前回のあらすじ:スライムと死闘を繰り広げました
そうして…あの後紆余曲折…主に別のスライムとの死闘を繰り広げ…ダンジョンの最深部までたどり着いた。
ちなみにここのボスは巨大なスライムなのだが…まあ、どうなったのかは想像に易いだろう。
なので戦闘の様子は割愛させていただく、決して自分の名誉の為とかではない、決して。
「はあ…はあ…はあ…」
「素晴らしいですニエリカ様!!!!流石です!!!!!」
とは言え、ここのダンジョンは最初ということもあり大した報酬は無いのだが…
「…あら?これは…」
…と思っていたのだが。
ふと足元を見ると…卵が落ちているではないか。
そうだ、ディアストにはアレがあったじゃないか。
「あら!ニエリカ様、珍しいですね!魔物の卵ですか!」
「ええ。まあ、拾って帰って育ててみるのも一興かもしれないわね。」
「それはいい考えですね!魔物にも寛大な心で接するニエリカ様…流石です!!!!!」
魔物の卵
ダンジョンなどでごくごく稀にドロップし、育てて孵化させると魔物を仲間にすることが出来る…というものだ。
(そして育てる時に注いだ愛情で孵化先が分岐するのよね~)
うむ、これはどう育てるかが結構楽しみかもしれないぞ。
こうして私達は、ダンジョンのクリア報酬を回収し、意気揚々と帰宅するのであった。
「………ということでカクカクシカジカという訳なんです、ルイリオ様」
「魔物の卵、ねえ…ううん、まあ、良いんじゃないか?」
「やった!ありがとうございますわ!」
「まあそれは良いんだが…とりあえず風呂に入ってきたらどうだ?」
そうして帰宅した私はルイリオ様に事情を説明する。
ルイリオ様は割と壮絶な状況になっている私の姿を見て心配していたものの、魔物の卵については快く承諾してくれた。
こうして私のブリーダーとしての一歩がスタートしたのだ!
(とは言ったものの、さて、何から始めるべきか…?)
そう、ブリーダーとは言ったものの、卵の段階ではあまり干渉出来ることは多くはない。
勿論何も干渉せずに放置することも可能ではあるのだが…それだと愛情が増えていかない。
結局は地道に丹精込めて温めたり、守ったり、語りかけたりと言ったことが大事なのだ。
そんな事を考えていると、ふと視線を感じる。
「ふ~ん?それが魔物の卵?」
「え、エリカ様!?え、ええ…そうですが…何か…」
「ふ~ん?へ~え?ほ~お?」
な、何だろう、この…嫁を値踏みする姑みたいな感じ…
「貴女如きよそ者風情に魔物が育てられるかしらねえ?それとも、今ここでその卵、かち割って差し上げてもよろしくってよ?」
「なっ!?エリカ様それは…」
「………冗談よ、ま、せいぜい頑張りなさい?」
良かった、流石にエリカ様でも超えてはいけないラインというものは分かっているらしい。
…と思ったが、隣を見たらモブーナが「その卵を割ったら貴様の頭をかち割るぞ」みたいな表情でエリカ様のことを睨みつけていた。
もしかすると彼女に怯えていただけだろうか………?
「ニエリカ様、彼女、教育が足りていないんじゃないでしょうか?私が行って教育的指導をしてきても良いですが…」
「え、ちょ!?だ、駄目よ流石に!?そんな事したら私が追い出されちゃう!」
「………はぁ、そうですか。まあニエリカ様がそうおっしゃられるのであれば仕方ありませんね」
うん、モブーナならやりかねないな、これは。
「大体あの方は一人娘だからといって甘やかされすぎているんですよ、一度ダンジョンとかに一人で放り出された方が良いですよ本当」
「い、いやいやいや…確かに思うところはあるかもしれないけども…根は良い子だから…!」
「…はぁ、左様でございますか…」
うーん、一応あっちがオリジナルなんだけどなあ。
モブーナの気持ちも分からなくはないが…まあ、時が経てば折り合いも付けてくれるだろうと信じている。
さて、そうして始まった魔物の卵のブリーディングだが、簡単な道では無かった。
「ええと…巣箱…いえ、卵箱?かしら?はこれで良いのかしら…」
手探りでお世話する日々。
「よぉ~しよしよしよしよし!立派に育つんでちゅよ~?」
時に愛情を注ぎ。
「へぇ~?これが魔物の卵ですか」
「私ダンジョンとか潜らないから始めてみました」
「珍しいものなんだってねえ」
「あ!こら貴方達!あんまりずっとジロジロと見ないで下さいます!?この子はまだデリケートなんですから!!!」
時には物珍しさで集まった使用人達を追い払い。
「………!これでよし!」
時には真摯に向き合い。
「…へぇ?まだ真面目に育てているんですのね、健気なことですわ…」
時には不穏な影も…
………そうして月日が経ったある日のこと。
「はぁ~♥いつ生まれてくるのかしらねぇ~?私のベイビーちゃんは…」
「さあ…どうでしょうねえ、拾った時期を考えればそう遠くはないとは思いますが…」
と、そんな話をしていると。
不意に卵が大きく揺れ出す。
「…こ、これは!?」
「きっとそうですよ!良かったですねニエリカ様!!!!」
揺れはどんどん激しくなり、ついには卵にヒビが入りだす。
間違いない、卵が孵化するのだ。
「さあ、ママに早くお顔を見せてくだちゃいね~?」
卵が大きく揺れ、中の魔物が殻を突き破ろうとしている。
そして、卵が一層大きく光り…
「繝槭??橸シ」
「……………えっ?」
そこから生まれたのは、言葉のような何かを話す、名状しがたい何かだった。