前回のあらすじ:全く知らない人に因縁をつけられました
さて、教室へと移動し、改めて顔合わせや自己紹介等済ませたのだが、先程因縁を付けてきた子達はどうやらショートヘアの血気盛んな方が『キョウリ・ムギア』、メガネの方が『アキ・サタスト』と言うらしい。
……うん、名前を聞いてもさっぱりピンとこない。
最初は悪役令嬢の取り巻きかとも思ったのだが…少なくともゲームの取り巻きとはビジュアルが違ったし、何より取り巻きだとしたら喧嘩を売られるのがよく分からない。
…いや、実際は裏で最初は喧嘩を売られていたとかあるのかもしれないが、ともかくエリカ様と接点がある人では無かった事は確かだ。
まあ、彼女たちについてはいずれ何か分かるだろう…多分。
「ふむ…無謀にもニエリカ様に喧嘩を売ったお馬鹿さん達は同じクラスでしたか」
『す、少し身体に「理解」させたほうが良いんじゃないでしょうか…?ニエリカ様の素晴らしさを』
「ちょっと、2人ともストップストップ!落ち着きなさいよ!」
それはそれとして、私は必死にモブーナとママリアの2人をなだめていたのだった。
ちなみにママリアは、当然と言えば当然なのだが、教室内に入れないため、教室の横に特別に机を用意してもらって授業を受けることになった。
…そして何故か彼女の補佐として、私とモブーナが選ばれたのだ。
まあ、入学式前の校門での一件を見ていた学園側からの心遣いかもしれないが…
(悪役令嬢がヒロインの補佐をするって…何か無茶苦茶ね…)
「というか、ニエリカ様は喧嘩を売られて何故そこまで冷静なのですか?」
『そうですよ、ああいうのは早急に対応したほうが後のためかと…』
「いや2人とも血気盛ん過ぎるわよ…まあ、そうね、実害も出てないし、言ってることに心当たりもないし、まあ勝手にやらせておけば?って所かしら」
「むぅ…ニエリカ様がそう仰るのであれば…」
まあ、理由が分からない以上、こちらから喧嘩を買うのは得策ではないだろう。
…そう思っていたのだが…
「オラオラァ!どうした?ニエリカ・キュービックってのも大したことねえんだなぁ!?」
「う、ぐぅ…!」
武術の授業ではキョウリからの猛攻を受け。
「へえ…この程度の魔法もまともに扱えないなんて…へぇ…ふーん…」
「ぐ、ぐぬぬ…」
魔法の授業ではアキからの嫌味を貰い。
それ以外の授業でも度々見定められるような目線を向けられるなど、やはり彼女たちは私を明確に敵視しているようであった。
「…はぁ、本当に何なのよ」
「ほら、だから言ったじゃないですか」
「ええ、そうねぇ…もしかすると2人の言う通りだったのかもしれないわね…」
『よしよし…大丈夫ですよ~…辛い時はいつでも私が癒やしてあげますからね~?』
いやはや、しかし身に覚えのない敵意を向けられるというのがこれほど辛いものだとは。
しかも2人ともそれなりの実力者だというのもそれに拍車をかけている。
全く、あいつらの目的は一体何なんだ。
「…ああ、ニエリカ様、そういえばなのですが」
「どうしたの?モブーナ」
「彼女達、武術と魔法の授業でお嬢様を負かした後、誰かに視線を送っていましたね、何かの合図かとも思いましたが…今思い返すと、マーロイ様にアピールをしていたようにも思えます」
「え…?」
それって…ヒロインのライバルの動きそのものじゃん…?
だとすると標的が私なのはおかしくないか!?いやでも本来のヒロインであるママリアが今は私の友人で、本来のライバルであるエリカは蚊帳の外で…
というか、もしそうだとすると巡り巡って私がヒロインポジションと言う事になってしまう。
…だが仮に、仮にもし『歴史の修正力』というものが存在するとしたら。
(もしそんなものが本当に存在するとしたら…順当にマーロイ様の婚約者である私がヒロインに据えられ、本来エリカ様が収まるべきポジションに新たに別の人が据えられた…?)
いや、だとするとヒロインと悪役令嬢の立場が逆転してしまうことになる。
それに御大層に『歴史の修正力』とか言ってみたものの、そもそもこの世界はゲームでは無いのだ、何もかもがゲーム通りに進むわけがない。
それは分かってはいるのだが…
「…ニエリカ様?大丈夫ですか?」
「え、ええ…少し考え事を…」
「そうですよね、婚約者に集る不届き者ですものね」
ん?
『ほ、本当ですね…!人の婚約者を寝取ろうなんて…』
ん?ん?
「いや、あの私そこは別に気にして無く」
「やはりここは何らかの形で白黒をつけるべきでしょうね!!!!」
『そうですよ!一度ぎゃふんと言わせるべきです!』
駄目だ、まるで話を聞いちゃいねえ。
「あの、だから2人とも」
『けど…何か方法はあるんですか?』
「ええ、私に考えがあります」
『考え………ですか?』
「ええ、かくかくしかじかで…」
モブーナとママリアは何か2人で盛り上がっているが…あの、少しは私の話を…
「…ということで、次の試験の点数で一度白黒つけるというのは如何でしょうか?」
「へっ、上等じゃねえか」
「勿論、構いませんよ?だって勝つのは私ですから」
そして気付けばトントン拍子に話が決まってしまっていた。
いや、あの、当事者置いてけぼりにしないで!?
「えっと、あの」
「後でやっぱやーめた、なんて言わせねえからな?」
「ええ、今から貴方の悔しがる顔が楽しみです」
いやもう、本当に誰も話を聞いてねえ。
「あのう…」
「大丈夫ですよ、ニエリカ様」
「モブーナ?」
「今回の試験の範囲は全て私の頭に叩き込んであります、私の教えを受ければ全教科満点は間違いありません!!!!」
『わぁ、それは素敵ですねぇ~!私もご一緒しても?』
「うーん、他ならぬママリアさんのお願いですからね、仕方ないですねえ」
『やったぁ!それでは先生、よろしくお願いします!』
「ええ、それではニエリカ様、ママリアさん、頑張りましょうね?」
『はいっ!』
「は、はは…」
何故か私を置き去りにしたままあれよあれよと決まってしまった試験の点数での対決に、私は乾いた笑いで答えることしか出来なかった。