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2-2 GMの猫白銀レイン

 ――白銀レインが転校してきた初昼休み


「好きな食べ物はなんですか!」

「お寿司だ、ヅケとトリガイとナミダマキ」

「外国ってどこから?」

「北欧の小さな国、詳細はいずれ」

「なんでそんな喋り方!?」

「ジャパンかぶれの父の影響」


 転校挨拶からハートキャッチした彼女は、当然ながらスーパーシツモンターイム日曜朝のイントネーションを受けていた。

 それも、白金ソラの隣にて。


(まさか、席が隣になるなんて)


 ただしこれは偶然ではない。持って来た席をどこに配置するべきか、担任がAI教師に相談しようとしたら、背が高いから後ろがいい、と、言ったのがソラの隣だったのである。


(――僕の正体が解ってるっぽい)


 隣席になった彼女が、軽く会釈するだけで、名前も聞いてこなかった事がその証左である。シソラの中身であるソラは、彼女がリアルで接触してきた意味を考える。


(普通に考えたら、協力者を監視する為)


 周りが次々と、質問する中で、


(だけど、わざわざ入学してまで?)


 ソラだけは頭の中で自問自答を繰り返していた、だが、


「あのさ、レイン!」


 リクヤが質問者になる、するとウミが眉をしかめる。


「ちょっとリク、レインさん年上やのに呼び捨てって」

「構わない、言った通り私達は学友、好きに呼ぶがいい」

「じゃあレイン、聞きたいんだけど、それよみふぃだよな!」


 リクヤはここで――彼女がかばんに下げていた、アイズフォーアイズのマスコットを指摘した。


「あ、ほんまや、レインさんプレイヤーなん?」

「ああ、3年前からのユーザーだ」

「俺らと同じ時期じゃん!」


 喜んだリクヤはウミと、そして、ソラに目配せする。するとレインも視線移動に気付きソラへ向き、


「君もプレイヤーなのか? そうか」


 と、嬉しそうに微笑んだ。


(いや、知ってますよね……笑顔が怖い……)


 と思ったが、口には出せない。するとレインは周りを見渡し、


「他にアイズフォーアイズのプレイヤーはいたりするか?」


 と聞いた、しかし、


「あ、ごめんなさい俺は別ゲーで」

「私も昔はやってたんですけど」

「ちょっと自由度が高すぎるんですよね」

「ゲームだけど、努力だけじゃなくて運も必要な部分もあって」

「そ、そうか」


 運営側の白銀レインには、耳が痛い言葉が飛んでくる。

 若人にゲームが流行る理由として、現実社会と違い”努力がパラメーターや実績として可視化”されやすい所にあり、最弱スキルの下克上みたいな、異世界転生のノリすらも許容する自由度は、裏を返せば不平等。

 “もう一人の自分を見つけるアイズフォーアイズ”というコンセプトは、ポップでなくディープな自分探しの押しつけで、ライトユーザーの忌避原因。


(だからアイズフォーアイズは、新規プレイヤーが減っていってる)


 おかげで、ちょっとしょんぼりしたレインにだが、リクヤは明るい侭にこう言った。


「それじゃレイン、怪盗スカイゴールドは知ってる?」


 その言葉に、ぱぁっと顔を輝かせるレイン。


「もちろん! 私は彼のファンだ」

「マジ!?」

「ほんま有名人なったねぇ、シソラ」


 こんな直球ストレートで褒められるとは思わず、顔を赤くするソラ。


「実はな、その怪盗と俺とウミ、リア友なんだぜ!」

「――そうか」


 その言葉に、驚く様子はないレイン、それはそうだろう、彼女は既に自分がここに居る事を知って、この高校に転校してきた。

 ――だから


「そう、その怪盗がこいつ!」

「白金ソラなんよ!」


 ついに呼ばれて、ああ、どんな反応をすべきかと、

 そう、思った時、


「え?」

「へっ」


 レインはソラの顔を見て、一瞬呆気に取られた後、


「ええええ!?」


 と、驚愕で顔を歪めたものだから、


(ええ!?)


