前回のあらすじ:デバッグルームに入りました
デバッグルーム。
通常プレイでは閲覧できない資料や、ゲーム内に実装されている要素を一覧で見れたりする、所謂「隠し要素」的な存在だ。
近年のゲームにはあったり無かったりするが…ディアストにおいてはゲーム内の全ての要素をコンプリートした報酬としてその入口が開くはずだ。
しかし、こうしてここに立っているということは………恐らく、プレイ時には見つけられなかった抜け道を見つけてしまったということだろう。
ともかく、一つ言えるのはここに居る限りは追手はほぼ確実に来れない、ということだろう。
「ゲームでは見たことはあったけれど…実際に足を踏み入れて見るとゲーム内とはまた違った資料が置いてあったりするのね…」
そうして資料の山を見ていた私は、何気なく一つの資料を手に取る。
そこに書かれていたのは…
「『Dearing Saint Story :ReStart』企画書…」
…恐らく、これが王妃様が言っていた「リメイク」の企画書なのだろう。
しかし「リマスター」ではなく「リメイク」とは…まあ、心当たりがある部分は何となく察していたので、私はその資料に目を通してみる。
「『あの伝説の乙女ゲームが完全リメイクされ現代に蘇る!』……うん」
まあ、伝説のゲームではあるが…
「『新たに主人公を3人から選べるように』…成程、彼女達はこれだったのね」
そこに描かれていた『主人公』3人の姿は…キョウリ・ムギア、アキ・サタスト、そして…マリア・スウィーチスの姿であった。
つまり「この世界」においてはあの3人が「本来の主人公」ということなのだろう……
……うん?であればここに居る『ママリア』は一体何なんだ?少なくともこの資料には乗っていないが…
「それは私がお答えしましょう」
「うわぁ!?」
そうして資料を読み進めていると、急に背後から声をかけられる。
そこに立っていたのは………見知らぬ人であった。
「え!?あ!?どなたでしょうか!?」
「あ、どうも、お初にお目にかかります、この世界を作った女神の『マヤモト』と申します」
この世界を作った…女神………?
「んー…ニエリカさん…いえ、桜井さんもよく知っている役職で言うならば、ディアストの開発会社『株式会社トゥインクル乙女スター』の元代表取締役社長の『真矢本』と言えばよろしいでしょうか」
「え…いや…よろしくされても余計分からなくなったというか…」
え、女神がディアスト開発会社の本代表取締役社長?
で、この世界を作ったのもここに居る女神?
つ、つまり………どういう事だ?
「ニエリカ様、大丈夫ですか!先程悲鳴が聞こえましたが…」
『…えっ!?人!?私達以外にも人が居たんですか!?』
「あら、丁度お友達も集まったわね。どうも、女神で~す」
急にちょっとノリが軽くなった女神に2人の頭に…というか私の頭にも疑問符が浮かび始める。
もしかして結構おちゃめな人なのか?この人は…
「あ…女神……?」
『それは…ええと……つまり?』
「この世界の創造主ということです!」
あ、この人今すっごいドヤ顔になってる。
「あの………」
「まあ、勿体ぶるのもアレですかね、貴方達が知りたいであろう事、今何が起きているのかを説明しましょう」
彼女はそう言うと、急に神妙な面持ちになり、話し始める。
「まず始まりは私が『株式会社トゥインクル乙女スター』を設立したところから…」
「あ、世界よりもそっちが先なんですね?」
「ええ、私が世界の元になりそうなネタを作ってもらうために設立した会社ですからね。まあ、その目論見は失敗したんですけども」
「…し、失敗?」
「ええ、ゲームが売れずに経営不振で倒産してしまいまして。中々甘くはないものですね。女神っていう仕事上、色々な世界を作るわけなんですけども、その世界の元ネタを人間に考えて貰いたかったんですけどね…女神と社長の二足のわらじが上手くいくはずもなく、と言ったところです」
「あの~…今私凄く世知辛い事聞かされてます?これ聞いても大丈夫です?」
「大丈夫よ!今となっては笑い話だから!で、まあ会社は倒産しちゃったけど、そこで集まったいくつかのネタを元に作った世界の一つが『ここ』なのね」
「『ディアスト』ですか…」
なんとなく理解できるような、理解できないような…
大分荒唐無稽な話を聞かされているような気はするが、女神様を名乗る者が言うならそうなのだろう、多分。
「ええ、元になったゲームを完全再現…とは行かないまでも、忠実に再現したつもりよ」
「それは…バグも、ということですね」
「ええ、それを修正するのは女神の仕事ではないし、何よりあれだけのバグを修正するのはコストがかかりすぎるの。それで、作ったこの世界は、貴女の世界で亡くなった人達が転生する先の一つとして使っていたのだけど…」
ああ、やっぱりなろうとかでよく見るタイプのシステムだった…
………うん?というかそれって…
「…あれ、それってつまり現実の私は既に死…」
「……………」
黙るな!黙るな女神様!黙るということはYESと同義だぞ!?!?!?
