三月の二十五日の空は、雲ひとつない
かなり
この日の昼過ぎに、俺とすずさんとおあきちゃんの三人は、深川の南にある江戸湾に面した自然の砂浜である、
昼過ぎの満潮時刻になり潮が満ちているので、砂浜は狭まっている。その砂浜は大勢の人でごった返しており、芋を洗うような状況となっている。
俺たち三人がこの細やかな砂が降り積もる
今の時刻は昼九つ半、つまり午後一時ごろであろう。砂浜には、潮干狩りをしようと貝を入れるための
人影は女性が明らかに多いが、子供たちと両親のような家族連れもいるし、長屋同士の仲間のような人たちもいる。お茶のみ友達であるような老人たちもいる。
すずさんは、お師匠様としてのいつもの格好とは違う
海岸にある
今、誰かが叫んだ。
「潮が引き始めたぞー!」
その声に、大勢の人たちが海岸へと早足で進む。
紺色の着物を着た俺は、おあきちゃんと一緒にすずさんの遠ざかっていく背中を見ていた。
俺もすずさんと同じように
おあきちゃんもやはり
そして俺は、背中には大きな紐付きの巾着袋を背負っている。この巾着袋の中には、潮干狩りのために用意していたものを入れている。
俺はおあきちゃんに話しかける。
「なんだかすずさん、張り切ってるね」
すると、おあきちゃんが返す。
「すず
「へぇ、すずさんにも子供っぽいところがあるんだね」
俺が微笑むと、おあきちゃんが少し頬を膨らませた。
「まただ」
その幼い女の子の言葉に、俺は返す。
「またって何?」
「りょう兄ぃ、この
おあきちゃんの言葉に、俺は一瞬固まる。
そして大声で弁明する。
「いやいやいや! おあきちゃん、何か勘違いしてるよ!? すずさんはあくまで俺の恩人であって、そういうのじゃないから!」
すずさんがこちらに振り返り、大きく手を振る。
「りょうぞう! おあき! 何してんだよ!? 早く
その言葉に、
すずさんの近くに寄ると、すずさんは
俺は、水面下の砂浜を
「
すると、すずさんが不思議そうな顔をする。
「
「ええ、鉄でできた小さい
俺がそう話すと、すずさんは感心したようにふむふむと
「じゃあ、次に
そう言うすずさんの隣では、膝を露出したおあきちゃんも体を傾けて砂の中を探っている。
そして大声を出す。
「見て見て!
おあきちゃんは笑顔を見せつつ、すずさんの抱えている
俺も、懸命に砂を
暖かい春の日の、潮が
昼下がりいっぱい潮干狩りを楽しんで、夕方の頃合になっていた。
潮がすっかり引いた
この砂浜にて獲られた貝は、持って帰ってもよいのだが、大勢の人がその場で焚き火を起こして、焼いて、煮て、あるいは蒸して、色んな方法で食べるのである。
すぐ近くでは
俺は先日、
――和紙でぐるぐる巻きにしていたので汚れてはいないはずだ。
それは、魚屋で入手していたクジラの
焚き火の熱で充分に暖められた鉄鍋に、クジラの皮下脂肪を塗りつけて入れ、その上に
そしてしばらく待って、
俺は、二人に語りかける。
「できましたよ。
ふたを取ると、すずさんが鉄鍋を覗き込む。
「『ばたぁ
俺は応える。
「まぁ、バターが入手できないんで、クジラの
俺の言葉に、すずさんもおあきちゃんも鉄鍋から
そして、おあきちゃんは用意していた、この時代では
「
おあきちゃんが、喜びの声を上げる。
そして、同じく
「こりゃぁ
――すずさんも、喜んでくれたようだ。
俺も、鉄鍋から
ジャリ
