTの取引場所にもなっている、秘密の空間」
場所そのものを、奪う事。
「――
どれだけポケットには大きい宝物でも、それが新たなミッションだった。