前回のあらすじ:バカ2人をとっちめます
「それで?一体どういうつもりなのかしら?」
「ハッ!一体何のことなのかさっぱり分からねえな!」
ということで、前回エリカ様からのタレコミがあった通り、キョウリ、アキ両名を問い詰めているのだが…
まあ、当然そう簡単に口を割るはずもなく。
そもそも彼女達がやったという証拠自体エリカ様の証言しか無い訳で…
(まあ、実際にやっていようがいまいがこういう返答が返ってくるとは思ってはいたけれど、少しカマをかけてみようかしら)
「とぼけないで頂戴!貴方達が『私が国家転覆を狙っている』なんて噂を流していたのは知っているのよ!」
「いや流石にそこまでの噂は流してねえよ!?」
「あ、でも確かにそれぐらいの噂を流しても悪くなかったかもね!」
うん?これは…黒か…?
いやでもまだ分からないが…
「そこまでの噂は流してない…?」
「あ!いや違え!そもそも噂なんか流してねえよ!アタシはマーロイ様がアンタと付き合おうがマリアと付き合おうが知ったこっちゃねえんだからな!」
「そうだそうだ!冤罪だ!」
「………」
…いや、今のそれは自白では…?
なんというか、このままでも全力でボロを出しそうではあるが…
「…私は別に『私とマーロイ様の噂』とは一言も言っていないのだけれど」
「…あっ!あー…いや!テメエが『噂』なんて言うから、今噂って言ったらその事しか無いだろうが!」
「そうだそうだ!誘導尋問だ!」
…うん、これもう態度が答えな気がするな。
とはいえ、このままでは埒が開かない、となればやることは一つ。
「…ところで、ここに一つ面白いものがあるんですの」
「あ?一体何の話だ?」
「この学園に設置されている『防犯用魔法映像記録水晶』…その映像ですわ」
そう、この学園には防犯の為に「あるもの」が設置されている。
丁度私の世界にも設置されていた「防犯カメラ」のようなものなのだが、こちらは魔法で映像を記録できるというものだ。
ちなみにこちらの映像のチェックはモブーナが一晩で用意してくれました。
「…!!!…そ、それが…なんだってんだ!」
「これは数日前の新聞部前の映像なのですけれど…丁度、私の例の噂が流れ始める前の日ですわね」
そう、そして推定犯人はある大きなミスを犯した。
それは…
「この映像にはっきりと、新聞部にタレコミをする貴方達お二人の姿がありますわね…?一体何を話していたのやら?」
「いやこれは…ちょっとした世間話だよ!なあ!」
「そ、そうだそうだ!そ、それに仮にタレコミだったとしても、別の話題のタレコミかもしれないだろ!」
いや、流石に世間話はちょっと無理があるだろ。
「ええ、そうね…けど、この日から今日に至るまで、新聞部から発行された新聞に『誰かからのタレコミと書かれた記事は1つもない』…」
「そ、それは…書かない事だってあるだろ!」
「ええ、それは当然そうね。…ちなみに、この記録水晶の映像、『新聞部以外の報道系の部活にタレコミをする』貴方達の姿が映っているの」
「…!!!」
「いえ、報道系の部活どころかあらゆる学年の生徒に話しかけている貴方達2人の姿が映っている…これはどういうことかしらね?」
「う、そ、それは…そういう日もあるってことで…」
…うむ、どうしても白状する気は無いらしい。
まあ確かに今出てる証拠は状況証拠のみで、大分黒寄りのグレーみたいな気はするのだが。
…とは言え、これは最終手段を取らざるを得ないか。
「…そう、あくまでしらを切るということね」
「あ、当たり前だろ!状況証拠と態度だけで人を犯人だって決めつけやがって!」
「そうだそうだ!私達は絶対に喋らないぞ!」
「そう…それじゃあ…この手はあまり使いたく無かったのだけれども…」
私がそう言うと、グルルルルル…という魔獣の咆哮のような音が何処からか聞こえてくる。
「…なっ!?魔獣!?テメエ、それは校則違反じゃねえのか!?というか、魔獣にアタシらを襲わせようだなんて…」
「あら、私は魔獣だなんて一言も言っていませんわよ?」
最も、それよりももっとたちが悪いかもしれないが。
「じゃあ一体なんだって…」
『もうそろそろ良いですかぁ?私もうお腹が空いてお腹が空いて…』
「うわぁ!?」
その時、廊下の曲がり角から巨大な手が伸びてきて、キョウリとアキの2人を拘束してしまう。