おもいっきり砂を噛んだ。
「確かに美味しいですけど……ちょっと砂が入ってますね」
すると、すずさんが笑いながら応えてくれる。
「そりゃぁ、さっき
おあきちゃんも、笑いながらそれに続く。
「
そんな受け答えをしつつ、俺たち三人は仲良く
俺は口を開く。
「徳三郎さんも来れれば良かったんですがね」
すると、すずさんが返す。
「仕方がないよ。父さまは色々と忙しいからさ」
おあきちゃんも、俺に向かって話しかける。
「りょう兄ぃって料理が上手だけど、板前さんでも目指してたの?」
俺は返す。
「違うよ。俺は両親が共働きでね、いっつも弟のために
その言葉に、すずさんが返す。
「いやいや、大したもんだよ? 江戸なんて、食い物の
すずさんが褒めるので、俺は若干照れる。
「ありがとうございます。でも、すずさんも料理が上手だと思いますけど」
「そうかい? まぁ昔は下手だったんだけどねぇ。色々あって、できるようになったのさ」
その言葉に察した俺は、若干小声で応える。
「ひょっとして……すずさんがこの前のお花見のときにいるって言ってた、男の
すると、すずさんも若干照れたような感じになる。
「あはは、まぁね。男も女も大きく変われるもんさ、惚れた奴のためならね」
すずさんが、顔を少しだけ赤くしながらそんな
その言葉に、俺は自分の気持ちを考える。
この前に妖怪と戦ったときに、俺がすずさんに抱いた気持ち。
長い艶のある黒髪を下ろしたすずさんの姿は、俺が昔会いたくて会いたくてたまらなかった、初恋のお姉さんにそっくりだった。
俺が何故そう思ったかはわからない。鋭く切れ上がった眼のすずさんと、丸っこい眼だった初恋のお姉さん、顔はまるで似ていないというのに。
その思いを抱くと同時に、心の中では中学生のときに好きだった女子のことを思い出していた。
隣のクラスの
あの
そして、俺が葉月に対して素直に気持ちを言えなかった理由。心の底に持つ傷の原因でもある。
俺は最初は、小説が好きなんじゃなくて
もしかしたら
しかし、その期待は三年生の二学期に無残にも裏切られる格好となってしまった。
その事を告げられたとき、俺は頭の中が真っ白になった。そして「
そして、
俺はそんなことを考えながら、
――すずさんには今どこかに男がいる。
――それが偽らざる現状だ。
――すずさんを見ていると初恋のお姉さんを思い出すなんて、なんの意味もない。
――俺が今好きなのは葉月だけだ。
俺がそんなことを思っていると、当のすずさんが俺を見て話しかけてくる。
「りょうぞうも、こんなに料理が上手いとなると、所帯持って欲しいと願う
「いや、すずさんには好きな男がいるって言ったばかりじゃないですか。いいんですか? その人を裏切って」
俺が返事をすると、すずさんがからから笑う。
「あ、いやいや。あたいじゃなくておあきのほうだよ。おあきの
すると、俺の隣にいたおあきちゃんは、頬を真っ赤に染めて恥ずかしそうにうつむいてしまった。
俺は立ち上がり、二人に告げる。
「……ちょっと、
「ああ、そうかい? 早く帰ってきなよ?」
すずさんの声を背に、俺は堤に向かった。
背中に巾着袋を背負ったままの俺は、海岸近くにあった
俺は巾着袋から、潮干狩りのために持ってきたハンドタオルを取り出す。そして、そのハンドタオルを
江戸の
俺が
俺が
――あれ? タオルがない?
