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第3話

 その日、僕は休日だった。せっかくの休日だ。叶恵さんの様子を見に行くために出掛けることにした。以前、出会ったのは僕が会社に行く前にいつも行くコンビニ。その時間のちょっと前に、彼女は家から出ていることになる。ならば、今から行けばきっと彼女は家から出る頃だろう。僕は簡単に身支度をして彼女の家に向かった。

「今日も暑いー。……って、あれ? 相澤さん?」

 家の前を通り掛かるかのようにして僕が現れると、彼女はやはり丁度出るところだったらしく、目を丸くして僕を見ていた。

「やあ、叶恵さん。全く、今日も暑いですね」

「え、ええ。相澤さんは、どうしてここへ?」

「散歩です。休日だから、たまには体を動かそうと思って」

「なるほど。偉いですね。でも、頑張り過ぎて熱中症にならないように水分補給、ちゃんとしてくださいね!」

 彼女は優しい。優しすぎるのだ。その優しさが、人を惑わすかもしれない。もしかしたら、変な輩が彼女を良いようにするかもしれない。

「これから会社まで行くんですよね? どうせ僕もそっちに行くので、送りますよ」

「いえ、良いですよ。朝は一人で行きたいんです。頭のリフレッシュになるので」

 そうか。ならば仕方がない。彼女の時間というものもあるのだから。

「そうですか。わかりました。どうぞ、お気を付けて。行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 暑い日差しの中を、彼女は歩く。紺色の制服が、灰色のコンクリートの色に、よく似合っていた。

 それから八時間後、僕は彼女の勤めているであろう会社の前にいた。この辺りで女性の制服がある会社なんてここくらいなものだ。

 何十分か待つと、彼女は会社から知らない女性と共に出てきた。何やら入口の近くで話している。内容を聞きたい。僕は陰に隠れながら彼女達の声が聞こえる位置まで近づいた。

「えー、じゃあストーカーされてるの? 叶恵」

「そう、なのかな。でも偶然かもしれないし」

「何言ってるの。やばいじゃん。ストーカーに殺されでもしたら、怖いよ! 警察に一応相談しておこうよ。一緒に行くから」

 ストーカー? 叶恵さんは、ストーカーに悩んでいるのか? 知らなかった。僕の叶恵さんに、そんな輩が近づいていたなんて。やはり、僕が守らなければならない。だが、僕がいると知られたら、ストーカーは隠れ、僕がいない時を狙うかもしれない。そうならないためには、表立って行動しないほうが良い。隠れてストーカーを見つけよう。

「警察はまだ早いよ。でもありがとう。それじゃ、私帰るね」

 いけない。見つかってしまう。距離を取ろう。

「ばいばい叶恵ー! また明日!」

 叶恵さんの三メートル程後ろを歩く。出来るだけ足音を立てずに、物陰に隠れて。

 そして、どこのどいつだろう。僕の叶恵さんを付け回すのは。こそこそ隠れて動き回るなんてゴキブリのようなやつだ。そんなやつに、叶恵さんの清らかな心に入り込むだなんて、身の程知らずめ。

「……誰かいるの?」

 僕は電柱の影に隠れる。叶恵さんはこちらを見ているようだ。足音が、近づいてくる。

「気のせい、か」

 幸い、気づかれないで済んだ。

 彼女がマンションに入るまで見届けると、僕は帰宅した。

 部屋に入り灯りを点けると、硝子越しに金魚を眺める。金魚は僕のことなど気にせずいつものように泳いでいる。爪で硝子を叩くと、素早く動き、反対方向に行くものだから、つい可愛くて反対側も叩いてやる。金魚は右往左往し、僕はそれを笑って見ていた。

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