 と、ソラも驚いた。しかし、その驚き声する間も無く、

 ――ガシッ! っと


「うわっ!?」


 ソラの手首を掴んだレインは、そのまま教室の外へ連れ出そうと立ち上がった。


「ちょ、ちょっと私と来い! シソラ、じゃなくて白金ソラ!」

「い、行くってどこへ!? レインさん、転校したばかりですよね!」

「屋上とかあるだろ! 案内を頼む!」

「いや、案内する僕を引っ張らないでください!?」


 そのまま廊下を走って行く後で怒られる二人、それをリクヤとウミ含むクラスメイト達は、呆然と見送るしかなかった。







「何故ここに呼ばれたか、わかりますね?」

「え!」


 と、話すのは屋上、はどこの高校でも基本的に開放されてないので、人寄りつかぬ校舎裏。初めての出会い時の挨拶を再びされて、ソラは同じように困惑顔。

 しかし以前と違うのは、レインがよみふぃでなくリアルアバターで、尚且つ、ソラと同じく戸惑ってる事である。


「本当にお前がシソラなのか?」

「は、はい、知ってたんじゃないですか?」

「いや、名前や住所、この高校に通ってるまでで、顔は知らない」


 考えてみれば当然の事、基本的に、容姿の情報までは運営に登録しない。

 ソラは納得いったが、レインにはまだ解らない事があった。


「怪盗シソラの背は、私と同じくらいだったろ」

「は、はい」

「それなのに何故、お前の背丈であのパフォーマンスが出せるのだ?」

「――あっ」


 この時、ソラはやっとレインが自分=シソラ同一人物に辿り着かなかった理由を知る。


「戦闘時は、限りなく自分リアルのスペックと一緒でなければ、本気で動けないはずだ」


 VRMMO上の如何ともしがたい仕様、それは、”VRでちっちゃくてもリアルで大きいとズレが生じる”事である。

 戦闘時以外なら、よみふぃみたいなマスコットキャラも可能。だがバトル時はそうもいかない。


「ゆえ、ドールマスターという、小さなキャラでも大きな体を動かせるジョブを実装したが」

「それ、確かにリクヤやウミにも言われてるんですけど、なんか、馴れちゃって」

「馴れる、ものなのか」


 少し考えた後、レイン、


「もしかしすれば、そのズレを許容し戦う事が」


 瞳でしっかりソラを捉え、


「お前が特別なデバッグ力を持ってる理由かもしれぬな」


 そう、真剣な面持ちで語りかけられる。

 碧い眼で真っ直ぐに射抜かれると、初めて会った時のように、ドキリとする。


「ともかく、驚かせてすまなかった」

「い、いえ、席も隣にしてきたし、てっきり気付いてたかと思いました」

「あれはお前がかわいくて――」

「え?」

「ああいや、そ、そういえばゲームではボイチェンなのだな」

「いやその――一応、我の声帯だよ」

「両声類!? そ、そうか、器用なのだな、ええと、……そうだ!」


 レインは、ハっとして言った。


「どうして土日はログインしなかった!」

「あっ」


 ――それがわざわざ、リアルでコンタクトを取ってきた理由


「これからの事とか色々話したい事があったのに、メッセージも送っていただろ! 運営の名で!」

「あ、あの、運営からのメッセージ、後回しにしがちで」

「公式情報は出来れば即に目を通してもらえると有り難い!」

「ご、ごめんなさい! ……でも、僕と連絡する為だけに、転校して来たんですか?」

「いやこれは社長からの命で」

「え、社長?」

「ともかく、怪盗スカイゴールド!」

「は、はい!」


 彼女はそこで、一歩踏みだし顔を近づけて、頬赤くするシソラに言う。


「早速だが、今度は私と組んで仕事をして欲しい」

「わ、わかりました、何を盗めばいいんですか?」

「――秘密の部屋だ」

「え?」


 隠し部屋に潜入、するのではなく、


「私達運営にも監視できず、RMTの取引場所にもなっている、秘密の空間」


 場所そのものを、奪う事。


「――ブラックヤード黒い庭が、今回のターゲットだ」


 どれだけポケットには大きい宝物でも、それが新たなミッションだった。


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