周りを見渡すと、白い布らしきものをなびかせて走り去る男の子の姿が見えた。
――まずい、ハンドタオルを盗られた。
俺の頭の中に、色々な思考が駆け巡る。
ハンドタオルくらいだったら、普通だったらあげてもいい。しかし厄介なことに、ハンドタオルのような布はこの江戸時代のどこにもないのである。そんなオーパーツを、この江戸に残す訳にはいかない。
俺は、即座にその男の子を追いかけた。
「君っ! 待って! 待って!」
俺は、
「こらっ! 返せ! 持ってくな!」
背の高い葦の草を掻き分け、俺は男の子に追いつこうとする。春の草の香りが鼻から入り、緑萌ゆる色が視界を通り過ぎる。
草むらが開けたところで、俺はその男の子の腕を掴んだ。
「やっと捕まえたぞ! 布を返せ!」
俺が叫ぶと、男の子は怯えた顔を見せる。
そこで俺は気づいた。
――ここは海辺にある、漁師が住むような村だ。
周りには、ぼろぼろの着物を着た、気性の荒そうな若者が十人以上いて、俺を取り囲んでいた。
その中で最も体格が良く、
「おい
この男は、おそらくこの集落のリーダー格だ。仲間を守るためなら人の二、三人は平気で殺しそうな鋭い目をしていた。
俺は、弁明する。
「えっと……布を盗られたから追いかけたんだけど……」
すると、リーダー格の男が男の子に問いかける。
「
すると、
「おいら、何にも盗ってねぇ! 追いかけられたので、逃げただけだ!」
俺が
俺は、冷や汗をかいて弁明する。
「あ、すいません。勘違いだったみたいです」
すると、俺の後ろに立っていた男が、俺の肩をがしりと掴む。
「勘違いぃ!? てめぇ舐めてんのかぁ!? こらぁ!?」
俺は一瞬迷ったが、疑った俺がまずかったのだ。俺は観念して、その場に
「ごめんなさい! 俺が悪かったです! 一発ずつ殴られるから、勘弁してください!」
そうは言ってみたものの、これだけ大勢の荒くれ者に殴られたら流石に死ぬかもしれない。いや、そもそも一人一発で勘弁してくれるかどうか。死ぬまでリンチを受ける可能性の方が高い。
死んだら
「あっ! こいつ、
すると、リーダー格の男が返す。
「そりゃ
「
――え。
戸惑う俺を尻目に、男たちは集まって何かを話している。
そして、リーダー格の男が俺に告げる。
「俺の
そう言って、強引に俺の腕を引っ張り、どこかに連れて行く。
漁師村の中の
二十歳くらいのその既婚女性は、十日前に足の
俺が見る限り、海岸で貝を集めているときに
――これなら、抗生物質の入った傷薬で治せるかもしれない。
俺は、リーダー格の男に告げる。
「治せるかもしれない。神社に戻って薬とか取ってくれば、だけど」
俺がそう言うと、他の男が凄む。
「そう言って逃げる気だろぅが! ここで治せ!」
その言葉に、俺は汗をかく。
「そんな無茶な!」
漁師の若者たちは、口々に叫ぶ。
「やっぱ治せねぇのかよ!」
「こりゃ、口だけの野郎だな!」
「袋だ、袋!」
大勢の若者が俺を取り囲んでいるところ、今いる建物の土間口の方から、聞き覚えのあるお
「待ちな!」
その声の主は、すずさんだった。
「話は聞かせてもらったよ。りょうぞうが薬を取りに行って戻るまでの間、あたいがここにいてやるからさ。
いきなり登場した美女に、若い荒くれどもの目付きが代わる。
「こりゃぁ、美人さんじゃぁねぇか!」
「おい、
「村のどの女よりも
俺は、その様子に困惑する。
「ちょっとすずさん! すずさんが巻き込まれることじゃないですよ!」
すると、すずさんが威風堂々と返す。
「何いってんのさ。
すずさんに囃し立てられ、俺は粗末な家屋を飛び出した。
「必ず、必ず日が沈むまでに帰ってきますから!」
西の空には大きく傾いた夕日があり、赤く赤く辺りを照らしている。