「…あの、この度は御愁傷様で…」
「ぐぅ…改めて突きつけられる現実…!」
まあ、9年目にして今更という気もするが。
「えっと…で、そう、転生先として使っていたのね?で、転生する時には何かしらの能力を持ったうえでこの世界の誰かになる形なのだけど…」
「…私が転生する時になったのは『この世界の誰か』ではなかった、と?」
「ええ…つまり貴方はイレギュラー…と言う事になるわ。とは言え、それで私がどうこうしようっていうつもりは無いから安心して」
「それは良かったけど…じゃあ、どうしてこんな事に?」
「それは…ごめんなさい、私にも分からないの。ただ、別のデバッグルームが使われたのかもしれないわ」
「別のデバッグルーム?」
「ええ、通称『モデルビューワー』…ゲーム内の3Dモデルを閲覧できる部屋ね、そこに行けば何か分かるかもしれないわ」
モデルビューワー…ディアストにはそんな部屋があったのか…
…いや、確かに存在は聞いたことがある、が…正規の方法では行けなかったはずだ…
「…成程、行く方法が見つかったら探ってみるわ」
「ええ、力になれずごめんなさい……それで、今何が起きているのか、についてなんだけれども…先程の資料、見たわよね?」
「…ええと、リメイクの資料ですか?」
「ええ、そうね。あれは王妃…正確には、彼女の中に転生した『ディアスト』元プロデューサーが作ったものよ」
「も、元プロデューサー!?」
「ええ、そして彼女の能力は『運命を操作する力』…その力で、この世界をリメイクの世界に作り変えようとしているみたいなの」
「リメイクの世界に…って…資料の中にしか存在しない、ですか?」
「ええ、その通りよ」
なんとも荒唐無稽な話だが…王妃様本人の話とも照らし合わせると確かに腑に落ちる話ではある。
「それで…リメイクの世界にするにあたって、イレギュラーの私は邪魔者…ということですね?」
「ええ。ゲームの理から外れた貴方…『モブーナ』さん、そしてリメイクするにあたって消えるはずの存在だった旧主人公…『ママリア』さん、貴方達も同様にね」
「………」
この世界の真実、そして自身がどういう存在なのかを知り、2人の顔が少し暗くなる。
ややあって口を開いたのは…モブーナだった。
「…女神様、一つだけ聞かせて下さい。私は…私達は、その、本当にこの世界に生きていると言えるのでしょうか」
「…ええ、勿論。確かにこの世界はゲームの世界を元に作られ、いくつかの出来事もそれに沿っては居るわ。けれど、それはあくまで世界に定められた出来事で、そこに住む人達がそれに抗う意志があればその出来事は起こらない…まあ、要は指針というか、ある程度のトリガーというか、そんな感じね」
うーん、分かるような分からないような話だが…
「まあ、要は予言だとか起こるはずのイベントなんてのはアテにならないもので、そこに住む人の想いや行動次第でいくらでも変わるって事。つまり、この世界の人々はちゃんと『生きている』って事よ」
「…そう、ですか」
「…こんな回答で良かったかしら?」
「…ええ、構いません。………ニエリカ様には、改めて感謝しなければなりませんね」
「うぇっ!?な、何よ改まって…」
「いえ、私の運命を…否、私だけではありません、ママリアもそうです。もしかすると気付かないうちに他のいろいろな人の運命も変えているのかもしれません。ニエリカ様は、運命を変える存在なのだと思って」
…確かに、そう動いていた所も無くは無いが…
言われてみれば、そうなのかもしれない、か。
「お、大げさよ…私はそんな大層なものじゃ…」
『いえ!ニエリカ様は運命の人です!でなければ、私はあのまま無かった存在になってしまう所でしたから!』
そうかな…そうかも…
「…う…まあ…その…どういたしまして…?」
「まあでも実際、2人が言ってることも正しいと思ってるわよ?」
「め、女神様まで!?」
「貴方が色々な人の運命を変えてきたのは事実私も見届けてるし…何より、今回の騒動の鍵を握るのは貴方だと私は思ってるわ」
「え!?私が…ですか!?」