前回のあらすじ:モブーナ、ヤバ女
…結局、あの後は途中で目が覚めることもなくぐっすりと眠っていたらしい。
なんなら、普段よりもずっと快眠していたまであるが…
(そ、それがまた微妙に腹立たしい…)
「おはようございます!ニエリカ様!!!!!今日も清々しい一日ですね!!!!!!」
こいつはこいつで案の定我関せずというか、一切ブレないというか…
「…え、ええ…おはよう。でも今度からは前触れ無く状態異常をかけるのはやめて欲しいわね」
「分かりました!!!!!では今度からは事前に言いますね!!!!!」
そういう問題では無いのだが。
…まあ、良いわともかく、今日は特に予定も無かったことだし…一つ、気になることがあるので試してみたいと思う。
それは『ポップアップウィンドウ』だ。
先日の『ひろう』もそうなのだが、ディアストでは通常のRPG同様いくつかのコマンドやポップアップウィンドウが存在する。
つまるところ…『ひろう』以外も出来るはずなのだ。
(とりあえず試しに…「ステータス」)
私が頭でそう思い浮かべると…お、予想通り出た出た。
何も無い空間に私の名前や、今のステータスが浮かび上がる。
(…本当に『装備』なのねえ)
…装備から外したら彼女はどうなるn「『大切なもの』は捨てられませんよ?」
「うわぁ!?モノローグに介入しないで頂戴!?」
「いやぁ…だってニエリカ様ともあろう人が…ねえ?私を外したり捨てたりなんて…しませんよねえ?」
「え、ええ!そ、それは勿論、勿論ですわよ!」
まずい、これは装備から外したりなんかした日には間違いなく呪われる。
いや、もう既に呪われているのか?
「もう!呪いだなんて人聞きの悪い…あ!!!!!ニエリカ様!!!!!もしかして私のステータスを覗こうとしたんですね!?!?!?!もう、そうならそうと言って下さいよぉ!!!本当は人に見られるのは恥ずかしいんですが…ニエリカ様になら見られてもいいですよ!!!!!!!!」
「別に貴女のステータスは見ないわよ!」
とは言ったものの、そもそも他人のステータスは覗けるのだろうか。
「え?覗けますよ?まあパーティーメンバーに限りますが…」
うん、もう読心にはツッコまないでおこう。
…まあしかし、覗かないとは言ってしまったものの、ここまで言われるとちょっと覗きたくなってしまうのが人の性というもの。
というか本人も見られて欲しそうだし…まあ、いいのか?
「いいんですよ!!!!さあ!!さあ!!!!!」
「そこまでグイグイ来られると逆に本当に嫌なんだけど!?」
「そ、そんな事言わずに!」
うーむ、なんというか、背徳感というよりもまあまあシンプルな嫌悪感がちょっとあるが、まあ仕方ない…
ということで彼女に意識を集中し、同様にステータスを開いてみると…うわぁ。
想定していた通りに、彼女のステータスが表示される。
最も、彼女の能力については想定外ではあったが。
(何か…ゲーム本編でも見たことが無いような数値が並んでるわね…)
「はい!!!!ニエリカ様を思う愛のパワーでパワーアップしました!!!!!」
「は、はあ………」
「まあ正確には装備品になったことでステータスの参照先がニエリカ様の所持品になった結果値がバグっただけなんですけどね」
「あー…うん?」
「えーと、つまり本来数値を参照するはずが、変な所を参照しているせいで数値もバグったと言いますか、まあそんな感じです」
あー…成程、まあ理論上はそういう事になるのか、そうなのか?
しかしそうか、「持ち物」か…
彼女にそう言われてちょっと気になったので、持ち物を覗いてみる。
(…うん、成程成程)
今着ている服とか、まあそんなところか。
モブーナも当然のごとく入っているので、ひろった物はここに増えていくのだろう。
…そして持ち物欄を見ていると、やはりこのゲームのプレイヤーとしては覗いてみないといけない事が出てくる。
(…『持ち物入れ替えバグ』…!)
「持ち物入れ替えバグ」
読んで字の通り、持ち物を入れ替えようとすると持ち物欄の枠外まで参照できてしまい、バグったアイテムが大量に見つかるというものだ。
…もっとも、その分フリーズ等のリスクもあるのだが。
(…この世界だと『フリーズ』ってどうなるのかしらね…まさか世界ごと止まったり、あるいは崩壊したり?いやまさかね)
そんな事を頭に思い浮かべつつ、持ち物の入れ替えを試みながら、枠外へと意識を集中させる。
すると…おお、出るわ出るわ、バグアイテムの数々。
「ネットワークに接続」だの「エリカ」だの「に゜ュ8も」だの…いや、想像よりもヤバいなあこれ。
「エリカ」とか取り出したらどうなるんだ、まさかもう一人増えるのか?
そんな事を考えていると、不意にバグアイテムの一つを選択してしまう。
これは…「おいなりバッヂ」?
すると、私の目の前には狐のディテールが施されたバッジが出現し、私の意e8ab98は遠のe38184て111000111000000110000100111000111000000110100011111000111000000110011111………
…
……
………
一体どれほどの時間が経ったのだろうか?
気がつくと、私は自室のベッドの上で目覚めていた。
「あ…私……」
「ニエリカ様、お目覚めになられましたか?」
「モブーナ…」
「ニエリカ様ったら、あのバッジを見てから急に意識を失ったんですよ?ルイリオ様も来て大変だったんですから」
「…そう、なのね」
「もう、あんまり危ないことはしないで下さいね?」
「…ええ、分かったわ」
さっきまで朝だったはずなのに、外を見ればすっかり夜の帳が下りていた。
日付こそ変わってはいないが…あのまま目覚めていなかったらと思うと、ぞっとする。
持ち物欄を変に弄るのはもうやめよう。
後ろ髪を引かれる思いをしつつ、私はそう心に誓うのだった。