そう、他でもないママリアだ。
そして先程の魔獣の咆哮は………ママリアの、腹の音だ。
「なっ!?ママリア!?何でここに…!」
『えへへ…ニエリカ様に言われてずっとここで待機してたんですよぉ。話が拗れた時の最終手段だそうです~』
「うっ…そ、それって…」
『そうそう、私今日は朝から何も食べて無くて…腹ペコなんですよ~。キョウリちゃんもアキちゃんも、ずっと美味しそうだと思ってたんですよね~』
「ひぃっ!?」
そう、最終手段というのは…空腹のママリアによる拷問だ。
勿論実際に食べてしまったら殺人になってしまうので、あくまで「フリ」だけではあるが、自分よりも巨大な存在に食べられそうになる、というのはかなりの恐怖だろう。
…ママリアには、後で好きなものを好きなだけ食べさせてあげないとな。
『大丈夫ですよ~。ちゃんと痛くないように、丸呑みしてあげますから~』
「ひっ、や、やめろ…やめてくれ!」
『やめませ~ん。あ、噂の件について白状するなら別ですけど…』
「う、そ、それは…」
『あーーー…んむっ』
「―――!!?!?!?!?!??!?!?!?!?!?!?」
そんな事を考えていると、キョウリが頭からママリアに咥えられる。
ママリアの口の中からは悲鳴とも絶叫とも罵声とも取れない、とにかく錯乱しているであろう声が聞こえてくる。
『ははふんへふは?ははははいんへふは?(話すんですか?話さないんですか?)』
「や、やめろ!やめろーっ!」
『んぐ…ほうふるんでふか?(どうするんですか)』
「あ…わ、分かった!話す!話すから外に出して…」
『ん…んぐっ』
次の瞬間、ゴクリ、という音が聞こえ、ママリアの喉を何か大きな物が通過し…
『あっ』
「あっ」
「あっ」
いつの間にか、キョウリの姿はそこにはなかった。
『あら~………ごめんなさい、ついお腹が空いていたもので…』
「い、いや…早く出さないと!」
『大丈夫ですよ~、消化耐性の魔法はかけてあるのですぐに消化されることはありませんから~』
「そういう問題じゃなくて!!!」
………その後、なんとか無事に吐き出させる事は出来たのだが…まあ、当然といえば当然なのだが、キョウリの表情は恐怖で怯えきっていた
「はぁ…はぁ…し、死ぬっ、かと…!」
『あ、あの…本当にごめんなさい…私ったらついうっかり…』
「アタシはうっかりで殺されかけたってのかよ!」
『あ、お望みなら今度はうっかりじゃなく本当に食べても』
「ひっ!す、すみません!なんでもないです!」
『ふふっ、冗談ですよ~』
…まあ、あんな事があったら当然なのだが、すっかりママリアを畏怖の対象として見るようになってしまったようだ。
ちなみにママリアにはとりあえずおにぎりを1つ渡しておいた。
彼女は実に美味しそうに食べていたが…一口食べる度にキョウリの顔が青ざめていたのは見なかったことにしておこう。
「…それで?そろそろ話す気になったかしら?」
「そ、それは…」
『んあー…』
「は、話す!話すから!」
さて、こいつらは何の目的があってあんな噂を流したのかしら。
最も…私を陥れる為なのは間違いないだろうけども…
「あ、あれはだな、ニエリカ、テメエの評価が地に落ちるように噂を流せって言われたんだよ!」
「言われた?一体誰に?」
「それは…」
誰かに言われて噂を流した…ということは、彼女達は真犯人ではなかった、ということだ。
となると噂の本当の出所はマリアだろうか?
そう思っていた私に告げられた噂の出所は、意外な人物であった。
「…王妃様だよ」
「………王妃様が?」
「ああ、なんでも、アンタは私の子供に相応しくないとか…なんかそんなようなことを言ってたな…」
ううん、確かに動機としては十分かもしれないが…いや、にしても何故王妃様が干渉を…?
まさかこれも「予言の書」とやらが関係しているのだろうか…?
謎は深まるばかりだ。
「………なあ、その、話したんだからもう行って良いか?そろそろ着替えて水浴びしたいんだが」
「あ、ええ…そうね…今日の所は行っていいわよ」
『とりあえず目の前の問題は解決!ってところかしら。それじゃあニエリカ様、美味しいものでも食べに行きましょう!』
「…え、ええ、そうね!」
…私の財布が大変なことになるのは、また別のお話。