前回のあらすじ:キョウリがママリアに食べられました(未遂)
悪い噂の出所は分かり、キョウリ達は懲らしめたものの…ぶっちゃけると、何か解決したということは全くと言って良いほどない。
マリアは相変わらずだし、キョウリ達が言うには王妃様まで関係してきているというではないか。
そして城の地下には『予言の書』なるものがあるとかなんとか…………
(………そういえば、一つ思い出したことがある。お城に入るには関係者と仲良くならないと門前払いをされるのだが…あくまでチェックされるのは正門だけ。つまり壁抜けをすれば………問題なく中には入れちゃうのよね………)
…そこまで考えた私の中に、ある一つの『悪い考え』が頭をよぎる。
勿論、リスクも高い行動で、予想が外れたらとんでもなくヤバい行動ではあるのだが………
(……………よし、入るか、王城!)
今思えばあまりにもバカらしい決断だったように思えるが…ともかくとして、私は王城に不法侵入をする決意をしたのだ。
で、今は王城の壁の横にいるのだが…
(ええと…何処だったかしら…確か角の部分…だったわよね)
…体を壁に擦り付けながら当該の場所まで歩いている。
いや、これもれっきとした壁抜けのセットアップなのだが…うん、傍から見たら不審者以外の何者でもないなこれ。
しかも意味がわからないタイプの不審者、あるいは酔っぱらいか?
ともかく、あんまり人に見られたくないなと言うことだけは言えるだろう。
(うん、確かこの辺り………おっ!来た来た来た!)
そしてそのまま壁と壁の角の部分に突っ込むと、そのまま壁にめり込んでいく…というものなのだが…
このバグ技、特に道具などの必要が無いため手軽に発動できるのだが、唯一欠点があり、それは…
(………)
めり込む速度が非常に遅いのだ。
ゆっくりと、それはもうゆっくりと壁を抜けていく。
壁の向こう側は廊下だったが、途中廊下を通る人に不審者………というよりも奇特なものを見るような目で見られていたのは見なかったことにする。
(…もしかして壁抜けで王城に入った時に追い出されないのは………不審者を通り越して『触れてはいけない人』扱いされるから………って事………?)
…うん、なんかちょっと微妙にショックな事実を知ってしまったが、もう今さら引き返すことも出来ない。
複雑な気分になりながらも、なんとか王城に潜入することが出来たのだった。
(さて、地下って事は…きっと書物庫ね)
とは言え、面倒なのは『潜入する手順』であり、目的の場所に行くまではさほど難しくはない。
なにせ、あれだけやり込んでいたゲームだ、王城の内部構造ぐらいはちゃんと頭に入っている。
…つもりだったが。
(…こうして見ると、やっぱりゲームだと簡略化されていた部分も多いのね…)
学園の内部もそうだったのだが、やはりゲームで見るのと実際に自分の目で見るのとは大違い…というか、ディアストがゲームとしてはレトロゲーに分類されるゲームのため、当時のスペックでは完全に再現できなかったという方が正しいだろうか。
無いはずの所に部屋があったり、廊下の構造が思ったよりも広かったり…当然内装なんかはゲームよりもメチャクチャ豪華になっている。
とは言え、構造が大きく変わっていて別物…と言う訳でも無さそうなのは幸いだったが。
(じっくり見ていきたいところだけど…そういう訳にもいかないわね。さっさと目的を果たして帰りましょ)
…地下に向かう途中、何人かとすれ違ったがやはり誰もこちらを気にしていない………というか、皆一同に私と目を合わせないようにしているように見えた。
うん、やっぱりなんかこう、存在しないものとして扱うよう努めていそうだこれ。
…冷静に考えて、これもし正式に王城に来ることがあったら大変なんじゃないか?という事が頭に一瞬よぎったが…うん、考えないようにしよう。
と、そんな事を考えていたら、特に障害も無く書物庫まで辿り着くことが出来た。
(さて、当然鍵がかかっているけれど…うん、ちょっと試してみましょ)
本来であれば鍵を探すべきなのだろうが…私は懐からいつぞやのパチンコを取り出し、扉に突っ込む。
…相変わらず壁尻みたいな状態になっているが、それはひとまず置いておこう。
(私の推測が正しければ…これで…)
扉に突っ込んだ状態のまま、左右の扉の合わせ目の部分や蝶番の部分を行ったり来たりする。
そうしてしばらく繰り返していると…ゴリッ!という音とともに、書物庫の中に入ることに成功した。
(いや、これ腰…腰の負担凄い………!)
パチンコを使った壁抜けは腰の痛みが凄いというどうでもいいが地味にデメリットな事実が判明した所で、私は改めて書物庫の中を見回す。
…うん、流石に王城の書物庫、見たらマズそうな本が大量に取り揃えてある。
(…まあ、とは言えゲームで1度目を通したことのある本も少なくは無いのだけれど)
勿論、中には読んだことのない書籍も沢山あるのだが…ここは一旦ぐっと読むのを我慢して、目的の本を探す事となる。
そうして探すこと数分。
私は…目の前の机に置かれた一冊の本に注目していた。
だがその本は…決してこの場に存在するはずがなく………
否、『存在して良いはずがない』本であった。
(…まさか……これが『予言の書』だとでも言うの!?)
…そう、確かにこの本は…『予言』だろう。
この世界で起こる出来事を…否、出来事どころかこの世界に生きる主要な人物のあれこれですら網羅しているのだから。
しかし………だからこそ、この世界に存在して良いはずがない本でもある。
そう、マーロイの言う「予言の書」とは………『このゲームの攻略本』だったのだから。
「な、何故………この本がこの世界に………」
「鼠が一匹紛れ込んでいたようだな」
「…っ!?」
あまりの衝撃に人が入ってきた気配に気づくのが遅れてしまったのだろう。
突然声をかけられ、振り返ればそこには…王妃様が、立っていた。
「あ…王妃…様、ご機嫌麗しゅう………」
「まさかイレギュラーが自分から飛び込んできてくれるとはな、好都合だったぞ。衛兵!この者を捕らえよ!」
(イレギュラー?この人は一体何を言って…)
私の頭には疑問符が浮かぶばかりだったが…
私は抵抗する間もなく、衛兵に捕らえられてしまうのだった。