あと三十分くらいの内に、遠く離れた神社まで
俺は、ただひたすらに、ひたすらに、夕暮れの本所の町を駆け抜けていた。
俺は、懸命に走りながら頭の隅で時間の計算をしていた。
洲崎の東の方の海岸から、高橋近くの名賀山稲荷社まではジグザグの道をだいたい
往復8キロメートルの距離を三十分で、つまり平均時速16キロメートルくらいの速さで走り抜けなければならない。
江戸の町には自動車が走っておらず、信号待ちがない。しかし、人は溢れるほどに大勢歩いており、走っている最中に何度も肩をぶつけた。
俺は中距離陸上選手ではないのに、忠弘のように速くは走れないことはわかっているのに、力の限り走らざるを得なかった。
俺のせいですずさんがあの荒くれどもの
しかし、その場面でその妖術を使ってしまったら非常にまずい事態となる。
すずさんは、名賀山稲荷社の者であるとばれているからだ。すずさんが妖狐であることがばれたら、その噂は瞬く間に江戸の
俺は、すずさんたちの
俺の心臓が「もう無理! もう無理!」と悲鳴を上げていても、俺の体中の筋肉が「休もうぜ! 休もうぜ!」と誘惑を仕掛けてきても、俺は立ち止まる訳にはいかなかった。
そして、4キロメートルほど走って名賀山稲荷社に着いたとき、俺は汗でびっしょりになっていた。
西の塀の裏から、間借りさせてもらっている客間に足を運ぶ。そして、スポーツバッグの中にあった抗生物質入り傷薬などの数点の物を巾着袋に入れて、また駆け出す。
太陽は既に残酷なまでに綺麗な夕日であり、上下に潰れていた。おそらく、あと十五分か二十分くらいで沈んでしまうだろう。
再び本所の町を駆けていった俺は、巾着袋の紐に
チリン チリン
町行く人は皆、鈴の音がしたらこっちを見て、そして走っている俺を見て脇に避けてくれる。
そして、洲崎の堤に出て、西から東に駆け抜ける。
――あとどれくらいだ? 1キロ? 2キロ?
太陽は今にも沈みそうであり、後ろを見ると太陽の丸い輪郭の下側が山際にかかったようであった。
――だめだ、間に合わない。
俺がそう思ったところ、何かで足を滑らせてすっ転んだ。
どうやら、俺が無くしたと思っていたハンドタオルのようだった。
おそらくは、俺の後ろを通り過ぎた犬が
そこで、俺の緊張の糸がぷつり、と切れた気がした。
すずさんは、案外大丈夫かもしれない。すずさんは、何より妖狐だし、俺よりずっと世渡りが上手いし、この江戸を離れても案外楽しくやっていくかもしれない。
そう、俺が急いで薬を届けなくても、日が沈んでからでもあの女の人の怪我を治せば、荒くれ者の漁師の若者たちも色々と勘弁してくれるかもしれない。それでいいのかもしれない。
俺の体は、そんな甘い考えに
でも、でもそれでは。
――おあきちゃんは、どうなる?
俺は這いつくばって後ろのほうの地面に落ちてあったタオルを掴み、再び立ち上がろうとする。
――そうだ、
――
――ただ、ただ、前を向いて。
――そう、俺にとってあいつは。
俺がそう思って顔を上げたところ、そこには
「りょう兄ぃ! 一緒に走ろ!」
正面から赤い光に照らされた忠弘は、おあきちゃんが化けたものであった。
俺は、もう片方の手で忠弘の伸ばした手を掴む。その手は、ゴツゴツしている頼もしい男の手であった。
俺は立ち上がり、忠弘が背を向けて走り出す。忠弘の強い力に俺は体を引っ張られ、心も体も加速していく。
おあきちゃんが化けた忠弘は、やはり走るのが速かった。
その、力強い背中、俺が憧れた背中。中学時代に好きだった女の子が忠弘のことを好きだったと聞いても、決して恨めなかった背中であった。
俺は、中学一年生のときに、ただの同級生であった
そして、
校舎裏に呼び出され、プロレス技の標的になったこともある。
次の瞬間、俺達を苛めていた集団の中で一人だけ二年生だった奴が、しゃがんでいたところを誰かに頭に飛び蹴りをかまされた。次の瞬間、そいつは白目を剥いて気絶した。
その飛び蹴りをかました男とは
直後に俺たち三人は、その苛めっ子らと喧嘩をした。
結局負けたけど、その日から俺達三人は親友になった。あの日の帰りに三人で飲んだ炭酸水は、傷だらけの体を癒してくれるかのような
――今なら本心を言える。
そう思った俺は、手を掴んで走る忠弘の背中を見て叫んだ。
「
すると、忠弘に化けたおあきちゃんは全力で走りつつ、こちらを向かずに叫ぶ。
「りょう兄ぃ! 『ひぃろぉ』って何!?」
「大切な友達ってことだよ!」
手を引っ張られて洲崎の堤防を駆け抜けている俺がそう叫ぶと、おあきちゃん扮する忠弘が応える。
「りょう兄ぃ! 多分、
「ああ! だといいんだけどな!」
走る。走る。前を向いてひたすら走る。
堤の上から右の眼前にひたすら延びる長い長い砂浜の上を、夕闇が後ろから俺達を追い越す。
太陽が沈んだ。
だが、山の向こうにあるはずの夕日に照らされてまだ空は
そしてとうとう、俺達は漁師村に到着した。村の女の人や老人は、その巨体に風変わりな衣服を身に着けた忠弘の姿を見て驚いていた。
あの怪我をしていた女の人のいた家屋からは、大勢の人間が出す騒がしい声が聞こえてくる。
俺はその家屋に、息を切らしながら入り込む。
――やけに騒がしい声が聞こえてくるが、まさかお楽しみの真っ最中ってことはないよな。
あまりの苦しさに全身を上下運動させつつ息を繋いでいる俺は、その皆が楽しんでいる
すずさんが、村の若い男達と酒宴を楽しんでいた。
「もう一杯いけ! もう一杯!」
「いけ! 呑め! 呑み潰しちめぇ!」
「なんだいなんだい!? 昔呑んだ
最後の掛け声は、すずさんだった。俺は脱力してその場に両膝と両手をついた。
結局、怪我した女の人の腫れた
明日も、明後日もこの漁師村に来て、経過観察をすることを約束した。
俺は、すっかり日が暮れて薄暗くなった洲崎の堤防を、すずさんとおあきちゃんと一緒に歩いていた。おあきちゃんは俺の左、すずさんはその向こう側を歩いている。
すずさんが口を開く。
「いやぁ、料理だけじゃなくって、医術までできるんだからねぇ。
俺は返す。
「まぁ、応急措置くらいならできますけど、本職の医者にはとても
すると、すずさんが返す。
「何言ってんのさ。医者なんて職業、看板掲げれば誰でも明日からでもなれるんだよ? おまいさん、
すずさんは、薄暗がりの中でからから笑う。あんなにお酒を呑んだのに、ほとんど酔っていないようであった。
「いや、
俺がそう言うと、おあきちゃんが何かを俺に言いかけた。俺が「どうしたの?」と訊くとおあきちゃんは口ごもってしまった。
そして、すずさんが口を開く。
「りょうぞう、おあきはりょうぞうと手を繋いで帰りたいんじゃないかい?」
その言葉に、俺は納得して左手を差し出す。
すると、おあきちゃんは少し恥ずかしそうに、その右手でしっかりと俺の手を握り締めてくれた。
忠弘のゴツゴツした手とは全く違う、幼い女の子の柔らかい優しい手だった。
すずさんが、俺に話しかける。
「ところでりょうぞう、あたいが砂浜で話した事ってわりと
「いや、もう暗いから帰りましょうよ」
すずさんの言葉に俺は自分の言葉を
おあきちゃんは、少し照れてるようで目を合わせてくれない。
しかし、その態度とは裏腹に、おあきちゃんはその手でぎゅっと俺の手を握り締め続けてくれていた。
――
俺は、すずさんにそう言われて、悪くない気分だった。
晩春の海辺風は、
それは、洲崎の砂浜が延びる海岸での、どこか原初の感情に触れるような懐かしい